「アジアの平和」破壊を中国メディアも危惧 岸田政権の軍拡とNATO急接近の愚

足立昌勝

6月22日、筆者は中国中央テレビ(CCTV)東京支局においてインタビューを受けた。その主なテーマは、日本を取り巻く国際環境と、岸田政権による武力増強の動きをどのように見るかということである。

記者の質問は、日本の軍国化を指摘するもので、それ自体が示唆するところの大きいものだった。そこで本稿で、記者からの質問を紹介しながら同テーマについて論じていく。

「NATO東京事務所」がアジア平和安定に与える影響
質問1
 最近、日本にNATO(北大西洋条約機構)連絡事務所を設置する可能性があるとの報道や、7月に岸田首相がNATO首脳会議に出席したことなどから、日本が積極的にNATOと手をつなごうとしていることがわかる。アジアの平和安定にもたらす影響について、どう評価するか。

2016年8月、当時の安倍晋三首相は、ケニアのナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)の基調演説において、「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open Indo-Pacific)の考え方を提唱した。その根幹をなす3本柱は、①法の支配・航行の自由及び自由貿易等の普及・定着②経済的繁栄の追求(連結性の向上等)③平和と安定の確保であるといわれ、インド太平洋地域全体に広がる自由で活発な経済社会活動を促進し、地域全体の繁栄の実現を目指すものだという。岸田首相はアメリカの強い支持の下、様々な国際会議でしばしばこの考え方を主張してきた。

昨年6月29日、NATO首脳会議に出席(日本の首相として初めての参加)した岸田首相は、おおむね次のような発言を行なった。

①NATO首脳会議に、我が国を含むアジア太平洋のパートナーが参加していることは、欧州とインド太平洋の安全保障が切り離せないとの認識の表れである。

②日本は2022年末までに新たな国家安全保障戦略等を策定する。また、防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意。日米同盟を新たな高みに引き上げながら、有志国・パートナーとの安全保障協力も強化していく。

③NATOは日本の重要なパートナーであり、協力のいっそうの強化に取り組んでいく。新時代の日NATO協力の地平を開くため、協力文書である「日・NATO国別パートナーシップ協力計画(IPCP)」を大幅にアップグレードする作業を加速化し、サイバー・新興技術・海洋安全保障といった分野での協力を進展させる。NATO本部への自衛官派遣等を通じて協力を深化するとともに、日NATO相互の演習へのオブザーバー参加を拡充していく。

④NATOがインド太平洋地域への関与を強めていることを歓迎する。

首脳会議で採択された新「戦略概念」では、「インド太平洋地域の発展は欧州・大西洋地域の安全保障に直接影響を及ぼしうるため、NATOにとって重要」との一文を入れることに成功し、アジアへの勢力拡大を鮮明にした。

5月10日にアメリカのCNNが伝えたところによれば、NATOのストルテンベルグ事務総長は、東京に連絡事務所を2024年に設置することを日本政府と協議しているという。この提案に対しては、フランスのマクロン大統領が反対を表明した。その理由は、「日本はNATOの対象地域からはるか彼方にある」「アメリカが中国との緊張を高めている問題にNATOとして関わるべきではない」ためといわれている。

7月11日から2日間、リトアニアで開催されたNATO首脳会議では、東京事務所について合意には至らず、「将来的に検討」とされた。もし設立されれば、NATOのアジア拡大を実質化するものであり、もはや「北大西洋条約機構」という枠にとどまらず、「北大西洋・北太平洋条約機構」へと変質してしまうだろう。

そもそもこの構想は、岸田首相の仮想敵国包囲網の建設に密接に絡んでいる。ロシアや中国を仮想敵国とし、西側からのNATO、南側からのインド、東側からの日本・韓国による包囲網の形成である。これはアジアにおける地域的安定を破壊し、対立を深めるものとなるだろう。地域紛争は当事国同士の話し合いで解決すべきものであり、他国が介入すべきものではない。

日本はG7の一員であり、基本的ポジションは米欧追随型である。アジアに向けての発言はほとんどない。もっとアジアのために何ができるのかを真剣に考えなくてはならない。

NATOが東京に連絡事務所を設置すれば、NATOのイニシアティブによる包囲網の完成となるであろう。秋以降に先送りされたとはいえ、NATOが抱え込んだ、アジアへの拡大という課題については、今後とも注意深く監視しなければならない。

 

戦時国債の発行を許すな
質問2
 日本政府は6月16日に、増税を含む防衛費増額に向けた「財源確保法」を可決成立させ、そこには決算余剰金、国有資産の売却などを含む「防衛力強化資金」を創設することが盛り込まれている。

財源確保法によれば、今年度から5年間の防衛費を総額43兆円に増額する方針だ。過去の水準から、約17兆円の上積みが必要となるが、財源については結論を出さず、その具体化は先延ばしにされた。財源の一部を確保するために新設する「防衛力強化資金」に、特別会計からの剰余金などの税外収入を繰り入れる予定だという。それ以外は、毎年度予算の使い残しである決算剰余金と、予算を効率化する歳出改革、増税によって捻出することを想定している。決算剰余金などは従来、景気対策などの財源に使われてきたが、それもできなくなる。国債で穴埋めすれば財政は一層悪化し、将来世代へ回るツケが増えるだけだ。

それでも、実際にどれだけ確保できるかは不透明だ。政府はすでに、建設国債を自衛隊の施設整備費などに充てている。第2次世界大戦では、戦時国債の乱発によって無謀な軍備拡張が進められてきた。その教訓を踏まえ、戦後、防衛費のための国債発行は「禁じ手」とされてきたことを絶対に忘れてはならない。

そもそも、関連予算を27年度に国内総生産(GDP)比2%に倍増させるという目標を立てているが、それが「なぜ必要なのか」については、説明が不十分である。このような防衛費の増額は、日本を取り巻く国際環境の変化に起因していると政府は説明するが、安全保障環境の変化に応じた防衛力の整備が必要か否かは、憲法9条の下で真剣に議論すべきである。この9条を抜きにした議論はまったくナンセンスであり、憲法の存在意義そのものが問われることになるだろう。

自民党政権の下で長年にわたり繰り返されてきた自衛隊増強や活動範囲の拡大などでも、憲法9条論議は抜きにされてきた。そもそも「統治行為論」を引き合いに出し、憲法9条の独り歩き、解釈にならない解釈の容認など、国際政治を優先させた憲法を蔑ろにする行為が、公然と進められてきた。

6月23日「沖縄慰霊の日」、8月6日「広島原爆の日」、8月9日「長崎原爆の日」、8月15日「敗戦記念日」等々、戦争にまつわる記念日には、「もう戦争は嫌だ」「戦争を繰り返してはならない」などの意見が寄せられる。しかし、それはそれらの日だけのことだ。そのような思いを365日持ち続け、その姿勢で政府を監視し続ければ、政府は政策決定にもっと慎重にならざるを得なくなるはずだ。その思いは、戦前軍国主義への反省から生まれた憲法第9条をもっと大切にし、社会に根付かせる運動へと進化することができるはずである。

「数字ありき」の増額は防衛政策だけでなく、財政にもひずみを生みかねない。国会論戦を通じ、問題点を徹底的に洗い出さなければならない。

武器輸出解禁への動き
質問3
 報道によると、日本は米国に砲弾を提供する形でのウクライナ支援について協議をしている。殺傷能力のある武器の輸出を長年抑制してきた日本にとって大きな転換となる。

日本の武器輸出については、1967年の佐藤栄作首相の答弁で、「①共産国②国連決議により武器等の輸出が禁止されている国③国際紛争当事国又はそのおそれのある国」への輸出禁止に始まり(武器輸出三原則)、1976年に三木武夫首相が「三原則対象地域については、武器の輸出を認めない」「三原則対象地域以外の地域については、憲法の精神にのっとり輸出を慎む」等の政府統一見解を発表。これが政令運用基準とされてきた。

この統一見解は長らく維持されてきたが、2014年4月1日、安倍政権が防衛装備の海外移転に関して、武器輸出三原則等に代わる新たな原則として、「防衛装備移転三原則」を策定した。その理由として、「我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることなどに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、我が国によるより積極的な対応が不可欠となっています。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で一層積極的な役割を果たすことを期待しています。これらを踏まえ、我が国は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していくこととしています」(外務省「政府の安054全保障戦略」)と述べている。

このようにして、武器輸出三原則は、防衛装備移転三原則へと変化した。それは、次の三原則を意味している。

原則1 移転を禁止する場合を明確化し、次に掲げる場合は移転しない。①条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合②国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合③紛争当事国への移転となる場合

原則2 移転を認め得る場合を次の場合に限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査。①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合②我が国の安全保障に資する場合

原則3 目的外使用及び第三国移転について適正管理が確保される場合に限定。原則として、目的外使用及び第三国移転について事前同意を相手国政府に義務付ける。

この方針転換は、2013年12月に策定された「国家安全保障戦略」に起因している。ここで注意しなければならないのは、一言も憲法9条に触れていないことである。三木内閣による統一見解は、「平和国家としての我が国の立場」に触れるものの、9条そのものではない。また、武器輸出三原則が変更された契機となる「国家安全保障戦略」は閣議決定されたものにすぎず、国会で議論され、議決されたものではない。しかし、その後の経緯は、この「国家安全保障戦略」に依拠しながら、その反映として法令が作られてきた。これでは、国権の最高機関である国会は十分な機能を果たしていない。

日本では、官僚が政策を策定し、それに追随した内閣が法案を国会に提出する。答弁に際しては、作成された模範解答を朗読するのみで、自己の思想はどこにも存在しない。こんな日本は、立憲主義国家ではなく、官僚国家そのものだろう。

そして最近、武器輸出に関し、防衛装備移転三原則を見直す動きが表れてきた。自民党有志の議員連盟の会長を務める小野寺五典元防衛大臣らが岸田首相に対し、海外移転できる装備品の対象を拡大するため、防衛装備移転三原則やその運用指針を見直すよう提言し、その協議が自公間で始められたと報道されている。

さらに、装備品の海外移転は国内の防衛産業を維持するためにも見直しは不可欠だという。これでは憲法9条は骨抜きとなり(今までも骨抜きにされ続けてきたが)、その存在意義すら問われることになる。

「軍を持たない安全保障」の可能性
このような平和にかかわる問題は、すべて日本の基本原則である憲法から判断しなければならない。憲法9条の平和主義に照らせば、紛争は武力ではなく、話し合いで解決すべきということだ。

ここで参考にすべきは、コスタ・リカ(CostaRica=豊かな海岸)の事例である。中南米に位置する小国コスタ・リカは、メキシコとパナマという大国に挟まれ常に侵略の危機にあったが、その両国を利用し、大国間の話し合いで平和を保ってきた。

筆者は、かつて独立以前の東ティモールを訪問した際、東ティモール国立大学アルミンド・マイア学長と会談し、官僚機構養成のための法学部設置を呼びかけるとともに、インドネシアの侵略を受け、独立戦争を戦ってきた経緯を踏まえ、日本の憲法9条の採用を提案したことがある。

それに対し、マイア学長は、「もし日本が朝鮮などから侵略された場合は、どうするのか」という鋭い質問を投げかけてきた。筆者は、ガンジーの無抵抗主義を挙げ、その侵略には国民全体で座り込みをし、抵抗するだろうと答えた。マイア学長は、非現実的で無理だという。

侵略からやっと解放された立場にある東ティモールにおいては、とりえない選択肢かもしれない。しかし、ティモール島の東半分に位置し、国土面積で4国ほどの広さしかない東ティモールでは、軍隊を持ったとしても形式的なものにすぎず、飛行機で飛んだらすぐに国境を越えてしまう。西にインドネシア、南にオーストラリアという大国に挟まれた東ティモールの今後は、コスタ・リカのような国造りの下、軍隊を持たず、話し合いによる平和な国家を目指すことも有力な方策だと思われる。

日本では長年続く自公政権の下、岸田政権も戦争への道を歩んでいる。仮想敵国包囲網の形成とともに、昨年12月に改訂された「国家安全保障戦略」に基づき、積極的サイバー防御体制を築き、サイバー環境での監視を強め、どこの国にあろうが、サーバーへのアクセスを可能にしようとしている。これが通信の秘密を保障し、検閲を禁止している憲法21条2項に違反していることは明白であっても、そのようなことには目もくれず、国際環境の変化を口実とした安全保障体制の整備を優先させている。

日本の政治家や官僚は、なぜ国家の基本原則を定めている憲法を無視し続けるのだろうか。その姿勢が国民にも影響し、安全保障優先の考え方が支持されるようになった。

憲法9条の下で軍隊が禁止されている国に、戦争のための武器など存在してはならない。これが、平和主義における基本的立場である。この考えは、現在の日本では、非現実的だとされ少数意見だが、いつの日か多数派になることを確信している。

(月刊「紙の爆弾」2023年9月号より)

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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