低下し続ける支持率でも 岸田政権を延命させる〝安倍派〞の内紛

山田厚俊

「5人衆には任せたくない」
「まさに“つわものどもが夢の跡”といった感が漂っていましたね。こんな内紛劇を繰り広げている場合じゃないのに」
自民党の若手衆院議員は吐き捨てるようにこう語った。

7月6日、自民党安倍派(清和政策研究会)の幹事会が開かれた。安倍派といえば100人の国会議員が所属する党内最大派閥。この日は安倍晋三元首相一周忌法要の2日前。幹部会で後任会長の人事案をめぐり紛糾したのである。

「派閥の事務総長である高木毅国対委員長が、新会長選定について『5人衆体制で決めたい』と提案したところ猛反発を食らい、収拾がつかなくなったのです」(同前)

安倍元首相が凶弾に倒れた後、安倍派は会長不在のまま会長代理に下村博文元文科相・塩谷立元文科相を中心とした運営を続けてきた。その会長ポストの座を“5人衆”による集団指導体制にしようという提案が、猛反発にあったというわけだ。

「5人衆」とは、高木国対委員長をはじめ、萩生田光一政調会長・西村康稔経産相・松野博一官房長官・世耕弘成参院幹事長の5人のことだ。今なお安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相が会長候補として5人の名前を挙げたことに端を発している。

「森さんの本音は萩生田会長。一番、目をかけてきたからね。しかし、派閥内でのハレーションが大きすぎてすぐには難しい。そこで、実力が拮抗している5人の名前を挙げた。集団指導体制になれば、森さんの影響力は温存されたままになり、一石二鳥ということだ」

安倍派の中堅衆院議員はこう解説する。しかし、実力者はほかにもおり、会長代理を務める下村氏と塩谷氏はその最右翼でもある。

前出の中堅衆院議員が続ける。

「下村代理は一昨年、党の政調会長の役職に就き、新型コロナウイルス対応の前面に立っていたにもかかわらず、党総裁選への出馬に意欲をのぞかせた。派閥内では唖然としたムードが漂い、誰一人として応援しようとする雰囲気はなかった。つまり、完全に信用を失ったわけです。一方の塩谷代理は当選10回を重ねながらも73歳という年齢に加え、前回の衆院選では立憲民主党の源馬謙太郎氏に敗れ比例復活だった。とても派閥をまとめる“顔”には値しない」

だからこそ5人衆の名前が浮上してきたわけだが、すんなりとこの5人による集団指導体制ともいかないのが大所帯の難しさだ。当選回数や閣僚経験などのキャリアを見ても、5人衆と遜色のない議員もいる。最初から5人衆ありきの議論に抵抗を示すのは、当然の帰結ともいえるのである。

この事態を予見していたのは、安倍元首相の盟友・甘利明前幹事長だった。安倍氏死去後、自らのメールマガジンで「誰1人、現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もない」と切って捨てたのだ。「『当面』というより『当分』集団指導体制をとらざるを得ない」という予測も冷徹な分析だが、今の安倍派はそれすら受け入れられない“カオス状態”になってしまったといえるのだろう。

7月13日に予定されていた派閥会合は中止となり、18日には下村氏・塩谷氏・高木氏の3人が会談したが、会長選出を進めるべきだと主張する下村・塩谷両氏と、集団指導体制を主張する高木氏の議論は平行線のままで調整は不調に終わった。さらに、20日に予定されていた派閥の総会も中止となった。新体制について協議する予定が見送られ、「秋予定といわれている内閣改造前に、7月中に新体制を決めるべき」(世耕氏)との声もかき消された格好だ。

「強引に着地点を決めようとすると、派閥が割れる可能性がある。それは避けたいという共通認識を皆が持っているものの、5人衆には任せたくないと考える中堅・ベテランも多くてまとまらない」(前出の衆院議員)

8月20日には派閥の研修会が長野・軽井沢で実施される予定だ。それまでに新体制を求める声が多いものの、先行きは不透明である。

逃げ切りを図る岸田首相
 こうした状況にニンマリ顔なのが、岸田文雄首相なのだろうか。人事のたびに最大派閥の顔色をうかがうことをしなくてもいい状況は、首相にとって好都合であることは間違いないからだ。

しかし、そんな余裕も今の岸田首相にはないだろう。先の通常国会での会期末解散を避けた岸田首相の思惑については『紙の爆弾』8月号で詳報した。その後、秋の解散をチラつかせながら、任期満了の2024年9月まで首相の座にしがみつき、総裁選には出馬しない、との憶測も出ている。

「安倍政権が異常に長かったから皆、麻痺しているが、3年間首相を務めれば立派な長期政権だ。残り1年をいかにうまく逃げ切るか考えているようにしか見えない」(同前)

その点、安倍派のドタバタ劇は、岸田首相にとって“追い風”のはずだった。ところが、内閣支持率は下げ止まらない。毎日新聞(7月22・23日)に至ってはついに30%を切り、28%(前月比5ポイント減)、不支持率は65%だったのだ。またNHK(7月7~9日実施)は内閣支持率が38%、不支持率が41%。前月比で見ると、支持率は5ポイントダウンで、不支持率が3・8ポイント上昇した。

共同通信(15・16日)は支持率が34・3%(前月比6・5ポイント減)、不支持率は48・6%(同7ポイント増)。さらに読売新聞(21~23日)でも支持率が35%(前月比6ポイント減)、不支持率は52%(同8ポイント増)に達したのである。

支持率下落の最大要因は、マイナンバーカードをめぐるトラブルだろう。たとえば、宮崎県では知的障害者に交付する療育手帳の情報とマイナンバーのひも付けミスが2336人分見つかった。埼玉県所沢市でも、80代女性に支払われるはずの高額介護合算療育費約5万7000円が同姓同名の別人の口座に振り込まれる、誤入金トラブルが発覚した。

日に日に信頼が失われているマイナンバーだが、岸田政権は健康保険証を来年秋に廃止し、「マイナ保険証」に一本化するとの強気の姿勢を崩さない。信頼回復に躍起な姿勢を見せつつも、その実は結論ありきで実態が伴わないやり方に世論は「信じられない」と、完全にそっぽを向いている。

一連のマイナンバートラブルを知るたびに、2年半ほど前、前出とは別の自民党中堅衆院議員と話したことを思い出す。デジタル行政に詳しい議員に、デジタル庁発足を前に今後の日本のデジタル行政について聞いた時のことだ。

というのも、世界ではWeb3・0(ブロックチェーン技術を利用した分散型の次世代インターネット)が主流であるのに対し、日本はかなり遅れているといわれてきたからだ。デジタル庁発足で日本の周回遅れが取り戻せるのかと問うたのである。

すると、その議員からは次のように諫められた。

「認識が甘い。都市銀行が3行合併しただけで、トラブルが起きているのが今の日本だ。全国1718市町村の規格はバラバラで、いまだにWeb1.0の世界。これを2.0にすることすら大事業で、何年かかるか」

つまり、最初から規格統一するだけで大変だとわかっていたはずなのに、新たにマイナンバーを進める中で、健康保険証や銀行口座とのひも付けなど一層複雑化させることは、最初から土台無理な話だったのではないだろうか。

冒頭の自民党若手衆院議員はこう疑問を呈する。

「ひも付け作業は人による手入力。同姓同名だったり同じ生年月日だったりといったことで、入力ミスが判明しています。ヒューマンエラーが生じやすいシステム移行はより慎重にやらなければならないはずなのに、岸田政権はやたらと急いでいる感が否めない。これでは国民の信頼を損なうだけです」

まさに正論が自民党から出ても、岸田首相や河野太郎デジタル相が自らの方針に頑ななのは、そもそも彼らが事態を理解していないからではないか、とすら思わせるのだ。

 

豪雨被害に苦しむ国民よりもNATO優先
 しかも、岸田政権の“減点”はマイナンバーだけではない。7月は九州に加え、北陸や秋田でも豪雨が甚大な被害をもたらした。気候変動による影響だろうか、近年の自然災害による被害は凄まじい。

しかし岸田首相は7月10日、九州地方の記録的な大雨被害に「亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げ、全ての被災者の皆さまにお見舞い申し上げる」と述べつつも、災害対応は松野博一官房長官と谷公一防災担当相に指示し、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席のため7月11日、日本を発った。

いきなり飛び出した感が否めない子ども政策予算倍増も不信感を募らせるものだ。政府は子ども家庭庁の予算として5兆円増額が必要だという。岸田首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」は、言葉だけが上滑りして中身が見えない。しかも、その財源はまた増税がチラつき、批判が高まるとうやむやにしてしまう始末だ。小倉将信こども政策担当相は「こどもまんなかアクション」の実施を発表。しかし、そのイベント費用の方が無駄だとの声も。“やったふり政権”の最たるものなのかもしれない。

「そういえば、あの手帳はどこへいったのかな。もう“聞く力”なんてフレーズはどこかへ消え去った感じだよね」

ある衆院議員は、自嘲気味にこう語った。2年前の自民党総裁選に出馬した岸田氏は手帳を掲げて“聞く力”をアピールした。国民からの声を書き留めたノートは10年間で30冊近くになったという。間もなく総理総裁の座に就いて2年になる。この議員は「本当に岸田首相は“聞く力”があるのか」と疑問を呈しているのだ。

「すぐさま現地に行き、被災者に声をかける。パフォーマンスといわれようが、被災地の人たちは総理が駆けつければ『私たちは見捨てられていない』と感じるもの。岸田首相にとっても『聞く力』の本領を発揮する機会だと思っていた」(同前)

ところが、この約2年間、手帳を開いて「私が聞いたところ、国民は本当はこう思っています」などと語ったことはない。今回も被災地で被災者とひざを突き合わせ「生の声」をメモすることはない。

「結局、総裁選に勝つためだけのパフォーマンスだったってことでしょう。しかし、マイナンバーにしても大雨被害にしても、何ひとつ国民の声が届かない政治になっていると言わざるを得ない」(同前)

これまでもレポートしてきたが、岸田首相は財務省・外務省、そして米国の声には熱心に耳を傾ける一方、肝心の国民の声は何ひとつ届いていない。それどころか、聞こうとしてすらいないのである。

それでも岸田政権はこのまま来年の任期満了まで安泰なのか。党内の最大派閥はぐらつき、野党も存在感さえ薄れている。このまま“低空飛行”で乗り切る腹づもりなのかもしれない。

「情けない話ですが、今は世論の声に頼るしかない状態です。仮に、軒並み世論調査で内閣支持率が20%台前半まで落ち込み、不支持率が60%台を超えたら、与野党ともに目を覚ますでしょう。今はそうでもならない限り、何も変わらないような気がします」

前出の自民党若手衆院議員はこう明かす。与党にいて声をあげられないもどかしさ、自らの不甲斐なさを感じての「告白」だろう。

まずは私たち国民がどう声にしていくかが試されている灼熱の夏である。

(月刊「紙の爆弾」2023年9月号より)

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山田厚俊 山田厚俊

黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。

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