「ピースボート世界一周の船旅」①  ~平和について学ぶ船旅から戻って~

与那覇恵子

コロナ禍で2カ年延期され再開された「ピースボート世界一周の船旅」、4月初旬に出発し7月末に沖縄に戻った。7万7441トンの新チャーター船、日本発着の世界一周客船としては最大級を誇るパシフィック・ワールド号で16ヵ国21ヵ所に寄港する(オーバーランドを入れると17ヵ国22ヵ所) 4ヶ月近くの船旅だ。
1400人の乗客の大半は日本人だが、中国、台湾、韓国、シンガポール、マレーシアなどアジア諸国からも150人ほどが乗船した。
普通の船旅や豪華客船の旅と異なるピースボートの特徴は、その名の通り観光だけではなく平和学習の旅でもあることだ。

最初の寄港地フィリピンが近づく頃に、日本軍による住民虐殺の証言ビデオの放映がありフィリピンの戦争被害、日本の加害の歴史を学ぶ。
600人余が殺害され消滅した村もある。
沖縄から乗船した友人の城間悟さんからも、母親が当時小学生でフィリピンに移住していて、小学校校庭で椰子の木に登って逃れようとする住民達を日本兵が笑いながら銃殺していたことを涙ながらに語っていたと聞いた。
今更ながら人間性を失い鬼畜になってしまう戦争の恐ろしさを思い知らされる。

シンガポールでは1942年に華僑人5千人を粛正、自由が無く日本人化が強要された日本占領下の歴史も学ぶ。“3年6ヶ月の日本占領”を記憶するシンガポールだが日本では殆ど知られていない。
中国人を実験材料にした細菌部隊を連想させる731の自衛隊機に乗ってご満悦の安倍総理の写真を見たが、アジアと日本で今に続く歴史認識のギャップを示すものでもあった。
沖縄占領が決定したサンフランシスコ講和条約発効の4月28日「屈辱の日」を日本の独立日として祝った日本政府の姿と重なる。
歴史に学ぶ視点が欠落した時に何が起こるか?私達は今、沖縄で目撃している。

船上では過去からだけではなく現在からも平和について学ぶ。
6月20日「難民デー」には難民問題の講演が並んだ。
上陸したギリシャ、ポーランドでは、難民として逃れてきた移民が路上で土産物を売ったり物乞いをしたりする姿があった。
ギリシャでは、観光客でごったがえす狭い歩道に安物の土産品を広げる年配の男性が、やけになったような勢いで客を呼び込んでいたが、その奇声と裏腹な、日に焼けて怒りに満ちたような必死の形相が痛々しかった。
ポーランドの美しい古都クラクフでは、ホームレスの一家4人が公園に座り込んで物乞いをしていた。可愛い4~5才の娘の手にお金をわたすと、飛びつくように30代の若い父親が追ってきて手を差し出す。
難民や移民のなれの果てに心が痛んだ。
殆ど難民や移民を受け入れず入管法も改悪した日本が、治安や経済の悪化など移民や難民の問題を簡単に批判することはできない。
コスタリカは100万人の移民を受け入れたと聞く。
苦難の人達に手を差し伸べる、その度量の大きさを、閉鎖的な日本はまず学ぶべきだろう。

6月23日「沖縄デー」は沖縄関連の講演や行事で船内新聞が埋まった。
三上智恵監督のスピンオフ動画「沖縄、再び戦場(いくさば)へ」が上映され、有り難いことにジャーナリスト伊高浩昭氏と私の対談も設定され、沖縄の危機を訴えることもできた。
自主企画でも沖縄の現状を2度ほど報告したが「驚いた」「知らなかった」との声が多く、本土メデイアが沖縄の状況を殆ど伝えていない現実を再認識した。
戦争への道をひた走る日本だが、国民にその危機感が乏しいと、そのような政府を支持している認識や責任感も乏しくなる。
沖縄からの参加者と他県からの参加者とのギャップはそこにあった。

旅の途中でWi-Fiが使える寄港地から「Peace Boat(ピースボート)に乗船中」とラインにメールをした。
友人から「日本はWar Boat (ワーボート)に乗船中」との返信が来た。
一刻も早く船を乗り換えることを願う。

(長くなるのを避けて、②として続けます

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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