【連載】週刊 鳥越俊太郎のイチオシ速報!!

ノーベル生理学・医学賞の長い長いストーリー。実に面白いよ!

鳥越俊太郎

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 今週もノーベル医学賞の話を続けたい。と、いうか私が思い込んでいた話は結局私の長い時間をかけた思い違いでした。
これは読者の皆さんに正直にお話をして謝らなければならない。でも単なるミスではないんですね。この話をしていくと結構深い話なんですね。
では始めますね。

私は2年前のことですが、2021年の初めの頃世界中が新型コロナの感染力に恐怖し、慄いていた頃、ドイツのベンチャー企業「ビオンテック」が遺伝子の一部「m(メッセンジャー)RNA」を使ったワクチンを開発し、アメリカの製薬会社と手を結んで世界中に新型コロナのワクチンを供給し始めたという話を、この欄「フーミー鷲の目」で書きました。
日本でもまだ新型コロナのワクチンは使われていなく、国会での承認に手間取っていました。
私にこの記事を書くきっかけを与えてくれたのが、元さいたま記念病院長、永井秀雄先生のブログでした。

永井先生とは何年か前の講演会で出会っていたことはのちに先生から知らされました。
何かの縁てあるんですね。
先生はブログの中で「mRNA」のことをドイツの硬派の週刊誌「Der SPIGEL」(デア シュピーゲル)で見つけられて書いておられました。
日本のメディアはまだどこも気づいていない頃ですから、というかその後もドイツの「ビオンテック」社のことに気づいたメディアはいなかったので大スクープでした。

私がこの話に「縁」を感じたのは1985年、イランの特派員時代だった頃です。
イラン・イラク戦争真っ只中にイランがイラクからむしり取った占領地、マジヌーン島に取材に行った時SPIGEL誌の記者と一緒だったのです。
非常に危険な戦地の前線取材で、日本の新聞・テレビ記者の中でその取材に手を挙げたのは私だけでした。
私にとってこの取材は人生で最も危険な取材。いや命を取られるかもしれないな?と相当に覚悟して出かけました。
世界のメディアではアメリカのAP通信社、イギリスのロイター、フランスはAFP、と有名なというかその国を代表する通信社でドイツはSPIGEL誌、日本では私、毎日新聞社。
この世界の5人が選ばれた5人なのだ!私はそういう気負いを持って戦場に赴いたが、実際には日本の記者たちは殆どが東京の指示で「危険だから行くな」と言われていたらしいのです。

ここで強調したかったのは「日本では一人」ではなく、ドイツからはなんと硬派の週刊誌「SPIGEL」でした。
そのドイツでは信頼度も高い週刊誌が表紙にビオンテック社の社長夫妻の写真を飾り、「mRNA」を使って新型コロナのワクチンを開発したというストーリーが丹念に書き込まれていました。と、書きましたが、私はこの記事を見てはいません。
ドイツに留学の経験のある永井先生が入手されたものです。その時の写真がこれです。

ビオンテック社のシャヒン社長夫妻の写真が表紙いっぱいに飾られ、その下には「Deutschland wird ausreichend Impfstoff bekommen」、その意味は「ドイツではワクチンは十分に受け取ることになるだろう」。
まあ、意訳すれば「ドイツはワクチンは十分で心配ない」という感じかな。
中の記事は永井先生の記事に依るんですが、ここはもう一度当時の先生の記事の一部を見てみたいと思います。

『新型コロナワクチン開発〜トルコ系ドイツ人夫婦の軌跡』

「まもなく日本でも新型コロナのワクチンの接種が始まります。世界で最初に開発され実用に供されたのがファイザー社のワクチンです。
このワクチンは従来の生ワクチンや不活化ワクチンと異なり、ごく一部のタンパク情報を担うmRNAを使用しているのが特徴です。
mRNAが投与されると人間の細胞はmRNAの情報に基づくタンパクを作成するようになります。
こうした免疫反応によって新型コロナウイルスの感染能力を低下させるという仕組みです。
ファイザー社の新型コロナワクチンの効果は臨床試験では94%の有効率を示しました。
ファイザー社の次に開発されたモデルナ社のワクチンもmRNAです。mRNAは壊れやすいため体に取り込ませるにあたって多くのノウハウが必要となります。

当院でも新型コロナワクチンの接種が始まるはずです。
このワクチンの仕組みを医師として知っておく必要があります。
年末年始はmRNAの勉強に当てました。
にわか勉強ではありますが、上記のようにまとめて見ました。
勉強の過程でファイザー社のワクチンを最初に作ったのがビオンテック(バイオテック)というドイツのベンチャー企業だと知りました。
その創始者研究者であり、医師でもあるウール・シャヒン氏とエズレム・チュレジ氏の夫妻。
二人ともトルコ系ということに興味を覚えました。
内外の情報を集めてみました。
経歴など細かな情報は主にドイツのSpigel誌2021/1/2号から得ました。(図はその表紙。タイトル:ビオンテックの救世主「ドイツはワクチンを十分に入手できるだろう)。

以下にはシャヒン夫妻の経歴などが詳しく紹介され、夫妻はこれまでmRNAによるがんの免疫療法を追究してきたこと、しかしそれはなかなか成功しなかった。しかし、夫のシャヒン氏は2020年1月中旬、新型コロナのニュースを聞き、世界的流行を予想したそうです。新型コロナの遺伝子情報が中国から発表されると直ちにmRNAワクチンのアイデアが浮かび、2週間後には20種類(一部情報では10種類)のワクチン候補をコンピューター上で設計したとのことです。以後ビオンテック社の研究者を総動員して実用化を目指しました。以下略。(2022/5/22日記)

1年前に永井秀雄先生に電話で許可を頂き転載させてもらったものです。
私はこの記事により新型コロナワクチンノーベル賞なら間違いなくシャヒン氏だと思っていました。当時私はドイツの首都ボンの近くの都市、マインツ市にあるビオンテック社に取材に行くつもりでした。
が、コロナのためにその意図も叶わずシャヒン氏には会えませんでした。残念無念也。

しかし、驚くことに今年のノーベル生理学・医学賞はペンシルバニア大学のカタリン・カリコ氏と同じくペンシルバニア大学のドリュ・ワイスマンの両氏が選ばれました。
発表記事によれば両氏は「人工的に合成した遺伝物質のメッセンジャー RNA=mRNAをワクチンとして使うための基礎となる方法を開発しました。
mRNAにはタンパク質を作るための設計図にあたる情報が含まれています。以下略」

ノーベル生理学・医学賞にビオンテックのシャヒン氏は届きませんでした。しかし、無関係だったかというとそうでもないようです。
同賞のことを報じる10月3日の毎日新聞によれば次のようになります。

「カリコさんが『早すぎた』と言って笑うように、発表当時はほとんど注目されることはなかった。
ところが、その成果はバイオベンチャーが主導するmRNA医薬の開発競争の号砲を鳴らす。
13年にカリコさんを迎え入れたドイツのバイオ企業「ビオンテック」は、その先頭に立つ。
同社が米製薬大手『ファイザー』と共同開発した新型コロナウイルスワクチンの治験で高い有効性が確認されると、カリコさんは米国の自宅で、好物のピーナッツチョコを箱ごと抱えて一人でひそかにお祝いした」

永井先生はこのノーベル賞劇を通じて「やはりこのmRNAの仕組みはカリコさんが見つけ、ビオンテックは大量生産に漕ぎ着けたのでしょう」というような意味の言葉を伝えてこられた。
ノーベル賞がビオンテックではなくカリコだったのはそういうことか!!ではSPIGEL誌は2年前何をどう伝えていたのか?コロナがなければ私は間違いなくドイツに行っていた。
そのための日本人のドイツ語通訳もある人にきちんとお願いしていたのだ。

ノーベル賞ではなくても、ビオンテックのウール・シャヒン社長のインタビューはやっておきたかったなあ。

ところで話はガラリと変わる。今日10月15日に明らかになった岸田内閣の支持率がな、なんと25%、不支持率は68%だった。
25%はあまりにも低い。国民4人に一人しか支持していない内閣なんて、そんなもの早くぶっつぶれろよ。
25%!!

なんだこりゃあ!!!

(2023/10/16)
鳥越 俊太郎 記

 

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鳥越俊太郎 鳥越俊太郎

1940年3月13日生まれ。福岡県出身。京都大学卒業後、毎日新聞社に入社。大阪本社社会部、東京本社社会部、テヘラン特派員、『サンデー毎日』編集長を経て、同社を退職。1989年より活動の場をテレビに移し、「ザ・スクープ」キャスターやコメンテーターとして活躍。山あり谷ありの取材生活を経て辿りついた肩書は“ニュースの職人”。2005年、大腸がん4期発覚。その後も肺や肝臓への転移が見つかり、4度の手術を受ける。以来、がん患者やその家族を対象とした講演活動を積極的に行っている。2010年よりスポーツジムにも通うなど、新境地を開拓中。

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