ジャニーズ性加害問題 マスコミが触れない〝本質〞

本多圭

マスコミ記者の体たらく
 ジャニーズ事務所は創業者・ジャニー喜多川氏の性加害について調査した再発防止特別チームの提言を受けて、9月7日に記者会見を開き、事実を認めて謝罪。藤島ジュリー景子氏に代わって、ジャニーズタレント最年長の東山紀之の新社長就任を発表した。

しかし、各方面から聞かれるのは、質問するマスコミ記者の体たらくへの批判と、「ジャニーズ事務所はやはり解散すべきだ」という声だった。

「再発防止特別チームは提言書の中で“マスメディアの沈黙”と、メディアの報道姿勢にも踏み込んでいた。それで、会見には各社、自責の念を持って挑むと思っていましたが、質問時間に入ると記者たちは、これまでの“沈黙”はなかったこととばかり、まるで鬼の首を獲ったよう。質問者はこれまでジャニー氏を追及してきたメディアや、外国人記者に絞るべきでした」(ジャニーズに批判的な芸能ライター)

たとえば記者の1人は、東山が過去に報じられた女優の森光子(2012年没)との親密な関係について、「東山さんにまつわるこうした噂も、芸能界にはびこる性接待の闇となにかしらの関係があったのではないか」などと質問。ネット上では「関係なさすぎて呆れる」といった批判が相次いだ。週刊文春が2012年末に、「遺産の一部を東山紀之に譲る」との遺言があったなどと詳報しており、質問はこれを受けてのものと思われる。

「自ら裏取りや検証したわけではなさそうで、要は文春の焼き直し。“沈黙”を破るからには、自省も含めた独自の視点を持つべきでは」(大手プロ役員)

前出のライターも呆れながら言う。

 

「“芸能界にはびこる闇”とは、ジャニーズに限った話ではない。しかし、ジャニー・メリー姉弟以上の“芸能界のドン”とされる別の芸能事務所の存在など、業界事情を直接、取材したこともないのに、過去の記事を持ち出してしたり顔で執筆する輩が、とくにネットニュースで増えている。この記者もその類ではないでしょうか」

政権からも一目置かれる東京新聞の望月衣塑子記者は、東山に対し、2005年出版の元ジュニアの著書『SMAPへ―そしてすべてのジャニーズタレントへ』(鹿砦社)で書かれた東山自身による後輩タレントへのセクハラの内容を引用して、「ご自身の陰部を晒し『俺のソーセージを食え』って見出しをとられてますよね」、などと質問した。

「望月記者の質問に意味がないとはいいませんが、これも本を読んで『本当ですか?』と聞いただけ。自己アピールだと批判されても仕方がないと思いました。彼女の著作を原作とした配信ドラマ『新聞記者』(ネットフリックス)では、森友事件で自死した職員の妻が協力するも、不信感を募らせたという。理由がわかる気がしましたよ」

前出の大手プロ役員は、こう言うと次のように続けた。

「ジャニー氏の性加害問題を受けて、一部メディアで、大手芸能プロによるセクハラ問題に着手する動きがあるようです。しかし、ジャニーズ事務所に屈して性加害を見て見ぬふりをしてきたメディアが、何をいまさら、という思いはぬぐえません」

というのも、結局はまた“マスメディアの沈黙”に行き着くからだ。

昭和40年代は渡辺プロダクションが“ナベプロ王国”と呼ばれるまでに芸能界を独占していた。しかし、日本テレビ系のオーディション番組「スター誕生!」が1971年に放送開始すると、新興プロダクションが次々と台頭して、その流れが変わった。

「それら新興プロの中には女性タレントを“私物化”するオーナーや幹部が何人もいました。それをテレビ局など大手メディアは見て見ぬふりを続け、特にスポーツ紙記者は、大手プロのアメとムチ、接待と圧力で黙らせられてきた。その連中が今になって芸能界の正常化などと言っても、誰も信じません。なにしろ『知らなかった』で通しているのは彼らも同じなんですから。まずその自己検証をすべきでしょう」(元女性誌記者)

記者会見を受けて、テレビ局は自らの見解を述べたものの、民放各局はおしなべて「タレントに罪はない。これからも起用する」という内容だった。

前出の大手プロ役員はこう語る。

「そう言いながら、東京海上日動火災保険が嵐の相葉雅紀の契約を解除すると、一斉にスポンサーの顔色をうかがった。結局は、スポンサー次第ということ。だから、タレントを守るなら、ジャニーズ事務所は解散して、他の事務所に移籍させるべきなんです。メディアが過去の報道を持ち出して、ジャニーズを断罪してみせても意味がない、と私が思うのはこの点です。しかし、ジャニーズ側は存続だけを考えているし、メディアにも解散を要求する者はいなかった」

これこそ、ジャニーズ性加害問題の本質ではないのか。

「当事者の会」に集まる疑念の声
 ジャニー喜多川氏が犯した性加害では、事務所側が支払うとされる“賠償”についても注目が集まっている。元ジャニーズ所属タレントらで結成された「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が、ジャニーズ事務所が示した被害補償について「最も重要なステークホルダー(利害関係者)は被害者。同事務所と当事者の会の対話・協力の下、救済・補償を行なう委員会を設置するのが望ましい」と要請した。

しかし、「その前に、当事者の会にカウアン・オカモトや橋田康がなぜ入っていないのかを疑問視する声が挙がっていますよ」と言うのは、芸能界に詳しいフリーライター。カウアンは昨年11月に、例のガーシーのユーチューブ配信で、ジャニー氏からの性被害を告白。4月には週刊文春でも告発し、日本外国特派員協会で記者会見も開いた。8月には『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋)も出版。追及の急先鋒だ。

そんな彼が、当事者の会に参加しかったことについて、『創』(10月号)のインタビューに、「シンプルに僕は個人戦だと思っているんです。それが一番、大きいんじゃないんでしょうか、橋田さんとはたまたま国会で1緒になったんですけど、1緒に被害者の会を作るという発想はなくて、あくまでも橋田さんは橋田さんで、僕は僕。他の被害者たちが出てきてもグループで動くというのとは僕は考え方が違うと思っています」と語っている。

一方、カウアンがいない当事者の会には、疑問の声も多い。

「当事者の会には、元Kis-My-Ft2の飯田恭平さんなど、新たに被害に遭った元タレントが参加。今後、ジャニーズ事務所との補償額を含めた交渉が注目されています。しかし、代表を務める平本淳也氏に対し、これまでの言動と矛盾していると、彼が代表を務めることを疑問視する声が挙がっています」とは、出版プロデューサー。

平本氏は13歳で入所後、18歳まで「合宿所」と呼ばれたマンションに出入りしていた。田原俊彦、近藤真彦、シブがき隊、少年隊らのバックダンサーを務めるも、1986年に退所している。1989年に元フォーリーブスの北公次(故人)が告発本『光GENJIへ―最後の警告』(データハウス)で自らの性被害を証言すると、自身も1990年代に鹿砦社から『ジャニーズのすべて』シリーズを出版したほか、書籍の監修なども務めていた。

鹿砦社の松岡利康代表が当時を振り返る。

「小社は毎月、平本さんにスタッフ3人のギャラも含めた報酬を支払っていました。しかし、そのスタッフの間で不満が高じたようで、我々は義絶せざるをえませんでした。今回彼が先頭になって被害者をまとめているのはいいとしても、誠意をもって事にあたることを願うのみです」

一方で、平本氏は17年にはネットニュース「デイリーニュースオンライン」で「平本淳也のジャニーズ社会学」と題し、「【ジャニーズの入り方】オーディション内容や応募方法の裏ワザ」なる連載コラムを寄稿していた。

「コラムは『ジャニーズ出身でよかったと思うことは多々ある』と始まり、オーディションの様子や、ジャニー社長から直接電話連絡が来る“ジャニ電”への対応法などを解説し、“入り方”を指南していました」(前出のフリーライター)

また自身について平本氏は、自著をはじめ、3月放送の英BBCのドキュメンタリーでも、自らは性被害を受けていないと語っていた。

「しかし、9月の産経新聞のインタビューなど、BBCの放送後になって被害告白を始めた。こうした姿勢を疑問視されているんです」(同前)

前出の出版プロデューサーも、「平本氏が会に参加することは問題ないのでしょうが、代表にふさわしいかは疑問です」と語った。ましてや、今後、補償問題の議論に入ればなおさら。元所属タレントたちの訴えが歪められなければいいが。

所属タレント〝移籍〞〝独立〞の行方
 ジャニー喜多川氏の寵愛を受け、副社長と子会社の社長も務めたタッキーこと滝沢秀明氏が新事務所「TOBE」を設立したのは、BBC報道と同時期のことだった。ジャニー氏の家族葬では遺影を胸に抱え、霊柩車の助手席に座っているのが目撃されていた滝沢氏。しかし、昨年9月に藤島ジュリー景子社長(当時)との確執が原因で事務所を離れた。そんな滝沢氏が元King&Princeの平野紫耀をはじめ、ジャニーズを退所した人気タレントらを受け入れてきたことから、その動向に注目が集まっていたものの、性加害問題については沈黙。

「ジャニタレの“受け皿”になるのではと思われました。しかし、自身も被害を受けていた可能性が高いとはいえ、今回の事態への態度を明らかにしないことが、期待外れにつながっています。TOBEへのタレント流出はストップするでしょうね」(音楽ライター)

一方、ジャニーズタレントを巡っては、企業のスポンサー離れが加速。すでに、資生堂の新CMが白紙に戻った木村拓哉が独立を噂されるほか、俳優部門で活躍する二宮和也、岡田准一、風間俊介、生田斗真らも、争奪線が水面下で展開されているという。

「特にキムタクは、妻の工藤静香とジュリー前社長との関係が悪化。しかも、娘2人が海外進出を予定している。父親がジャニーズ事務所所属では足かせになると、彼の独立は時間の問題といわれています。ジャニーズ事務所はCM企業やタレントへのアピールとして、今後1年間、広告や番組で生じた出演料をタレント自身に全額払うと発表しましたが、ジャニタレにとっては所属しているだけでリスクが大きすぎます」(冒頭の芸能ライター)

テレビ局にも目を向けると、TBS系の情報番組関係者が「すでに二宮の主演ドラマ『ブラックペアン』の続編が暗礁に乗り上げています」と話す。

「二宮はこの夏に話題になったTBSの日曜劇場『VIVANT』で演技力が改めて高く評価されたことで、2018年に同枠で放送された主演ドラマ『ブラックぺアン』の続編の話が持ち上がっていたんです」

二宮は、昨年の同枠でも主演ドラマ『マイファミリー』を成功させた。

「それでも問題は、日曜劇場のスポンサーに、ジャニーズタレントを起用しない方針を打ち出した日本生命がいること。続編は消えました」(同前)

同様の事態は他局でも予想される。前出の大手プロ役員の言葉通り、やはり事務所解散こそ、タレントへの救いの手となるのだろう。

ただし、移籍についても、別の“障害”があるようだ。芸能プロモーターが解説する。

「ジャニーズ事務所は、加盟社同士の引き抜きを禁じる日本音楽事業者協会(音事協)に加盟していませんから、移籍そのものに問題はありません。しかし、すでに水面下で動いている者を含め、芸能界の実力者たちは、ジャニーズの実権を握っていた故・メリー喜多川副社長と裏で繋がって、ジャニーズを退所したタレント潰しに加担してきた。個人事務所を持つ岡田は独立が噂されています。生田・風間は大手事務所への移籍がささやかれ、二宮など引く手あまたであるものの、大手プロの側も、これまでの行動を問われることになるでしょうね」

やはり性加害問題は、芸能界全体と、メディアやスポンサー企業も含めたところに本質があるようだ。

(月刊「紙の爆弾」2023年11月号より)

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本多圭 本多圭

芸能ジャーナリスト。1997年の著書『ジャニーズ帝国崩壊』(鹿砦社)では、性加害問題はもちろん、児童福祉法違反など多岐の問題を指摘。

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