【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第1回 時代に向き合うとはどういう意味か―連載開始にあたって―

前田朗

前田朗(本人写真提供)

 

・市民運動の現場から

――独立言論フォーラム(ISF)発足に際して、インタヴュー記事の連載を考えたとか。

前田――はい。各界で活躍する人たちにインタヴューして記事をまとめようと思います。

――各界で活躍する人ですか。抽象的と言うか、あいまいですね。どんな人たちを想定しているのですか。

前田――市民運動、反差別運動、人権運動の現場で活躍している人たちが中心です。私自身、1990年代からこれらの運動に深くかかわってきました。

――市民運動、反差別運動、人権運動ですか。それも結構幅広いですね。これまで日本軍「慰安婦」問題や在日朝鮮人の人権問題や、冤罪救援運動や代用監獄廃止運動や、即位の礼・大嘗祭反対運動や、アフガニスタン戦争やイラク戦争の反戦運動や、原発民衆法廷運動など、あちこちに手を出してきましたよね。

前田――手を出したという言い方には不満がありますが、多くの運動に関わってきました。

・自称「インタヴューの名手」

Media interview

 

――なぜインタヴューをしようと思い立ったのですか。

前田――私はインタヴューの名手だからです。誰も言ってくれないので、自分で言っています(笑)。

2010年に『平和力養成講座――非国民が贈る希望のインタヴュー』(現代人文社)という本を作りました。この時は、女性史研究者の鈴木裕子さん、日の丸君が代強制と闘う根津公子さん、沖縄の平和と文化研究の安里英子さん、在日本朝鮮人人権協会の金静寅さん、反差別・人権運動で活躍の辛淑玉さん、平和学・メディア批判・刑事司法批判の木村朗さん、『精神のたたかい』の著者・立野正裕さんへのインタヴューを収録しました(『文明と野蛮を超えて』かもがわ出版)。

――みなさん、インタヴューに答えるのが上手ですね(笑)。

前田――私がインタヴューの名手だからです(笑)。韓国併合100年の10年には、立命館大学名誉教授の徐勝さんの提唱で、仲間と共に「東アジア歴史・人権・平和宣言」を作りました。そのために、指紋押捺拒否で知られるピアニストの崔善愛さん、先住民族の権利研究者の上村英明さん、在日朝鮮人の人権や日本軍「慰安婦」問題研究の金栄さん、軍事基地問題研究や日本軍「慰安婦」研究の林博史さん、やはり「慰安婦」研究の庵逧由香さん、歴史教科書問題の第一人者の俵義文さん、植民地支配責任論の板垣竜太さん、帝国主義とフェミニズム研究の宋連玉さん、そして沖縄の日本軍「慰安婦」問題について中原道子さんにお話を伺いました。

――それで味を占めて、その後もインタヴュー企画を続けたのですね。

前田――そうです。原発を問う民衆法廷の判事だった鵜飼哲さん、田中利幸さん、岡野八代さんにインタヴューした記録(『思想の廃墟から』彩流社)、戦後責任論や靖国神社問題でも知られる哲学者の高橋哲哉さん(『思想はいまなにを語るべきか』三一書房)、『脱原発の哲学』の著者の佐藤嘉幸さん、田口卓臣さん(『「脱原発の哲学」は語る』週刊読書人)、最近ではジャーナリストの斎藤貴男さん(『新にっぽん診断』三一書房)と続きました。他方で、東京造形大学の美術家・デザイナーにインタヴューしました(『美術家・デザイナーになるまで』彩流社)。

そして昨年から「ジャーナリズムが若かった頃」として、琉球新報の新垣毅さん、元NHKの池田恵理子さん、元朝鮮新報の朴日粉さん、元朝日新聞の竹信三恵子さん、フリージャーナリストの安田浩一さん、週刊金曜日編集長の文聖姫さん、元NHKの永田浩三さんにインタヴューしています(雑誌『マスコミ市民』連載中)。

・非国民とは誰か

――見境なくインタヴューをしてきましたね(笑)。

前田――見境なくではなく、きちんと準備をして大切な方々にお願いしました。最初は「非国民がやってきた!」というシリーズでインタヴューしたのですが、振り返ってみると、みなさん、言ってみれば「非国民」ですね。

――『平和力養成講座』の副題が「非国民が贈る希望のインタヴュー」でしたね。

前田――2000年頃から考えていたのですが、2000年代後半から、あるメディアに「非国民がやってきた!」という連載をしました。

――少し前に斎藤貴男『非国民のすすめ』(筑摩書房)が出るなど、日本のミリタリズムとレイシズムが強まって、息苦しさを感じ始めた時期ですね。

前田――それ以前に夏堀正元も『非国民の思想』(話の特集)を出しています。私は夏堀の『渦の真空』(朝日新聞社)を、大西巨人『神聖喜劇』、大江健三郎『同時代ゲーム』、井上ひさし『吉里吉里人』に次ぐ戦後文学のベスト10に数えるくらい、夏堀ファンでもあるのです。

――連載を、そのまま『非国民がやってきた!』(耕文社)にまとめましたね。

前田――その時期に行ったインタヴューを「非国民が贈る希望のインタヴュー」と命名しました。

――そうすると、非国民とは反権力的な人たちのことですか。

前田――反権力と見做されて、迫害された人たちですね。「非国民がやってきた!」シリーズでは、秩父事件の井上伝蔵、大逆事件の幸徳秋水・管野スガ、やはり大逆事件の朴烈・金子文子、中国で反戦運動をした長谷川テル、歌人で「時代閉塞時の状況」の石川啄木、詩人で「間島パルチザンの歌」の槇村浩、川柳人で「手と足をもいだ丸太にしてかえし」の鶴彬、そして伊藤千代子をはじめとする多くの治安維持法犠牲者を取り上げました。

――その継承者が鈴木裕子さん、根津公子さん、安里英子さん、金静寅さん、辛淑玉さんたちということですか。なぜか女性が多いですね。

前田――戦前の大日本帝国では、女性はすべて「二級国民」でした。日本国憲法では女性の権利が保障されましたが、まだまだ女性差別は深刻です。まして、在日朝鮮人をはじめとするマイノリティ集団の女性は、民族差別と女性差別という「複合差別」の被害に苦しんでいます。

・時代に向き合うこと

――「時代を紡ぐ人々」も「非国民が贈る希望のインタヴュー」の延長線上にあるのですか。

前田――そうです。私は「非国民研究者」ですから、私がインタヴューする相手がすべて「非国民」なのです。

――非国民が時代に向き合うのですか。

前田――非国民とされる人々はまさに時代と激突しながらも変革の志を貫こうとします。そうしないと生きていけないのです。

――時代に翻弄されるのですね。

前田――むしろ時代と格闘する。国家、民族、歴史といった大文字の記号に全身でぶつかっていく人々なのです。

――非国民候補を探すのも大変ですね。

前田――いいえ、たくさんいすぎて困るくらいです。次回から続々と登場してもらう予定です。

――独立言論フォーラム(ISF)の方たちはどうですか。

前田――みんな非国民です(笑)。

前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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