万博・カジノが〝共倒れ〞に 「地盤沈下」する維新
政治万博の工事遅れがカジノ計画にも波及
維新の目玉政策である大阪・関西万博とカジノ(IR)計画が揺らぎ始めている。
ともに予定地は“ごみの島”とも呼ばれる大阪市此花区の人工島「夢洲」。維新政治を追及し続ける大石晃子衆院議員(れいわ新選組)が国会で問い質しているとおり、軟弱地盤で地震によって液状化が発生、恒常的に地盤沈下もしており、高潮対策も必要だ。そもそも巨大構造物の建設にふさわしくない“ごみの島”を予定地にしたことが、万博関連施設の工事遅れを招き、カジノ(IR)計画にも悪影響を及ぼしているのだ。
「夢洲カジノを止める大阪府民の会」は8月10日、事業者や融資をするカジノ関連企業への一斉行動をした後、大阪市役所前で反対集会を開いた。ここに市民活動が原点の大石議員も参加。炎天下でビラ配りをしながら、マイクを握って次のように訴えた。
「私は大阪府庁の公務員を4年前に辞めまして、都構想とかカジノや万博、大阪を壊していく維新府政・市政の悪事を止めないと、子どもたちに顔向けができないということで今、国会議員をやっています。その原点となる市民運動です。今日、市役所前で市民の方が集まって『大阪のカジノはあかんで』とアピールができました」
集会後の囲み取材で大石氏に「国会で夢洲の危険性も質問されて、それがようやく広まりつつある」と聞くと、「国会質問で一番多かったのがカジノ関連でした。最近、メディアも万博問題を採り上げているので、夢洲について知ってもらうチャンスが来た。万博とカジノは予定地が夢洲で、セットの問題なのです」と強調した。「紙の爆弾」2022年4月号では、大石氏が維新創設者で元大阪市長の橋下徹氏に訴えられたことを紹介したが、そんな「スラップ訴訟」に屈することなく、市民団体との連携を続けながら維新批判を繰り返していたともいえる。
大石氏と連携する「大阪府民の会」は7月20日、吉村洋文・大阪府知事、横山英幸・大阪市長、坂本篤則・IR推進局長あてに要請書を提出した。カジノ計画認定の際に付された7つの付帯条件を実施しないまま、カジノ(IR)計画の実施協定締結を行なわないことを求めたのだ。
府民の会が要請書を市の担当者に手渡した後の質疑応答でも、万博とカジノの工事を同時並行で進めることは困難であり、計画変更は必至ということが浮き彫りになっていった。
府民の会の山川義保事務局長は、要請書の3番目の質問事項を次のように説明した。
「万博は全然進んでいない。工事費は1.5倍(1250億円から1850億円に)で、もっと増えるだろうといわれている。来年に労働法制が変わることもあって、万博とカジノの同時並行の工事などできなくなっていくと考えている」
「『(万博とカジノの工事は)同時にやれない』と言っているわけだから(計画は)どうなのか。万博の計画と合わせたカジノ用地の情勢および現実はどうなっているのか」
開催延期も囁かれる万博関連工事の遅れは、隣のカジノ(IR)計画にも玉突き状態で悪影響を及ぼし、開業遅れにつながる恐れが出てきたようなのだ。資材高騰などによる工事費増大と相まってカジノ事業者の採算性が悪化、確実に撤退リスクが高まっている。
逃げ場のない万博開催地
しかも、大阪湾の埋立地でもある夢洲は、沖縄・辺野古の米軍新基地建設予定地と同じ軟弱地盤という問題を抱えている。豪華ホテルなどが林立するIR予定地では、地盤が強固な支持層まで数十メートルの杭打ちをする必要があり、このことが工期遅れや工費増大を招くと指摘されていた。一方で隣の万博エリアでは、半年間の開催期間後にパビリオンを撤去するため、杭打ちの基礎工事は行なわれない。仮設プレハブ小屋のような位置づけとされており、万博開催中に南海トラフ地震が襲来したら、豆腐のような地盤に建てられたパビリオンが大揺れして倒壊、甚大な被害が出る恐れがあるのだ。
しかも市中心部からはトンネルと橋が1本ずつしかなく、夢洲が津波や高波で孤立すれば、数万人規模の来場者を避難施設に収容する必要もある。防災の専門家である河田恵昭・関西大学社会安全センター長は「大阪日日新聞」4月9日付のインタビュー記事で、「誘致場所(夢洲)が安全なのか。防災の専門家としてとても心配している」と懸念し、次のように述べていた。
「南海トラフ(地震)が起これば液状化するし、津波も来る。夢洲を外郭施設で守るのなら、耐震や液状化の対策が必要。地盤を高くして津波や高潮を防ぐのなら、地盤の液状化対策、夢洲が孤立した際の対策がいる。夢洲にいる人を動かさずに安全を確保しなければいけない。食糧や水の備蓄も必要」
こうした指摘があっても、吉村知事から危険除去対策を進めたといった発言は会見ではなかった。
そこで私は、8月2日の府知事会見で前出の記事内容と紹介しながら、「南海トラフ地震が万博開催時に襲ってきた場合に、来場者らに甚大な被害が出るおそれについては想定していないのか」と聞いた。吉村知事の答えは「夢洲が地震に弱いというものではない」。納得がいなかったので私は「豆腐のような軟弱地盤のうえにパビリオンを建てれば、地震が起きた際に液状化して倒壊するリスクも当然あるのではないか。甚大な被害が出るおそれを考えないのか」と再質問した。だが、吉村知事は安全性に問題はないと繰り返すだけだった。
「建設許可基準があって、これを大阪市で審査をすると。全く基準なく建物を建てるものではない。それぞれのパビリオンについては建設許可基準のなかで、きちっと審査をしてやることになる。当然、安全性を配慮した建物を造っていくということ」(吉村知事)
実質ゼロ回答に等しく、カジノ予定地では杭打ち基礎工事をするのに万博パビリオン用地ではしないのは、万博開催中に大地震が来るリスクを軽視しているためではないか、との疑問が膨らむばかりだった。
夢洲問題を追いかける在阪の記者からは驚くべき話を耳にした。「2005年の愛知万博の時も、パビリオンの耐震性が不十分で、万博協会関係者は『東海大地震が来ないことを祈っていた』という話を聞いた」というのだ。
当然、今回の大阪万博でも「開催中の半年間に大地震は来ない」という人命軽視の楽観論に基づいている可能性は十分にある。しかも南海トラフ地震が起きた際、数万人規模の来場者が夢洲から脱出できない事態も想定される。防災の専門家である河田センター長が指摘する通り、数日間過ごせる避難施設が整備され、水や食料の備蓄体制が整っているのかを徹底的に検証することが必要なのだ。
ちなみに大阪万博の前売り券は11月30日から販売開始される。そのため、こうした“夢洲リスク”を購入者らにきちんと告知することも不可欠だ。すでに「修学旅行は大阪万博へ」(3日015月大造・滋賀県知事)といった呼びかけが始まっているが、国策敢行のための“現代版学徒動員”と後ろ指を指されても仕方がない。
万博のキャッチフレーズは「いのち輝く未来社会」。しかし、人命軽視の不十分な防災対策で血まみれの地獄絵図が、夢洲に出現するかもしれないのだ。
〝第2自民党〞を公言しはじめた維新
時限爆弾を抱えたような大阪・関西万博とカジノは、維新が第2次安倍政権時代から続ける政権補完路線の産物といえる。維新創設者の橋下氏と顧問の松井一郎・前大阪市長は安倍晋三元首相や菅義偉官房長官(当時)と定期的に会食をするほどの蜜月関係にあり、そんな中で維新側から安倍政権に働きかけて大阪万博が具体化したからだ。
「野(や)党」を自称しながら「与(よ)党」寄りの言動をする維新は、「ゆ党」とも揶揄されてきたが、最近、馬場伸幸代表自身が「第2自民党」と公言。自他ともに維新が政権補完勢力であることを認めたのだ。
そのメリットについて橋下氏は、18年に発売した『政権奪取論 強い野党の作り方』(朝日新書)で、次のように書いていた。「大阪の政治行政は、安倍政権の協力で、これまで進めることができなかった政治課題をどんどん進めることができた。うめきた2期開発、阪神高速道路淀川左岸線の延伸、大阪万博への挑戦、カジノを含む統合型リゾート推進法(IR推進法)の制定、リニア中央新幹線の大阪開通の8年の前倒しーーその他、これまで法律や制度の壁にぶつかっていたことを安倍政権の協力で乗り越えたことは多数ある。ゆえに、日本維新の会が安倍政権に協力することは当然だ」
この成功体験、「時の政権に協力する見返りに大阪に利益誘導をする」という手法は維新のお家芸で、この“ゆ党路線”は吉村知事が維新共同代表として、橋下氏に代わる党の顔になった今も引き継がれている。
現在の最大の政治課題であるマイナカード問題でもそうだ。マイナ保険証一本化をゴリ押しする岸田文雄政権(首相)に対して、立憲民主党などの野党陣営は対決姿勢を強め、紙の保険証との併用を求めている。しかし維新はここに加わろうとせず、与党と足並みをそろえているのだ。
そんな第2自民党ぶりが可視化されたのは、7月26日の国会内集会。立民・共産・社民の幹部が参加したが、維新の議員の姿はなかった。3党の国会議員が並ぶ中、最初に挨拶したのは立民の長妻昭政調会長で、次のように訴えた。
「昨年の骨太の方針では『希望すれば保険証は交付しますよ』という主旨の記述が書いてあった。しかし昨年の秋に突然、(河野太郎)大臣が『保険証を廃止します』と。上から目線でやっていくことに疑問が大きく膨らんでいるのではないか」
続いて共産党の小池晃書記局長がこう呼びかけた。
「『保険証をなくしてほしい』という声は国民の方から上がったのか。誰もそんなことを求めていないと思う。これは『保険証を残そう』の一点で党派を超えて力を合わせて、『保険証存続を勝ち取ろう』と訴えたい」
この決意表明を受けて社民党の福島みずほ党首がこう締めくくった。
「G7の中で健康保険証と紐付けている国はない。なぜ“暴走(河野)大臣”の一言で廃止するのか。ここまで問題が噴出しているのに強行するのは愚の骨頂だ」
国民の半分以上が反対するマイナ保険証一本化に対して、なぜ維新は民意に寄り添おうとしないのか。7月26日の藤田文武幹事長会見で「マイナ保険証一本化見直し集会に維新の国会議員はいなかった。次期総選挙で勝利できるのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。
「マイナ保険証とかマイナカードのミスを糾弾し続けて、彼ら(立民・共産・社民)は何を目指しているのか。デジタル社会のインフラにしようということ自体まで反対しないと、論理的整合性がない。ちょっと延期しようとか、それで(内閣)支持率が下がっているのではないかという予測の中で騒いでいるだけの話だと思えてならない」
マイナ保険証一本化をめぐる対決の構図が浮き彫りになる。それは、「推進の自民・公明・維新vs見直しの野党(立民・共産・社民など)」というものだ。維新は岸田軍拡にも原発運転期間延長にも賛成し、マイナ問題でも第2自民党として振る舞っていたのだ。
維新政治を一刀両断する泉房穂・前明石市長
それでも維新は4月の統一地方選で勝利して以降、政党支持率で立民を上回り、次期総選挙で野党第一党を奪取する可能性が出てきた。しかし土俵際まで追い込まれた立民が反転攻勢の態勢を整えつつある。
子ども予算倍増以上で10年連続人口増を果たした泉房穂・前明石市長は6月14日、立民の「子ども・若者応援本部合同会議(有識者ヒアリング)」に招かれ、前日に発表された岸田政権の少子化対策をこう酷評した。「100点満点で10点」「牛丼屋に例えれば、うまくない、安いかどうかわからない、早くない」。
質疑応答でも泉氏の熱弁は続き、最初からずっと聞いていた泉健太代表は締めの挨拶で、このように“実質的出馬要請”を発した。
「おそらく今日ここにいる仲間たちの思いを私が代弁すると、『ぜひ、一緒にやっていただきたい』という思いをみんな持っていると思います。これはラブコールです」
1週間前の6月7日、長妻政調会長主催の時局講演会でも泉氏が講演。「自治体だけではない。国も変えないとアカン。ほんまにそう思っている」と切り出し、明石市長時代の12年間を振り返った。
公共事業の後倒しなどの歳出改革によって、市民負担を増やすことなく子ども予算が125億円から297億円の2.38倍に。医療費無料など5つの無料化を実現するとともに、子育て関連施設(遊び場や授乳室など)を駅前につくるなどの政策も進めた結果、子どもに優しい街として人気が上昇。10年連続で人口増が続くとともに、商店街も賑わいを取り戻し、税収アップで市の財政健全化も進んだというのだ。
そして「政治は変えることができる」「変えるのは市民・国民」と強調しながら泉前市長はこう訴えた。
「私としては、明石でやることは自分なりにやった。明石でできたことはほかの街でもできるのです。国でできないわけがない」
しかも泉氏は、見かけ倒しの維新政治を1刀両断にできる存在でもある。子育て政策で評価されることもある維新でも、その“結果”は雲泥の差があり、大阪府は人口減が止まらないのだ。小選挙区区割り変更「10増10減」で東京や愛知などは定数増なのに、大阪が増えないのはこのためだ。府知事と大阪市長がともに維新の“維新ツートップ行政”が10年以上も続いた結果、大阪の人口は減少し、魅力のない地域に成り下がっていたのだ。
全国平均以下の成長率なのに大阪都構想の住民投票で「大阪の成長を止めるな」というキャッチフレーズを使った維新は、誇大広告的な発信が得意技だ。同じように「身を切る改革」を実践した本拠地・大阪での人口減についても維新は説明しようとしない。
大阪ダブル選挙に突入しようとしていた3月3日の吉村知事の囲み取材で、私は人口減の理由を聞いたが、吉村知事は「大阪は魅力のある地域、維新の生まれる前からずいぶんと魅力のある地域になっています」と質問に答えようとしなかったのだ。この場には大手や在阪メディアの記者もいたが、「維新政治10年で大阪人口減(自民党府議が追及)」を報じた記事や番組は見たことがない。8月2日の知事会見でも同じ質問をしたが、吉村知事は延々とはぐらかす回答を続けた。
年内にも想定される次期総選挙で、泉前市長が立民か無所属で「明石方式の国政反映(国民負担増なき子ども予算倍増)」を旗印に出馬、野党統一候補になれば、維新の野党第一党奪取を阻止すると同時に、政権交代の実現可能性も高まる。自民党と第2自民党によって国会が大政翼賛会化しようとしている今、政権補完勢力にすぎない維新の化けの皮がはがれるのか否かが注目される。
(月刊「紙の爆弾」2023年10月号より)
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1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。