【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

戦争と平和を考える

高田健

・ウクライナ戦争

2月24日に始まったロシアのウクライナ侵略戦争はすでに2カ月以上続いている。かつてのイラク戦争の時と異なり、日本の反戦運動の界隈で不思議な現象が起きている。

ロシアも悪いが、ウクライナにも責められる理由があるなどという「どっちもどっち」論がSNS(ネット交流サービス)の世界で結構幅をきかせている。中には「降伏は幸福だ」などという暴論もある。

またゼレンスキー大統領の国会での演説に山東昭子参院議長が「閣下が先頭に立ち、貴国の人々が命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」などというトンでも発言もあった。

たしかに領域拡大をはかるNATO(北大西洋条約機構)も悪いが、今回侵攻したのはロシアだ。全世界の人びとはロシアの中で反戦を闘う人びとと共に「ロシアは即時停戦し、撤退しろ」と声を挙げるべきだ。

国連憲章第1章2条4項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と規定している。

今回のロシアのウクライナ侵略は明白に国連憲章違反だ。

このロシアのウクライナ侵攻に乗じて日本でも「惨事便乗改憲論(ショックドクトリン型改憲論)」が横行している。惨事に便乗して憲法破壊と軍事力強化を正当化する動きだ。

「憲法9条で国が守れるのか、改憲すべきだ」、「軍事力を強化するしかない(5年以内にGDP比2%以上)」「敵基地攻撃能力の保有(攻撃対象には相手国のミサイル基地だけでなく、指揮統制に関連する機能も含める)」「核のシェアリングで核恐喝に対抗する(非核三原則の破壊)」「(ウクライナが攻められたのはNATOに入っていなかったからだ)軍事同盟こそ安全保障だ」などなどだ。

米中2つの世界覇権勢力が世界を舞台に覇権を競っている。「自由で開かれたインド太平洋」と「一帯一路」の覇権争奪のもとでアジア太平洋の軍事的緊張が拡大している。米国や日本による「Quad」「AUKUS」「ファイブアイズ」などなど相次いで形成される対中国封じ込めの軍事的連携の下で、朝鮮半島や台湾海峡の緊張が増大している。

「台湾有事」対応を口実に自衛隊と米軍の南西諸島配備がすすんでいる。自衛隊や欧米各国との軍事演習が頻繁に繰り返されている一方、中露合同演習や北朝鮮によるミサイル実験が繰り返される。「台湾有事」など絶対に有ってはならないことだ。そうにでもなれば、真っ先に沖縄など南西諸島が戦場になる。政府がやるべきことは「台湾有事に備えること」ではなく、「台湾有事をどうやって起こさせないか」だ。

自民党は政府が年内に発表するといわれる外交防衛の長期指針「国家安全保障戦略」など防衛3文書の改定に向けて、憲法の平和原則と「専守防衛」原則を事実上投げ捨て、「戦争する国」への道をひた走る自民党の「安保提言」を提出した。これは相手国のミサイル基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」などと対象相手の「指揮統制への攻撃も可能とし、軍事費も5年以内に対GDP比2%以上にするような提言だ。この道は戦争を招き寄せる道だ。

戦争を準備すれば、戦争がやってくる。これは歴史の教訓だ。

「戦争は他の手段をもってする政治の延長。戦争は政治の延長」(クラウゼビッツ)。戦争はそれにさきだつ外交の失敗に他ならない。

戦争に至る前の、平時において相互の交流と粘り強い交渉によって、地域に「仮想敵国」を作らない全域集団安保の構築こそ必要だ。たとえば「日中関係4文書はその先進例だった。①日中共同声明(1972)、②日中平和友好条約(78)、③平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(98)、④ 「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008)。

これらによって作られた日本と中国の平和・友好の関係は石原慎太郎元東京都知事らの挑発策動で壊されたが、日本と中国の関係をこの4文書に戻す努力こそ必要だ。

日本共産党の志位和夫委員長がこの時期、「急迫不正の侵略に対しては、自衛隊も活用して国民のいのちと主権を守る」ことを強調しているのは残念だ。いま、右派が一斉に志位委員長を攻撃している時期であるから、ことを荒立てるのはさし控えたいが、最小限、筆者個人の意見を述べておきたい。

日本国憲法からみて自衛隊が憲法違反であることは明白だ。急迫しているから違憲の軍隊を使うというのは不可解だ。われわれが自衛隊を使うことは不可能だ。国家権力はそういうものではないだろう。万々が一の侵略に対してどうすべきかということだが、日本国憲法は「日本国家の武装自衛権」は認めていない。

しかし、民衆には自衛権があり、抵抗権がある。ウクライナの女性達がロシアの戦車を取り囲み押し戻した闘いがあった。天安門事件で戦車の前に立ちふさがった青年がいた。ミャンマーで教師や医者達や商店街がストライキをやって国軍のクーデターに抵抗している。

憲法で軍隊を持つことが禁止されている日本は、侵略者に対しては全世界の民衆と連帯して、ゼネストを含む「不服従」の「非暴力抵抗闘争」で立ち向かうべきだ。これは困難で長期のたたかいになるがこれ以外にない。戦争にたいして戦争で立ち向かうことは民衆の膨大な犠牲を伴うものだ。これに満足せず、パルチザンを組織して闘う人々がいても、反対しない。

【日本国憲法前文】は「日本国民は、……平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する。われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」と規定している。

There are many hurdles to carry out the constitutional amendment that requires the consensus of the people. However, due to the influence of the COVID-19, there is also a movement to include a clause that restricts the rights of the people in the constitution, and further discussions will be watched.

 

侵略されたらどうするのかが肝心の問題ではない。「戦争」になる前にどのような準備をするのかこそ肝心の問題だ。平時において近隣諸国との間に、どのような平和と友好・共存の関係を作り上げるかだ。

「非核兵器条約地帯構想」という経験がある。外務省のサイトには以下が紹介されている。

(1)トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約、署名1967年、発効68年)
(2)ラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約、署名85年、発効86年)
(3)バンコク条約(東南アジア非核兵器地帯条約、署名95年、発効97年)
(4)ペリンダバ条約(アフリカ非核兵器地帯条約、署名96年、発効2009年)
(5)セメイ条約(中央アジア非核兵器地帯条約、署名06年、発09年)

また外務省のサイトによれば東南アジア10か国から成るASEAN(東南アジア諸国連合)は、1967年の「バンコク宣言」によって設立された。原加盟国はタイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの5か国で、84年にブルネイが加盟後、加盟国が順次増加し、現在は10か国で構成されている。

2015年に共同体となったASEANは、過去10年間に高い経済成長を見せており、今後、世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が、世界各国から注目されている。

日本国憲法第9条は現実的で、可能な道だ。「希望とは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなればそれが道になるのだ」(魯迅「故郷」/竹内好訳)。

高田健 高田健

戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会共同代表。許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局長、9条の会事務局、さようなら原発1000万人アクション、憲法9条を壊すな!戦争をさせない1000人委員会、総がかり行動実共同代表、「市民連合」呼びかけ人。韓国の 第3回李泳禧賞受賞。福島県郡山市(旧高野村)出身。近著「対決!安倍改憲」(梨の木舎)。

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