【特集】ウクライナ危機の本質と背景

中国の「ロシアとの同盟復活」はない―拭えぬ相互不信と対米協調路線の継続―

岡田充

米国と主要7か国(G7)は、ウクライナに侵攻したロシアに厳しい経済制裁を科し、地球規模の経済システムからのロシア排除を進め、世界は米ソ冷戦が復活したかのような様相を呈している。その中で注目されるのが中国の対ロ姿勢。対ロ非難決議では棄権し、経済制裁に反対する中国は、ロシアとどのような関係を築こうとしているのだろうか。中ロ両国は「反米」で戦略的利益を共有するが、歴史や地政学上の相互不信は根強い。同盟関係の復活はない。

2月24日のウクライナ侵攻から2か月が経過した。米日両政府とメディアは、米軍事情報をベースに、ロシア軍が首都キーウ(キエフ)攻略に「失敗」し、苦戦を強いられていると連日伝えてきた。その理由として①大義のない侵略にロシア軍の士気が低下、②準備不足による指揮系統や補給の混乱などを挙げている。

しかしバイデン政権は開戦以来、累計26億ドル(3300億円)もの兵器をウクライナに供与してきた。携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や、自爆攻撃能力を持つ無人機「スイッチブレード」、ウクライナ戦争のために米空軍が開発した無人機「フェニックスゴースト」などの最新兵器に加え、ウクライナ軍が操作に慣れている旧ソ連の戦闘機「ミグ29」やヘリコプター「Mi17」に戦車も揃え、前線に送っている。

こうしてみると、ウクライナ戦争は「ロシアvsウクライナ」ではなく、米軍とロシア軍による代理戦争と言う方が実態を反映した表現だと思う。ゼレンスキーは「ロシアには絶対降伏しない」と、祖国防衛の「士気の高さ」を世界に発信し続ける。

しかし一皮むけば、隣国ポーランドなどウクライナ周辺で、ウクライナ軍の指揮に当たる米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍顧問団に支えられた戦争だ。あのイーロン・マスクも、衛星通信ネットワークシステムをウクライナに提供し、ゼレンスキーから感謝されている。

・プーチン=周会談の内容

多くの米欧日メディアは、ウクライナ侵攻への中国の姿勢を「ロシア寄り」と見なす。中国がロシアを非難せず、米欧日による対ロ制裁に反対し、国連緊急特別会合が採択した非難決議(3月2日)で棄権したことなどが理由だ。

バイデンが特に警戒するのは、北京冬季五輪直前の2月4日、北京で行われたプーチン大統領と習近平国家主席の首脳会談で、「両国の友好関係に限りはなく、協力関係の分野で『禁じられた』ものはない」(共同声明)と明記し、軍事も含めた広範な協力深化を確認したことにある。

Russian and Chinese flags standing side by side

 

共同声明の重要ポイントを挙げる。

①NATO拡大に反対、②米政府のインド太平洋戦略は地域の安定を脅かす、③中ロの新国家間関係は、冷戦時代の政治的および軍事的同盟よりも優れている。④政治と安全保障、経済と金融、人道的交流の3つの主要分野での協力を拡大である。

これを読めば、中ロ関係は確かに緊密な関係にあることが分かる。ウクライナ問題を含めて、反米で戦略的利益を共有していることは間違いない。しかしだからといって、両国関係のゴールが「同盟復活」にあると断言できるだろうか。

冷戦後の中ロ関係史を振り返る。旧ソ連を継承した新生ロシアと中国は2001年7月、江沢民国家主席とプーチン大統領が「中ロ善隣友好協力条約」を締結した。条約は20年後の2021年に自動更新された。条約には、一方が攻撃を受けた際に他方が支援する「相互援助」(自動参戦)条項はなく、軍事同盟とは呼べない。

米中対立の激化の中、中ロの軍事協力が目立つ。最近では、2019年7月23日、中国とロシア軍機が竹島(韓国名・独島)上空を編隊飛行した。中ロはこれを「合同パトロール」と呼んだ。中ロ軍用機が同時に韓国防空識別圏(ADIZ)に入ったのは初めてで、「中ロ同盟」のリアリティを一気に高めた。

・「同床異夢」の軍事協力

2019年7月といえば、日本政府が元韓国徴用工訴訟の判決に絡み、韓国への輸出優遇措置を見直し、半導体原材料の輸出規制を強化した時期だ。「合同パトロール」の狙いは、日米韓の防衛協力体制の「揺らぎ」に乗じ、それが「機能しているかどうか試そうとした」のだろう。

ちょうどそのころ中国政府は「国防白書」を4年ぶりに発表(2019年7月24日)、中ロ軍事交流を対外軍事交流のトップに掲げた。白書はロシア軍との協力を「世界の安定に重要な意義がある」と明記し、軍事訓練や装備、技術面での連携を深めるとも書いている。

具体的協力として白書は①2012年以来、中ロ両軍は計7次にわたって戦略協議を実施、②18年8、9月、中国軍がロシア軍の求めに応じ初めて「ボストーク」(東方)戦略演習に参加、③中国軍は19年9月16~21日、中央アジアでのロシア軍演習「ツェントル(中心)2019」に参加を挙げた。

直近では21年10月、中ロ海軍艦艇が日本列島を周回。11月、中ロ空軍爆撃機が日本海や東シナ海の空域で合同パトロールを行っている。「合同パトロール」は常態化しつつある。

しかしロシアにとって中国が、関係修復以降も「仮想敵」だったことはあまり知られていない。先の中国白書が触れた18年の「ボストーク」演習は元来、仮想敵の中国および日米両面を対象にする演習だった。中国軍が初参加したことで、中国はようやく「仮想敵」ではなく、「友軍」として扱われるようになったのだ。

日本の防衛関係者によると、21年8月の中国内陸部での中ロ合同演習では、ロシアは中国より格段に少ない軍人しか参加させず、中国が最新鋭ステルス戦闘機「殲20」を投入したのに対し、ロシアは最新装備を出さなかったという。

防衛関係者は「米欧と対立するロシアは、中国との連携を見せつける必要がある」とする一方、ロシアは演習で「手の内」をさらけ出さず、中国側は合同演習からロシア軍内の各軍種の一体化を「学習」しているとみる。文字通り「同床異夢」と言っていい。

・対ロシア政策をめぐって異論も

中ロ軍事協力の活発化だけをみて、「同盟復活」と即断してはならない。中国外交関係者は、「中国は自然災害に見舞われた1960年代に、ソ連が技術者を引き揚げたのを忘れていない。中国はあらゆる同盟に反対しており、代わってパートナーシップ協定を結んでいる」と説明する。

ウクライナ侵攻でも、中国は事前にロシアから侵攻時期を知らされていなかった。中国の国際政治専門家は「中国とロシアの相互不信は周囲が考えるよりはるかに根深い」と指摘する。

そこで「中ロ善隣友好協力条約」の中身を点検する。条約には、ロシア軍事技術の中国への供与が明記され、第9条は「一方が平和への脅威を受け、侵略の脅威がある時は、双方は脅威を除去するため直ちに接触し協議を進める」と定める。事実上の防衛協力協定だ。

9条に基づき、侵略の脅威除去の協議をした結果、「脅威を除去する」ため、共同軍事行動をとることは可能である。

「自動参戦」条項を盛り込み「軍事同盟」にすれば、米国を始め周辺諸国から強い警戒を招くだろう。それだけではない。バイデン政権の「新冷戦」思考にはまり、地球規模の経済切り離しを加速する結果を招く。中国は「新冷戦」に反対しており、論理的には同盟復活という選択肢はない。

ウクライナ危機をめぐり中国では、上海交通大学の胡偉・特任教授が3月13日、共産党指導部に「早期にプーチンと手を切れ」と求める文章を中国SNSに投稿した。共産党内にも対ロ支援をめぐって異論が存在する。

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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