自民党議員の収賄疑惑 利権化する「洋上風力発電」

島村玄

8月4日、自民党の秋本真利外務政務官(5日に離党)の議員事務所や千葉市内の自宅マンションに東京地検特捜部の家宅捜索が入った。洋上風力発電事業の評価基準見直しをめぐって日本風力開発株式会社(略称JWD。本社・東京。塚脇正幸社長)に便宜を図った見返りに、約3千万円の資金提供を受けたとする収賄容疑だ。

秋本議員側は、資金提供は自分が管理する競馬組合の競走馬購入や種付け代に充当したとして賄賂を否定。日本風力開発側もガサ入れ前日の8月3日、「当社が、国会議員ほか公務員に対し贈賄をした事実は一切なく、この点を立証できる客観的な証拠が数点存在しています」とのコメントを発表するなど疑惑を否定していたものの、こちらは11日、一転して容疑を認めている。

2022年3月、国土交通省・経済産業省が、洋上風力発電事業等に関する事業者選定の評価基準を突如として変更。直後に秋本議員は自身の事務所で塚脇社長から現金1千万円を受け取っており、評価基準変更は、秋本議員の働きかけの結果だとみられている。

秋本氏は千葉県富里市議を経て2012年の衆院選で千葉9区から自民公認で初当選。2021年には選挙区で落選したものの比例復活。現在4期目の中堅議員だ。この間、2017年から1年間ほど国交政務官を務め、さらに内閣改造で外務政務官に就任していた。

秋本氏は選挙公約にも原発廃止や再生エネルギー推進を掲げ、超党派の脱原発議員連盟に加わり、さらに自民党議員で構成する「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の事務局長を務めるなど、再生エネルギー問題のエキスパートといわれてきた、いわば“再エネ族議員”といっていい。2018年11月、衆参両議院の本会議で可決成立し、翌2019年4月に施行された「再エネ海域利用法」の制定にも国交政務官として深く関与した。原発再稼働・増設推進の自民党の中では異質な存在ともいえる議員だった。

贈収賄の背景
 議員会館の事務所などで秋本議員と頻繁に面会し、多額の現金を手渡していた日本風力開発・塚脇社長の意図とは、はたして何だったのか。

結論を先に述べればこのようになる。同社は秋田県由利本荘市沖や同能代市・三種町沖などにおける洋上風力発電事業参入に関する国交省の公募入札に応札するも、連敗続きだった。さらに、同社が2026年をめどに商用運転を目指して開発中の青森県の陸奥湾が、国交省洋上風力発電事業の「促進区域」に指定される見込みで、またも他社にうま味を奪われたとなれば、まさに踏んだり蹴ったり。これらに対する同社の焦り、いら立ちがあって、塚脇社長は秋本議員を懐柔し、巻き返しを企図したと思われる。

政府が再エネ海域利用法を成立させた背景には、2020年に菅義偉首相(当時)が掲げた「2050年カーボンニュートラル宣言」がある。脱炭素社会の実現を目指し、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするとして、化石燃料に由来するエネルギーの使用を抑制するというものだ。そのため化石燃料にとって代わる新たなエネルギー源開発が求められ、陸・洋上風力・地熱・太陽・バイオマス・水力など、自然由来の再生エネルギー導入の促進が国を挙げて図られている。

再エネ海域利用法の施行に基づき政府は2019年12月に長崎県五島市沖、続いて2020年7月に秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の4海域を、洋上風力発電事業導入の「促進区域」に指定した。この指定は今後も各地で続く見込みだ。

促進区域へと格上げする前段として、「有望区域」「今後有望区域」などがある。前者には山形県遊佐町沖、千葉県いすみ市沖、秋田県秋田市沖などが挙がっている。後者は北海道石狩市沖、松前沖、佐賀県唐津市沖、そして前述の青森県陸奥湾などだ。

なにしろ政府は2040年までに洋上風力発電設置規模を原発40基分まで拡大するとの目標を掲げている。結果として、原発再稼働に反対する人々の間からも、日本の海が白色鉄塔の風車だらけになりかねないと、危惧する声が挙がっている。

また、今後ますます各地の自治体が洋上風力発電誘致の候補地に名乗りを上げることが予想される。そうなれば、受発注をめぐって企業間の争奪戦もいっそう熾烈となるに違いない。

実際、それはすでに始まっている。経産省は再エネ海域利用法の成立に基づいて、2020年11月から翌年5月までの6カ月間にわたり、洋上風力発電事業の促進区域に指定された銚子市沖、由利本荘市沖、能代市・三種町・男鹿市沖など3海域において、商用運転を行なう事業者を選定するための入札公募を開始した。業界ではこのコンペを“第1弾”と称している。

そこで、どのメーカーが、どのような理由で受注したのか。それを述べる前に、まずは促進区域指定を受けるための手順や方法を確認しておきたい。

促進区域の指定には以下の条件を満たすことが求められる。洋上の風の強さや風向き、水深、動植物の生態系、水質、電波障害、周辺の船舶の航行頻度、地域住民の理解などだ。

促進区域の指定を受けてから、実際に洋上で風車が回転し、商用運転が開始するまでのプロセスについても述べると、おおむね次のようになる。地元自治体の促進区域指定のための文書提出などによるプレゼン→経産・国交両大臣による促進区域指定認可→両大臣による事業公募のための指針作成→応札に必要な事業者の促進区域での占用にともなう計画書提出→経産省大臣により認定された計画に基づく事業者の選定および認定……。

洋上風力発電事業の促進区域に指定されたことで、千葉県は有識者や関係者などでつくるワーキンググループを編制し、同事業によってもたらされる産業・経済・雇用および地域振興などに関する討議を重ね、将来の展望を指し示した。つまり、銚子市沖は洋上風力・波力ともにきわめて良好であり、洋上風力発電事業の条件にかなった好適地であるとの答申案をまとめた。県はこの答申案を受け、洋上風力発電事業の導入促進に取組むことを表明する。そして、経産省に対し事業者選定を要望した。

由利本荘市沖などが促進区域に指定された秋田県も同様だった。同県ではすでに2015年ごろより陸上での風力発電を中心に再エネ産業に着手している。したがって洋上風力発電事業においても気象条件や蓄積されたノウハウをもとに促進区域指定を獲得し、あとは経産省の事業者選定を待つほどに、受入態勢は整っていた。

2021年12月、経産省は促進区域に指定した秋田・千葉の3区域に対し、2020年11月よりスタートした事業者選定のための入札結果を発表し、3区域での洋上風力発電事業を受注するメーカーを決定した。

 

大手1社独占の洋上風力発電
 話を戻そう。つまり、どこのメーカーがどのような理由で受注したのかということだ。

まず3区域とも、受注したのは三菱商事エナジーソリューションズ株式会社であった。受注の理由は、ひとえに落札価格の低さだった。

経産省の洋上風力発電事業者選定の公募開始とともに、各メーカーは公募占用計画書を提出し、応札に名乗りを上げた。秋田県能代市沖等には三菱商事グループ、日本風力開発グループ、東北電力グループ。由利本荘市沖には三菱商事グループ、日本風力開発グループ、JERA(ジェラ)・Jパワー・エクイノール(ノルウェー)共同事業体など、それぞれ5社。銚子市沖は三菱商事グループ、東京電力グループの2社が応札した。

経産省は、区域ごとに学識経験者や専門家等による第三者委員会を設置し、秋田・千葉両県知事の意見も参考にしつつ計画書の審査を行なった。そして落札条件は1キロワット時あたりの売電価格で29円を上限とし、この「価格点」と「事業実現性に関する得点」をそれぞれ120点満点、計240点満点で審査することが示された。この入札の結果、3区域とも三菱商事グループが最低価格で落札し、独占受注をモノにしたわけだ。

能代市・三種町・男鹿市沖において提示された1キロワット時あたりの価格は、三菱商事グループが13.26円、日本風力開発が22.3円、東北電力は26.95円。由利本荘市沖は三菱商事グループ11.99円、JERA等は17.2円、日本風力開発は22.99円。銚子市沖は三菱商事グループ16.49円、東京電力22.59円だった。

各社とも経産省設定の上限価格を上回ることはなかった。だが能代市・三種町・男鹿市沖を見れば、落札した三菱と最高値の東北電力とでは半値以上もの価格差があり、由利本荘市沖でも三菱と日本風力開発とでは11円の開きがある。

この状況に端を発して、経産省に対するメーカーの不満が噴出する。つまり、事業の安定性・継続性・信頼性を考慮すれば、価格だけでの判断がはたして妥当かどうかという疑問だ。

事実、独占受注した三菱商事グループの事業実現性の評価は120点満点に対して98点だった。一方、もっとも高い入札価格を示したメーカーが、事業実現性では満点の評価を得ている。このような矛盾が、評価のあり方や入札制度に疑問を抱かせ、公平性に問題があるとして、事業者の間から「入札価格の上限下限をきっちりと設定し、入札区域も1社1区域にあらためるべきだ」などの声があがったのである。

だが経産省は、「価格の低いことは消費者の負担軽減にプラス」として事業者の見直し要求に応じなかった。たしかに現在、電気料金の値上がりが家計を圧迫し、消費者は悲鳴を上げ1円でも安くなることを願っている。それでも、三菱商事グループの総獲りは他社の資本力・体力負けをまざまざと見せつけるものだったのだ。

経産省の突如の〝見直し〞
 ところが、である。入札制度や価格設定見直しを否定していた経産省が、昨年の3月18日、突如、それらを見直すと発表したのだ。 同日に経産・国交両省がリリースした「秋田八峰町及び能代市沖における洋上風力発電事業者の公募見直し」がそれである。そして、秋本議員が塚脇社長から現金1千万円を受け取ったのが、まさにこの見直し発表直後といわれている。

では、何がどう変更されたのか。八峰町・能代市沖は2021年9月に促進区域に指定され、同年11月より事業者選定の公募を開始。2022年5月を受付の締切とした。ここを含む4区域がいわゆる“第2弾”コンペである。経産省は、公募途中でありながら唐突に見直しを発表したことになる。事業者が困惑するのは当然であろう。

見直しの理由について経産省は、ウクライナ情勢の影響等によるエネルギー安全保障の観点から、公募実施スケジュールの変更による早期稼働促進、ならびに新たな促進指定区域の公募実施、等を挙げている。

見直しとなった点は2つ。1つは、洋上風力発電所の早期稼働を促進するため計画書に過去の実績や施行計画を示した事業者には計240点中80点を与えるというもの。2つめは、同一企業による複数区域での公募参加および複数区域の落札制限というものだ。

とりわけ2つめの見直しは、第1弾の入札に対する批判を受けてのものだ。たとえば、複数区域の落札に成功した企業が、そこで得た情報をもとに新たな区域の落札に臨めば有利となる。三菱商事グループは、事実そのようにして3区域を独占した。

この評価基準変更と、秋本議員の収賄経過を合わせれば、三菱1社独占に対する日本風力開発の焦り、いら立ち、巻き返しという経緯が見えてくる。本誌(「紙の爆弾」)発売時には東京地検特捜部の捜査は秋本議員の逮捕に続き、経産・国交両省へと向かっているだろう。政官業の癒着の解明を期待すると同時に、大手による1社独占ののちに、所管省庁によるルール変更という歪な展開を見せた洋上風力発電事業のあり方そのものにも、目を向けるべきだ。

さらにいえば、利点ばかりが伝えられる洋上風力でも、漁業への悪影響や、周辺住民への健康影響をはじめ、専門家からさまざまな懸念が聞こえている。利権化する「カーボンニュートラル」にもメスを入れる必要があるだろう。

(月刊「紙の爆弾」2023年10月号より)

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島村玄 島村玄

1949年茨城県生まれ。フリージャーナリストとして近現代史や農政問題などをライフワークに執筆。政治スタンスは是々非々で臨む。

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