編集後記:白鳥がいなくなった栃木県塩谷町の飛来地

梶山天

11月になると全国各地の湖に白鳥の越冬のための飛来が始まる。私が朝日新聞記者最後の赴任地となった日光支局長時代(2016年5月~21年8月)に取材エリアである栃木県塩谷町船生のまるほ船場自然キャンプ村(現在閉業)のそばを流れる鬼怒川の一角に200羽近くが飛来し、ちょっとした観光スポットになっていた。

シーズンになると、報道やアマチュアカメラマンたちが朝日を浴びて優雅に舞う姿を写真に収めようと日の出前から寒さをこらえて集まった。

ふと最近懐かしくなって、もう一度望遠を使って撮影に挑戦してみようかと思い、白鳥の飛来期間中毎朝、餌を川にまくキャンプ村の管理人である手塚規正さん(82)と信賢さん(55)親子に連絡するがつながらず、塩谷町役場の知人に聞くと手塚さんが餌やりをやめ、白鳥も昨年ごろから飛来していないというから驚いた。

毎朝、川に餌をまく手塚規正さん。

 

一体何が起きたのだろう。いろんな想像をしてしまう。キャンプ村の周囲は、民家が立ち並んでいる。早朝に写真を撮るため騒がしくて眠れないという苦情が出たのではないか。あるいは、見物客の中にマナーをわきまえない人がいたのかもしれない。それとも高齢の手塚さんが体調を崩しているのか。真相はまだわかっていないが、残念で言葉が出ない。

手塚さん親子と白鳥の出会いは、2011年の暮れだった。2羽の白鳥が川に舞い降りてきた。親子はその優雅な姿に見とれ、えさを与えると喜んで食べた。そのうちに群れで来るようになった。7年後にはその数が157羽を記録した。

現地には、江戸時代に松尾芭蕉がこの地に来たこと記す案内板がある。芭蕉なら白鳥の優雅な舞をどう詠むか。そんな思いを抱きながら、レンズで白鳥たちを追った日々を当時の取材ノートを見ながら思い出す自分がいる。

19年2月5日午前5時、車で現地に向かう。到着すると、すでに20羽ほどが水面に浮いて羽を休めていた。川岸には防寒具に身を包み、白い吐息を履きながら三脚に望遠レンズを取り付けた十数人のアマチュア写真愛好家たちが次の飛来と着水の瞬間を待ち構えていた。

狙うのは、日光連山をバックに西の方角から朝日を浴びて飛来する白鳥たちの姿。数分後だった。

 

青空を見上げると、約10羽の群れが川の上を大きく円を描くように数回まわる。「コウ コウ」と声を出して、先にきている白鳥たちとなにやら交信しているのか。それともカメラを抱える人たちに朝の挨拶でもしているのか。

やがて水面に下りてくるその姿は、飛行場にジェット機が次々と着陸する風景のようだ。白い翼はしなやかで、美しく、それぞれ飛び方も違う。天女の舞のような美しさに、ついシャッターを押すのを忘れてしまいそうだ。

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

● ISF主催公開シンポジウム:WHOパンデミック条約の狙いと背景~差し迫る人類的危機~

● ISF主催トーク茶話会:小林興起さんを囲んでのトーク茶話会のご案内

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ