中国の一帯一路創設10周年と日本の平和

羽場久美子

今、中国に来ています。中国・北京では、10月17.18日に、一帯一路の大会が開かれました。世界150カ国が署名し、グローバルサウスを中心とした140カ国と30関連団体が参加して討論を行いました。
中国の一帯一路政策を2013年当時から10年間、観察・研究してきたものとして、包括的な10年の成果分析を踏まえ、5つの重要点についてコメントしたいとおもいます。

第1は、一帯一路が、世界を覆うインフラと投資の大計画であり、今や地球の半分以上、150カ国加盟、140カ国+30関係団体参加、国連加盟国のほぼ8割、世界人口8割の参加により、巨大な発展を遂げているということ。

加えて、一帯一路政策は、「中国の哲学」とも言える、2つのI(ai)、InfrastructureインフラとInvestment投資により、世界経済を、格差の拡大ではなく、貧困を豊かさへと発展させる計画であるということ。

シルクロードの道とは、中世・近世の三蔵法師の経典をめぐる旅の工程であり、また、欧州が、中国の宝や富である、美しいシルクや高い文明を輸入するときにつくられたキャラバンの道である。

それを、21世紀に再生するということは、「道なき道に、近代的道路や鉄道、河海や崖に橋や港を作り、人々の生活に欠かせないインフラ整備に、それも自国の資金で他国のインフラを整備し発展に力を尽くしてきた」ことを意味する。

中国の「万里の長城」の世界的な展開、たとえ中国が後世に滅んでも中国が作った欧州にまで及ぶ広大なインフラ、道路、鉄道、橋が、将来の世界遺産となって、世界を豊かにしていく、という東洋的な哲学の下に作られたと言える。

2つ目は、もうひとつの(アイ)、Investment、投資による、東南アジア、南アジア、中央アジア、西アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカの「貧しかった」地域を活性化させ、豊かに発展させるために役立った。
中国は、2010年に日本のGDPを追い越し、2014年にアメリカのPPPベースのGDPを追い越し、今やアメリカをあと10年で追い越すまでに成長した。だからこそ政治的には東アジアで、また米中で緊張が高まっている。

これに対し、アメリカはQUAD, QUAD+、AUKUS, FiveEyesなど軍事力と情報の力で中国を封じこめ、孤立させようとしている。
しかし一帯一路の成長は、その間にも、アメリカの圧力を押しのけ、アジアの各地域、アフリカの各地域そして欧州の各地域を貫いて発展、拡大した。

それは中国が自国の急速な経済発展で得た富を独占するのではなく、それを近隣国・貧しい国々に、投資とインフラを配分していったからでもある。
各国はアメリカや欧州の反中国のプロパガンダにも負けず、万里の長城を超える、地球的規模の一帯一路の道路建設と地域の発展に、豊かさを配分していった。それがアメリカの自国中心的な覇権と富の独占と好対照をなして、今日の一帯一路の成功をもたらした。
一帯一路150カ国の加盟は、中国の為だけではなく、世界の豊かさと発展のために中国が身を切って改革をしていった成果ということができよう。

3つ目は、コロナの中での医療、マスク、ワクチンの支援だ。中国は当時欧州やアメリカ、またアジアやアフリカの国々で足りなかったマスクを、世界中に配布し医療機器や医師を派遣し、また中国のワクチを世界の人々に供給した。
アメリカや欧州が、当初マスクや医療機器を高度な医療を持った国々が独占したのとは反対の行動をとったことにより、アジア・アフリカのみならずアメリカや欧州でも、中国の医療支援に助けられた国々は多かったと言える。

4つめは、エネルギー、IT, 知識人、シンクタンク、市民の高度で広範な交流。
中国は、一帯一路のシルクロードに、太陽光、風力、水力などの再生エネルギーを使い、安い石油や天然ガス、穀物。食糧を供給することで、貧困国の飢餓を助け、砂漠にエネルギーや水を供給し、格差の是正に力を入れている。

またIT, AIを生かし、知識人、シンクタンク、地域や市民との交流を活発化することで、米欧のエネルギー独占、覇権の拡大、軍事や武器の輸出、諜報網によって世界で紛争を拡大するのと好対照な、世界の地域の協力と共同発展によって豊かな世界を生み出す、という方向性を目指している。それだけでなく、それを実行していく底力を見せた。それらが、グローバルサウスと呼ばれる多くの国々が、ASEANを含めて、アメリカか、中国・ロシアか、どちらかを選ばせるな!と声を上げ、飢餓と格差と貧しさからの脱却のために、中国との連携を選ぶ方向を目指しつつある。

以上4点はすべてプラスの未来100年に向けての成功の最も重要な点である。

最後の5点目は、日中関係の中で、日本と中国の市民双方への要望、将来に対する方向性を、考えてみたい。
5点目は、現実の危険な動向である。米中、日中摩擦が拡大しており、緊張と紛争の危険性が高まっている。どうしたらいいのか。

1) 一つは、東アジアで絶対に戦争を起こしてはならないということ
2) 二つ目は近隣国との連携、
3) 3つ目は、メディア・マスコミが、政府や国民の否定的な考えを忖度して、メディア自体が緊張や対立を高めている傾向をやめ、東アジアの市民と連携して、いかに平和と発展を図るかを、メディア、知識人、市民がともにかんがえていくことである。
そうした中でこそ、知識人の役割、若者の育成と、自由なシンクタンク交流が重要であるということ。とりわけ「民間ホットライン」の形成が不可欠であるということを言いたい。

以上の3点は、否定的な現状を認識し、どう解決していくか、を考えるとき、また一帯一路がさらに次の20年目に向けて未来に発展していくためにどうしたらいいか、を考えるとき、避けて通れないものなのだ。

1) 現状認識として、米中・日中摩擦と緊張と紛争の拡大、特に東アジアでの緊張の拡大がある。私たちが言うべきは、中国のさらなる20年、50年、100年の発展を保証するためには、アメリカも日本も中国も、決して戦争を起こしてはならない、ということである。
私はロシア・ウクライナ戦争と、中国・台湾あるいは中国・日本の紛争の比較研究をしている。中国はこの二つは違うと言われるが、アメリカや日本から見るとこれらは非常に似通っている。いやあるいは一緒にしようとしている。

アメリカは、ロシア・ウクライナ紛争と同じような形で、中国と台湾、また、中国と、尖閣・沖縄などの対立を利用して、中国の孤立化や中国平和外交の失敗を実現し、それを世界に伝えていって中国への信頼を失墜させようとしている。
しかし中国が賢かったのは、香港が独立の旗を振った時に、中国が人民軍を派遣するのではなく、国家転覆禁止法という形で、国家転覆をはかろうとした勢力を摘発する方向に踏み切ったことだ。

「法治国家」であるアメリカとイギリスは、中国の法制定に対して全く歯が立たず、ロシアのようなキャンペーンを張ることができなかった。口頭で、反対するしかなかったのである。
たしかに、台湾は地続きでなく、文字通り両岸にあり、香港の時のような対応は難しいかもしれない。しかし軍事力でなく、対話と外交によって問題を解決しようとする姿勢を貫くならば、米英は何も対応できないことにも注意を振り向けるべきと思う。 台湾や沖縄にも、中国経済の支援がなければ発展しないだろうと思う企業はたくさんいる。中国はぜひ大(タイジン)人になり、挑発されても、経済的友好や、「法や、外交的努力」で台湾との関係を継続していってほしい。

なぜなら台湾の国民の8割近くが現状維持を望み、大きな変化を望んでないからであり、また台湾のウクライナ化(アメリカは助けてくれず台湾と沖縄が中国に対して戦うことになる)を強く警戒しているからだ。
軍事対立を起こさなければ、中国は10年後、20年後以内に必ずアメリカを抜いて世界1の経済大国になれる。 焦って、軍事的な台湾進攻を行うと、世界中の衛星放送によって報道され、中国の地位は地に落ちる。どちらを選ぶか。
「絶対に戦争をしない」これは、日本にとって国是であり、最終的な国益でもある。

日本としては、中国が、戦争や紛争に拠らず、世界1の経済大国になってほしい。そうすれば、台湾の企業も国民も、圧力を掛けなくても中国についていくであろう。日本の経済界も、同様である。日本の経済界は中国と結び、一帯一路に投資する機会を、心から望んでいる。中国と日本は近隣国と連携し、一帯一路と日本の経済界との協力で、また中日の日中友好協会や文化団体で、世界150カ国の国々、30の関係団体とも連携し、G7とG20, G77のブリッジとなっていくことが日本の利益にもかなう。 これは世界の願いではないだろうか。中国の経済力、平和と周辺国を豊かにする姿勢とで、世界に富と豊かさを構築していっていただきたい。

2) 二つ目は、近隣国関係、日本・韓国と中国との関係である。近隣国関係は一番難しいと言われる。またアメリカは、日本と韓国を、中国に対する軍事化でけしかけながら、アメリカ自身は、中国に再接近し、経済では中国から自国の利益をとりつつ、軍事的には東アジア諸国で互いに緊張関係を作らせようとしている。

そうした中、アメリカの「独り勝ち」政策で恐ろしいのは、緊張の高まる中、「米軍をグアムに撤退させて、米軍は戦わずして、中国と台湾、中国と沖縄、中国と日本列島を対立させ、平和な島々にミサイルを大量配備し、対立させようとしていることだ。対立が続く限り、韓国も日本も台湾も米軍に残ってもらいたい、守ってもらいたい、と思わせる。「アメリカは日本や韓国のためには絶対に戦わない。」
これをしっかり認識しておくべきであろう。私たちはアメリカの軍事力によってでなく、我々が得意とする「経済力、勤勉さ、和の力、市民の平和を望む力」によって東アジアの安定を図るべきだ。

米中対立にかわって、日中対立、中台対立が起これば、世界のマスコミは日本・台湾側に味方するだろう。我々は戦わざるを得なくなる。
マスコミの反中国報道を止めるためには、中国がいかに優れた、利他主義的な行為から、一帯一路と周辺国の経済発展を、ロシア・ウクライナ戦争の仲裁を、イスラエルとパレスチナの停戦を、めざしているかを、くりかえし伝えていくことが重要だ。
一帯一路に140カ国30関連団体が集まり150カ国が署名し次の新しい20年に入っていくことを、以下の多くの国々に伝えていくことだ。 それは中国と共に発展したいと望む次の国々:ASEAN, 沖縄、東南アジア、南アジア、中央アジア、セルビアやヨーロッパ諸国の国民、だけでなく、日本、韓国、アメリカ、他のヨーロッパ諸国の国民にも、伝えていくことだろう。

中国の他者への自己犠牲は素晴らしいと、高く評価できる。
周辺国を大切にし、地域を大切にして、たとえその国の政府が対立をあおっていても、中国の友好協会などを中心に、話し合いと文化交流、知識人交流、経済交流を続けていくことで太いパイプを作っていくことだ。中国の支持者は市民にはたくさんいる。それを信じて、近隣国との友好と発展を実現してほしい。

3)つ目の課題は、日中協力とメディアの活用だ。日本は今、かつてないほど、中国との協力関係を悪化させている。それへのメディアの責任は大きい。メディアは連日のように、中国批判、中国の経済力の衰退、軍事力の拡大と危険性を言い続けている。

しかし先日、日本で大きな会場で開かれた日本での一帯一路10周年には、経団連の副会長、三菱銀行の代表、NHKなど元テレビ局の代表などが来られて、中国との経済協力がいかに日本の経済に良い影響を与えるか、一帯一路を、重慶の起点から、東京の起点にしてもらって、東京発の一帯一路も作ってほしい、東京から重慶にかけて、日韓海底トンネルの開通と同時に、新幹線や道路交通網を作り、インフラと投資の協力をしたい、ということを口々に言われた。

日本の経済界は中国と結びたいと思っている。この協力関係を維持してほしい。
是非、中国の一帯一路が、現在世界第2位、第3位の中国日本を巻き込んだ経済発展により、東アジアを豊かに発展させたい。東アジアの民族が持っている、経済力、勤勉さ、和の力を利用し、日中韓が一緒になって東アジアの発展、アジアの発展、世界の発展を進めていきたい。又われわれはともに「高齢化社会」に向かうが、若者を育て、未来を作ることにもぜひ力を入れていきたい。

中国の豊かな伝統的・歴史的理念が反映された、一帯一路計画が、まさに100年の計画として、世界を豊かにし貧しさを発展と平和に変えていくことを、心から望み、次の10年に向けて、繁栄と平和を作っていくことを期待したい。
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● ISF主催公開シンポジウム:WHOパンデミック条約の狙いと背景〜差し迫る人類的危機〜

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羽場久美子 羽場久美子

博士(国際関係学)、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所 所長、世界国際関係学会 元副会長(2016-17)。

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