ジャニーズよりも悪影響 創価学会に屈し続ける「メディアの沈黙」

大山友樹

日本のメディアの「宿痾」

日本の芸能界やマスコミ界、そして広告業界などで、多年にわたってタブーとされてきた大手芸能プロダクション・ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川(2019年死去=以下・喜多川)による所属タレントの少年らに対する性加害の実態が、いまようやく白日の下に晒されつつある。

今年3月、イギリスの国営放送・BBCが報道したことを受け、複数の元所属タレントの被害告発によって世論の関心が高まったことから、NHKや朝日新聞などの大手メディアも問題を採り上げるようになり、一躍社会に知られるところとなった。

8月29日には、ジャニーズ事務所が遅まきながら設置した再発防止特別チームも、性加害は1950年代に始まっており、被害者は少なくとも数100人に及んでいること、加害拡大を招いた要因として、「同族経営による隠蔽体質」と、「メディアの沈黙」を指摘する調査報告書を公表。直後の9月7日には、ジャニーズ事務所が謝罪するとともに、姪である藤島ジュリー景子社長が引責辞任し、同社として被害者救済に当たることなどを発表した。

しかし性加害者の名前を社名として残すことや、辞任した藤島ジュリー景子が株を100パーセント保有する代表取締役として残るなど、その反省と体質改善の姿勢に疑問符がつくことから、“ジャニタレ”をCMに起用してきた日本の名だたる企業が相次いで契約を打ち切る方針を打ち出している。

にわかにクローズアップされたかのような、この性加害問題だが、1965年の週刊サンケイ「“ジャニーズ”売り出しのかげに」(3月29日号)を皮切りに、すでに50年以上前から一部雑誌メディアでの報道はあった。1988年には元フォーリーブス北公次が暴露本を出版し、本誌「紙の爆弾」の発売元である鹿砦社も、1996年の『ジャニーズのすべて』をはじめ、実態を報じる複数の書籍を発行している。

1999年には週刊文春が14週にわたってジャニーズ問題を連続特集。これに対してジャニーズ事務所は同誌を名誉棄損で提訴。1審の東京地裁ではジャニーズ側が勝訴したものの、2審の高裁が性加害の真実性を認定。2004年にこの判決は最高裁で確定した。それでも、新聞・テレビを中心とする日本の大手メディアは、再発防止特別チームが「メディアの沈黙」と指摘したように、同問題に頬かぶりを続け、被害の拡大を招いた。

もっともこうした「売らんがため」にジャニーズ事務所に迎合し、訴訟リスクに萎縮し自主規制を繰り返してきた大手メディアの姿勢は、日本のマスコミの「宿痾」ともいえるものだ。しかも迎合・忖度の対象は、1芸能事務所にとどまらず、政界・経済界・宗教界と多岐に及んでいる。

今年3月に、国会で問題となった放送法の政治的公平性をめぐる総務省の行政文書問題では、9月13日に発足した第2次岸田第2次改造内閣で留任した高市早苗経済安全保障相が、安倍政権下で総務大臣に就いていた2015年5月の国会審議において、「1つの番組でも極端に偏向報道がある場合は、政治的公平に欠く」と、政治的公平を口実に電波の停止をちらつかせて放送事業者に脅しをかけたことが明らかになったが、この一事からもわかるように、安倍政権は陰に陽に放送事業者に圧力を加えて政権批判の封じ込めを図り、放送事業者側もこれに抗うことなく唯々諾々と政権の前に膝を屈してきた事実がある。

国際NGO「国境なき記者団」は毎年、「世界報道自由度ランキング」を発表している。これは世界各国におけるジャーナリストや報道機関の活動の自由度を、意見の多様性や政治・企業・宗教からの独立性、報道内容によって政府や特定団体などからいやがらせや脅迫を受けていないか、など7項目を基準にランク付けされたもので、最新となる今年5月3日発表分での日本のランクは68位とG7で最低ランク。民主党政権時代は11位までランクアップした日本の言論の自由度は、安倍自公政権下で下落を続け、いまや70位前後が定番という体たらく。その理由として「国境なき記者団」は、政府や大企業の圧力と、これに迎合し自己規制する日本のジャーナリズムの脆弱さを指摘している。

その意味でジャニーズ問題は、日本における言論の自由度を図る1つの指標といえる。だが日本の言論の自由に対して、ジャニーズなど比較にならないほどの悪影響を及ぼしている存在がある。それが、政権与党・自民党の屋台骨である「統一教会(世界平和統一家庭連合)」と、公明党の組織母体である「創価学会」で、その事実もまた大手メディアの迎合と忖度、そして萎縮によって隠蔽され続けている。

 

マスコミを籠絡する創価学会の集金力

公明党のみならず、いまや自民党最大の支援団体として強大な政治的影響力を持つ創価学会は、同時に公称827万世帯の会員からの寄付(財務・広布基金)や機関紙誌の購読料などで、年間数千億円規模の集金力を持つといわれている。

少々古い資料になるが、2003年の創価学会の法人所得額(機関紙誌などの収益事業収入=宗教活動に基づく寄付や布施などは無税で申告する必要がない)は181億円であり、日本の企業の中で170位にランクされている。むろん宗教法人としてはトップであり、2位の明治神宮(東京)の16億円に大きく水をあけている。

この圧倒的な資金力の前にマスコミ界は膝を屈している。たとえば2005年7月に毎日新聞の北村正任社長は、東京・信濃町にある聖教新聞社を訪問し、池田大作創価学会名誉会長と会談。まるで北村社長が池田名誉会長に拝謁するかのような会談の模様は「聖教新聞」7月14日付が大々的に報じているが、この毎日新聞と創価学会の経済的結びつきの強さについて、週刊ダイヤモンド2004年8月9日号に次のような記事がある。

「聖教新聞を最も多く印刷受注しているのは、毎日新聞グループの東日印刷と見られる(公明党が2002年に支払った公明新聞の印刷費は、22社中で最大の約3億円)。さらに、同じ毎日系で東北地方をカバーしている東日オフセット、毎日新聞北海道センター、縮刷版を印刷しているエスティ・トーニチのぶんも加わる。東日印刷が聖教新聞に出稿する広告のコピーは『聖教新聞とともに半世紀。』である(中略)。その東日印刷などの経営者6人に対して『創価大学最高栄誉賞』が贈られた。授賞理由は『活字文化への貢献』である」

ちなみに現在の東日印刷代表取締役社長は、創価大学1期生の武田芳明で、池田は東日印刷と聖教新聞は兄弟である旨の和歌を贈っている。

もっとも日刊で公称550万部の創価学会の機関紙・聖教新聞と、日刊で80万部ともいわれる公明党の機関紙・公明新聞を刷っているのは毎日系列だけではない。現在、そして過去に自社ないしは系列会社で聖教新聞ないし公明新聞、あるいは両方を印刷したことがわかっている新聞社は、全国紙では読売・朝日、ブロック紙で中日・中国・西日本、地方紙では北海道・岩手日日・秋田魁・河北新報・福島民報・神奈川・静岡・信濃毎日・新潟日報・北國・京都・神戸・山陰中央・4国・愛媛・高知・長崎・熊本日日・鹿児島新報などである。

聖教新聞の印刷費は公表されていないが、公明新聞の印刷費は公明党の政治資金収支報告書に載っており、それによると2020年6月分印刷費は東日印刷が2566万円強、西日本新聞が841万円強となっている。単純に12倍すれば東日印刷の公明新聞の印刷費は年間3億円強、西日本新聞も1億円強となる。

聖教新聞の公称発行部数は公明新聞の約7倍。あくまで単純比較だが、仮に聖教新聞の印刷部数を7倍とすると、東日印刷の聖教新聞の印刷収入は20億円程度になると推定することが可能だ。

かてて加えて新聞社には、池田大作本をはじめとする聖教新聞社の書籍広告をはじめ、創価学会の外郭である潮出版社・第三文明社の雑誌広告の出稿や、池田の寄稿記事の掲載による多部数の買い取りまである。さらに新聞社には書籍出版の利益もあり、たとえば読売新聞社は池田大作著『私の世界交友録』を出している。朝日新聞出版も元外務省主任分析官で作家の佐藤優の『池田大作研究』を、毎日新聞出版はジャーナリスト田原総一朗の『創価学会』などの創価・池田礼讃本を発行しており、いずれもベストセラーとなっている。

同様にテレビ・ラジオ局にも創価学会は、「創価学会」と「聖教新聞」のCMを流しており、地方局では創価学会提供による池田をPRする特別番組や池田を原作とする童話などが放送されている。

公明党が進めた損害賠償の高額化

こうした「アメ」の一方で、創価学会は自らに批判的な言論には抗議を繰り返すとともに、名誉棄損での民事・刑事での提訴や告訴を濫発することで知られている。しかも創価学会は、1999年に公明党が自公連立政権に参画すると名誉棄損の損害賠償の高額化を促進、国会の予算委員会や法務委員会では、当時の冬柴鉄三幹事長をはじめとする公明党議員が、法務省や最高裁に激しく損害賠償の高額化を迫った。

そうした背景をよく示すのが、2001年12月20日付聖教新聞の「マスコミの名誉棄損賠償金の高額化は『民の声』」と題する首脳幹部の座談会記事。

〈西口(総関西長) こんなデタラメの『言論の暴力』がまかり通っているのも『日本の損害賠償金が、まだまだ少ないからじゃないか』という指摘が多くある。

秋谷(会長) たしかに今年に入って、マスコミも「賠償高額化」の問題を、大々的に取り上げている。朝日も毎日も読売もそれぞれ特集記事を組んでいた。(中略)

西口 こんな「人権後進国」の日本じゃ、世界から信頼されるわけがない。軽蔑されるだけだ。

森田(理事長) 悪質な「言論の暴力」に、皆が、激怒しているな。まったく賠償金の高額化は、「民の声」「社会の声」「天の声」だよ。〉

ちなみにここで創価学会の首脳幹部が「言論の暴力」と叫んでいるのは、週刊新潮1996年2月22日号が掲載した「沈黙を破った北海道元婦人部幹部『私は池田大作にレイプされた』」と題する記事をはじめとする創価学会・池田批判のことである。当時、創価学会は、創価学会や池田を批判する週刊新潮や週刊文春、週刊現代、週刊ポスト、週刊実話などの週刊誌や月刊誌、そして執筆者のジャーナリストらに対して名誉棄損訴訟を濫発していた。

そこにはジャニーズ同様、マスコミ担当(渉外部長)が暗躍し、学会首脳陣も公明党にこうハッパをかけている。

〈森田 公明党は『人権を守る』党だろう? だったら、こういう人権侵害のマスコミの問題こそ、もっともっと国会で追及してもらいたい。責任者を国会喚問して、厳しく問い質すべきじゃないのか。与党とも野党とも協力して、断固、戦ってもらいたい。

秋谷 その通りだ。「言論の暴力」は、民主主義を破壊する元凶だ。「放置」は許されない。厳しく対処していくべきだ。〉(同21日付)

こうして、名誉棄損の高額化が図られるとともに、「池田大作保護法」とも揶揄された「個人情報保護法」の成立を公明党は推進し、新聞・テレビばかりではなく、創価学会・池田批判を展開していた雑誌ジャーナリズムを萎縮させることに創価学会は成功する。喜多川の性加害ならぬ池田レイプ事件などは新聞・テレビでいっさい報じられることはなく、また矢野絢也元公明党委員長が明らかにした、公益法人として税制上の優遇措置を受けている宗教法人・創価学会が、国税庁の税務調査を妨害するという宗教法人の適格性の是非に直結する重大な事案を、マスコミが報じることはいっさいなかった。

言論出版妨害事件と自公の保守独裁

創価学会は1969年から70年にかけて、明治大学教授で政治評論家の藤原弘達の『創価学会を斬る』をはじめ、毎日新聞記者・内藤国夫の『公明党の素顔』などに対する言論出版妨害で厳しい社会的批判を浴び、1970年初頭の特別国会では会長だった池田の国会証人喚問が取り沙汰された。

同年5月の本部総会で池田が言論出版妨害について謝罪し、創価学会と公明党の組織的政教分離を約束することで危機を脱した創価学会は、しかしその後も批判的言論への攻撃を止めることはなく、「アメ」と「ムチ」を駆使してメディアの創価学会批判を封じ込めてきた。その結果、日本社会に到来したのが、議会制民主主義が形骸化した無残な政治状況だったと言えるだろう。

言論出版妨害の被害者である藤原弘達は『創価学会を斬る』を執筆する動機としてこう書いている。

「自民党という政党の中にある右翼ファシズム的要素、公明党の中における宗教的ファナティックな要素、この両者の間に奇妙な癒着関係ができ、保守独裁体制を安定化する機能を果たしながら、同時にこれを強力にファッショ的傾向にもっていく起爆剤的役割として働く可能性も非常に多く持っている。そうなったときには日本の議会政治、民主政治はまさにアウトとなる」

実は、藤原はこうした状況が生まれる前提として1968年のソビエトのチェコスロバキア侵攻を枕に、次のような警鐘も鳴らしている。

「言論・出版の自由のないところに民主主義はありえない。(中略)私は、創価学会・公明党と誼しみを通じることによってしだいに筆を曲げていった多くの言論人や評論家の姿を知っている」「また商業主義に堕落した日本の一部マスコミは、この創価学会・公明党の圧力とファナティック(狂信主義)を恐れ、これをタブーとし、クサイものにフタをしてできるだけ批判を避け、ふれないようにふれないようにとしてきた事実もまた紛れもないところといわなければならない。こういう傾向こそ、まさに創価学会・公明党をつけあがらせ、目的のために手段を選ばないマキャベリスティックな行動を当然視させ、不当な圧力を自由なる言論にかける不遜な態度にださしめた背景であるといわなければならないのである」

いま喜多川の「鬼畜の所業」(東山紀之新社長)がようやく白日の下に晒され、厳しい批判が加えられている。しかし政治権力と金力を背景に、「民主主義の敵・自由な言論の敵」(藤原弘達)と化した創価学会は、いまもメディアの迎合・忖度そして萎縮に守られて政権の一角を占め続けている。

ジャニーズ問題が喜多川の死を待たねば明らかにならなかったように、齢95を過ぎ、いまや病床にあるといわれる池田大作の死を待たねば、この異常な日本の言論空間、政治状況に変化が生まれないとすれば虚しい限り。旧統一教会も含めて、ジャニーズ問題がメディアの体質を変える転換点となるかどうか。メディアの存在意義が問われている。

(本文中・一部敬称略)

(月刊「紙の爆弾」2023年11月号より)

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大山友樹 大山友樹

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