米中関係の現状~米国と中国それぞれの国内政治~

末浪靖司

・はじめに

米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席が2022年3月18日、テレビ電話で会談した。両国はロシア軍のウクライナ侵攻をめぐっても対立しており、世界第1位、2位の経済・軍事の両大国の動向が、ウクライナ情勢や国際情勢全般に大きく影響することは間違いない。

米中関係については軍事・外交問題で多くのことが語られているが、両国の今後の動きをその深部で探るためには、それぞれの国内政治を見る必要がある。

1.民主主義をめぐる米中の論争

国内政治の問題を見る上で重要なのは、主権者である国民の意思がそこに反映されているかどうかである。すなわち民主主義が機能しているかどうかである。

バイデン大統領は、21年6月の主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)などで「民主主義国家と専制主義国家の競争になっている」と強調している。米国を「民主主義国家」とすることにより、西側陣営の盟主として、習近平政権下の中国に対抗する姿勢を示したものである。
これに対して中国は22年1月、「中国の民主」と題する白書を発表し、世界の多くの国が採用している一人一票の投票による政治は民主主義の一つの形式にすぎないとし、「14億の人民の願いを実現するには強力な指導が必要である」と主張する。

先の北京オリンピック開幕式に際して習近平国家主席がプーチン・ロシア大統領と発表した共同声明は、中国とロシアが「民主主義」「安全保障」「世界秩序」で共通の立場にたっているとし、「民主主義は人類共通の価値である」としたうえで、各国は自前の民主主義を自主的に選択する権利があると述べた。

2.中国政治の現実

中国では、自由と民主主義を求める集会やデモが武力で弾圧された1989年の天安門事件は今も正しかったとされており、現状では新聞などメディアが中国共産党の決定に反対することはできない。

Tiananmen in Beijing, China

 

習近平政権に先立つ胡錦濤政権の下では、村委員会や一部の郷鎮委員会で一人一票の普通選挙が実施されるなど民主主義への努力が試みられたが、人民代表大会など国政では問題にならなかった。そして、習近平政権になると、中央はもちろん地方の選挙でも、当局の推薦を受けない者は立候補できないことが、昨年の北京人民代表大会選挙で改めて示された。中国における民主主義抑圧は、香港や新疆ウイグル自治区だけではないのである。

3.米国の政治は民主主義か

一方、米国では、大統領や議会の代表者は選挙での有権者の投票を通じて選ばれるが、民主、共和の二大政党制下の間接選挙であり、少数者の意見は政治に反映されない。民主、共和両党が時々の重要な政治課題で激しく対立することはあるが、ともに財界・大企業の利益を代表しており、根本的対立ではない。

vote election badge button for 2020 background, vote USA 2020, 3D illustration, 3D rendering

 

そうした政治の特徴は、候補者を州ごとに一本化する大統領選挙制度に示されている。2020年11月の大統領選候補の民主党指名争いでは、進歩的な政策を掲げたサンダース、ウォーレン両上院議員が、格差に苦しむ若者世代から幅広い支持を集めたが、バイデン民主党候補の主要政策はそうした進歩的な草の根運動の政策要求とは懸け離れたものになった。

高崎経済大学の三牧聖子准教授によれば、21年7月にピュー・リサーチ・センターがカナダなど主要20ヵ国で行った調査では、平均で57%の人々が、かつてはアメリカ式民主主義がよいお手本だったが、近年はそうでもないと回答した(『東亜』、2021年11月号)。これではたして中国における民主主義の欠如を主張する資格が米国にあるのかと三牧氏は指摘する。

4.軍事問題、経済政策にみる米中の政治

バイデン大統領が中国における民主主義の欠如をいうのには目的がある。日米安保条約やNATOにより軍事基地を設け海外で軍事作戦をしている米国こそが、民主主義の手本だと強調して、それらの正当化を図っているのである。

米国社会は、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(21年4月8日付)が「金持ちに低く不平等が大きい税率により、米国経済はうまく機能しなくなった」と指摘するように、貧富の差が激しく、米国が経済危機に陥る重要な要因になっている。

東アジア共同体研究所の須川清司上級研究員は、トランプ支持者が20年の大統領選に不正があったと叫んで議会議事堂に乱入するまでになった米国政治の現状を分析して、分断の進行と統治能力の低下を指摘する(東アジア共同体研究所「24年米大統領選の憂鬱~これでも民主主義なのか?」第35号、2022年2月8日)。

一方、中国では経済が急速に発展するなかで軍事大国化が進み、社会の分断が激しくなっている。ここでは以前から持ち越された都市と農村の格差に、新自由主義経済への転換による格差が加わり、貧富の差はさらに大きくなっている。

そうして生まれる政治に対する不信や不満は、かつては上級行政機関への直訴、デモ行進、抗議行動、さらに警察・公安機関に対する襲撃や武装警察との衝突などで顕在化していた(末浪靖司「深刻化する腐敗の背景」『季刊中国』、2010年春季号)。現在の習近平政権の下では、反対世論の存在を許さない政治権力により、それらは抑えられ顕在化はしないが、社会の暗部で増幅され、さらに進行しているとみなければならない。

5.民主主義の原点に立ち返る必要

米国は、一般市民も参加してイギリス軍と戦い独立を勝ち取った国である。独立宣言は民主主義の基本的原理を明らかにした文書とされており、それから約1世紀後にリンカーン大統領が述べた「人民の人民による人民のための政府」はいまも民衆の合言葉である。現に多くの人々が戦争反対や公民権を主張してデモや集会に参加しており、そこに民主主義の精神が国民の中に生きていることが示されている。

Statue of Abraham Lincoln inside the Lincoln Memorial in Washington DC

 

中国も、1949年の中華人民共和国建国が人民革命と言われるように、19年の五・四運動以来の民主主義革命により生まれた国である。54年に制定された憲法が「公民は、言論・出版・集会・結社・行進・示威の自由をもつ」(第87条)、「宗教信仰の自由をもつ」(第88条)など政治的市民的自由を定め、82年制定の現行憲法がそれを踏襲しているのは、その反映である。

これまで人類は、長い歴史的発展を通じて、民主主義の理念やあるべき形をつくり、それを国際社会の規範として発展させてきた。

それらは、国際連合で1948年に採択された世界人権宣言や66年に採択された国際人権規約に結実されている。後者の「市民的政治的権利に関する国際規約」では、思想・良心・宗教の自由(第18条)、表現の自由(第19条)、集会の自由(第21条)、結社の自由(第22条)を定めている。国民の意思が最大限正確に反映する国内政治の原理や展望は示されているのである。

経済が発展し国際社会に対して大きな影響力をもつ米中両国の国内政治が、この水準に到達するための闘いは、まさにこれからである。

末浪靖司 末浪靖司

1939年 京都市生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。著書:「対米従属の正体」「機密解禁文書にみる日米同盟」(以上、高文研)、「日米指揮権密約の研究」(創元社)など。共著:「検証・法治国家崩壊」(創元社)。米国立公文書館、ルーズベルト図書館、国家安全保障公文書館で日米関係を研究。現在、日本平和学会会員、日本平和委員会常任理事、非核の政府を求める会専門委員。日本中国友好協会参与。

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