【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第38回 ロシア軍の新しい「部分的動員」が意味するもの③(完)

寺島隆吉

ところで、プーチンの右記演説を紹介したNHKが、同じサイトで次のような関連記事を載せていました。

*ウクライナ軍事侵攻元ロシア軍兵士が内情告発 “劣悪な環境”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220924/k10013835791000.html

この記事を読んでみたところ、この人物パベ ル・フ ィラテ ィエフがウクライナ軍事進攻の作戦に参加した後、ロシア軍を辞めてフランスに亡命したのは、徴兵が「劣悪な環境」だったからだというのです。

しかし、そこで言及されている「劣悪な環境」というのは、読んでみると「1か月間、野宿でシャワーやまともな食事が与えられなかったうえ、休む間もなく戦争にかり出された」というのが、そのメインでした。

この兵士は今まで一度も従軍したことがなかったのでしょうか。戦場では野宿が当たり前です。豊かな食事が与えられ、シャワーも浴びることのできる宿舎で寝泊まりできることを、戦場で期待していたとは信じがたいことでした。

それでも、まともな兵器を与えられてウクライナ軍と戦闘できたのです。

対するウクライナ兵士は、まともな兵器すら与えられないまま前線に送られていたのですから、 「劣悪な環境」どころか、このロシア兵が置かれていた環境は、ウクライナ兵と比べれば、はるかに「幸せな環境」だったと言うべきでしょう。

これを赤裸々に暴露しているのが次の記事です。

‘Sent to certain death’: Why growing numbers of Ukrainian servicemen are refusing to fight on the Donbass frontlines
「なぜドンバスの前線で戦闘を拒否するウクライナ兵が増えているのか―犬死の戦闘に追いやられて」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-961.html( 『翻訳NEWS』2022/06/30)

この記事は動画付きで次のような驚くべき事実を暴露していました。

 

おそらく最も衝撃的な動画のひとつは、4月28日に公開されたもので、第79空挺突撃旅団の隊員が指揮官の残虐性を説明するメッセージである。

「私たちは5,6日間そこに座っていたが、 指揮官は私たちを見捨てた…。そして今、私たちは生き残ったが、生き残ったのに脱走兵にされている…。穴の中には、まだたくさんの死体が放置されたという。指揮官によって、 部隊はドネツク州のヤンポル村近くの森に連れて行かれ、 死ぬまでそこに横たわっている」

彼らは、 「自分たちが助けを求めたのに、指揮官は 『戦車と接近戦をしろ』 と命令した」こと
を強調した。しかも現在、生き残った落下傘兵は脱走の裁判にかけられているのだ。

 

上の記事は「指揮官への批判」 「供給品」 「脱走」などの項目で、ウクライナ軍の腐敗と堕落を詳しく告発しています。

が、堕落と腐敗は正規兵だけでなく外国人傭兵にも及んでいます。それは正規兵よりも、もっとひどかったのです。それを告発しているのが、次の記事です。

*An American volunteer for Ukraine tells The Grayzone how his foreign legion tried to use him as cannon fodder.
「ウクライナのための戦闘に志願したアメリカ人退役軍人が 『自殺的任務』について語る」http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-888.html( 『翻訳NEWS』2022/04/23)

この記事は、ウクライナのために志願したア メリカ退役兵が、所属した外国人部隊の指揮官によって、あやうく砲弾の餌食にされそうになった経過をオンライン誌The Grayzoneに語ったものです。

ここで語られていることも、目も覆わんばかりの腐敗と堕落で、とても全てを紹介することはできません。その一部だけを以下に紹介します。

 

以前、The Grayzoneが報じたように、西側からウクライナへの武器輸送は、 「史上最大かつ
最速の武器輸送の一つ」に相当するものだ。

しかし、 「ウクライナでの自分の役割を砲弾の餌食」 と表現した外国人志願兵はヘフトだけ
ではなかった。

「俺の考えでは西側の装備のほとんどは、 直接、 ウクライナ軍に渡っている」と、 ヘフトはThe Grayzoneに語った。

「あいつらは自国民の犠牲を最小限に抑えたいんだ。だから、志願兵として来る外国人がたくさんいたら、まずその志願兵を前線に送るんだ」

到着から3日後、 外国人部隊=ジョージア軍団は 「何も持たずに志願兵をキエフに送り込んだ。装甲版も武器も装備もない。到着すれば武器が手に入ると言われた」とヘフトは回想する。

数日後、 キエフに派遣された志願兵たちは、 約束された武器をまだ受け取っていないと、彼の部隊にテキストメッセージを送ってきた。

「ひとりの男はこんな風だった、 『ああ、武器は手に入れたが、弾薬は10発しかない』と言ったんだ」

またヘフトは次のようにも付け加えた。

「ひとりの男はグロック社製銃(訳注:強化プラスチック製で兵士向きではない)を渡され、 空港のパトロールに行かされたという話もある。 この志願兵の中には、 軍隊経験のない奴もいた。そのうちの一 人、イギリス人のガキは、 生まれてこのかた武器を手にしたことすらなかったんだ」

このような体験を経て、ヘフトたちは急いで装備をまとめ、 救急車の後ろに隠れて、まっすぐリビウに向かった。ジ ョージア軍団の指揮官が、「自分たちを処刑し、その殺人を戦闘行為と偽
る計画がある」と聞いたからだった。

 

この記事は、 「こうしてヘフトたちは、かろうじてポーランドとの国境を越えて祖国アメリカに戻った」と、ヘフトたちへのインタビュー記事を結んでいます。

話が少し横にそれたので、もう一度フランスに亡命した元ロシア兵の話に戻ります。

NHKの先述の記事は、このロシア兵の内部告発が近く出版されるという知らせで話を結んでいました。

しかし、この記事を読む限り、その元ロシア兵=フィラティエフ氏は、ドンバスで従軍していたにもかかわらず、ドンバスの住民のほとんどが地下生活を強いられ、シャワーどころか、まともな食事すらできない毎日を送っていることに、まったく言及していないのです。

従軍兵士どころか一般庶民すら、このような生活を送っていることに、彼は何の痛みも感じなかったのでしょうか。

自分は何のためにドンバスに送られたのかを知らなかったとしても(あるいは一歩譲って、彼がプーチン大統領の演説を聴く機会がなかったとしても)現場で戦っていれば、住民がどんな生活
を送っているかは、すぐ分かったはずです。

ウクライナ軍の外国人傭兵たちは、大手メディアから流されているゼレンスキー大統領の演説「ロシアに侵略されているウクライナ人を救え」に欺されて、志願兵としてウクライナにきたわけです。

他方、 実際に8年間も砲撃にさらされ、殺されてきたのはドンバ スの住民、すなわちフィラティエフ氏の同胞、同じロシア語話者たちでした。

ですから、本来ならフィラティエフ氏は正規兵ではなく、志願してでもドンバスに駆けつけるべきではなかったのか、とすら私には思えるのです。

そして実際、 志願してドンバスに駆けつけたアメリカ退役軍人もいたくらいなのですから。

次の記事は、その彼にインタビューした感動的な記事です。

Russell Bentley: “The U.S. and NATO Are Waging War With Russia in Ukraine… but Russia is Assuredof Victory”
「ドネツク人民共和国軍に参加する元アメリカ兵は語る。 『ロシアは民族浄化を阻止した。ロシアは必ずや勝利する』 」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-934.html( 『翻訳NEWS』2022/06/04)

彼は祖国アメリカに戻れば「非国民」扱いを受けるかも知れませんし、キエフ政権の「暗殺リスト」に登録され、殺されるかも知れないのです。

しかし驚いたことに、その退役軍人ラッセル・ベントレー氏は、キエフにクーデター政権ができた直後の2014年から8年間、ドネツク人民共和国に住んでおり、現在は正式な市民権を取得しているのです。

彼は2014年末に米国を離れ、NATOに支援されたキエフ政権から離脱した共和国を守るために、DPR(ドネツク人民共和国)の軍隊に入隊しました。

ドンバスの罪のない人々が「NATOに支援されたナチス」の手によって苦しめられていることが彼に志願を決意させた、とインタビューで語っています。

アメリカ退役軍人ラッセル・ベントレーは語る。「ロシアは民族浄化を阻止した」。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-934.html

 

フランスに亡命した元ロシア兵フィラテ ィエフ氏と、何という「志の違い」でしょう。

それにしても、このフランスに移住したフィラティエフ氏の未来は、幸せなものでしょうか。

というのは、先にも述べましたが、ロシアへの経済制裁で物資やガス・ 石油が入って来ず、今年の冬すら越せるかどうかという懸念すら出てきているのですから。次の記事を見てください。

(1)French firewood prices soaring「フランスの薪価格が急騰」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1074.html( 『翻訳NEWS』2022/10/04)

(2)Germany faces toilet paper shortage「ドイツはトイレットペーパー不足に直面」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1075.html( 『翻訳NEWS』2022/10/04)

(3)Swiss hospitals advised to cut power use「エネルギー危機へのスイスの節電対策、病院は電力使用を制限せよ」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1070.html( 『翻訳NEWS』2022/10/03)

ドンバスの「住民投票」が成功し、それを受けてロシア軍の「部分的動員」が始まったわけですが、これでロシア軍の「特別作戦Z」も、その役割を終えたようです。

これからは、ウクライナをめぐる戦いは新しい段階に入ります。

ただ、その未来は必ずしも順調に進むとは限りません。

が、「明けない夜はない」と言いますから、 私は基本的には、この後の展開には楽観的です。

というのは、ロシアに対する経済制裁で苦しんでいるのは、むしろEUの方だからです。

ロシアから天然ガスを送る海底パイプライン「ノルド・ストリーム1・2」が爆破されたので、 事態はますます深刻です。

 

1 2
寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ