【特集】イスラエル・パレスチナ問題の背景と本質

イスラエルと米国はガザでのジェノサイドをやめろ

乗松聡子

写真:10月21日、バンクーバー美術館前を埋め尽くしたパレスチナ連帯デモ(撮影 乗松聡子)

 

10月16日、米国のネットニュース「ブレイクスルー・ニュース」でパレスチナ系米国人ジャーナリストのアリ・アブニマ氏は、イスラエルがガザで「ジェノサイド」を行なっていると怒りを露にした。ハマス武装組織が10月7日イスラエルに突入、軍民1300人を殺害、約150人を人質に取ったことに対するイスラエルの報復攻撃で、現時点で約4千人のパレスチナ民間人を殺した。うち千人は子どもである。ウクライナ戦争における昨年2月以来20ヶ月間の子どもの死者数の2倍の子どもたちが10日足らずで殺された。

イスラエルは報復攻撃でガザの民間人を標的に病院や学校、教会まで爆撃、水や食糧や電気を遮断した。10月9日イスラエルの防衛相が「完全な封鎖」を命じた。ガザへの武力攻撃と物資の制限は2007年の封鎖開始以来ずっとやってきたことであり、新しい展開とは言えない。「完全な」という言葉は、私には「とどめを刺す」と聞こえた。現在エジプト側との国境ラファから人道物資が入り始めているがとても足りず、イスラエルが市民に避難を命じた南部にも爆撃が続いている。人道危機回避のための戦闘中断を求めた国連安全保障理事会の決議案(10月18日)は案の定米国が拒否権を発動して阻止した。

17日のアル・アハリ病院の爆撃についてイスラエルは関与を否定し、パレスチナのイスラム過激派組織がロケットを誤射したと主張している。「ハマスが誤射を認める電話の会話を傍受した」という「証拠」を出してきているが、ハマスの急襲を予測もできなかったイスラエルが、傍受を常に警戒しているハマス同士がたまたまイスラエルが欲する話題を電話で提供したなどと、あまりに出来過ぎだ。「アルジャジーラ」は、音声は2つの別のチャネルで録音され編集されたもので信ぴょう性が低いという専門家の分析を報じている。アラビア語を知っている人が聞けば話し方やアクセントがおかしいのも明白だという声も出ている。

世界保健機関(WHO)によると、10月7日以降すでにパレスチナの医療施設には115もの攻撃があり(うちガザは51件)15人の医療従事者が殺され、27人が負傷している。爆撃で破壊されていない病院でも、イスラエルの兵糧攻めによる物資不足や水不足、停電によってすでに正常に機能できていないのである。17日の事件にばかり注目することは、木を見て森を見ていないとは言えないか。

今、ガザの人々は爆撃で死ななければ脱水で死ぬかもしれない状況だ。すでに人々は汚染された水を飲まざるを得なくなり、衛生状況は深刻だ。いまガザに逃げ場はない。親のない子どもが病院に現れる一家全滅の知らせも入ってくる。このような大虐殺が白昼堂々と行われ、刻一刻とネットで全世界に配信される。これに今でも米国やカナダ、英国、フランス、ドイツ等がお墨付きを与えていることが信じられない。

イスラエルは、かつて西洋諸国がアフリカや南北アメリカ大陸で、また日本が北海道(アイヌの土地)や満州で行なったような、先住民族から土地を奪い入植者を入れるセトラー・コロニアリズム(殖民植民地主義)の国だ。沖縄島の3分の1の面積のガザに220万人が閉じ込められ、西岸地区と東エルサレムでも違法な入植が行われてきた。

今回の出来事は、アムネスティ・インターナショナルが「組織的な人権侵害」だと、50年以上にわたるイスラエルの「土地の没収、不法入植、土地収奪という冷酷な政策と、横行する差別」や、平和的な抵抗運動を行う人をスナイパーで射撃するような武力弾圧が続いてきた末のことであった。国際的批判の中でこのようなことがまかり通ってきたのは米国と欧州諸国がそれを可能にしたからだ。これらの国々はいったい「ホロコースト」と「アパルトヘイト」から何を学んだのか。

国連人道問題調整事務所によると、2008年から2023年9月までにこの紛争の中で15万8967人のパレスチナ人が死傷させられている。イスラエル側の6615人の20倍以上だ。今年7月の時点で、イスラエルの刑務所には160人の子どもを含む5000人のパレスチナ人がおり、そのうち約1100人は起訴も裁判もされずに拘留されていた(国連人権高等弁務官事務所)。10月7日以降はイスラエルによる逮捕が加速し、収監数は1万人を越しているという。

米国や欧州が「テロリスト」と呼ぶハマスは、1980年代にイスラエルがパレスチナを分断統治するために創立に協力した「イスラム抵抗運動」であり、2006年の選挙で勝利した政党でもある。今年3月の「パレスチナ政策調査センター」による世論調査でも、いま選挙が行われれば45%がハマスを支持する(対抗勢力ファタハの支持32%に比べ)と答えている。西側で流布されている、「ハマスがパレスチナ人を苦しめている」「この戦争の被害者は全員がハマスの被害者だ」といった言説は、イスラエルによるパレスチナ破壊の正当化のための口実に過ぎない。

上述の「ブレイクスルー・ニュース」のホストでもある米国の黒人ジャーナリスト、ユージン・ピュライヤー氏13日の放送で、ヤマシー戦争(1715年から17年にかけての北米先住民族のイギリス植民者に対する蜂起)、ナット・ターナーの反乱(1831年の黒人奴隷による蜂起)、ハイチ革命(1791年から1804年のアフリカ人奴隷の革命)などの例を挙げながら主張した。「圧倒的に非対称な力関係の中であらゆる法律も条約も踏みにじられ、世界中誰一人何もしてくれず、自分たちで自分たちの権利を取り戻すために武装蜂起したからこそ、解放につながった例が多くある。今パレスチナで起こっていることもそのような歴史の中で理解するべきだ」と。

このようなとき支配者側は必ず抵抗する者たちを「血も涙もない」「野蛮な」テロリストと呼ぶのだ。日本の植民地支配下の朝鮮でも独立を求めて立ち上がる者たちを「不逞鮮人」と呼び徹底弾圧し、虐殺した。1923年の関東大震災後には当局主導のデマを流し、軍、警察、自警団が大規模な朝鮮人大虐殺を行なった。伊藤博文を暗殺した安重根は日本ではテロリストと呼ばれるが韓国・朝鮮では独立の英雄である。

虐げられた集団が、全ての手段を奪われ、殺され続けた挙げ句に武装蜂起することを「暴力はよくない」と否定するのは簡単だ。しかし、侵略側による比較にならない規模の暴力を長年放置してきた者たちが、弱者の決死の抵抗があったときだけ突然に注目して「テロリスト」と呼び、抑圧側を被害者のように仕立て、何倍もの力で報復することを容認するのは、巨悪に加担するダブルスタンダードではないか。これこそ「帝国主義的平和主義」という偽善である。私もその偽善者の一人であったと思う。

見て見ぬふりはもう許されない。欧米をバックとしたイスラエルの暴挙をやめさせなければいけない。いま世界中で大規模デモが起こっている。デモの中にはユダヤ人が主導しているものも少なくない。私の住むバンクーバーでも繰り返しパレスチナ連帯デモが起こっている。パレスチナの解放につながるように願いながら、私も参加している。

「世界はパレスチナ抑圧に気づくのに75年もかかった」などさまざまなプラカードを掲げる参加者たち。
(10月21日 カナダ・バンクーバー美術館前で 撮影:乗松聡子)

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乗松聡子 乗松聡子

東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない  世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。

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