【連載】情報操作を読み解く(浜田和幸)

情報操作を読み解く:台湾有事対応に見る日米の温度差

浜田和幸

自民党の麻生太郎副総裁は8月7日から9日まで台北を訪問しました。その間、現地の保守系シンクタンクの国際フォーラムで講演し、「台湾有事」を念頭に、「日本、台湾、アメリカをはじめとした有志国には戦う覚悟が求められている」と強調。その後、蔡英文総統とも会談したり、来年1月の総統選挙に立候補する予定の与野党の候補者とも面談を重ねました。台湾メディアはこぞって大きく報道しています。

麻生氏は軍事的圧力を強める中国の動きに懸念を表明した上で、「台湾有事の可能性が高まっている。日本は台湾防衛のために防衛力を行使する用意がある。また、そうした明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」と述べ、「日本のこうした毅然とした態度は、岸田政権以降も変わらない」と、「ポスト岸田」を想定したような踏み込んだ発言を繰り出しました。

対する蔡総統は「日本は台湾にとって大切な国際的なパートナーだ」と応じ、台湾海峡の平和と安定に向けて協力することを確認。外交関係のない台湾と日本の間では議員外交が欠かせないと応じました。

ところで、麻生氏が持論を主張した台湾有事を巡る議論は8月18日からアメリカのキャンプデービッドで開催される日米韓3か国首脳会議でも主要テーマになるはずです。バイデン政権にとっても、中国との関係改善を模索しながら、日韓両国との責任分担をどのように明示するのか微妙な綱渡り状態が続いています。

とはいえ、最大の課題は日本政府も国民も台湾防衛に関しては具体策を持たず、他人事的な対応に終始していることです。麻生氏は「戦う覚悟」を大上段に掲げていますが、現実はそう簡単には行きそうにありません。日本でも台湾でも若い世代ほど、「台湾有事って何?」といった無関心が広がっています。

そもそも、このところ台湾有事に関するシミュレーションはアメリカでも日本でも頻繁に実施されていますが、防衛費獲得のための絵空事が多いのが実態です。特に、アメリカのシンクタンクや専門家は「中国による台湾侵攻は2027年ではなく、2024年にもあり得る」と想定し、様々な図上訓練を繰り返しています。

しかし、軍事的に中国はアメリカを凌駕しつつあり、現時点でもアメリカは太刀打ちできないという厳しい現実は無視できません。日本でもアメリカでもシミュレーションによっては、「中国軍を押し返すことができる」との結論が出されていますが、手前勝手な推論が多いのが玉に瑕です。

なぜなら、アメリカの場合は、ウクライナへの武器供与の影響で、台湾有事に際しては十分な対応ができない可能性が高く、武器弾薬等の在庫が少なくなっており、動員できる兵力も限られているという差し迫った現実問題に直面しているからです。

 

そのためか、最新のランド研究所のシミュレーションでは「アメリカ軍は中国の台湾侵攻を食い止められない」との結論になっています。アメリカは国防権限法に基づき、台湾への武器の無償供与を決定しました。ただ、支援の具体的な内容は明らかにされていません。

更に言えば、米軍は自国兵士に対してSDGS政策やコロナ・ワクチン接種を強制しているため、優秀な兵士ほど退役を選択し、練度や士気の低い兵士が急増し、即戦力として使えないという深刻な状況に陥っている模様です。

冷静に判断すれば、現時点において、アメリカと日本による台湾有事への共同対処の準備は皆無に等しい実態が浮かび上がってきます。注目すべきはブリンケン国務長官による「アフガン撤退がなければウクライナには関与できなかった」発言で、アメリカは2正面作戦には対応できないことを明示しているではありませんか。

要は、台湾有事でも朝鮮半島有事でも現状の日米同盟体制では防衛できないと言わざるを得ません。一方、中国はロシアによるウクライナへの軍事侵攻から多くの教訓を得ており、病院船の建造も急ピッチで進め、1日当たり7万人から15万人の負傷兵を受け入れる体制を構築中と言われています。明らかに台湾侵攻を想定した動きです。

ところが、日本では台湾有事の際には、台湾在住の日本人の避難手段が確保できないとか、石垣島など周辺地域のシェルターや輸送手段が不足している、といったレベルの問題で右往左往しているのが現実です。残念ながら、麻生氏が訴えているような「戦う覚悟」は見られません。

その上、たとえ日米や国際社会が対処しようとしても、「一つの中国」論に代表されるように、「台湾問題は中国の国内問題」との見方も根強いため、介入のハードルは高いままです。とすれば、この問題を乗り越えることが最優先されるべきと思います。

実は、安倍元首相も「台湾問題は中国の内政問題」との見方が多いことを懸念し、オバマ政権以降の「アメリカの曖昧戦略では台湾を守れない」と結論付けていました。そもそもアメリカの台湾関係法は上院で可決成立したものの、政府の正式な承認を得たものではなく、有事の際に米軍が参入しようとすれば、その都度、議会承認が必要となります。

このことに危機感を抱いた安倍元首相はバイデン大統領に直訴し、前向きな回答を得たものです。しかし、アメリカには台湾を守る意思はあったとしても、能力がなく、人工衛星への攻撃力を高め、GPSをかく乱しようと目論む中国に対抗できそうにありません。アメリカは危機感を高めていますが、中国によるサイバー攻撃の準備は広範囲に及んでいると思われます。

そのため、アメリカは台湾を国家承認する国の数を現在の13か国から130か国程度に急増させる必要があると受け止め、現在、方針転換を模索中という状況です。中国の動きをけん制、抑止するのは台湾の国家承認が先決との発想に他なりません。遅まきながら、

アメリカは日本はじめ各国に対し、TPPやWTOなど国際組織をはじめリムパック演習への台湾参加を支援するよう要請を始めました。麻生氏も今回の台湾訪問に際し、「台湾のTPP加入を歓迎する」とは述べましたが、具体的な手順は暗中模索のままです。

日本は万が一、台湾が中国に組み込まれた場合の経済安全保障上の問題を認識していないのが最大の欠点です。台湾海峡を通るシーレーンが封鎖される場合には、海外からのエネルギーや食糧への依存度の高い日本は国家存亡の危機に陥ることは火を見るよりも明らかのはず。アメリカは中国による台湾周辺での軍事演習はペロシ下院議長らの訪台とは関係なく事前に準備されたものと分析していました。

それだけ用意周到な中国の動きに関し、アメリカは認識していたにも係わらず、日本の防衛機密保持の脆弱性を懸念し、日本との情報共有には至りませんでした。その状況は今も変わりません。台湾有事が起きるかどうかは別にして、朝鮮半島有事の可能性も否定できないわけですから、何を差し置いても、先ずは日米間の相互信頼の強化が求められます。と同時に、故安倍首相が腐心したように、ロシア、中国、北朝鮮との水面下の交渉チャンネル作りにも取り組む必要があるはずです。

(2023年8月10日記)

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浜田和幸 浜田和幸

国際未来科学研究所代表、元参議院議員

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