西之表市長の挑戦

長野広美

・地元置き去りの馬毛島基地化計画

種子島は、琉球弧の島々の中で最も北に位置し、大隅半島との距離はわずか40kmしかない。黒潮の恩恵を受けて温暖であり、キュウリ状の形状で起伏が少なく農業に適した恵まれた自然環境の中で、水飢饉や深刻な食糧難に陥ることも島の歴史上経験してこなかった。

また、日本本土の大和文化の流れを組んで「種子島家」統治として独立しており、薩摩藩を含め、外部から搾取されたことがないのは、沖縄や奄美の歴史と異なる。日本の中世の歴史の流れを変えたと言われる鉄砲伝来は、火縄銃国産化に成功し技術力と、漂着した人々を救助する穏やかな島民性の事例である。このような種子島の歴史上でも深刻な情勢を迎えているのが、種子島の真西10km沖に浮かぶ馬毛島の軍事基地建設の動きである。

馬毛島は種子島の北半分を占める西之表市の行政区の中にあり、終戦後に始まった馬毛島開拓の時代には最大525人が暮らし、小中学校があり、市営の定期船が西之表港と葉山漁港を往復していた。しかし、厳しい島の農業などから離島者が増え、さらに経済成長を遂げ始めていた日本の財界による、地方への投機目的の土地買収が増え始め、後に政界と財界との癒着で揺るがした平和相銀事件や金屏風事件などの舞台となってしまった。

一度手放した馬毛島のその後は、石油備蓄基地、レジャーランド開発、自衛隊レーダーサイト、日本版スペースシャトルの着陸場誘致、さらに原子力発電所から発生する高濃度核廃棄物の中間貯蔵施設などの候補地として騒がれ、大型の投機に利用されてきた。1995年に鹿児島出身者に売却されていた後も、地元が期待した島の活性化はついに実現しなかった。ずさんな採石工事計画に始まり、採砂工事、場外離発着場、農地造成などの工事を許可してきたが、結果的には島の南北に4000m、東西2500mの裸地が十字架のように造成された。

その膨大な面積の伐採が続けられていた2011年、防衛省は日米安全保障協議委員会(2+2)の米国との協議の中で、米軍航空母艦に搭載されている艦載機の離発着訓練(FCLP)の恒久施設として馬毛島を候補地とすることを、地元に打診も無く一方的に決定した。『あくまでも候補地であり地元には丁寧に説明をする』と、種子島や屋久島など地元首長や議会の強い反発を防衛省はかわしてきた。

防衛省がリークしたと思われる憶測記事が相次いで報道されていた中で、19年11月巨額の負債を抱えていた地権者が買収に合意した。買収価格160億円は防衛省自ら査定した不動産鑑定評価額45億円を遥かに上回る。首相官邸が主導した交渉結果と言われている。

その後は、あっという間もない程の展開が続いている。それまでの防衛省は地元に対し丁寧な説明を行い住民の理解を得たいと繰り返していたが、決定事項の報告でしかなく、地元住民はまさに置き去りのままとなっている。

20年12月海上ボーリング調査を開始。21年2月18日、環境アセスメント着手。5月16日及び25日に自衛隊によるデモフライト実施。8月に港湾施設イメージ図を公表。11月に西之表市長及び西之表市議会に工事計画及び基地関係交付金等の説明を行う。12月、3183億円の22年度馬毛島予算を閣議決定し、2022年1月6日の2+2において、馬毛島を推進することを合意。1月7日防衛大臣が馬毛島を「候補地」から「整備地」に決定したと宣言。1月26日、管制塔、駐機場、燃料貯蔵施設など500億円を上回る13件の入札公告。2月28日、基地建設関連工事11件の入札公告と続く。

その基地計画とは、中央部に2450mと1830mの滑走路2本、管制塔、庁舎などの運用支援施設、宿泊等支援施設、火薬庫などのほかに、不整地着陸訓練施設やF-35B模擬艦艇発着訓練施設など、島のほとんどを整備する計画である。また、軍用艦が接岸する巨大な港湾施設が追加された。しかし、あくまでも現時点での計画に過ぎない。

さらに深刻な公害が懸念されるのが運用計画である。米軍ジェット戦闘機による真夜中3時までのタッチアンドゴー訓練に加え、垂直離着型のF-35Bステルス機を含む戦闘機の訓練は年間150日間、水陸両用訓練、エアクッション艇操縦訓練、ヘリコプター等からの展開訓練など、日本で初めての陸海空自衛隊の総合訓練地となる計画である。

London,Britain25April2021:Britain sent a large fleet of aircraft carriers into the upcoming Pacific Ocean in May, joining the US F-35B and destroyers with US missile-led destroyers as Dutch frigates.

 

現在まで地元住民の避難計画はなく、「離島奪還作戦」としていることから島民を守るための軍備配置ではない。基地負担の中身を住民が十分に理解できる状況には程遠い。馬毛島基地計画にはそもそも、民間事業者の違法行為を黙認し、根抵当権などのいわくつきの土地に対する法外な買収金は闇社会へ流れるなどの行政手続き上の深刻な問題を包含する。もはや防衛省や国は「安全保障」だけを免罪符に島民を捨て石に暴走しようとしている。

・地元の対応

八板俊輔西之表市長は、昨年1月の改選で2回目の当選を果たした。新聞記者出身の市長は1期目の4年間において、防衛省に対し日米地位協定の存在が日本国憲法で保障する国民の安全を脅かしており、「同意できない」との立場を積極的にアピールしてきた。

また市民に対しては、基地建設の賛否で住民分断が起こらないようにと呼びかけたものの、結果的には曖昧な態度だと市民からは受け取られていた。当時からすでに、交付金等に期待する市民と、また子々孫々まで深刻な基地負担を強いることから反対する市民とに、住民意見は二分している。

約1年前の選挙は、推進派から擁立された対抗馬と、わずか144票という僅差再選。1期4年間の八板市長への評価は下がり、一方で推進派の勢いが広がっているという厳しい結果となった。

辺野古基地建設問題で、地元名護市長選挙では2018年に反対派市長が落選しているが、そもそもわずか6万人規模の小さな市長選挙に国の中枢関係者が相次いで選挙運動に繰り出し、有権者を惑わしている。地方自治権の骨幹を成す投票行動は、政治力で捻じ曲げられており、実際に辺野古基地建設には反対だという住民が推進派と言われる候補者に投票していることが報道されている。

さらに、深刻な問題として、国が交付金を使って地元意向に圧力をかけてくることが常態化している。政府は沖縄県に対し22年度沖縄関係予算を10年ぶりの3000億円割れへと大幅減額と言われ、名護市においては、基地建設に反対していた稲嶺市長時代に再編交付金を停止している。

岩国市においては、06年米軍空母艦載機の厚木基地からの移転計画に対し、住民投票は圧倒的反対であったにも関わらず、国は防衛省と一体となって、庁舎建設補助金を凍結し、再編交付金の対象からも岩国市を外した。移転反対の市長は辞職に追い込まれ、出直し選挙で落選となった。地方自治の中に、国が意図して関与しているのは明らかである。

はたして、反対の立場の地元自治体首長にどのような選択肢が残されているのだろうか。22年2月3日西之表市長が防衛大臣に直接要望書を手渡したのは初めてである。

市長の申し入れは、馬毛島問題は新たな展開に入ったことから、市民の不安と期待について具体的に協議する場を要望するとした。これによって、推進派市民にとっては市長リコールの名分を失い、反対派市民にとっては「同意しない」市長ではなくなったという失望感が広がっている。

実際に八板市長は「同意しない」を撤回した訳ではない。曖昧さもまた一つの戦略かもしれない。剃刀の刃のような狭い茨の道には違いない。この状況を前提に、私たちの住民もまた厳しい反対運動となる。

長野広美 長野広美

西之表市議会副議長

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