【特集】終わらない占領との決別

米国隷属国家日本を問う(後)

与那覇恵子

3.沖縄から見る隷属国家日本

・敗戦の責任

「米国隷属国家日本」の実態を国民が公に認識させられるきっかけとなったのは、2012年の孫崎享氏の『戦後史の正体』だったのではないか。薄々意識はしていたとしても公に認めざるを得ない機会がこの時までなかったのではないか。その意味で、外交の専門的知識と史料で戦後史をひもとき、日本の戦後史の正体を明瞭にした孫崎氏の果たした役割は大きい。

しかし、本書が国民に明瞭にした「米国隷属国家日本」は、沖縄の私達には昔からの常識であり、中学生だった筆者も含め50年前から沖縄の人々が一貫して実感させ続けられてきたことであった。「沖縄からは日本がよく見える」と言われるゆえんである。

沖縄からは、「米国隷属国家」日本が、敗戦の責任や隷属国家としての負担を沖縄に押しつけてきた日本の姿がよく見える。徐々に増えつつあるとしても、日本国民にいまだ「米国隷属国家日本」の明確な認識が不足し、白井聡の『永続敗戦論』が暴く独立国の体をなし得ていない日本が見えていない国民が多数であるという現状は、沖縄だけに敗戦の責任と負担を押しつけてきた差別構造にある。

沖縄への責任押しつけと負担は、2021年70周年を迎えた「サンフランシスコ講話条約」(第3条)と、同時に締結された日米安全保障条約に始まり、今年50周年を迎えた日本復帰によって強固となり安倍麻生政治で強化されてきた。

・沖縄の知事達に見る沖縄の戦後史

War traces okinawa japanese

 

地獄の沖縄戦で3~4人に1人といわれる犠牲を出した上、敗戦の責任まで負わされた沖縄の戦後史はどのようなものだったのか?

安全保障という日米間の国としての問題を背負わされてきた沖縄県の知事として、その荷の重さを肌で感じ苦悩し続けた、屋良朝苗氏、大田昌秀氏、翁長雄志氏らの足跡に沖縄の戦後史とそこに映る日本を見てみたい。

平和憲法のもと民主主義が導入され朝鮮特需の好景気を背景に経済発展を遂げた日本と裏腹に、米軍による事件、事故が日常茶飯事の日々、殺人を犯した米兵も無罪となる治外法権や基本的人権も蔑ろの米軍占領下で沖縄は苦難の道を歩んだ。

教育者屋良朝苗氏は、1950年代銃剣で脅しブルドーザーで家々を破壊し基地化が急速に強行されるなか、住民が経済より熱望した教育復興は遅々として進まない、戦争責任の無い子供達が崩壊した校舎で教育を受け続けなければならない状況に心を痛め、何より教育の復興を願い、基本的人権を謳う平和憲法を求め復帰運動を先導した。

が、復帰は、米軍基地は残り自衛隊が乗り込んでくるという、基地無き平和の島に戻るという人々の願いにほど遠いものとなった。1971年11月建議書を携え上京した屋良だが、空港到着時に衆院特別委員会で沖縄返還協定が強行採決された。沖縄不在のまま日米間で交渉が進む状況を危ぶみ、基地や振興開発のあり方、県民の要望をまとめた、届かなかった建議書は訴える。

「終戦以来、沖縄県民は本土に復帰する日のあることを固く信じ、あらゆる困難を克服しながらも本土復帰を要求し続けてまいりました。そして26カ年にわたる異民族支配の下で身をもって体験した幾多の苦難と試練を通して県民が最終的に到達した復帰のあり方は、平和憲法の下で日本国民としての諸権利を完全に回復することのできる『即時無条件かつ全面的返還』であります。また、これまで絶えず軍事的に利用され悲惨な沖縄戦をも体験した県民は再びこのような状態に身を置くことがあってはならないと、日頃から心に固く決めているのであります。これらのことは、沖縄の歴史と県民の心情を素直に理解しようとする気持ちがあれば、何人にも容易に納得出来るところであります」。

建議書は、日米共同声明と沖縄返還協定によって極東における米国の戦略体制に組み入れられる日本をも案じたものだった。しかし、沖縄の歴史と県民の心情が理解されることはなかった。

学者として多くの書を著した大田昌秀氏が知事になったのは1990年である。95年12歳の少女を米兵3人が拉致し集団強姦した事件で反基地感情が高まり、8万5000人が集結した抗議集会で、大田は大人として少女を守れなかった事を詫びた。

彼は地主が契約を拒んだ米軍用地について、強制使用手続きに関する知事の代理署名拒否を表明する。が、96年、最高裁は署名拒否は「著しく公益を害することは明らか」として上告を棄却し県は敗訴した。「OKINAWA: Cold War Island沖縄:冷戦の島」掲載の大田証言は9頁に及ぶ。

 

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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