米国隷属国家日本を問う(前)
琉球・沖縄通信安保・基地問題2.安倍・麻生政治
・政治的・社会的問題
自主・自立を阻まれている米国隷属国家日本の将来をさらに暗いものにしているのは、長期の安倍・麻生政治下で増大する政治的、社会的問題である。本論での安倍・麻生政治とは、安倍政権はもとより、管政権、そしてプロデューサーは安倍とされる現岸田政権に引き継がれる政治のことである。岸田文雄総理は、敵基地攻撃能力保有を認可し、原発推進派で、森友学園再調査や日本学術会議任命拒否撤回は無いと明言し、すでに安倍・麻生政治を体現している。日本の状況を政治的、社会的に劣化させ続ける安倍・麻生政治の特徴を以下に挙げてみる。
(1)法案に見る負のレガシー
教育基本法改正(2006):民主主義、個人の尊厳を謳う基本法前文削除
教育改革関連三法(2009):文科省の教育委員会介入
特定秘密保護法(2013):国民への情報非公開・曖昧な秘密指定
武器輸出禁止の原則廃止(2013):軍事産業への参入
安全保障関連法(2015):集団的自衛権行使の合法化
軍事的研究への資金援助(2015):防衛省研究助成制度20倍増
共謀罪(2017):未遂の厳罰化による監視社会、言論・思想の弾圧
主要農作物種子法廃止(2017):多国籍企業による種子独占を可能に
働き方改革法(2018):企業が喜ぶ残業代ゼロ
土地利用規制法(2021):基地沖縄の県民を対象として戦争準備法
主要な悪法のみを挙げたが、悪法と思われる法律制定は23例を数える。一度制定された法律を修正したり廃止したりすることは困難であることを考えると、安倍・麻生政治下の悪法が今後の日本社会に与える負の影響に日本の将来が思いやられる。
(2)民主国家・法治国家の崩壊
2013年「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。」ナチス政権の「あの手口に学んだらどうか」と述べた麻生副総裁の思惑通り、法律の曲解や空洞化も実行されてきた。改憲項目で、緊急事態条項に政府権限集中や国民の私権制限規定を盛り込む5つの条文案をつけ、ナチス制定の全権委任法と同様に国家安全保障基本法(違憲)の内容をもって法の下克上を行ったとされる。
沖縄の辺野古新基地建設問題では、本来、行政処分で不利益を受けた国民救済のための法律である行政不服審査法を、行政者の国が行使して地方自治体を訴える法の規範を違える行為を行い、国の組織である沖縄防衛局が国の大臣に審査請求をし知事処分を取り消した。2021年は防衛局が守ると約束した規定を守らないため珊瑚移植許可を取り消した県に対し、又も行政不服審査法を使い国の意向を押し通した。
裁量労働制導入のための基本データ改ざんで国会が紛糾し、森友の値引き判断材料写真偽造や公文書改ざん、加計学園公文書改ざんが続き、森友・加計問題では黒塗り文書が国会に提出され、自衛隊「日報」問題では書類紛失として情報が隠蔽された。「報道の自由度」は、民主党鳩山政権時に11位(2010年)だったが、安倍政権下で72位(2016、2017年)に落下した。
国会では、森友学園問題の籠池泰典氏も「答える側がむちゃくちゃ」と述べたように、質問側に在る論理力が答弁側に欠如し続け、政権担当者がまともな議論をしない。問題含みの法律制定において、国民の多数が「議論は尽くされていない」とするものの強行採決が繰り返され「前代未聞の事態」「仰天するようなこと」「異常なこと」は続いたが、森友・加計問題直後の選挙にも関わらず、米国の北朝鮮問題を国難と騒ぎ争点を逸らした政権与党が勝利した。国会の虚偽答弁が118を数えるという安倍元総理の発言のなかで「国民は(どうせ)すぐ忘れる」だけは正しかったわけである。
(3)政治の私物化
モリカケ問題や伊藤詩織さん暴行容疑者のTBS記者山口敬之氏に対する警視庁(中村刑事部長)による逮捕状執行停止などに見た「政治の私物化」は、司法やメディアにも及んだ。管総理に日本学術問題を質問しただけで、二階幹事長に政府のコロナ対策は充分であったかを質問しただけで、昨年2月NHK看板の有馬嘉男キャスターと武田真一アナが降板させられる。
「報道の責務は強権監視である」とジャーナリスト大谷昭宏は述べた(8)が、まさにジャーナリズムに対する攻撃であり、政治家が強権によって国民の知る権利を平気で奪う国になったのである。それによって促進されたのが、権力に忖度する人物の登用・昇進による忖度社会であった。ここでの忖度は「他人の気持ちを推し量る」という意味ではなく善悪を問わず権力に迎合するとの意味だが、「忖度は当たり前」と公言した萩生田光一氏は文科大臣に任命された。
高校教育でディベートを推奨しつつ、上に逆らうべからず、意見を言うべからずを当然とする人物を教師や子供達のトップとして推奨した訳である。権力におもねる人達だけによる国家の支配は独裁政治へと転じ易いといわれる。日本は北朝鮮の独裁政治を非難できる国ではなくなった。
(4)知性・モラルの劣化
日本社会のモラルや知性が劣化していると感じ始めて10年近い。白井聡は「今日の日本はまるで人間が集団的にどれほど愚かになれるかという社会実験をやっているかに見える」(9)と痛烈に指摘する。それは文化人と言われる人達や政治家に始まっていた。
2015年百田尚樹氏(作家)は、普天間基地は何もない所にできたとし基地の周りに来て住む沖縄の人が悪いかのような発言をした。役所があり汽車が走った戦前の普天間や沖縄戦で全てが崩壊し、住民の避難中に土地が勝手に接収され基地が作られた歴史を知らない文化人であった。
2018年竹田恒泰氏(作家)は、「沖縄が日本にある米軍基地施設の70%を負担」はオール沖縄や基地反対者が使う数字のマジックとしたが、数字は防衛省が公式発表している米軍専用基地の面積比であった。戦後は11%であった沖縄の基地が、講話条約で独立した日本での反基地運動によって本土各地にあった基地が米軍占領下の沖縄に移設された結果の現在の70%であることをどれだけの人が知るだろうか?
歴史を知らないから「沖縄の基地」を引き受けてあげるという意識となる(勿論、引き受けてあげる県も皆無だ。反基地運動をする沖縄の人達の「他県に同じ苦しみを味わわせる訳にはいかない」と他県移設に反対する言葉を聞く度に悲しくつらい思いを噛みしめてきた筆者である)。
加計学園を巡る文書を「誰が作ったのか」との国会質問に「あなたが」とヤジり、立憲民主党議員を「共産党」とヤジった安倍総理、女性でありながら女性の権利を糾弾し非生産者のLGBTに税金を使うべきでないと発言した杉田水脈自民党議員や彼女を激励した自民党議員には、政治家の知性やモラルの低下を見た。杉田議員擁護だけでなく、痴漢がさわる権利の保障を叫ぶ論まで掲載した「新潮45」には大衆の知性とモラルの劣化を見た。新潮はヘイトの方が売れるからと舵を切ったという。筋の通った論より感情的で阻害的なヘイト論を好む人が多いという現状があるのだ。
知性やモラル欠如の社会作りに貢献した一つにネトウヨの存在がある。2017年安倍元総理は「新聞の愛読者層に自民党支持が少ない」と発言、2018年、麻生太郎元大臣も「新聞を読まない人が自民党を支持する」とネットを評価し新聞を批判した。新聞ではなくネットから情報を得るようにすれば自民党政権支持になるから情報はネットから得るようにと薦めるような発言は、以下にまとめたネトウヨの特徴に基づく。
①政権やその政策を賛美する。
②政権の政策反対者(基地と原発)を攻撃する。
③左翼や弱者を攻撃する。
④中国、北朝鮮など隣国の脅威をあおって攻撃するが、米国批判はしない。
⑤安全保障の大切さを強調、人権や平和憲法を守る意見を攻撃する。
⑥年金や貧困、教育問題には関心が薄いが平和教育は攻撃する。
⑦天下国家を論じるが、事実無根が多く非論理的である。
⑧殆どが名前を出さず匿名である。
⑨表現が過激で、内容は誹謗中傷である。
⑩世間の話題に即時に反応し拡散する。
ネトウヨの背景には安倍・麻生政治が在る。2013年から自民党「ネット対策チーム」が業者委託の24時間ネット監視体制のもと、対立候補や他党へのネガティブキャンペーンを開始した。日本国民の知性やモラルの劣化が、日本の政治家によってもたらされているという事実は悲しい。「豚足食っとけ土人」「本物の沖縄県民は辺野古基地や移設に反対していないそうですね。」「面倒くさいから(沖縄県民)全員売国奴で良いな」ネット上での沖縄ヘイトスピーチが活発化している。狙いは、①心理的に日本と沖縄を分断し、平和運動をする人達の人格や行為をおとしめ萎縮させる。②平和運動を弱体化させ、基地・沖縄を強化する。最終的に③米国・日本の戦争の前線としての沖縄づくりにあると推測できる。
・旧日本軍との類似
安倍・麻生政治の特徴は、敗北した旧日本軍の特徴(10)に類似する。特に注目すべきは以下である。①現場を押さえつける「権威主義」 、②現場の専門家の意見を聞かない「傲慢さ」 、③悪影響を生み出す人事指標、 ④空気を読み上司の命令に盲目的に従う。上記に述べた「政治の私物化」の具体例の数々は①と②に要約される。旧日本軍では、現場をよく知る者の意見が取り入れられなかったという。
コロナ禍の安倍政権は突然の休校宣言で現場を混乱に陥れ、医療専門家の意見に耳を傾けない姿勢が顕著であった。戦争中の米軍は多くの科学者に自主性・自立性を確保した研究環境を与え、能力を最大限発揮させベストの成果をレーダー開発などであげたとされる。日本に帰りたくない意思表示をしたノーベル賞受賞者真鍋淑郎氏の「政府が日本の学術会合の言うことを聞いているかどうか」の弁は、科学者に自主性や自由に研究できる環境を与えない日本の政権の体質を指摘していた。
③と④は特に組織にとって重要で、著者は「評価制度は組織運営に最大のインパクトを与えるイノベーションである」とし、米軍では非効率で行動が遅く成果を上げない人物は降格させられたが、日本軍ではまっとうな意見でも上に逆らえば罰せられ、上の命令に従うだけが選択肢だったと述べる。
ノモンハン事件で多くの日本兵を犠牲にした辻正信参謀は中央に返り咲き、無謀なインパール作戦を主導した牟田口廉也中将は陸軍士官学校の校長に任命されるなど、間違ったメッセージを組織に送り続けた。まさに、権力者の言うことさえ聞けば犯罪を犯しても昇進し、まともな言動であっても意見する者は罰せられる、今の安倍・麻生政治下で採用されている評価制度だ。旧日本軍の暴走と安倍・麻生政治の暴走が重なる。結果は再度の失敗、再度の敗戦であることはほぼ確実である。
政治・社会両面の特徴から、安倍・麻生政治とは総じて日本を「戦争のできる国」にするための政治であると要約できる。それは、安倍氏、麻生氏という政治家独自の考えからきたものか、あるいは、両者が米国意向重視の米国隷属政治家であることからきたものか? どちらにしろ、米国隷属政治家による米国隷属国家への道は、米国の中国に対する代理戦争という形で日本が最後のご奉公をする方向で進んでいる。捨て石となり犠牲となるのはまたもや沖縄という歴史が繰り返されようとしている。今年奇しくも復帰50周年を迎えた沖縄の視点から日本を見てみよう。
参考文献
(1)SWNCC150/4/A, U.S. Initial Post Surrender Policy for Japan, (Sep. 21, 1945) National Diet Library, Sheet No. TS00322, NARA , RG331.
(2)NSC13/2, Recommendations with Respects to U.S. policy toward Japan, Oct. 7, 1948, National Diet Library, Sheet No. TRUMAN 4847. OPA 059-01586-00049-001-008, NND959297, NARA.
(3) 池宮城陽子(2018)『沖縄米軍基地と日米安保』、東京大学出版会、134頁
(4) 吉田敏浩(2016)『日米合同委員会の研究』創元社。
(5) C. W. Mills(1969)The Power Elite. Tokyo shuppan.
(6)沖縄県地位協定ポータルサイト https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/sofa/index.html
(7) 孫崎享(2015)『アメリカに潰された政治家たち』小学館
(8) 沖縄タイムス「辺野古への眼力」、2015年3月10日
(9) 「ビッグコミックオリジナル」、2021年1月20日号
(10) 「超入門失敗の本質」、2012年、ダイヤモンド社
※「米国隷属国家日本を問う(後)」は5月22日に掲載します。
独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。