幹部が信者に明言「裁判所は認めない」 旧統一教会「解散命令請求」めぐり自民党の〝出来レース〞

片岡亮

〝統一自民党〞に期待はできない

いまメディアや世間の目はジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川の性加害問題に集中しているが、解決すべき優先順位では、旧統一教会(世界平和家庭連合)問題の方がずっと上だろう。

ジャニー氏の大量性犯罪はもちろん軽視すべきではない。しかし、統一教会は宗教法人とは名ばかり、悪質な高額献金集めのみならず、政治家と癒着し偏った思想を日本社会に広げた反社会カルト組織である。その影響の大きさを見れば、一刻も早く野放しを止めねばならないのは確実だ。

政府は宗教法人法に基づく統一教会の解散命令請求に向けて検討を進めているものの、解散命令が果たせるかどうかは危うい。なにしろ教団と関係のあった政治家は与党を中心に無数におり、教団の悪行にお墨付きを与えていたのはほかでもない彼らだ。

9月発足の第2次岸田再改造内閣でも、担当大臣の盛山正仁文科相をはじめ、防衛相・環境相もズブズブの関係。また新たに官房副長官に起用された2人も然り。さらに副大臣や政務官ではほぼ半数の26人が教団から献金を受けたりパーティ券を購入してもらったりしていた。そのメンツを見ると、副大臣・政務官とも、内閣府から総務・法務・外務・財務・農水・経産・国交・デジタル・防衛と、実に幅広く行き渡っている。

自民党新役員でも政調会長に留任した萩生田光一氏を筆頭に、平井卓也広報本部長も教団とかなり密接な関係にあり、石を投げればシンパに当たるような状態だ。それゆえ、10月中にもなされるという統一教会の解散命令請求には、激しく水面下での抵抗があった。

この解散命令請求というのは主に、宗教法人法81条の「解散命令制度」を指す。宗教法人に対し、所轄庁や検察官、利害関係者の請求により、裁判所が解散を命じることができるもので、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害する」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした」場合などが要件とされる。

利害関係者とは損害を受けた信者も含まれることが過去の判決で認められている。統一教会の霊感商法被害で損害賠償請求をし、裁判所から認められた場合、被害者も請求者になれる。

過去3度の主な解散命令は、「オウム真理教」「明覚寺」「大日山法華経寺」。和歌山県を本拠とした明覚寺は、系列の名古屋・満願寺を中心に、全国で霊感商法の被害者を出し、代表役員ら8名が詐欺罪で有罪判決を受けた。文化庁が1999年に請求したもので、2002年の最高裁まで争われている。

悪質性からいえば、その比にならないほど大きい統一教会への解散命令請求。その見通しを文化庁職員に聞くと「これまでの資料や被害者の証言から請求の要件を十分に満たす」ものの、「政府内の反発がものすごい」という。

「それを審議する宗教法人審議会に反対派の人をたくさん入れるよう、暗に依頼があったほどです。そもそも、この問題を担当する宗務課は職員が8人しかいないので、政治権力に対抗できる力がない」

文化庁は解散命令請求につながる質問権を昨年11月以降、7回行使するも、教団は全体の2割、約100項目以上で回答を拒否した。これには罰金が規定されているが、10万円以下という無意味なもの。その支払いすら教団は「認められない」と対抗姿勢を見せており、前出職員は「こういう姿勢が、実は教団の政界に対するメッセージになっている」と言う。

「我々は解散請求に猛反発するけど、本当にやるのか?という脅しみたいなものです。弱みを握られている政治家は山ほどいますから、それを怖がって解散請求をやめろと文化庁に伝えてきているんです」

 

文化庁職員に〝癒着議員〞から連絡

統一教会側は質問権行使自体を「違法」とまで主張している。その理由のひとつが、前出の宗教法人法81条における法令違反の要件を「刑法に限る」としたものだ。刑事事件になっていないなら解散請求には至らない、という理屈である。

これは昨年の衆院予算委で、岸田文雄首相が「民法の不法行為は入らない」と誤った回答をしたのを利用されたもの。その後、首相は「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、宗教法人法の要件に該当すると認められる場合には、民法の不法行為も入りうる」と解釈を変えたが、教団側はこれを「勝手な解釈変更」と言い出した。1995年に起きたオウム事件の解散請求を見れば、高裁判決で「刑法に限る」という解釈とはなっていないことがわかる。解散請求の趣旨として、民法も含まれる旨が明確に記録として残っていた。

また、教団側は回答拒否理由として「信者の個人情報に該当する」などと弁明しているが、過去、マスコミに送ったプレスリリースでは元信者の名前などもはっきり載せており、場当たり的な反論にすぎないだろう。さらに表向き「教団の改善」として外部から入ったはずの弁護士も、SNSで「我々の宗教」などと書いていた。自らに中立性がないことを示してしまったわけだ。

統一教会の無数にある巨額献金被害ほか、教義のための養子縁組をはじめとした人権無視から、全国統一教会被害対策弁護団が主張するとおり、解散命令請求は簡単なはずだ。やはり“敵”は別にいるのである。

「文化庁で熱心にやっている担当者のスマホにまで、政治家の側近が電話をかけてきて、『高待遇で事務所スタッフにならないか』と言ってきたそうですよ。よほど都合の悪いことがあるのでしょう。癒着議員の抵抗はますます激しくなっている」(前出の文化庁職員)

恐ろしいのは、その影響力が裁判所にも波及していることだ。前述の「民法の不法行為も含まれる」ことを示したオウム真理教や、明覚寺にも出された解散命令請求の記録を東京地裁が廃棄処分していたことが昨年秋、明るみになった。驚くべきことに、オウムは2006年頃に廃棄されていたという。

「裁判所にまで統一教会側議員に加担する連中がいるからです。裁判記録の廃棄は近年、重要な民事裁判について問題化して、慎重に行なうよう通達があった。元裁判官が『国会議員の電話1本で処分する者が全国の裁判所にいる』なんて言っていました。ある地方議員の息子(未成年)が起こした刑事事件でも、特殊な事情を含んでいたために、すかさずその判例となる類似の事件資料が廃棄されていたこともあったそうです。日本は司法も政治権力に浸食されている。とても先進国とは呼べないですよ。

自民党の熱心な支持者で、テレビ出演する某有名弁護士も、政治的なバックを傘に、裁判官をキャバクラ接待して味方に付け、勝訴をもぎ取っています。そんな権力の横暴に、庁の職員ごときが抵抗できないんです」

どう転んでも岸田首相に都合がいい

三権分立が崩壊した歪な日本社会。これを正すべき政治のトップである岸田首相は、先の内閣改造でも相変わらずの「仲良しごっこ」ぶり。総選挙以上に、1年後の総裁選を意識した顔ぶれが露呈していた。

もともと明確なビジョンを示さず、いかにも敵を作らない姿勢で知られた岸田首相。周囲の顔色を見ては発言の修正を繰り返し、大きな反発を回避してきた人物だ。その一貫性のなさで要職を歴任し、2012年には派閥を率いるまでに。第2次安倍晋三政権で「ポスト安倍」の最右翼に浮上した際も、首相を目指すような発言を控えて安倍首相の顔色を伺ったことで、党内でも「優柔不断」「戦えない男」と失笑されたほどだった。

そんな人物が無数の政治家と結びついたカルト団体と本気で戦えるとは思えず、いま政界では「解散請求は岸田さんがどうしたくとも、裁判所に却下される出来レースになる」とのウワサが広まっている。

ジャーナリストの山岡俊介氏も、「裁判所は解散を認めないことで話が出来ている」という統一教会筋のコメントを紹介していた。

「解散命令要件は『刑事』の不法行為に限られるから。深読みすれば、政府・自民党はそれを分かっていて文科省に解散請求させ、裁判所が認めないので仕方ないで幕引きの思惑。そうでないと、スキャンダル暴露の報復あるから」(山岡氏のポストより)

ただし、「刑事に限る」との理屈は前述のとおり安易な主張で、裁判所がそれだけで棄却はできないと思われるものの、「資料廃棄」の暴挙から、統一教会側が司法を味方に付けた「裁判所の棄却」説が現実味を帯びているのは確かだ。ある政界関係者もそんな着地シナリオを耳にした、とこう語った。

「岸田さんの周辺が水面下で、裁判所が請求を棄却する可能性があるのか探っていたことがわかった。岸田さんがどちらを狙っているのかはわからないけど、裁判所が拒否するかもしれない、という認識は持っているわけだ。実は、どちらに転んでも、岸田さんにとって都合がいい。まず、裁判所が棄却すれば世間が大騒ぎする。そこで岸田さんは宗教法人法の改正を持ち出す。支持率が上がり、総理の座は安泰。しかも、法改正したところで、過去に遡っての問題提起はできない。これから問題を起こしたら解散請求するからね、という警告にとどめることで、統一教会と“和解”する。その交渉役として必要なのが萩生田で、彼を要職に残したのはそういうこと。この話はすでに教団のトップクラスには伝わっているから、連中も全面戦争は仕掛けてこないだろう。もちろん、裁判所が解散命令を認めても、岸田さんの功績となる」

「5年後には誰も問題を覚えちゃいない」

そんな目論見が岸田首相にあるとすれば、統一教会側はどうか、当事者たちを取材してみた。この種の団体は、幹部は手強くても、末端の信者は純粋な善意から活動しているため、本部を通すような組織に関わるテーマでなければ意外と口は固くないものだ。

ある40代女性の現役信者Aさんは母親も信者の2世だ。しかし、一連の問題で定期的な礼拝がしにくくなり、1年以上も教会に顔を出していなかった。その間、オンライン会議で信者同士が集まり、近況報告などをしていたが、最近になって礼拝を復活させ「いまは何事もなかったかのよう」という。

「マスコミがあることないこと書いて、教団が一方的に悪者にされた…といった幹部の言うことを信じている人が多いです。教団にも非があったという人もいますが、それでも教義自体は間違いないと信じていて、私もそう。ウチは年60万円ぐらいしか献金していませんし、解散請求なんて過剰反応だと思います」

安倍元首相の熱烈な支持者でもあった50代男性信者のBさんは、銃撃事件がショックで信者としての活動を長く休んでいたが、こちらも7月から礼拝に復帰。

「お母さま(韓鶴子総裁)が、岸田首相に再教育を施せと言っていたので、その使命を果たすには、また信者として自民党の選挙応援もしたいと思うようになりました。岸田さんは好きではないですが、自民党は応援したい」

熱心な信者は世間の批判に一定の影響を受けつつも、元どおりになっている印象だ。解散請求についてBさんは「上の人からは、裁判所が認めることはないから安心してと言われました。『5年後には誰もこんな問題を覚えちゃいない』って笑っていましたよ」と明かす。つまり教団の末端では、解散命令になる見通しはない、という緩い認識なのである。

ただ、万一の解散を見据えた動きも見て取れた。安倍元首相銃撃事件以降、1年以上にわたり取材を続けてきた信者30名以上のうち、なんと12名も「別動隊」に移っているのだ。

ある信者男性は4月に別の新組織に異動。表向き国際交流で日本語を学ぶ外国人を応援するNPO法人だが、実際には生徒の外国人を教団に勧誘するチームだった。また、別の信者女性Cさんは、日本の伝統文化継承を支援するグループに異動したが、こちらは地域で教団が活動するための会場を借りる、名義作りのためのグループだという。すなわち、統一教会が宗教法人でなくなっても、水面下でゲリラ的に活動継続するための準備なのである。

「宗教法人が解散しても、法人としての資格がなくなるだけで、世界平和統一家庭連合自体が消えるわけではありません。苦しくなる団体を支えるためだったら何でもやりたい」(Cさん)

宗教団体そのものの解体は、破壊活動防止法(破防法)で可能かもしれない。しかし、これはオウム真理教にも適用できなかったほど抑制的なもの。団体さえ残れば活動はできるから、教団はすでに法人格を失ってもいいように対策をしているわけだ。

新たな「別働隊」は200以上

筆者の知る限り、約1年間で、こうした別動隊がすでに200以上も生まれている。中にはハッキリ「勧誘方法を変えていく」ということをメンバーに伝えたグループもある。これは解散するかどうかにかかわらず、世間の批判を逃れる術にもなるから、むしろ現在より厄介な様相となるかもしれない。

なにしろ法人格がなくなれば、宗教団体には法人として毎年義務付けられている所轄官庁への報告も不要だ。財産管理は自由になり、教団が無数の団体に分裂するとなれば、なおさら把握しきれなくなる。その一部が新たに宗教法人を申請して認められたり、休眠状態の宗教法人を買い取ったりすれば新装開店した「シン・統一教会」が生まれるだけだ。

それでも教会側の抵抗を見れば、宗教法人でなくなることにはデメリットが大きいということはわかる。特に非課税の特権を失うのは集金マシーンとして絶対的に痛手。この際、必要なのは解散請求だけでなく、そもそもの宗教法人の仕組みを見直すことだろう。

献金や勧誘の手法を規制する被害者救済法は今年から施行されているが、実効性はまだまだ弱い。自民党が創価学会を母体とする公明党に配慮したからで、それこそ仏教やキリスト教の皮だけ被ったような団体が金儲けや政治工作のための活動を続けている。

海外では宗教団体の運営規制は多様で違いがあるものの、たとえばシンガポールではテロ対策の法改正により、国外団体の進出を規制したり、攻撃的な意見表明や、他宗教を侮辱する布教を禁じ、1万ドルを超える献金に公開義務を課した。多くの国々では、日本のような街頭での信者勧誘などはそもそも禁じられており、多宗教が混在するマレーシアでも表立った布教活動は見られない。様々な規制により、日本のような他国カルトが国や社会を揺るがす事態を許していないのである。

今日も統一教会の韓国の定例会では、日本からの献金を増やすよう指示が出され続けている。本当に統一教会問題が出来レースに終われば、それは日本社会の混乱を容認する連中が、国家を運営していることになる。

(月刊「紙の爆弾」2023年11月号より)

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片岡亮 片岡亮

米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。

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