【特集】新型コロナ&ワクチン問題の真実と背景

【書評】宮沢孝幸『ウイルス学者の責任』 ―理系分野でも、対米従属の打破と日本独自の道の模索が必要(上)

嶋崎史崇

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はじめに:宮沢准教授の辞職表明
コロナ問題とワクチン問題について、現役世代の数少ない専門家として、常に大勢に異論を唱えてきたことで知られるのが、京都大学のウイルス学者である宮沢孝幸准教授です。ISFでも2023年9月に、「新型コロナワクチンの基礎知識」と題して、前後編の動画に出演してくださいました。
https://isfweb.org/columnist/%e5%ae%ae%e6%b2%a2%e5%ad%9d%e5%b9%b8/

その宮沢氏が10月末に、24年5月に60歳になるのをもって、大学を退職すると表明しました。以下の研究室公式サイトに、退職に当たっての挨拶文が掲載されています。
https://paleovirology.jimdofree.com/

まだ研究を続けたいのが本意であるが、ご自身が実践してきた情報発信が、大学側に最後まで理解されなかった、とのことです。再就職できるか、また完全引退するか、完全に未定、とあります。ところが一般メディアではこの事件はほとんど報道されておらず、わずかに関西基盤のスポーツ紙「デイリースポーツ」が伝えたくらいのようです。高度な施設が必要な実験系の研究者にとって所属を失うことは重大なことですが、それでも報道に値しない、という判断でしょうか。
「ワクチン問題告発の京大准教授が退職へ『大学から最後まで理解を得ることはかなわず』宮沢孝幸氏今後は『まったくの白紙』」、2023年10月31日。
https://www.daily.co.jp/gossip/2023/10/31/0016979353.shtml
他に、コロナ問題に詳しい右派系の雑誌『Will』2024年1月号に、宮沢氏へのインタビュー「京大辞めます―真相は…」が5頁にわたって掲載されています。

京都大学といえば、最近「新型コロナウイルスワクチンの接種によって、国内の2021年2〜11月の感染者と死者をいずれも90%以上減らせたとの推計結果」を発表した西浦博教授のような方もおられます。宮沢氏の退職と共に、宮沢氏の出身校でもある東京大学とは、一味違う批判精神で知られた京都大学は、益々体制寄りに傾斜してしまうのでしょうか。
日経:「新型コロナ、ワクチンで死者『9割以上減』京都大学推計」(共同通信の配信記事)、2023年11月16日。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF169CN0W3A111C2000000/

なお西浦氏の主張に対しては、情報分析の専門家である掛谷英紀・筑波大学准教授から、疑問が提出されています。
https://www.youtube.com/watch?v=pZxRcv2hAyw
柳ケ瀬裕文参院議員のユーチューブチャンネル:「ワクチンなしで36万人死亡⁉掛谷英紀氏が西浦論文へ反論!⚡12月1日のやなチャン!」、2023年12月1日。

宮沢氏のように異論を唱える専門家が表舞台から排除されてしまうのは、「科学の政治化」という動きの表れではないでしょうか。
塩原俊彦「『知られざる地政学』連載(2) マスメディアの罠と『科学の政治化』に気をつけて(下)」、2023年9月9日。https://isfweb.org/post-27143/

宮沢氏は専門分野において豊かな実績を持つのみならず、テレビ出演や一般向け書籍の刊行を通じて、社会に対して広く知見を伝えてきました。テレビについては、地上波の「そこまで言って委員会NP」で、新型コロナウイルスのオミクロン株は人工的につくられたと考えるのが合理的、という解析結果を解説して、衝撃を与えました。
https://twitter.com/i/status/1710902140628255158

今回取り上げるのは、そんな宮沢氏の著書の中でも、彼の研究者としての姿勢の根本を知
ることができる『ウイルス学者の責任』(PHP研究所、2022年4月)です。

 

第1章 国の過ち
第1章では、著者が当初からコロナ禍をどう見ていたのかについて、22年初頭の時点の視点から、回顧されます。宮沢氏の名前が一般に広く知られるようになったきっかけが、所謂「100分の1作戦」です。感染が成立するには、一定量のウイルスが必要になるので、手洗い、マスク、換気等の措置によりウイルス量を100分の1に減らせば、コロナに十分対応できる、という理論です(20頁以下)。日本ではPCR検査で陽性になることが重大視されました。けれども、陽性=何らかの症状が出ており、他者に感染させうるということではなく、「ウイルスの数が少なければ、他人にウイルスを感染させることはない」(33頁)はウイルス学者の常識であるとされます。この事実が、尾身茂氏をはじめとする医師らの常識ではなかったことが、いわゆるコロナ騒動という悲喜劇の大元だったのかもしれません。「専門家会議のメンバーは、ウイルス学については素人ばかりではないか」(59頁)という著者の述懐は、今から振り返っても衝撃的で、日本の英知が実地で生かされなかったことを意味するといえるでしょう。

「新型コロナウイルスは、インフルエンザより感染拡大力が弱い、季節性の風邪のウイルスの1種であるが、高齢者や基礎疾患を持っている人では重症化するウイルス」(66頁)という理解は、一般メディアを視聴しているだけでは、なかなか信じ難いかもしれません。けれども、本書執筆時点での新型コロナの実効再生産数1.7や、相対的に低い致死率といった統計的事実に鑑みると、反論し難い見方だと思います。新型コロナは、風邪の原因となる従来型コロナと同様のコロナウイルスですので、「風邪の予防対策プラスα」(65頁)で十分だった、という知恵も斬新に聞こえます。

先に言及した西浦氏は、実効再生産数を2.5とした数理モデルに基づき、「人と人の接触を8割減らす」ことを提唱しました(37頁)。2020~21年に繰り返し発令され、社会・経済に多大な影響を及ぼした緊急事態宣言の基礎となった考え方である、とみることもできるでしょう。それに対して宮沢氏は減らさなくてはいけないのは「ウイルスと人の接触」であると指摘し(37頁)、「飲みに行ってもいいので、どんちゃん騒ぎはやめましょう」「みんなと食事をするときは換気を徹底して下さい」(42頁)といった、一律の人流抑制とは異なるこまやかな知恵を出していました。特に換気については、もしワクチンやマスクに充てた予算を、映画館や焼き肉店並みの換気を広く導入するのに使っていたらどうなっていたのか、検証が必要ではないでしょうか。

きめこまかな対策という点では、宮沢氏は早くから、全国民に巣ごもりを強いるような
政府・自治体の方針に対して、「目玉焼き(同心円)モデル」を提唱していました。これは繁華街など、同心円の中心にいるとされる、実効再生産数が高い場所では重点的に対策をするが、一般の生活者に対しては過度な対策を求めない、という段階的な措置を提言するものでした(46頁以下)。

以上で見たようなウイルスの特性を見極めず、一律に過剰な自粛を求め、社会と経済に多大な損害を与えてしまったことが、「国の過ち」だった、と私は解釈しています。

 

【書評】宮沢孝幸『ウイルス学者の責任』 ―理系分野でも、対米従属の打破と日本独自の道の模索が必要(下)に続く

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嶋崎史崇 嶋崎史崇

しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。ISF独立言論フォーラム会員。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文は、以下を参照。https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 mla-fshimazaki@alumni.u-tokyo.ac.jp

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