【連載】ブラジル便り(山口貴史)

第1回 南米に対する偏見 〜ブラジルで、難民は無料で教育や医療が受けられ、年金にも加入できる〜

山口貴史

私は、南米・ブラジルのサンパウロに住んでいる。

Photo of a japanese street at Sao Paulo city. This neighborhood is called “Liberdade”. japanese town.

 

暦では、今秋を迎えているが連日30度超えが続いている。

南米は常夏のイメージが強いが、冬、サンパウロは気温が10度台になり、ブラジル南部では雪が降る。アルゼンチンやチリではスキー場もあるくらいだ。

猛暑が続く中、週末になるとブラジル人たちは、シュハスコと呼ばれるバーベキューを開催する。ブラジル人の友人に誘われ、午前10時から開催し、肉を食べて、ビールを飲み、全く記憶に残らない意味のない話をしながら、ダラダラと夜の11時まで行われる。

シュハスコを共に囲むブラジル人仲間たちは、酔っ払いながら私に毎回同じ質問をしてくるのだ。

「ブラジルっていいだろう。地震や戦争はないし、食べ物も美味しいし、温暖で、みんな明るくて寛容で、美女だって多い」って。反論の余地はなく、私は、いつも頷いている。

国民性なのか、この国は本当に寛容だと感じている。

例えば、難民について、ウクライナで戦争が勃発し、ウクライナからの難民に対するビザ発給を真っ先に表明した。4月には、チャーター機を用意してウクライナからの難民、230人を受け入れている。

ブラジル司法省によると、2020年までの過去10年間に約30万人の難民を受け入れたという。

10年の地震で約32万人の死者を出したハイチ、内戦が続くシリアのほか、ベネズエラ、キューバ、コンゴなど様々な国からの難民を受け入れてきた。

シリアやロヒンギャの難民受け入れに消極的だったのに、白人のウクライナ人に対しては真っ先に手を差し伸べる人種差別的な日本とは大違いである。ウクライナ人への批判ではなく、こういった日本の姿勢は本当に許せない。

ブラジルで受け入れられた難民は、ほぼブラジル人と同じ社会制度を享受できる。

身分証明証が発行され銀行口座を開設できる。公的機関の医療は無料、子供達への教育も無料で受けられる。労働手帳も発行され労働は認められ、育児手当や失業手当の権利もあり、年金にも加入できる。

ゼロとは言わないが、多民族国家だからなのか北米に比べると人種差別はほとんどないと、現地在住のアジア人たちは口をそろえる。

ブラジルへ移住し開拓してきた先人の日本人移住者の弛まぬ努力のおかげか、日本人への尊敬は揺るぎないものになっていると、現地に住んでいて実感する。

こういったブラジルの寛容な姿というのは、日本になかなか伝えることができない。

こういう話題を日本で取り上げてもウケが悪い。理由は簡単である。情報として日本で求められていないからだ。

むしろ、ブラジルを含む南米諸国について求められているのは、治安の問題やラテンタイムと言われる時間のルーズさというネガティブさなのだ。

日本に帰国し、日本人と話すと、「ブラジル在住すごいですね。ところで危なくないんですか?」と、決まり文句のようにいろいろな人から言われる。

それに、ブラジルはサッカーやカーニバル、ファベーラと呼ばれる貧民街の話、最近では、日本のメディアは、ブラジルのボルソナロ大統領をアニメのキャラクターのように、新型コロナウイルス対策を軽視する異端児として取り扱っていた。日本でイメージされる南米のイメージは、非常に情報が単一的なのだ。

例えば、コロンビアは、01年に日本人が左翼ゲリラに誘拐され、殺害された事件が、特に40代以上の人たちに強烈な印象を与えており、今だに誘拐が乱発している危険な国と思われている。

確かに事件が起きた01年に、コロンビアで起きたゲリラ絡みの誘拐件数は年間3300件だったが、21年はわずか年間19件に過ぎない。

私はいつも、南米の情報を発信するときは、その国に映し出されている人々の姿を取り上げたいと思っている。

以前、ブラジルで、精神的に追い込まれ自傷した体の傷に、綺麗な刺青を施して隠してくれる刺青師を取材した。父親の性的暴力にあい精神的に追い込まれ、何度も自殺をしようと腕に傷をつけ続けた19歳女性を取り上げた。

その女性の腕には幾重にも重なった傷跡が痛々しく残っていた。暴力を振るう父親の元から、親戚に救い出され、新しい人生をスタートさせたい。でも、この傷のせいで周囲から白い目で見られ、いつも長袖を着て腕を隠し続けていた。

生活は貧しく病院で傷を消すお金の余裕もない。傷跡の上に刺青を無料で入れてくれる情報を聞きつけ、その刺青師の元へ飛び込んだ。

彼女が刺青師に頼んだのは、薔薇の刺青だった。花言葉で「愛」を意味する薔薇。家族の愛に包まれた生活を送りたいという願いだった。

彼女が最後に、「この刺青は最初で最後。私の体の傷を癒してくれるもの」と言った言葉は印象的だった。

発信元のメディアにこのネタを話し、最初は「反社を想像させる話題だ」と渋られたが、最終的には取り上げてくれた。

別の機会では、ブラジルでダウン症の人たちに職場を提供する会社を取材し、ブラジルではダウン症の人たちは補助金が出るため仕事をしたがらないという問題を取り上げた。

ブラジルのこういう生の声を伝えようと努力しているが、ネット上の反応はイマイチだった。

ブラジルを含む南米は、韓国や中国と違い、日本のほぼ真裏に位置し、身近な存在ではないゆえか、なかなか関心を引いてもらうことが難しい。

South American country flag of Brazil

 

観光でも簡単に行けない国なので、遠い存在に感じるのは仕方がないと思っている。

しかし、日本の裏側に住んでいる人たちにも営みがあり、社会に様々な問題が存在する。

いわゆる単一的に見られている南米の国々について、別の角度から情報発信をしていきたい。

これからも、ささやかではあるが、南米に住んでいる人の姿が想像できるような、本当の姿を伝えていきたいと思っている。

山口貴史 山口貴史

フリーランス。ブラジル・サンパウロ在住。北海道出身。G20サミットや国連総会などの国際会議、リオ五輪、サッカーW杯ブラジル大会から、アマゾンの森林破壊の問題など、ブラジルを中心に南米各国の様々な現場を取材。共著『100年 ブラジルへ渡った100人の女性の物語』(フォイル出版)。

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