【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

イスラエルの「ガザ殲滅作戦」を考える――「神に許された国」と「神に許された民」に未来はあるか、番外編(下)

寺島隆吉

本記事は、http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-637.htmlからの転載になります。

国際教育(2023/11/21)

大イスラエル構想(Greater Israel)
ベングリオン運河計画(Ben Gurion Canal Project)
旧約聖書「申命記」7章1, 2節, 24節、「創世記」15章18~21-節

モサド(Mossad、イスラエルが「世界一」と誇る諜報機関・暗殺部隊」)
ハマス(Hamas、パレスチナ「ガザ地区」を拠点とするイスラム原理主義勢力)
ナクバ(Nakba、1948年のイスラエルによる「大厄災、大惨事」「民族浄化作戦」)
エフラット・フェニグソン(Efrat Fenigson、元イスラエルの女性諜報部員)
フィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi、コラムニスト、元CIA情報担当官)
ペペ・エスコバル(Pepe Escobar、ブラジル生まれの高名な評論家、英語も堪能)
ステファン・レンドマン(Stephen Lendman、ジャーナリスト2023年5月9日に死去)

イスラエルが目差している「大イスラエル構想」

 


一刻も早くブログの続き <「神に許された国」と「神に許された民」に未来はあるか、その3「アメリカによる色彩革命=クーデター>について書きたいのですが、雑事に追われて時間がとれません。
その一方で「神に許された民」(ユダヤ人国家)が「神に許された国」(アメリカ)の支援を受けて、「ガザ地区パレスチナ人」への虐殺が終わりません。そこで仕方なく、イスラエルの「ガザ殲滅(せんめつ)作戦」を考える(続)――「神に許された国」と「神に許された民」に未来はあるか、番外編その3を書くことにしました。


ところが、そう思っていた矢先に、せっかく中国主席の習近平(シー・ジンピン)が重い腰をあげてアメリカを訪問したというのにバイデン大統領がその中国主席を「独裁者呼ばわり」するという珍事が起きました。
そんな失礼なことを会談直後の記者会見で言うくらいなら、初めから習主席をアメリカに招待しなければよいだけの話で、バイデンという人物の世界的評価が一気に下落する事態となりました。こんな人物を大統領にいだいているアメリカに未来はない、と誰しも思ったのではないでしょうか。
このことを報じたのが次の論評記事です。
* How Biden proved his incompetence at summit with Xi
バイデンは習近平との首脳会談でいかに無能を証明したか
18 Nov, 2023

この記事の副題は次のようになっていましたが、この記事には携帯で撮影したのであろう動画が付いていましたからブリンケン国務長官の困惑している表情をぜひ見ていただきたいと思います。
*“Even his own Secretary of State couldn’t help but cringe at the US President’s statements”
自らの国務長官でさえ大統領の発言には苛立ちを隠せなかった)(動画18秒)

かってプーチン大統領を「人殺し」と表して恥じなかった大統領ですから、当然とも言えますが、いまガザで「大量殺戮」「民族浄化作戦」を展開しているネタニヤフ大統領をバイデン氏はどう表現するのでしょうか。


ここで、もう一つ指摘しておきたいことは、首脳会談がおこなわれたサンフランシスコの現状です。
かつては「アメリカで一番美しい街」「花のサンフランシスコ」と言われていたサンフランシスコが、今ではホームレスが跋扈(ばっこ)する汚らしい街に変わっているからです。

*San Francisco’s Post-Apocalyptic Hellscape Is on Full Display in This Viral TikTok Video(サンフランシスコの黙示録的な地獄絵図がTikTokの動画で話題に
Nov 09, 2023 by Tyler Durden

私が1980年代に初めてアメリカを訪れたときのニューヨークも街路にゴミとホームレスが溢れていて実に危険で汚らしい街でしたが、それが今やサンフランシスコに変わってしまっています。
この記事にも動画(2分20秒)が付いていますので自分の眼で確認していただきたいと思います。

自分の国がこんなに荒れ果てているのに、それを建て直すためにお金を使わずに、ウクライナとイスラエルに惜しみない多額の援助をし続けているのがバイデン大統領なのです。
ところが皮肉なことにサンフランシスコで首脳会談がおこなわれるというので、慌てて街からホームレスを隠す作業を超特急でおこなったというのが次の記事です。

*San Francisco was ready to fix its main problem – not for Americans, but for Xi Jinping(サンフランシスコはアメリカ人のためではなく、習近平のために問題を解決する準備を整えた)
<副題>Homeless people suddenly disappeared from the Golden City’s streets ahead of a major international summit(国際サミットを控えた黄金の街から突然ホームレスの姿が消えた
Nov 14, 202

かつて、東京のあちこちで公園に野宿者のための青いテントが目立っていました。日本でも同じことがおこなわれた結果でしょうか、今はその光景が消えました。かれらはどこへ行ったのでしょうか。
岐阜でも「コロナ騒ぎ」のなかで橋の下に寝泊まりしていた野宿者が大学生とその友人に殴り殺された事件が起きました。そんな事件でも起きないと野宿者の姿が私たちの目に留まることはなくなったようです。


話がかなり横道に逸れたので、本題のイスラエル軍による「ガザ殲滅(せんめつ)作戦」に戻ります。
イスラエル軍は「モサド」をもっています。その情報機関がイスラム原理主義勢力「ハマス」の奇襲攻撃に気づかなかったことはあり得ないことです。
ですから私がこのニュースを聞いたとき、直感的に「これは第2のパールハーバーだ」と思いました。というのはアジア太平洋戦争のとき日本軍はパールハーバーに奇襲攻撃をかけ大成功を収めたとされましたが、後の研究では奇襲攻撃は米軍に察知されていました。
しかし米国政府は国民が第1次世界大戦に懲りて反戦気分に満ちていましたから、この気分を変えるためには何かのショックが必要でした。そこで「真珠湾」を攻撃させ国民の怒りをかき立てることにしたわけです。
つまり一種の「やらせ」だったわけですが、この作戦はみごとに成功し、日本政府はまんまとアメリカの罠にはまりました。
同じことがイスラエル軍とイスラム原理主義勢力「ハマス」にも起きたのではないかと私は思ったのです。
この私の仮説を裏付けする情報がないかと探していたら、次の論考を見つけました。それは次のものです。

*Is the Gaza-Israel Fighting “A False Flag”? They Let it Happen? Their Objective Is “to Wipe Gaza Off the Map”?(ガザとイスラエルの戦闘は「偽旗」か?彼らがそう仕向けた?彼らの目的は「ガザを地図上から消し去ること」?)
November 04, 2023 By Philip Giraldi and Prof Michel Chossudovsky

これはフィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi )という元CIA情報官とオタワ大学名誉教授チョスドフスキーの共著論文で、かなり長いものですが、その途中でエフラット・フェニグソン(Efrat Fenigson)という女性の発言が引用されています。
その小見出しは次のようになっていました。
*This was Not a “Surprise Attack”(これは「奇襲攻撃」ではなかった)

元イスラエル軍の情報機関に25年間つとめたという人物の証言ですから、信用性がありますし、しかも証言ビデオ(5分弱)までも付いていました。
しかも副題は次のようになっていて、その一部が文字起こしされていましたから、以下節で改めて、それを紹介したいと思います。

元イスラエル諜報部員エフラット・フェニグソン(Efrat Fenigson)の衝撃的告発!

「猫が一匹、国境のフェンスを歩いただけでも緊急出動するイスラエル軍が今回はなぜ!?」

 


さて、この元イスラエル諜報部員エフラット・フェニグソン女史は、このハマスによる奇襲攻撃について次のように語っています。

*This was Not a “Surprise Attack”(これは「奇襲攻撃」ではなかった)

私は25年前、イスラエル国防軍の情報部隊に所属していました。イスラエルがこの事態を知らなかったはずがありません。
一匹の猫が国境フェンスの横を移動するだけでも全軍の発動を引き起こします。であるにもかかわらず、どうしてこんなことが?
「世界最強の軍隊」に何が起こったのか?
なぜ国境が開かれていたのか?何かがとても変です。この一連の出来事はとても異常で、イスラエルの防衛システムにとってあり得ないことです。
だから私には、この奇襲攻撃は計画された作戦のように思えます。あらゆる点で。
私が陰謀論者なら、これは「闇の政府 ディープ・ステート」の仕業だと言うでしょう。
イスラエルとパレスチナの民衆は、またしても上層部の権力者に欺(だま)されたような気がします。

御覧のとおり、イスラエル軍は自分を「世界最強の軍隊」と自負していますし、その諜報機関「モサド」も、「世界最高の情報機能」を誇っています。
そして「たった一匹の猫が国境のフェンスに沿って歩いただけでも、全軍が即座に警戒行動に移る体制になっている」と言います。
にもかかわらず今回のハマスによる奇襲攻撃は何の行動も呼び起こさなかったわけです。だとすると、ハマスの行動は「やらせ」以外に考えられないと彼女は言っているのです。
だからこそ、元CIA情報官フィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi)とオタワ大学名誉教授チョスドフスキーの共著論文の題名は次のようになっていたのでしょう。

*Is the Gaza-Israel Fighting “A False Flag?(ガザとイスラエルの戦闘は「偽旗」か?)
*They Let it Happen? (イスラエル軍がハマスにそう仕向けた?「やらせ」だったのか?)
*Their Objective Is “to Wipe Gaza Off the Map?(彼らの目的は「ガザを地図上から消し去ること」だった?)

ちなみに、上記の論考にはエフラット・フェニグソン(Efrat Fenigsonn)が運営しているブログへのリンクが貼られていて、彼女からのメッセージをもっと詳しく視聴できるようになっていました。
そこで、そのサイトを開いてみると、顔を見ながら彼女のメッセージを視聴できるだけでなく、そのメッセージが全文、「文字起こし」してあったので驚きました。時間と興味のある方は、ぜひ覗いていただければ幸いです。
https://efrat.substack.com/p/israel-hamas-war-an-update(動画6分50秒)

フィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi、コラムニスト、元CIA情報担当官)

 


元アメリカCIA情報官フィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi)は先述のチョスドフスキー(Michel Chossudovsky)との共著論文とは別に、次のような氏独自の別の論考も書いています。

*Gaza Strikes Back. It’s Another 9/11 or Pearl Harbor but Who Actually Did What to Whom? “This Was More Likely a False Flag Operation”(ガザの逆襲。それは、もうひとつの9.11か真珠湾攻撃だ。が実際には誰が誰に何をしたのか?「これは偽旗作戦の可能性が高い」

November 05, 2023 By Philip Giraldi

この論考の副題は次のようになっていました。
“As a former on-the-ground intelligence officer, I am somewhat convinced that this was likely more like a false flag operation rather than a case of institutional failure on the part of the Israelis.”(元現場で情報将校として働いてきた経験からすれば、これはイスラエル側の組織的失敗のケースというよりも、むしろ偽旗作戦であったと確信している。)

この副題からも分かるように、ジラルディ氏自身も、先に紹介したエフラット・フェニグソン女史と同じく、軍の情報機関で働いた経験があり、彼女と同じ結論に達しているのです。
しかし、元CIA情報官ジラルディ氏や元イスラエル諜報部員フェニグソン女史の主張を傍証する、もうひとつの情報があります。それを伝えたのが次の記事でした。
*Israel bombing ‘everything but Hamas in Gaza’ – Jackson Hinkle (イスラエルは『ハマス以外』のすべてを爆撃
27 Oct, 2023

これは「ハマス」がイスラエルにとって貴重な「軍事的資産」であったことを示しています。口では「テロリスト集団を殲滅する」と言いながら、それを存続させているのは、やはり利用価値があるからでしょう。
表向きはパレスチナ自治政府を担っているとされるアッバス議長が、「ガザ地区を実効支配しているハマスを解体して、西岸地区だけでなくガザ地区の管理も私に任せてください」と提案したとき、それをネタニヤフ首相は即座に拒否したことも、興味深い事実です。
やはり「ハマス」にガザ地区を管理させておくことは、ネタニヤフ氏にとって、それなりに価値のあることなのでしょう。


さて話が少し横に逸れたので、元の話題に戻ります。
先述のように、ジラルディとチョスドフスキーの共著論文は、その長い題名の最後は下記のようになっていました。
*Their Objective Is “to Wipe Gaza Off the Map?(彼らの目的は「ガザを地図上から消し去ること」だった?)
では、この「ガザを地図上から消し去ること」とは何を意味するのでしょうか。
そこでイスラエルの歴史を調べてみると、イスラエルは一貫して「ガザどころかパレスチナそのものを地図から一掃することを目指してきたことが分かりました。」
それを、この共著論文は新しい小見出し「ネタニヤフ首相の “新たな舞台”」を付けて次のように述べています。

Netanyahu’s “New Stage”“The Long War” against Palestine(ネタニヤフ首相の 「新たな舞台」、パレスチナに対する「長い戦争」)

ネタニヤフ首相の掲げる目的は、パレスチナ人に対する75年戦争(1948年のナクバ以来)の新たな段階を画するものであり、もはや「アパルトヘイト(人種隔離)」や「分断」が前提ではない。
この新たな段階は和平を望むイスラエル人に対しても向けられているが、パレスチナの人々を自らの土地から「完全に排除する」だけでなく、「徹底的な領土化」を目指すものである。
ネタニヤフ首相は2023年1月に次のように宣言している。
「これが私の率いるイスラエル政府の基本路線だ。ユダヤ民族は、イスラエルの土地のすべての地域に対する排他的で疑う余地のない権利を有する。政府は、ガリラヤ、ネゲブ、ゴラン、ユダヤ、サマリアなど、イスラエルの土地のあらゆる場所での入植を推進し、開発していく」

つまりネタニヤフ氏は、「我が政府の基本政策は、パレスチナの土地から全ての住民を徹底的に追い出してイスラエルの領土にすることを目差すものだ」と宣言したのです。
しかも、「これはパレスチナ人だけでなく平和を望むユダヤ人も念頭においた宣言だから、イスラエルに住むユダヤ人もそれ相当の覚悟をしてくれ」との要請または脅迫でもあったわけです。


もうひとつここで注目しておきたいことは、ネタニヤフ首相の掲げる目的が「1948年のナクバ以来」の、パレスチナ人に対する「75年戦争の新たな段階を画するもの」とされていることです。
ここで言う「ナクバ」とは、今までイギリスの委任統治領だったパレスチナの地に、ユダヤ人が一方的にイスラエル建国宣言をして、イスラエル軍によって70万人のパレスチナ人が強制的に追放されたことを指します。
最近では権力にたいする追従記事を書くウィキペディアでさえ、このナクバについて次のような説明をしています。
ナクバの基礎をなす一連の出来事は1948年の第一次中東戦争中およびその直後に発生した。
すなわち、イギリス委任統治領パレスチナの78%がイスラエルとして宣言され、70万人のパレスチナ人が追放されたこと、
500以上のパレスチナ人の村落がイスラエル軍によって破壊され、地名の変更が行われたこと、
さらに。難民の帰還権を否定されたこと、恒久的な難民の形成、パレスチナ社会の破壊などである。
ベニー・モリスやイラン・パッペなどの歴史家やサルマーン・アブー・シッタなどのナクバの研究者は、このようなパレスチナ人の排除は「民族浄化」にあたるとしている。

このようにパレスチナ人は1948年に「イギリス委任統治領パレスチナの78%」を奪われ、その帰還権も否定されて70万人が難民となったわけです。
が、残された28%の領土も決して安泰ではありませんでした。その後もイスラエルによるパレスチナにたいする侵略は止むことがなかったからです。次の地図を見ていただければお分かりのように、パレスチナの領土は奪われる一方で、見るも無惨な状態です。


しかし、ハマスによる奇襲攻撃を口実とした今度のイスラエル軍の総攻撃は、「第2のナクバ」になりかねない勢いと規模をもっておこなわれています。
いつもはアメリカに遠慮してはっきりものを言わない国連事務総長すら、ロイター通信によれば(11月8日)次のように発言しています。

国連のグテレス事務総長は11月8日、パレスチナ自治区ガザにおける民間人の死者数は、イスラム組織ハマスに対するイスラエルの軍事作戦の「何かが間違っている」ことを示しているという認識を示した。
グテレス氏はロイターネクストで「人間の盾」戦術を利用する「ハマスにも違反はある」としつつも「軍事作戦で殺害された民間人の数を見れば、明らかに何かが間違っている」と語った。
人道危機にさらされているパレスチナ市民の悲惨な映像は「世界的な世論という点でイスラエルに有益ではない」とし「イスラエルの利益に反しているとイスラエルが理解することも重要」と述べた。(中略)

10月7日に起きたハマスのイスラエル奇襲によって1400人が殺害され、240人超が人質となった。ガザ当局によると、その後のイスラエルの攻撃でこれまでに1万0569人が死亡し、そのうち40%が子どもという。
グテレス氏はガザでの子どもの犠牲について、国連が毎年確認している世界の紛争による子どもの死者数をはるかに上回っているとし、「数日間に何千人もの子どもが殺されている。これは、軍事作戦のやり方に明らかに何か問題があることを意味している」と改めて述べた。
イスラエル作戦に「何らかの誤り」、ガザ死者数が示唆=国連総長

イスラエル軍はガザ最大の病院すらも爆撃する残酷さです。
民間人や民間施設を爆撃することは明らかに「戦争犯罪」ですが、ネタニヤフ氏にしてみれば、「このような攻撃をしない限りパレスチナ人は、自分の領土を放棄して脱出しないだろう」と考えているのかも知れません。
その証拠に、最近あきらかになったイスラエル軍の機密文書は、「ガザの230万人をエジプトのシナイ半島に追放するという計画」があったことを示しています。次の記事を御覧ください。

* Leaked Israeli Intelligence Ministry Document Proposes Complete Ethnic Cleansing of Gaza(漏洩したイスラエル情報省の文書、ガザの完全な民族浄化を提案
October 30, 2023 by Dave DeCamp

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すでに述べてきたように、今度のイスラエル軍による大虐殺は「第2のナクバ」をめざしたものではないかと多くのひとに思わせるほど凄まじいものです。
しかも恐ろしいことに、イスラエルという国はこのような「民族浄化」をおこなう権利を神から与えられていると、ネタニヤフ氏は考えているらしいのです。先述のように、ネタニヤフ首相 は2023年1月に次のように宣言していたからです。

これが私の率いるイスラエル政府の基本路線だ。ユダヤ民族は、イスラエルの土地のすべての地域に対する排他的で疑う余地のない権利を有する。政府は、ガリラヤ、ネゲブ、ゴラン、ユダヤ、サマリアなど、イスラエルの土地のあらゆる場所での入植を推進し、開発していく。

しかも、このような権利は、旧約聖書(申命記7:1-2,24)に書かれているとおり、「ユダヤ民族に神から与えられたものだ」と言うのです。このことを明確に指摘しているのが高名な評論家ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)の次の論考です。

*Nakba 2.0 Revives the Neocon Wars(ナクバ2.0がネオコン戦争を復活させる
October 30, 2023、Pepe Escobar

この論考の最終部分でエスコバル氏は次のように述べています、少し長くなりますが引用します。

・・・。
一方で復讐心に燃え、ナルシストで、政治的欺瞞と道徳的免罪の達人である征服者の部族(ユダヤ人国家イスラエル)は、その「ナクバ2.0」を固めることに深入りしている。
それはガザ沖のガスを不法に食い尽くすための完璧な解決策でもある。
230万人のパレスチナ人に影響を及ぼすイスラエル情報省の国外追放指令は極めて明確だ。それは10月13日に同省によって公式に承認された。
それはガザ北部からすべてのパレスチナ人を追放することから始まり、連続的な「陸上作戦」が続き、ラファのエジプト国境を越えるルートを空ける。
そして、エジプトのシナイ半島北部に「テント村」を設立し、その後はエジプトに「パレスチナ人を再定住させる」ための新しい都市さえも設立する。

御覧のとおりイスラエルの情報省は密かに「パレスチナ人の国外追放指令」を策定しているというのです。そしてエジプトにパレスチナ人を移住させ、空いた土地をイスラエルが領有するということです。
これは、同時にガザの沖合に発見された天然ガスを発掘するという裏の計画とも連動しています。パレスチナ「ガザ地区」が存在する限り、その領海に存在する「液体天然ガス」の海底油田に手を出すことができないからです。
次の地図はガザとイスラエルの近海に存在する油田の地図です。


この地図は、次の論考に載っていたものを借用したものです。これを見れば、いかにイスラエルがパレスチナ全土から住民全てを放逐したかの理由が分かるのではないでしょうか。
*Ben Gurion Canal Behind Canada-US Motive for Backing Israel’s Genocide(イスラエルの大量虐殺を支援するカナダとアメリカの動機の背後にあるベングリオン運河

November 13, 2023、Truthbomb Media
上記論考の題名に「ベングリオン運河計画」というものが出てきますが、これについては、後で詳しく説明するつもりです。

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そこで、もう一度ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)による先述の論考に戻ります。なぜなら、自称「神に許された民族」が、1948年の「ナクバ1」以来、75年間にもわたって、なぜ傍若無人な行動を続けてきたのかを、氏は論考の末尾で、旧約聖書の「申命記」を引用しながら次のように説明しているからです。

さて、申命記7:1, 2, 24に戻ろう:
「ヤハウェはイスラエルに、“あなたたちよりも偉大で強い七つの民” を特定し、”滅びの呪いをかけなければならない”と告げ、
“いかなる憐れみも示してはならない” と告げた。
彼らの王たちについては、”あなたは天からその名を消し去るであろう”」

この「申命記」というのは、コトバンクによれば、「旧約聖書の〈モーセ五書〉の一つ。約束の地カナンに入る直前,モアブの地でなされたモーセの最後の説教」だそうですが、上で引用されているのは、その第7章の1節、2節、24節です。
また「ヤハウェ」というのは、「旧約聖書にあらわれるイスラエルの最高神」で、キリスト教徒が「エホバ」と読んでいるのは、旧約聖書の「ヤハウェ」を誤読したからだそうです。
それはともかく、御覧のとおり、イスラエルの神はユダヤの民に、「自分たちに刃向かうものは全て殺し尽くせ」「哀れみをかけてはならない」「自分たちより強い民の王を地上から消し去れ」と言っています。
まさにユダヤ教原理主義者のネタニヤフ首相が言っていることそのままです。「いまイスラエル軍がガザ地区でやっていることは、ユダヤの神が命じていることを実行しているだけだ」とネタニヤフ氏は言うに違いありません。
ところが調べてみると、このネタニヤフ氏がめざしている「民族浄化作戦」は、単にパレスチナ人を「ガザ地区」や「ヨルダン川西岸地区」から追い出してパレスチナ全土をイスラエルの領土にすることだけを目的にしているのではないということが分かりました。
ユダヤ教原理主義者がめざす目標はもっと遠大・宏大だったのです。というのは、旧約聖書「創世記」15章18~21-節には、次のように書かれているからです。

その日、主はアブラムと契約を結んで言われた、
「わたしはこの地をあなたの子孫に与える。エジプトの川から、かの大川ユフラテまで。
すなわちケニびと、ケニジびと、カドモニびと、
ヘテびと、ペリジびと、レパイムびと、
アモリびと、カナンびと、ギルガシびと、エブスびとの地を与える」(日本聖書協会

すなわち神はユダヤ人に「エジプトのナイル川から、西アジア最長のユーフラテス川まで」の広大な土地を与える約束をしたというのです。いわゆる「Promised Land約束の土地」です。
神は「これを目差せ」と命じているのです。
このことを実現するために、旧約聖書「申命記」では、「あなたたちよりも偉大で強い七つの民を滅ぼせ」と命じたようですが、ここでは滅ぼすべき対象として、「ケニびと、ケニジびと、カドモニびと」など、10の民が指定されています。

これが現在のどの国をさすのか分かりませんが、著名なジャーナリスト=ステファン・レンドマン(Stephen Lendman)の論考は、次のような地図を載せています。
(これは本ブログの冒頭に載せたものですが、読者の便を考えて、ここに再掲することにしました。)

*What Israel Fears Most: An Encroachment to “Greater Israel”?(イスラエルが最も恐れるもの:「大イスラエル」への侵食?)
December 12, 2017 By Stephen Lendman

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この地図を見ていただければお分かりのように、「大イスラエル構想」は、旧約聖書「創世記」15章18~21-節で書かれているように、「エジプトのナイル川から、西アジア最長のユーフラテス川まで」の広大な土地を占めています。
しかも、このイスラエルによる「民族浄化作戦」は、レンドマン論考の題名にもあるとおり、「大イスラエル構想」と呼ばれていることが分かります。つまり、旧約聖書で約束された宏大な領地「大イスラエル」を実現しようという計画です。
それにしても、旧約聖書で約束された土地だから、そこにパレスチナ人という先住民がいても追い出す権利があるという考え方は、信じがたいものです。

このように考えると、旧約聖書は、なんという恐ろしい文書でしょうか。
いくらユダヤ人が「神に許された民」だからといっても、それは旧約聖書に書かれているだけに過ぎないのですから、それを根拠にひとの土地を奪ったりひとを殺しても許されるというのは、現代の国際法や人権感覚からすると、許されざる「戦争犯罪」でしょう。

しかし、このような恐ろしい行動をとるネタニヤフ政権あるいは歴代のイスラエル政府をアメリカの歴代政権は支持し続けてきたのです。
アメリカも、自称「神に許されてきた国」として、インディアンと呼ばれる先住民を強制移住させたり殺し尽くしたりしてアメリカという国をつくってきたのですから、「亀は甲羅(こうら)に似せて穴を掘る」「同類(どうるい)相(あい)憐(あわ)れむ」というべきなのでしょうか。

<追記>
ゆとりがあれば、イスラエルが密かに目論(もくろ)んでいる「ベングリオン運河計画」についても説明する予定でした。
が、載せたいことが多すぎてその取捨選択に困り、このブログを書くのに三日もかかり疲れてしまいましたので、今回は断念することにしました。
そこで、その密かに計画されてきた運河計画の地図だけでも紹介しておこうと考え、それを以下に載せておくことにしました。
これを見れば「ガザ地区」住民の存在がその計画遂行にとっていかに障害になっているか、「大イスラエル構想」がいかに必要かが分かってもらえると思います。住民を「追放」または「殲滅(せんめつ)」したいもう一つの理由です。

<ベングリオン運河計画の予定ルート>

 

 

 

本記事は、百々峰だより からの転載になります。

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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