イスラエルの「罪」を見逃してきた米国による「国際秩序」

木村三浩

パレスチナの実情を訴えるワリード・アリ・シアム駐日大使
 鈴木宗男議員の訪ロを非難する鵺政治家たち鈴木宗男参院議員が10月1日から5日にかけてロシアを訪問したことが、「ロシアを利する」と問題視された。

党に事前の届け出がなかったことを理由に、日本維新の会が除名処分を決定、鈴木氏は自ら離党した。鈴木氏はモスクワで、ロシア外務省のルデンコ次官やガルージン次官と会談。西側メディアの報道とは異なる現状を視察するとともに、日本のプレゼンスを示した意義は大きい。「隣国との外交は大切なんです。誰かが汗をかかなくてはならない」と鈴木氏はモスクワで語った。

島民の尊厳のため北方領土墓参再開を提案し、安全操業協定に基づく周辺での漁業の実現も訴えた。党益よりも国益である。北方領土、エネルギー、北洋漁業にしても、ロシアとのパイプを保持することが重要なのは言うまでもない。ウクライナに対する軍事行動についても、ロシア側に矛を収めるよう停戦の呼びかけを行なっている。岸田文雄首相がキエフで戦争支援を表明したのとは真逆だ。

日本政府がウクライナ復興費用として提供を表明した金額は約1.1兆円。世界銀行の15億ドル(約2250億円)の融資に対しても保証を約束した。自民党の小野寺五典元防衛相は鈴木氏に対し、「国際社会の中で、力により侵略して領土を取ることが肯定されてしまう。それが正しいことだというふうに受け止められてしまうのではないか」と非難したが、複雑な歴史的背景をまったく知らない浅薄な発言だ。

日本人全体がウクライナ寄りで、好戦性を示していると、国際社会で受け止められてしまうことこそ考慮しなければならない。

日本国民は、必ずしもNATO(北大西洋条約機構)の先兵となっているウクライナを支持しているわけではない。この戦争を長引かせて得をするのは誰か。政治家のポピュリズムは別として、心ある人々は、事態を冷静に見つつある。米国ですら、民主党・共和党支持者にかかわらず、ウクライナ支援に消極姿勢が見えている。

日本においては自民党から共産党まで、または保守からリベラルまで、米国の「ご意向」を最優先してきた。その結果が今の社会停滞だ。

日米関係を外交の基軸にするにしても、他の国とのパイプもなければ健全な独立国などとは言えない。ロシア側も、鈴木氏の訪問を歓迎しているが、普通の議員外交との受け止め方である。世界は今グローバルサウスを中心に「欧米脱却=ウクライナ離れ」が拡大してきていることも、鈴木氏を批判する政治家たちは知らないのだろう。まさに、自立心なき日本の鵺議員だ。

私も日本国内の報道ではわからない正確な実態を把握し、民間社会活動として交流を保つべく、10月中旬に開催されたヤルタ国際フォーラムに出席。長年交流のあるロシア自民党へも表敬訪問した。

イスラエルは国連決議を2度破った
 世界情勢を正しく把握したとき、すでに米国主導の独善的「国際秩序」がもたなくなっていることは明らかだ。今回のイスラエルに対するパレスチナ・ハマスの攻撃も、そこに起因しているのではないか。

再度地上軍の侵攻が行なわれようとしているガザ地区は、9州の福岡市より少し広いぐらいの地域だ。ここに230万人が押し込められている。ハマスはイスラエルの存在を認めない原理主義的な過激派だが、彼らの行動の前提には、打開の望めない絶望がある。それを、どこまで我々が理解できるかが、問われているのではないか。

ロシアの軍事行動に対して「力による現状変更」と非難する国際社会は、イスラエルの2度の国連決議違反を見逃してきた。第3次中東戦争後の1967年、占領地からのイスラエル軍の撤退とアラブ各国の主権・領土保全・政治的独立などを謳う国連安保理決議242号と、第4次中東戦争の停戦を定め、1973年に採択された同338号である。

10月18日には、国連安保理でハマスとイスラエル軍の「一時停戦」を求める決議案が採決され、日本など12カ国が賛成するも、常任理事国の米国が拒否権を行使して否決された。人道より大統領選が大事なのか、さすが軍需産業のダブスタ好戦国といえる。

パレスチナ紛争は昨日今日に起こった問題ではない。令和3(2021)年のイスラエルによるガザ攻撃直後の7月、我々が主催する「一水会フォーラム」で、パレスチナのワリード・アリ・シアム駐日大使が問題の根源を語っているので、ここに一部を紹介する。全文は「レコンキスタオンライン(https://reconquista.issuikai.jp/)」に再録している。あわせてお読みいただきたい。

 

パレスチナワリード大使の訴え
 まずワリード大使は、イスラエルがパレスチナ支配の根拠とする主張について、〈古代イスラエル王国も、パレスチナの地を侵略した、血塗られた帝国の1つであり、この土地をめぐる侵略と征服の歴史の1コマであったに過ぎません〉として、次のように指摘する。

〈モーゼがエジプトを出てユダヤ人を引き連れ、導いたのはパレスチナの地ではありません。地図を見れば一目瞭然です。モーゼはエジプトから紅海を渡って行ったとされていますが、エジプトから紅海を渡れば着くのはヨルダンかサウジアラビアです。〉

〈イスラエルの主張によれば、エルサレムには「古代イスラエル王国、ユダヤ教の神殿があった」とされています。「嘆きの壁」はその神殿の一部だというのですが、その神殿があったとされる場所には、「アル=アクサ・モスク」(注・ムハンマドが天使に伴われてここより昇天し、アッラーの御前に至ったとされる)があり、イスラム教の聖地とされる「ハラム・シャリーフ(聖域)」があるのです。イスラエル政府や熱烈な支持者は「神殿は確かに存在した」と主張し、岩のドームの真下を掘り進めてそこにあったはずの神殿の痕跡を発見しようと試みていますが、過去70年以上掘り続けて、考古学的な証拠は何ひとつ見つかっていません。〉

そして、イスラム教に基づく彼らの信念について、こう語る。

〈神が命じるのは「隣人を愛せよ」という共存共栄の教えです。それはどこの宗教も共通しているはずです。私たちはイスラエルの軍事占領には抵抗しますが、目指すべきはイスラエルとの「共存」です。〉

1993年、ノルウェーの仲介で両者の共存を目指したのがオスロ合意である。

〈パレスチナの土地、「78%がイスラエル領」とされ、パレスチナの領土としては22%しか残らない結果となりました。その22%の土地の中で、パレスチナ国家が建設されることになりました。その他にも、多くの「妥協」をパレスチナはしてきました。国の指導者はイスラエルと共存する事を決定し、その上で国家の建設を行なっていました。〉

しかし、パレスチナ国の建国も、イスラエルの合意地域からの撤退も、いまだ実現していない。そして、両者の間には武力的な不均衡も横たわる。

〈イスラエルは世界第9位の軍事国家です。巨額の軍事費と最新鋭の兵器技術、国民皆兵の動員力で中東地域でも第1位の軍事力を持っています。(イスラエル側の言う)弱小国ではありません。そしてイスラエルは核保有国でもあります。80発から200発の核兵器を保有しているといわれ、北朝鮮やイランよりも多く保有しています。〉

さらに、「パレスチナの実態はイスラエルに管理された『強制収容所』でしか」ないと、こう実態を語るのだ。

〈パレスチナ人の土地には、「テロ対策」という名目ですが、実際には入植地周辺やパレスチナ都市・農地等を分断する形で、「分離壁」と呼ばれる巨大な壁が建設されています。総距離は建設計画では700キロ以上という規模です。パレスチナ人の自由は制限されており、移動する際にもイスラエル軍の検問所を通過するしかありません。外国人も例外ではなく、長時間並んで、触れれば電流が走るゲートを潜らなくてはなりません。〉

国際紛争の報道には、バイアスが常にかかっている。それは日本でより顕著だが、我が国だけではない。10月10日、イスラエルメディアが「ハマスが乳幼児を“斬首”した」と報じ、米CNNもそれを伝えた。翌日にはバイデン大統領が、「テロリストが子どもの首をはねる写真を確認するようになるとは思いもしなかった」と述べている。しかし、12日にはCNNが、「イスラエル政府は確認ができないと発表した。もっと言葉に気をつける必要があった」と謝罪。

この種の“怪情報”は米軍需が関与する紛争に付き物で、世界はその胡散臭さにいいかげん愛想を尽かしている。ハマスに襲撃されたイスラエル民間人の凄惨な動画がSNSに流れているが、パレスチナ人が過去数十年、米国の支援を受けたイスラエル軍からいかに残虐な弾圧を受けてきたかも同時に知る必要がある。対症療法ではなく根治が必要なのだ。

我が国をかえりみれば、安全保障において自立志向は抑え込まれ、米国従属の集団安保体制が構築されてきた。しかし、世界が多極化する中、日本の主体性の確保、すなわち独立は、日本人自身のみならず、世界的要請ではないだろうか。

幸いにも、日本はイスラエル・パレスチナともに、決して悪くない関係を保ってきた。平和の構築のための行動とは、具体的に何を指すのか。今こそ国際的視点に立って考えるべきである。

(月刊「紙の爆弾」2023年12月号より)

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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