【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

「神に許された国」と「神に許された民」に未来はあるか

寺島隆吉

本記事は、http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-637.htmlからの転載になります。

国際教育(2023/12/02)
パレスチナ「ガザ地区」
イスラム原理主義集団「ハマス」
イスラエルのスパイ機関「モサド」
CIA(Central Intelligence Agency、アメリカ中央情報局)
FBI(Federal Bureau of Investigation、アメリカ連邦捜査局)
ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu、イスラエル首相)
ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts、元アメリカ財務次官)
コインテルプロ(COINTELPRO, Counter Intelligence Program、CIAの秘密作戦)
サルバドール・アジェンデ(Salvador Allende、チリ大統領、医学博士、元外科医)
フランク・チャーチ(Frank Church、民主党上院議員、「チャーチ委員会」委員長)
サイクロン作戦(Operation Cyclone、CIAがアフガニスタンでおこなった秘密作戦)
ムジャヒディン(mujāhidīn、イスラム聖戦士、「ジハードを遂行する者」)
ジョン・ピルジャー(John Pilger、ジャーナリスト、ドキュメンタリー映画監督)
ナオミ・クライン(Naomi Klein、ジャーナリスト、『ショック・ドクトリン』の著者)

ナオミ・クライン、現代の世界を読み解くための古典的名著


前回のブログの冒頭でも書いたように、ウクライナ紛争がゼレンスキーの負け戦で終わりそうな雰囲気が強くなっているところにパレチナのガザ地区をめぐって血生臭い攻撃が展開されました。
そこで、私の主宰する研究所が運営するサイト『翻訳NEWS』の「翻訳グループ」の皆さんに、幾つかの「緊急翻訳の御願い」をしました。しかし、これを簡単な解説を付けてブログで紹介しただけでは、読者の皆さんには非常に不親切ではないかと思い始めました。
そこで今回は、その補足を書くことにしました。
近刊予定『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻が11月26日に同時発売できる見通しがついたので、今まで書きたいと思って我慢してきた「野草・野菜・花だより」をやっと書けると喜んでいたのですが、それはやはり断念して、今日は「パレスチナとアメリカの未来」について書こうと決めました。


私は前回、次のように書きました。

さてパレスチナのガザ地区における双方の戦闘が口に出せないほど残虐であったことは調べれば調べるほど明らかになってきていますが、そしてバイデン大統領とネタニヤフ首相による「やらせ」であった可能性も、ますます強くなってきたようです。
しかしウクライナにおける敗北から世界の眼をそらせる作戦であったとしても、バイデン大統領がウクライナとパレスチナの双方を軍事援助することが可能かどうかは極めて怪しいと思われます。ゼレンスキーは見捨てられるかも知れません。

私は上で、今度のガザ地区の支配者とされる「ハマス」という集団がイスラエルの領土に奇襲攻撃をかけたことにたいして、「バイデン大統領とネタニヤフ首相による『やらせ』であった可能性も、ますます強くなってきた」と書きました。
しかし、なぜ「やらせ」だっと考えられるのか、これだけでは分からないだろうと思います。そこで更なる説明が必要になってきます。
これについては、すでに『翻訳NEWS』でいくつもの記事が載せられています。それを列挙すると次のようになります。

(1)Hamas’ Attack on Israel Is Puzzling
「ポール・C・ロバーツ :9-11偽旗作戦を彷彿とさせる、ハマスによる不可解なイスラエル攻撃」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-category-22.html(『翻訳NEWS』2023/10/13)
(2)Is the Gaza-Israel Fighting “A False Flag”? They Let it Happen? Their Objective Is “to Wipe Gaza Off the Map”?
「ガザ-イスラエルの戦いは「偽旗作戦」? 黙認? 目的は「ガザを地図から消去する」こと?」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2016.html(『翻訳NEWS』2023/10/15)
(3)The Israel-Palestine Conflict: Netanyahu’s “False Flag”, Connecting the Dots – and More
「イスラエル・パレスチナ紛争:点をつなげばネタニヤフによる「偽旗作戦」などの陰謀が明らかに」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2018.html(『翻訳NEWS』2023/10/16)
(4)Hamas’ terror attack on Israel was similar to 9/11 in more ways than one
「ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃は、さまざまな点で9/11に類似」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-category-30.html(『翻訳NEWS』2023/10/20)


御覧のとおり、今回のイスラム原理主義集団「ハマス」によるイスラエルの攻撃は、かつて2001年9月11日に、ニューヨークの世界貿易センターや国防総省ペンタゴンが旅客機で攻撃されたとする「911事件」との類似を指摘する論者が多いことが分かります。
たとえば、元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツは上の(1)で次のようなことを指摘しています。
まずロバーツ元財務次官は、この事件を聞いてすぐに浮かんでくる疑問を次のように列挙しています。

イスラエル・パレスチナ間の紛争について見解を聞かれる。確かにこの紛争は、ウクライナ・ロシア間の紛争から目を逸らせるもののように思える。
人々(つまり「注意を払っている人々」)が不審に思っているのは、なぜパレスチナの人々がイスラエルにこんな風な攻撃を仕掛けたのか、だ。
というのも、こんな攻撃を仕掛ければ、ネタニヤフ首相にパレスチナ人に残されていた僅かな土地を手に入れ、ガザ地区を破壊し、ひとつの国に2つの国家があるという問題を解決させる口実を与えることになるからだ。
パレスチナの人々がイスラエルの人々を殺し、人質に取ったのだから、イスラエルを非難できる人などいようか?

世界最高と言われるスパイ機関「モサド」をもつイスラエルが、なぜあのように易々とハマスによる攻撃を許したのか、疑問は尽きるところがありません。ロバーツ氏はさらにそれを次のように続けています。

パレスチナ側が背信行為をおこなったという公式説明は耳にしたが、攻撃そのものについての説明は聞いていない。この行為は背信行為以上のものだったはずだ。
読者の皆さんと同意見なのだが、私もハマスがイスラエル側の作戦にまんまと嵌(はま)ってしまったことを奇妙に思っている。
さらには、この攻撃について何か腑に落ちないところがあることについても、皆さんと同意見だ。
ドローンやあんなにも多数のロケットが、イランから、あるいはウクライナから、どうやってガザ地区に運び込まれたのだろうか?
さらには、ハマスの戦闘員たちはどうやってイスラエルに入ることができたのだろうか?

欧米諸国からウクライナに送られた武器の3割しか前線のウクライナ兵士に届いていないということ、その7割が「闇の武器市場」を通じて世界に拡散していることは、今や公然の秘密になっています。
アメリカやイスラエルは「ハマスに武器を援助したのはロシアかイランだ」と言っているのですが、イランが援助しているのはシーア派イスラム教の「ヒズボラ」であって、スンナ派の「ハマス」ではありませんし、ましてウクライナ戦で忙しいロシアがパレスチナに手を出すはずがありません。
ですからウクライナに送られた武器が闇市場を通じて「ハマス」に渡ったと考える方が自然でしょう。元国連WMD(Weapon of Mass Destruction大量破壊兵器)として名声を博したスコット・リッター(Scott Ritter:)も同じ考えであるようです。次の論考(4)は、アメリカの武器が世界各地のいわゆる「過激派」の手に渡っていることを幾つもの事例で例証しています。

(5)Scott Ritter: Are Hamas fighters using American weapons meant for Ukraine? (ハマスの戦闘員はウクライナ向けのアメリカ製武器を使用しているのか?)
https://www.rt.com/news/584413-hamas-fighters-us-weapons/
Oct 9, 202

もしそうだとしても、「ドローンやあんなにも多数のロケットが、ウクライナからどうやってガザ地区に運び込まれたのだろうか?さらには、ハマスの戦闘員たちはどうやってイスラエルに入ることができたのだろうか?」という疑問が残ります。
だからこそ、それは「黙認」「やらせ」だったのではないかという仮説が出てくるのです。ハマスによる攻撃が成功しなかったら、イスラエルはガザに攻撃をかけ、ガザの地からパレスチナ人を一掃する口実がつくれないからです。
日本海軍による「パールハーバー攻撃」が成功しなかったら、アメリカは日本を攻撃する口実をつくれなかったのと同じでしょう。この攻撃が成功したからこそ、反戦気分に満ちていたアメリカ国民を、「第二次世界大戦への参戦」に変えることができたのでした。

元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツ


支配者は自国民の命を犠牲にしてでも参戦の世論をつくりたがる、というのが元財務次官のポール・クレイク・ロバーツ氏の意見です。それは次のようなロバーツ氏の自問自答につながっていきます。

ハマスによる今回の攻撃は、9-11を彷彿とさせるものだ。
国家安全保障体制が確立している米国のどの組織も、不思議なことに、2001年9月11日の同時多発テロを防げなかった。それと全く同様に、米国がイスラエルのために設置した防空システムであるアイアン・ドームはじめ、イスラエルの国家安全保障体制も、不義なことに、全く機能しなかった。
さらに、おかしなことに、ハマスの戦闘員たちは全く発見されることなく、陸・海・空からイスラエルに侵入した。もっとおかしなことに、大量の武器が、全く検出されることなく、イスラエルをとおってパレスチナに運び込まれた。
こんな都合のいい落ち度があったとは到底信じられない。
イスラエル国内で安全保障面全般のこの落ち度についての責任を取らされる人が出てくるだろうか? 見ものだ。
米国でも、9-11の安全保障面での落ち度の責任を問われた人は誰もいなかった。この事実こそ、我々に様々なことを考えさせてくれるべきものだ。

イスラエルは、「モサド」というスパイ機関に象徴されるように、世界で最も防諜体制が整っている国だと言われていますが、そのイスラエルで、どうしてこんな不思議なことが起きたのでしょうか。
だからこそ何度も言うように「やらせ」だったのではないかという推測・仮説が出てくるわけです。それをロバーツ氏は次のように述べています。
分かる術がないので、推測するしかない。イスラエル側に動機はある。イスラエルはパレスチナ人たちの残された土地を盗み取れる。
それ以外の動機として考えられるのは、イスラエルがこの紛争をさらなる激しい戦争に拡大することにより、今度こそレバノン南部の水資源を手に入れることができるようになることだ。
さらに、このイスラエルの動きにより、シリアやイランは煮え湯を飲まされることになるだろう。石油価格が高騰し、世界に混乱をもたらすことになるだろうからだ。
戦争に勝利し、パレスチナ問題を終わらせることができれば、ネタニヤフが抱えている法的問題や政治問題が追及されることはなくなるだろう。
考えてみれば、イスラエル側の動機はたくさんある。

しかし、この攻撃を可能にした安全保障面での落ち度という点はどうなのだろう?  なぜネタニヤフは、イスラエルの警備体制を止めることによって、ハマスがイスラエルを攻撃することを可能にさせたのだろう?
そんなことを考えるのは意味のないことかもしれないが、イスラエルがこのような状況を利用して、残されたパレスチナの土地を手に入れられると考えれば、あながち意味のないことではない。
9-11後の状況が、ネオコンがかねてより準備していた中東への戦争を仕掛けられる状況を作り出したのと同じように。


上で見てきたように、ロバーツ氏は「911事件」がアメリカが中東へと侵略する口実になったと述べています。この当時、ブッシュ政権の支持率は極単に落ち込んでいましたが、この「テロリストを撲滅する戦争」を宣言することによって、一挙に支持率が上がりました。
それと同じように、現在のネタニヤフ首相は、このハマスによる攻撃以前には、彼の提案した司法制度改革案は国民の総反撃を受けて、支持率が急落していましたから、ハマスによる攻撃は勢力挽回の好機となりました。その事情は次の東京新聞(2023/01/24)の記事からも見ることができます。

昨年末に発足したイスラエルのネタニヤフ新政権が、最高裁などへの影響力拡大を図る司法制度改革案を発表し、弁護士グループや市民らが強く反発している。商都テルアビブなどでは10万人規模の反対デモが起き、エルサレムなど他都市へも拡大。「民主主義の危機だ」として改革の中止を求めている。
今月11日に発表された改革案には、
▽全国の裁判官を任命する「判事選定委員会」委員を11人に増やし、うち7人程度を政府が指名
▽同委員会の賛成多数で最高裁長官を決定
▽最高裁判事15人中12人の賛成で法律の無効化が可能—などが含まれる。
この結果、政府の影響力が強まり、司法の独立が脅かされる可能性が指摘されている。改革案には野党や弁護士グループらが強く反発し、発表後から各地で反対デモが拡大。21日にはテルアビブで10万人規模の集会が開かれ、集まった市民らが「民主主義を守れ」「ネタニヤフの独裁を止めろ」などと声を上げた。

この結果、イスラエル地元紙の世論調査では、改革への不支持が45%となり、現役の最高裁判事や検事総長、元最高裁長官なども公の場で反対意見を述べているほか、著名人や経済関係者の間でも反発が広がる事態となりました。
この記事は1月のものですが、デモや抗議集会はイスラエル全土に広がり、イスラエル軍兵士からも参加者が出るということにもなりました。パレスチナ人を弾圧する側にいたイスラエル軍からも抗議集会に参加する光景がRTニュースにも流れて、私はそれを興味深く視聴していました。
ですから、元財務次官ロバーツ氏の意見を自然に受け入れることができました。ネタニヤフ首相にとってはイスラエル軍の動きを、政権に対するものではなく、ハマスやパレスチナ人に対するものへと転換する必要に迫られていたのです。


さて以上のことから、ネタニヤフ政権がガザを攻撃したかった理由は理解できたのですが、問題は「あのようにハマスがなぜ易々と敵の罠(わな)に嵌(は)まったか」です。ロバーツ元財務次官も同じ疑問を次のように自問自答しています。

難しい問いは、なぜパレスチナ人たちがイスラエルを攻撃するという自爆的行為にふみきったかだ。ハマスにはイスラエルを打倒できる見通しなどなかったはずなのに。
このことも推測するしかないが、今回のことは初めから終わりまで全てイスラエルの工作だった可能性がある。
イスラエル工作員がハマス内部に潜入していたのかもしれない。ちょうどFBIがトランプ支持者や愛国者集団のなかに潜入して連邦議会への襲撃をあおり、彼らがテロリスト呼ばわりされるようになったのと同じように。

イスラエルの工作員たちは、イスラエルがパレスチナ人たちを迫害していることを大きく宣伝する。ネタニヤフ首相は神聖なモスク内にイスラエル警官を送り込み混乱を暴発させることで、その工作に手を貸す。
工作員らは、イスラエルの警備体制を妨害するためにイランからの武器や装置で可能になる攻撃計画を思いつく(そしてイランに罪を着せる)。
ハマス内部に潜入した工作員らは慎重にことを進める。その際、パレスチナの人々の積年の怒りや苦痛を掻き立て、無理だと考えるハマスの理性を押し殺し実行に踏み切らせるという見通しだ。

こんな推測で十分な説明がつく、などとは思っていない。だが、調査がおこなわれた結果、このような推測が、この先、展開されるであろうどんな公式説明よりもより真実に近いことが証明されたとしても、驚きはしない。

まず上で「イスラエル工作員がハマス内部に潜入していたのかもしれない。ちょうどFBIがトランプ支持者や愛国者集団のなかに潜入して連邦議会への襲撃をあおり、彼らがテロリスト呼ばわりされるようになったのと同じように」とあることに注目してください。
ここで「FBIがトランプ支持者や愛国者集団のなかに潜入して連邦議会への襲撃をあおり」とありますが、FBIがトランプ支持者や愛国者集団のなかに「潜入」したとするロバーツ氏の指摘に驚かれるかも知れません。
しかし、FBIのこのような活動(いわゆる「コインテルプロ」)はアメリカ史のなかでは何も珍しいことではありませんでした。そこで以下では、項を改めて、そのことについて少し説明したいと思います。


最近とみに権力寄りの説明をするようになったフリー百科事典『ウィキペディア』でさえ、この「コインテルプロ」について次のように説明しています。

コインテルプロ(英語: COINTELPRO, Counter Intelligence Programの略)とは、初代FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーによって開発された極秘プログラムである。
1956年から1971年まで、FBIが実施して実行した一連の違法かつ極秘行動で構成されている。
その目的には、アメリカ共産党、左翼、公民権運動の活動家、ブラック・パワー、フェミニスト主義団体などの国内の抗議グループや政治反体制団を混乱させることが含まれていた。
コインテルプロは「国家安全保障」の名の元に、州のテロとして実施された。FBIが行った違法行為は、交信や通信の傍受、放火、違法盗聴、殺人などであった。
FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーの指針は、FBI捜査官が「暴露」「不正行為」「誤解を誘発する」「信憑性を破壊する」という任務や、既存の社会的政治的秩序を維持するために、フーヴァーがアメリカの国家安全保障に対する脅威として掲げたあらゆる動きの「中立化」活動と指導者の動静を含んでいる。

ここで最後に「中立化」という言葉が出てきますが、これは個人や団体の「暗殺」や「破壊」を意味する隠語です。つまりFBIは「国家の安全」という口実で個人に対する暗殺までもおこなっていたのです。
ですから「トランプ支持者や愛国者集団のなかに潜入して連邦議会への襲撃をあおる」などという行為は、いわば当然の行為でした。そして、その結果として生じた「混乱」「死者」を理由に、その個人や団体を「テロリスト」と名付けて攻撃することも、初めから計画されていたことです。
その具体例としてウィキペディアは次のような例をあげています。

コインテルプロは、ベトナム戦争に対する抗議、マーティン・ルーサー・キング、アーネスト・ヘミングウェイ、チャーリー・チャップリン、ジェーン・フォンダ、そして数え切れないほどの人々、ジョン・レノンのような有名な人々への脅迫的な調査を開始するために使用された。
方法には、平和運動への潜入、盗難、電話盗聴、家宅浸入、一連の秘密の攻撃、違法行為などがあり、歴史家や研究者はこのプログラムに暴力や殺人に対する扇動が含まれていると主張している。1976年、フランク・チャーチ民主党上院議員が率いるチャーチ委員会によってFBIとコインテルプロの調査が開始され、その活動は違法とみなされた。

上の枠内では、「1956年から1971年まで、FBIが実施して実行した一連の違法かつ極秘行動で構成されている」と書かれています。
他方、下の枠内では「1976年、フランク・チャーチ民主党上院議員が率いるチャーチ委員会によってFBIとコインテルプロの調査が開始され、その活動は違法とみなされた」とあります。
このような叙述だと、「コインテルプロ」は1971年または1976年以降は「違法とみなされ」、現在おこなわれていないかのように見えます。しかし、元アメリカ政府の高官(財務次官)だったポール・クレイグ・ロバーツ氏でさえ、このような活動は現在も続いていると考えていることが、先述の引用から分かるはずです。

「チャーチ委員会」委員長フランク・チャーチ


このようなFBIによる活動は、FBIの工作員が相手組織の中にスパイとして入り込むのが一般的ですが、相手組織のなかの個人の弱みを握って脅迫したり金銭的に誘惑して工作員にしたてるという方法も珍しくありません。
その最も有名な例が12月4日、イリノイ州クック郡において、FBIが「ブラックパンサー党イリノイ州支部長」だったフレッド・ハンプトンの自宅を襲撃し、射殺した事件でしょう。この暗殺を手引きしたのがフレッド・ハンプトンのボディガードでした。
言語学者チョムスキーが、「ハンプトンは、ブラックパンサー党の中で最も才能があり前途有望な指導者の一人だった。ニクソン大統領のウォーターゲート事件は、この暗殺事件から世間の目をそらすという目的があった」と書いていたのを読んで、驚愕したことを思い出します。
左翼・リベラルと言われていたひとたちの多くが、コロナ騒ぎを機に変節してしまいましたが、チョムスキーもその一人だったことは残念至極です。しかし、そのチョムスキーが、かつては上のような発言をしていたことは、注目に値することだと思います(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻320-325頁)。

それはともかく、FBIと同じことを国外でおこなっていたのがCIAでした。その典型例が1973年9月11日におこなわれたチリのクーデターでした。
チリでは選挙によって南米で初めての社旗主義政権が誕生したのですが、これに危機感を感じたアメリカの石油大企業はCIAを動かして、サルバドール・アジェンデ大統領(医学博士、元外科医)を殺害し、この政権を潰そうとしました。
この事件は、2001年9月11日に起きたアメリカの「911事件」と違って、ほとんど知られていませんが、南米のひとたちにとって「911事件」と言えば、このチリのクーデターをすぐに思い出すほど有名な事件です。
私は数年前に先述の『肉声でつづる民衆のアメリカ史』という本の翻訳を依頼され、その翻訳の過程で、この事件の詳細を知ることになりました。その詳細は前掲書下巻315-320頁を参照いただきたいのですが、ウィキペディアですら。このクーデターについて次のように書いています。
フランク・チャーチは、1956年、上院議員に32歳の若さで当選する。(中略)
1973年、チリのサルバドール・アジェンデ政権崩壊を契機に、多国籍企業の活動が外交に与える影響が大きいとして上院外交委員会のもとに多国籍企業小委員会が設置されると小委員長に選出され、アジェンデ政権崩壊に関与した企業とCIA(中央情報局)の関係を追及した。
1974年、アメリカの資源外交とメジャーの癒着に関して石油メジャー15社を対象に公聴会を開催する。
1975年、CIAの内外における非合法活動が明るみに出た際、情報機関の活動を監督する「情報活動調査特別委員会」(こちらも通称は「チャーチ委員会」)が上院に設置されると同委員長を兼務し、
同年11月、CIAが5件の外国要人暗殺に関与したことを報告し、1978年に外国情報評価法の制定に寄与した。

これを読むと、「チャーチ委員会」が二つあったことが分かります。そしてFBIにたいする調査は(1976)、このCIAにたいする調査の後に(1975)おこなわれているのです。
しかしいずれにしても、アメリカが「コインテルプロ」という作戦を国内でも国外でもおこなっていたことだけは確かです。それは2014年のウクライナにおけるクーデターで、もういちど証明されることになりました。
この「2014年のウクライナにおけるクーデター」については、『ウクライナ問題の正体』全3巻で詳述しましたし、近刊『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻でも再論しましたので、ここではその説明を割愛しようと思ったのですが、そこでも述べたりなかったことがあることに気づきましたので、項を改めて再論させていただきます。

FBIの「コインテルプロ作戦」で暗殺されたフレッド・ハンプトン


CIAの悪行がチャーチ委員会で暴露されたあと、CIAは活動スタイルを変えました。
今まではチリでおこなったように軍部の一部を抱き込んで「軍事クーデター」という手段をとることが多かったのですが、転覆したい政府の軍部を使うのではなく、外部から呼び込んだ傭兵を使うというスタイルをとることにしました。
その典型例がアフガニスタンでした。アフガニスタンは1978年に社会主義政権になりました。その時の人権状況をウィキペディアの「アフガニスタン」ですら次のように書いています。

<人権>
アフガニスタン王国時代の1964年に制定された憲法では男女平等が謳われ、その後1970年代の社会主義政権時代はよりいっそうの世俗化を推し進め、女性は洋服を着て教育を受けており、都市部ではヒジャブやスカーフを被る人も少なかった。
1978年には医者の4割が女性、カーブル大学の講師の60%が女性であった。しかし、農村部の世俗化は進まなかったことと、その後の社会主義政権の崩壊と共にムジャヒディーンの勝利を経て1990年代にイスラム主義に回帰。純然たるイスラム国家であったターリバーン政権時代には女性の人権が著しく制限された。

このようにアフガニスタンは1970年代に世俗化と民主化が大きく前進したのですが、この社会主義体制を嫌ったアメリカは、CIAを使って政権転覆を謀ることになります。
このときにCIAが使った手段が、アフガニスタン内外からイスラム原理主義勢力を結集し、政権に軍事攻撃をかけさせるという「サイクロン作戦」でした。これについても、ウィキペディアですら次のように書いていて、私を驚かせてくれました。

サイクロン作戦(Operation Cyclone)は、アフガニスタン紛争中の1979年から1989年にかけて、ムジャヒディンに武器や資金の提供を行ったCIA(アメリカ合衆国中央情報局) の計画に対するコードネーム。
隣国パキスタンの支援を受けたのみならず、ソビエト連邦による侵攻の前から、アフガニスタン民主共和国政権と戦闘行為を行っていたイスラム武装勢力への支援を強力に推進した。
1980年に数億ドル、1987年には63億ドルもの資金を投入しており、CIAが極秘裏に行った作戦としては最長かつ最も費用のかかったものの1つであった。
アフガニスタン内戦中にムハンマド・ナジーブッラー率いるアフガニスタン人民民主党 (PDPA) と戦闘行為を行った1989年以後も、ムジャヒディンに対する資金提供自体は続くこととなる。

ここに登場する「ムジャヒディン」は、通常「イスラム聖戦士」と呼ばれているイスラム原理主義勢力ですが、この「ムジャヒディン」についてもウィキペディアは次のように述べています。

アフガニスタンのムジャーヒディーンには、アフガニスタンのみならずイスラム世界の各地から志願兵として若者が集まってきたが、その中心人物がアブドゥッラー・アッザームで、ウサーマ・ビン=ラーディンもその志願兵の1人だったということが知られている。

ここに登場する「ウサーマ・ビン=ラーディン」は「その志願兵の1人だった」と書かれていますが、単なる志願兵ではなく、その志願兵を主として中東から集める「まとめ役」でした。
日本では「ビンラディン」と表記されている人物は、サウジアラビア有数の富豪の一族に生まれ、CIAが「サイクロン作戦」を展開している間は、「聖戦士」「自由の戦士」と呼ばれていたのですが、後に「テロリスト」とされ暗殺されることになりました。
この経緯について述べていると長くなりすぎるので割愛しますが、いずれにしてもCIAが政権転覆活動として使う手段が、転覆しようとする政権の軍部を手なずけて軍事クーデターを起こさせる方法から、イスラム原理主義勢力などを使った新しい方法に変わったことだけでは分かっていただけたかと思います。

オーストラリア人の作家ジョン・ピルジャー

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アメリカはその後、その手段を使ってシリアのアサド政権の転覆活動を進めてきたのですが、このとき使われたのが「アルカイダ」のちに「ISIS」と呼ばれるイスラム原理主義勢力でした。
私がこのことを知ったのは、偶然に、ジョン・ピルジャー『世界の新しい支配者たち -欺瞞と暴力の現場から』(岩波書店2004)という本に出会ったからですが、そのときの驚きを次のブログに書きましたから、時間と興味があればぜひ参照ください。

* ジョン・ピルジャー「タリバンを育てたアメリカ」その1~3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-271.html(『百々峰だより』2016-09-30)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-272.html(『百々峰だより』2016-09-30)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-273.html(『百々峰だより』2016-10-03 )

このようにアメリカCIAは、クーデター(政権転覆活動)をおこうなう手段として、政権軍部を使う方法から、政権内部に反乱勢力を育てて「不安定化工作」をおこなうという方法に転換しました。
先述の「チャーチ委員会」によってCIAの悪行が暴露され、それを糾弾するアメリカ内外の世論があまりにも強かったので、戦術転換せざるを得なかったのでしょう。それについては、繰り返しになりますが、最近とみに権力寄りの叙述になっているウィキペディアですら次のように書いています。

チリ・クーデターの後、首謀者の一人であったピノチェトが「最年長だから」との理由で軍事評議会の委員長に就任。
その後、自らが創設して自らに直属する秘密警察DINAを使ってライバルを遠ざけ、独裁体制を固めた。

また、経済の知識のなかったピノチェトはフリードマン傘下の「シカゴ・ボーイズ」を経済顧問に迎え、それに盲従して「純粋な資本主義」「自由市場経済政策」を推進した。
その結果、中産階級は消滅し、ごく一部の富裕層と大多数の貧困層に二分される社会になった。アジェンデとは正反対の考え方の経済政策が、恐怖政治によってチリ民衆に押し付けられる結果となった。

それと併行して、アジェンデと同様の自主独立ナショナリズムがラテンアメリカに広がることを恐れた米国は、ラテンアメリカ諸国に対する恐怖の見せしめとして、また多国籍企業にとって都合のよい経済体制の国として、ピノチェト独裁政権を支援し続けた。 その17年に亘る軍事政権下で数千人(数万人という説もある)の反体制派の市民が投獄・処刑された。国外に避難した者は100人あたり2人程度と見積もられている。

このピノチェト独裁政権の残虐ぶりは、今では古典的名著とされているナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(岩波書店、2011)上巻第3章「ショック状態に投げ込まれた国々」に詳述されています。
上では「アジェンデと同様の自主独立ナショナリズムがラテンアメリカに広がることを恐れた米国は、ラテンアメリカ諸国に対する恐怖の見せしめとして、また多国籍企業にとって都合のよい経済体制の国として、ピノチェト独裁政権を支援し続けた」とあります。
事実、この恐怖政治はチリだけではなく、アルゼンチンやブラジルなどに次々と飛び火し、惨劇も広がっていきました。

クーデターで死に追い込まれたチリ大統領アジェンデ

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さて、軍事攻撃による「クーデター」という手段は、まさに「ショック療法」そのものですが、それが「チャーチ委員会」によって世に知られるようになってからは、内外の世論の批判が厳しくなり、CIAは次の手段を開発し始めます。
それが「カラー革命」「色の革命、花の革命」という戦術でした。その典型例がジョージア(旧名グルジア)における「バラ革命」2003、ウクライナにおける「オレンジ革命」2004でした。そしてウクライナにおける第2の「カラー革命」が2014年のクーデターでした。
これも大手メディアは「民衆革命」と褒めそやしていますが、『ウクライナ問題の正体』で詳述したように、実はこれも一種のク―デターでした。しかし、これを説明していると長くなりますので次回に回します。

しかし、ウクライナのゼレンスキー政権もピノチェトに劣らない独裁政治をおこなっていること、と同時に、その腐敗ぶりもますます暴露されつつあります。
その一端は『ウクライナ問題の正体』でも紹介しましたが、さいきん新たに次のような記事もEUで出るようになったこと(6)、ウクライナの地方裁判所が2014年のクーデターについて次のような画期的判決を出したこと(7)だけは紹介しておきたいと思います。

(6) Ukraine ‘one of the most corrupt countries in the world’– EU state’s PM(スロバキアの首相「ウクライナは世界で最も腐敗した国のひとつだ」)
https://www.rt.com/news/586060-slovakia-fico-ukraine-corrupt-budget/
Oct 28, 2023
(7)Maidan snipers: The founding myth of ‘new’ Ukraine has been proven to be a lie. Why is the West silent?(マイダン革命の狙撃手 :「新しい」ウクライナの建国神話は嘘だと証明された。なぜ西側諸国は沈黙しているのか?)
https://www.rt.com/russia/586192-maidan-snipers-ukraine-kiev/
31 Oct, 2023、By Tarik Cyril Amar

このような事実をふまえて、次回は、いよいよ「色の革命、花の革命」という先述および「イスラエルのガザ殲滅攻撃」に話題を移したいと考えています

本記事は、百々峰だより からの転載になります。

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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