書評:宮川路子『人生100年の健康づくりに医師がすすめる 最強の水素術』―究極の治療法・健康法としての「水素療法」(下) 島崎隆
映画・書籍の紹介・批評書評(上)からの続きになります。
さて水素療法の素晴らしい効果が本書で18項目にわたり述べられており、そこで改善を認めた病気などが列挙されている(第二章)。それらは、脳梗塞・心筋梗塞による心肺停止、関節リュウマチなどの自己免疫疾患、喘息・アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、肺炎、歯周病などの炎症性疾患、パーキンソン病などの神経障害、メタボリック症候群、糖尿病、動脈硬化、高血圧、肥満症などの生活習慣病などである。さて水素療法の第一の効果は活性酸素を除去することだ(74頁以下)。極小の水素は血液脳関門も通過でき、脳神経にも保護効果を期待できる。ところで、体全体のエネルギーの産生は細胞内のミトコンドリアという小器官が行うが、副産物として2%の活性酸素を発生させる。水素はこの活性酸素を除去するのだ。いうまでもなく、活性酸素は紫外線、排気ガス、食品添加物、放射線、喫煙、アルコール、過度な運動、ストレス、睡眠不足などによっても発生する。ガンも活性酸素によって遺伝子が傷つくことによって発生すると考えられる。
第二の効果は、抗炎症作用である。傷があったり、皮膚が腫れているとき、水素風呂で治り、この効果は炎症を抑えるステロイドの代わりになる。新型コロナによるウィルス性の肺炎においても、炎症を抑え、軽症にとどめる。なお中国では、水素・酸素混合療法を取り入れているという(88頁)。さらにワクチン後遺症にも効くのではとされるが、これは特筆されるべきことである*。ワクチン接種で生じるスパイクたんぱく質は全身の炎症を起こすが、とくに若い男性は心筋炎にかかりやすい。
第三の効果は、酸素を体の隅々にまで運び、血流を促進することだ。血管も拡張される。こうして栄養分を全身に届ける、そして老廃物を回収する。ところで、血管が血流で満たされない状態が「ゴースト血管」といわれるものであり、この状況だと、肩こり、腰痛、関節痛、手足・下半身の冷え、足のむくみ、目の下のクマ、目のかすみ、薄毛、吹き出物、顔のしみ・しわのような多様な症状が発生する。血流が活発に流れなければ、いくら栄養のあるものを食べても、体の全体へは行きわたらない。私はその点で、あるクリニックで、自分の手の爪の付け根あたりの血管の状態を顕微鏡で見たことがあった。水素吸入前と吸入後で血流の状況を比較すると、事後のほうがはっきりと血管が見えるが、これは血流が活発になったことを意味する。現在、鍼灸院、整体院、美容皮膚科などで、以上の症状を緩和するために、水素吸入が取り入れられ始めているという。
*拙論「コロナ禍からワクチン後遺症の時代へ」、『フラタニティ』第29号、2023年所収に、ワクチン後遺症の問題が述べられている。
第五は抗アレルギー効果である。水素吸入で花粉症の症状が軽くなったり、アトピー皮膚炎が解消されたり、喘息の薬が必要なくなったりした人が多く出ているのだ。
第六に、筋肉疲労の回復に役立つ。現在、スポーツ選手がひそかに水素吸入を愛用しているという。私の体験でも、卓球などを長時間やると、以前は終わるとくたくたになったりしたが、いまは疲れることがはるかに少ない。研究でも明らかになったように、疲労のさいに出る乳酸の生成を減少させ、持久力が回復するという。競馬用の馬にたいしても、水素水を点滴したり、水素風呂に入れたりと試みられているが、疲労回復が早くなり、馬の運動能力や心肺能力が高くなったという。
第七は、免疫力の強化である(106頁)。免疫細胞であるキラーT細胞を活性化させるという。ある研究によると、ステージⅣのガン患者群に水素吸入治療をおこなったところ、予後に大きく影響を与えるキラーT細胞が増加していたことが確認されたという。
第八は抗がん作用である。水素の抗がん効果は、これまでに紹介された効果(活性酸素の除去、抗炎症効果、免疫力増強)によってある程度説明されるが、さらに直接に抗がん効果を表すことも明らかになってきた。それは、水素ガスが抗がん剤の副作用を軽減させ、ガンの成長を抑制することによって、直接に抗がん作用を発揮するということだという。とくに肺がんに効果があるとされるのは、水素ガスがまず大量に肺に入るので、うなずけるところである。他方、効果が低かったのは、肝臓ガン、膵臓ガン、婦人科系のガンだったという。氏は、ガン治療を高めながら、その副作用を抑えることができる水素は、夢のようなガン治療のサポーターだと力説する(110頁)。
第九の効果は創傷治癒を促す効果である。水素ガスを傷口に吹きかけると治りが早く、また褥瘡にも有効である。中国では犬の創傷治癒の比較研究がおこなわれ、水素水を飲ませたグループの経過がよかったと報告されている。
第十はエネルギー代謝の促進作用であり、肥満、各種生活習慣病、動脈硬化が治ったという報告がたくさん来ているという。水素を摂取すると、脂肪燃焼をはじめとするエネルギー代謝を活発にするホルモンが放出されるのである。また血漿中アディポネクチンが増加し、Ⅱ型糖尿病の予防に有効だという。
第十一は神経障害の予防と回復(神経性毒性の抑制)の効果である(114頁)。水素水の摂取によって、活性酸素による神経損傷が大幅に軽減されることがマウスの実験などで明らかになっている。緑内障による視野欠損からの回復、聴力の回復、コロナによる嗅覚・味覚障害からの回復という効果から見て、水素には神経障害を抑える効果があることは間違いないとされる。宮川氏によれば、水素はきわめて小さな物質であるため、細胞膜を通過し、ミトコンドリアのなかにも簡単にはいること、血液脳関門を通過して脳にまで到達し、脳神経にも効果を及ぼすことができる。
第十二は抗ガン剤や放射線治療の副作用の軽減の効果である。その場合、抗ガン剤の副作用は活性酸素の大量発生に由来するが、これを軽減することはいままでの説明から明らかである。放射線への防護作用についてもさまざまな研究がある。だが氏は、それでもがんの治療には、いわゆる標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療など)を最優先すると繰り返し述べる。
第十三に、水素水を飲んで胃壁に働きかけること、第十四に、オートファジーによって老化を制御するシステムに水素は関わる。
第十五に、水素が細胞死(アポトーシス)の調節にも関わるといわれるが、その効果はまだよくはわかっていないようだ。
第十六に、発達障害、躁うつ病、統合性失調などの精神性疾患に対する効果が挙げられ、第十七に心を支える作用、第十八にアンチエイジングの作用である。
以上のように相互に関係しあいながらも、実に多くの効果を水素療法はもたらすのだ。以下本書は、さらに実際的な注意や使用法についてこと細かに述べられる。だが、その原理を説明するには、おおむね以上で十分だろう。興味深いことに、犬の皮膚炎など、ペットにも水素風呂が大いに効果的だという。第五章は、とくにビタミンⅭ療法と水素を併用して、ガンの治療法について述べている*。そして最終の第六章は、総合的に水素療法を中心に、健康法の全体ついて展開する。その点で氏によれば、単に水素水の吸入だけでなく、とくに「三種の神器」といわれるものが要請されている。それは簡単にいって、水素療法、高濃度ビタミンⅭ療法、FBRA(フブラ)である。フブラとは、発酵食品の玄米酵素のことで、これで食物繊維が大量に取れる。
*赤木純児『水素ガスでガンは消える⁉』辰巳出版、2020年(第四刷)では、免疫治療を専門とする赤木氏が、水素ガスのほかに、温熱療法、低用量抗ガン剤、オプジーボなどを使って治療している。
本書の最後で、水素療法について、「医師の先生方には、『得体のしれないものはだめ、エビデンスがない』と患者さんに禁止する前に、ぜひ論文検索をして、多くの研究に目を通していただきたいと心から願っております」(363頁)と述べられる。ソフトな言い方だが、医師たちにたいする厳しい批判と要請になっている。本書の最後に6頁にわたって細かな字で研究文献が列挙されているが、まさにこれらを勉強せよということなのだろう。「無知は無知にとどまらない。無知は攻撃する」といわれるように、真実を知ることには謙虚さと探求心が必要だということだろう。これは、まさに現在、コロナのワクチン後遺症に関して医師たち専門家に向けて問題提起されているのと同じ状況だと思った。
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一橋大学経済学部を卒業ののち、群馬県で高校教諭。現在、一橋大学社会学部名誉教授、社会学博士。ヘーゲル、マルクスらのドイツ哲学に関心をもってきたが、日本の学問研究には「哲学」が不足しているという立場から、多様な問題領域を考えてきた。著書として以下のものがある。『ヘーゲル弁証法と近代認識』『ヘーゲル用語事典』『対話の哲学ー議論・レトリック・弁証法』『ポスト・マルクス主義の思想と方法』『ウィーン発の哲学ー文化・教育・思想』『現代を読むための哲学ー宗教・文化・環境・生命・教育』『エコマルクス主義』『《オーストリア哲学》の独自性と哲学者群像』。