【特集】終わらない占領との決別

国際情勢の変容と日本の進路(後)

末浪靖司

・米中関係を歴史的にみる

米中は中国革命により中華人民共和国が生まれた直後に激しく対立した。当時、米ソ冷戦下で朝鮮戦争では米中両軍が戦火を交えた。その後も1950~60年代は激しく対立したが、それは基本的に1972年のニクソン大統領訪中をもって終わった。

さきに見たように、ニクソン訪中は、米軍が泥沼に陥っていたベトナム戦争への思惑から中国を利用するために考えだされたものだったが、米中関係は1979年の国交回復をへて大きく発展することになった。それは1980年代から今世紀はじめにかけてクリントン大統領やオバマ大統領の訪中、鄧小平や胡錦濤主席による訪米によってさらに発展し強固なものになった。

中国がいま2020年代にもGDPで米国を追い越すといわれるまでなった発展には、このような米中関係が大きく影響している。中国は、核兵器搭載可能超音速ミサイルの飛行試験に成功するなど、軍事力を急速に増強しており、分野によっては米国を追い抜いている。経済では2020年代にも、GDP(国民総生産)で米国を追い越すとみられ、そうなると、世界史はさら大きく変わることになる。

中国は習近平政権下で覇権主義を強めながら各国への働きかけを強めているが、世界の平和と安定のために、各国が大国に依存するのではなく、自主的に発展できる道を探求する道はひらかれている。この点で東南アジア諸国が1976年にインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5か国を中心に作ったTAC(東南アジア友好協力条約)のような各国関係は、一つのモデルになりうる。TACには現在、日本、米国、ロシア、中国を含む28か国が参加している。

6.国際情勢から日本の進路を考える

見てきたように国際情勢は大きく変わりつつあるが、そのなかで第2次世界大戦直後につくられた体制を頑なに守りつづけている国がある。日本である。

・国際情勢進展と相いれない関係

ここでは、日本の敗戦直後に進駐した占領軍が、駐留軍と名前を変えていまも居座っている。海外に駐留する米軍のなかで最大である。陸上自衛隊員がオスプレイなどの米軍航空機から落下傘や縄梯子で地上に降下し、ただちに戦闘する訓練も頻繁に実施されている。日米両軍はいったい地球上のどこで、どんな戦争をするつもりなのか。

いま日本では、米中関係をかつての米ソ冷戦になぞらえ、「新冷戦」などと言われているが、それについて東アジア共同体研究所・琉球・沖縄センター編著『虚構の新冷戦「日米軍事一体化と敵基地攻撃論』(芙蓉書房出版2020年12月10日)は「そこには米中の軍事・経済対立を煽り、国際社会を対決の構図に陥らせる〝わな〟がひそむ」と指摘した。

防衛省が発表した「令和3年度自衛隊統合演習(実動訓練)」は2021年11月19日から30日まで、水陸両用作戦、統合ミサイル防空、空挺作戦、サイバー攻撃対処、統合電子戦、指揮所活動などを行い、米軍が参加する共同統合対艦訓練では鹿児島県の海上自衛隊鹿屋航空基地に米海兵隊輸送機が飛来し、地対艦ミサイル部隊が展開した。

陸上自衛隊約3万人を動員した統合実動演習は、米軍も参加する遠征前方基地作戦(EABO.Expedition Ahead Base Operation)とされ、西太平洋で中国との戦争になった際には日本の南西諸島から台湾を経てフィリピンに至る島々に米海兵隊が展開して中国軍艦船を東シナ海や南シナ海に封じ込める日米共同演習と報じられている。

防衛省の情報をもとにしたこのような報道から、島嶼防衛のためには、日米共同作戦もミサイル基地も必要と考えるなら、「わな」に陥ることになる。

・アジア侵略の教訓を今こそ

最近は米軍と自衛隊の共同訓練が台湾海峡の有事に備えたものであるとされている。日本経済新聞2021年6月4日付は「台湾有事の際、米本土から主力が駆けつけるには3週間ほどかかるため、最初に前線に入るのは在日米軍になる。燃料や食料の補給、輸送といった支援は自衛隊が担う公算が大きい」と書いた。

台湾有事では米軍と台湾軍が中国軍と戦い、自衛隊も参戦するというのである。2021年には米軍をはじめ英国その他の国々による沖縄近海、南シナ海、インド太平洋における共同演習への自衛隊参加が増えた。

安倍晋三元首相は「台湾有事は日本有事」といい、麻生太郎自民党副総裁(当時・菅内閣副総理)や河野克俊元自衛隊統合幕僚長が安保法制の「存立危機事態」や「重要影響事態」として、「台湾防衛」や「米軍の後方支援」を主張している。

このような議論の誤りは、台湾についての歴史を少し見ただけでもわかる。

台湾は、かつて日本が1894~1895年の日清戦争で中国から奪い、1945年の敗戦までの50年間にわたり占領支配をしていたところである。1943年11月27日に連合国のルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、蒋介石中国総統が署名したカイロ宣言は、日本が清国から窃取した台湾などすべての地域を中国に返還し、すべての地域から駆逐されると明記した。いままた自衛隊という日本軍隊が台湾に出動すれば、台湾を含む中国大陸をはじめ世界中の人々から「日本の再侵略」ときびしく批判されるだろう。

日本政府は第2次世界大戦後も、米国のいいなりに、台湾の蒋介石政権を中国政府とする虚構に固執したが、国民的な批判を受けて1972年に中国と国交回復した。米軍が台湾を支援して中国軍と戦い、自衛隊が参戦するなどという議論は、このような歴史の事実からも通用しない。

米軍はかつて1950年に始まった朝鮮戦争でも、粗末な兵器の中国軍に勝てなかった。マッカーサー総司令官が鴨緑江を越えて中国東北部(満州)への原爆投下を主張してトルーマン大統領により罷免されたのは、そのためだった。

その後、中国は経済的にも軍事的にも強化され、米軍や自衛隊が台湾に出撃しても壊滅的打撃を受けることは必至である。

・国民は自衛隊海外派兵に反対してきた

このような謬論がいま自民党政治家などから起きているのには背景がある。米国政府が自衛隊の海外派兵を要求しているからでる。
実際に、2003年に始まった米国のイラク侵略戦争では、航空自衛隊がクウエートから武装米兵と兵器をイラクの戦場に運び、陸上自衛隊はイラクのサマワに駐留して米軍を後方支援した。

日米共同演習はますます大規模で実戦的になっている。自衛隊の海外派遣が繰り返される背景には、米軍司令官が自衛隊を指揮する日米安保条約第4条の密約が日米間で結ばれている事実がある(末浪『日米指揮権密約の研究』創元社2017年)。

これまで海外の紛争地域に派遣された自衛隊は、いずれも犠牲者が出る前に撤退しなければならなかった。多くの国民は自衛隊が海外で戦争することに反対しており、戦争を放棄し、陸空その他の戦力を保持することを禁止した憲法が大事だと考えている。

憲法は、第96条で改正の手続きを定めているが、第9条の戦争放棄は、第98条の条約及び国際法規の遵守とともに、「この憲法を貫く基本原理の一をなしている。したがって、この恒久平和主義を否定するような改正は許されないのである」(『註解日本国憲法』法学協会、下巻1428頁、有斐閣、1954年2月10日初版)とされている。これは国際社会が20世紀に2つの世界大戦をへて獲得した最も進歩した平和確保のための規範だからである。

いま憲法9条をめぐる情勢はますます緊迫している。平和の道か、それとも戦争の道か、日本は進路をきびしく問われている。

※「国際情勢の変容と日本の進路(前)」はこちらから

https://isfweb.org/post-2253/

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末浪靖司 末浪靖司

1939年 京都市生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。著書:「対米従属の正体」「機密解禁文書にみる日米同盟」(以上、高文研)、「日米指揮権密約の研究」(創元社)など。共著:「検証・法治国家崩壊」(創元社)。米国立公文書館、ルーズベルト図書館、国家安全保障公文書館で日米関係を研究。現在、日本平和学会会員、日本平和委員会常任理事、非核の政府を求める会専門委員。日本中国友好協会参与。

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