「基地反対」で再選の朝日新聞出身市長が容認 岸田大軍拡の最前線 馬毛島基地建設の現場

浅野健一

『マゲの島から吹く風』(「馬毛島を守る鹿児島の会」)より
「基地経済に依存しない町づくりを推進することにこそ、持続可能な社会への希望がある。基地経済に頼った地域の発展は基地機能の強化の度合いに比例し、同時に、他の資源利用を妨げることから、一度踏み入れば引き返せなくなる恐れがある」

2020年10月7日、この極めてまっとうな所信表明を行なったのは、玉城デニー沖縄県知事ではなく、鹿児島県の種子島北部を占める西之表市の八坂俊輔市長(2期目)である(以下、肩書は当時)。

八坂氏は同市出身で、1977年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、朝日新聞社に入社。社会部記者や熊本総局長などを経て2012年に退社後、2017年3月に市長に初当選した。

西之表市には沖合の無人島・馬毛島があり、現在は防衛省が硫黄島(東京都小笠原諸島)で行なわれている米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP、急降下・急発進のタッチ・アンド・ゴー訓練)移転と初の陸海空自衛隊基地の本体工事に着手してから10カ月になる。全島まるごとの新基地は、日本政府が普天間基地の「移設」と詐称し、沖縄県の反対を無視して強行する辺野古新基地の後方支援機能を持つ強大な軍事要塞だ。

2回の選挙で国の計画について、地元首長として「基地建設に同意できない」と公約して当選した八坂氏が反対姿勢を軟化させたのは2022年2月だった。岸信夫防衛相との会談で米軍再編交付金に関し「特段の配慮」を要望。会談後に記者団の囲み取材に「しかるべき時に考えを示したい」と語った。種子島は西之表市と熊毛郡中種子(なかたね)町・南種子(みなみたね)町の1市2町で構成される。

防衛省は岸防衛相と八坂市長の会談の直後、米軍再編交付金の支給対象に、種子島全3市町を指定する手続きに入り、3月には、防衛省による馬毛島の玄関口にあたる葉山港の浚渫工事を許可。続いて9月には、島内の市道の認定廃止、馬毛島小中学校跡地と市内下西地区の市所有の農地を防衛省に売却する議案を市議会に提出し、可決。基地の本体工事は今年1月12日に始まったが、八坂氏はいまだに基地計画への賛否を明言していない。

八坂氏を推した反対住民が一時期、解職請求(リコール)を目指す動きも起きた。「監査請求を行う市民の会」が9月16日に結成され、10月2日、市が行なった市有地の防衛省への売却などを違法として「市職員監査請求」(請求人は134人)を起こした。

2023年、種子島は1543年の鉄砲伝来から480周年を迎えた。鉄砲の製法を習得し、作成したとされる八坂金兵衛清定(美濃国関出身)の銅像、住居跡の標柱が西之表港近くにある。八坂市長と何らかの縁があるという。基地反対派の市民は「初めて鉄砲が来た島で、戦争に備えた米日共用の軍事基地の建設が強行されている」と嘆いた。

岸田文雄自公野合政権が昨年末から国会に諮らずに政権党内と有識者会議での議論だけで強行してきた軍国主義化で、日本列島、とりわけ琉球弧(政府と企業メディアが「南西諸島」と呼称)は対中国戦争、第2次朝鮮戦争の最前線に押し出されている。中国・朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)・ロシアを敵国と想定し、「南西地域」の防衛力強化などを盛り込んだ新たな軍事(政府は「安保」と呼ぶ)3文書の有識者会議のメンバー10人のうち3人は大手新聞社トップで、朝日新聞からは船橋洋一元主筆(米公式文書で「CIA協力者」と明記)が入っている。元朝日新聞記者の市長が住民への約束をかなぐり捨てて、軍事基地建設を容認する暴挙を許してはならない。

いわくつきの島を超高値で買収した自公政権
 政府は2020~23年度で馬毛島基地建設費として8392億円の予算を計上。種子島の1市2町への米軍再編交付金は単年度で計約28億円に達している。20億7200万円の交付を受ける西之表市は学校給食、防災・防犯など47事業(約18億3千万円)に支出する。

着工の前提となった環境影響評価(アセスメント)の評価書は着工と同じ日に公告された。基地の目的は、FCLP訓練のほか、陸海空12種類、早朝から深夜まで年2万8千900回の飛行訓練や、武器・弾薬・兵站拠点の機能だ。工期は4年。滑走路を空母の甲板に見立てた、FCLP訓練の実施に必要な2本の滑走路と走航空保安施設を先行して1年半で建設する計画で、早ければ25年度にも運用が開始される。

本体工事が始まった1月12日は、岸田文雄首相の訪米前日で、米国の「拡大抑止戦略」に沿った軍事協力を約束する日米首脳会談(同月13日)の手土産と見なされた。馬毛島での基地計画は、国会や地元との協議を抜きに、米国への報告が行なわれてきた。日米両政府は1月12日に発表した外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(「2プラス2」)の共同文書で、馬毛島基地建設の進展を歓迎している。

国会審議も経ず、地元の住民生活と「宝の島」と呼ばれる自然環境を破壊する軍事基地化にもかかわらず、報道は少ない。10月6~10日に現地を取材した私は、馬毛島基地問題は「八坂市長」事案であり、「中央紙・キー局の沈黙の罪」問題だと痛感した。

FCLP離着陸訓練は、米軍厚木基地(神奈川県)で行なわれていたが、騒音問題が深刻化し、現在は硫黄島(東京都)で暫定的に実施されている。在日米軍再編の一環で、艦載機の拠点は厚木から岩国基地(山口県)に移った。共同通信は着工の日、〈岩国から硫黄島までの距離は約千400キロ。日米両政府は11年の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会の共同文書で、岩国から約400キロの馬毛島への移転検討を明記した〉と報じた。馬毛島が選ばれたのは岩国基地に近いという理由でも、「実際には近くない」(長野広美西之表市議)のだ。

南北4・5キロ、東西2・7キロ、面積約8平方キロの馬毛島は、九州最南端の大隅半島から約50キロで、種子島からは西12キロに位置する。葉山港と種子島の西之表港は漁船で約30分の距離。種子島の漁民が季節移住する施設もあった。戦後の食糧難の時代に国から土地が無償供与され、1951年に39戸が入植移住。59年には528人が居住し、小中学校の分校もあった。

 

周辺は浅瀬が広がり、島全体が漁礁。ナガラメ(トコブシ)、ブリ、イセエビ、キビナゴ、ミズイカ、トビウオ、アサヒガニなどが獲れる豊かな漁場だ。浜にはウミガメの産卵地があり、内陸部には環境省が「地域個体群」として絶滅危惧種リスト(レッドリスト)に掲載しているマゲシカが生息する。ニホンジカの亜種とされ、防衛省が公告した環境影響評価(アセスメント)の評価書では700~1000頭が馬毛島に生息すると推定した。昨年10月、島の中央部で約3万3千年前の石器とみられる約1050点が見つかり、鹿児島県教委は「八重石遺跡」と命名し、7月に調査を終えた。

そんな馬毛島は「黒い利権」と「国策」に振り回された島でもある。1983年ごろ、右翼団体「日本皇民党」が平和相互銀行・巨額不正融資事件で未解明の疑惑で竹下登蔵相(後に首相)側に揺さぶりを掛けていた。1993年の共同通信の報道には、〈平和相銀は鹿児島県の馬毛島を自衛隊レーダー基地用地として国に買わせるため大物右翼の日本青年連盟の豊田1夫元会長に政界工作を依頼した〉という記述がある。

馬毛島は1970年代のオイルショック後、石油備蓄基地誘致構想、砕石事業、使用済み核燃料中間貯蔵施設、産業廃棄物処理場など国の大型プロジェクトを目当てにした投機的買収や地上げが続いた末に、1980年、無人島となった。1995年、鹿児島県出身の事業家・立石勲氏が太平洋クラブから馬毛島の約88%を買収(その後、買い集めて99%)してタストン・エアポート社をつくり、2007年、FCLPの受け入れ先として名乗りをあげるも、西之表市などの反対で頓挫。その後、2011年の2プラス2の共同文書で、島へのFCLP移転の検討が明記された。

2019年、本来は約4億円の評価額なのに、タストン社の違法な開発費を上乗せし、政府は国会審議もなしに160億円の高値で買収して国有地とした。防衛省は当初、土地の価格を45億円と鑑定。しかし同社側は、島に独自に滑走路を整備するなどの投資をしていたことを理由に、400億円での買い取りを求めていた。ある防衛省幹部はNHKの取材に、「米軍から、より近い訓練施設の整備を強く求められていた。日米同盟に基づく両国の信頼関係を維持・強化するためには、必要な措置だ」と話している。

政府の国有地化も米国に先に報告された。2022年1月に島は「候補地」から「整備地」となる。塩田康一鹿児島県知事が2022年11月に計画を容認した。松野博一官房長官は今年1月12日の記者会見で、馬毛島の買収合意額の積算根拠について「土地取得の過程にあり現在は明らかにできないが、適切な時期に説明する考えだと、防衛省から報告を受けた」と述べた。その後、防衛省が根拠を説明したとは聞かない。

馬毛島には報道各社も上陸できず、ヘリやドローンを飛ばして上空から取材している。八坂市長も8月25日に島を視察しただけだ。

国がばらまく札束で共同体の調和が崩壊
 種子島を訪れたのは2回目。15年前のある事件での市民や家族への“取材の暴力”を調査したことがある。種子島では工事進行による既成事実化で、基地反対運動が難しくなる中、今も闘いを続ける市民を取材した。種子島地区講演実行委員会が10月9日、「戦争を止めるジャーナリズム」をテーマにした私の講演会を開き、約40人が参加してくれた。

基地建設工事で、種子島はバブル状態になっている。日本銀行福岡支店が10月2日に発表した九州・沖縄の9月の企業短期経済観測調査では、景況感を示す業況判断指数が全産業でプラス19となり、前回の6月調査から1ポイント上昇した。馬毛島など南西諸島の防衛関連工事で受注が伸びたことなどが要因とされる。

西之表港には台船、クレーン船、沖縄の運搬船などが多数停泊し、建設用のブロックなどが積み上げられている。市内の空き地には作業員や自衛隊関係者のアパート、コンテナハウスが建設されて、家賃が高騰。30代の自営業男性は1月末、大家からテナントの賃借料を月5万円から30万円以上に引き上げると言われ、「払えないなら出て行ってほしい」と通告された。西之表市のホテルはほとんどが満室状態だ。

市企画課馬毛島対策係の鎌田敏幸係長は「無人島に自衛隊基地を設置するのは初めてだ」と断言した。鎌田氏によると、現在、工事関係者は約1690人(馬毛島1120人、種子島570人)が滞在。ピーク時には6千人まで増えるという。人口約1万4300人の同市では、業者が通常より高い賃金で作業員を集めるため第一次産業従事者が引き抜かれている。漁師も作業員を送迎する海上タクシーの仕事を引き受ければ7~10万円の日当が入るので、漁に出る人が少なくなった。住民からは「国によって札束がばらまかれ、1次産業が崩壊し、街が壊れていく」「馬毛島の美味しい魚が食卓に届かなくなった」などと嘆く声が聞かれた。

工事が終わった後の市がどうなるか心配する市民も多い。防衛省側は、九州防衛局種子島事務所を窓口に、これまで13回開かれた市との協議で、「米軍は緊急時を除き、示した経路以外を飛行しない」と住民に説明するものの、前出の長野市議は「沖縄では、『緊急時』だという理由で自由に飛行し、たびたび事故を起こしている」と指摘する。

6日夜、「戦争をさせない種子島の会」(以下、させない会)の和田伸氏と和田香穂里氏(前西之表市議)と「馬毛島情報局」(6月1日設立)主宰の三宅公人氏(医師)、三宅悦子氏から、基地反対運動の経過を聞いた。同日深夜、高台から馬毛島のライトに照らされた工事現場がくっきり見えた。天候不良の日を除き、休日なしで突貫工事が行なわれているという。

翌7日には、漁船をチャーターして島を周回した。

漁業者の入会権を無視して工事を強行
「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」の山内光典会長は、「豊かな漁場や貴重な動植物の生環境が破壊される。市長の明確な賛否表明もなく、地元住民の理解も得られていない状況でなぜ基地建設を急ぐ必要があるのか。米国がたくらむ対中戦争、第2次朝鮮戦争の最前線基地になる。基地の問題を国会、メディアでとり上げてもらいたい。全国で仲間を増やしたい」と強調。「種子島は自衛官になる人が多い。自衛隊には父兄会があるが、西之表市だけで500人の会員がいる。家族、親類に自衛隊員がいるから反対しにくい雰囲気がある」と話した。

種子島漁業協同組合は2月24日の総会で、防衛省が漁業補償として提示した約22億円を受け入れると決定した。元自衛官三浦添孫三郎組合長は総会後の記者会見で「漁業者の大部分の意見だ。これを大事にして前に進めざるを得ない」と述べた。

総会に出席した基地反対派の漁協塰泊浦(あまどまりうら)集落に所属する漁師の濱田純男氏は「宝の島の漁場を失うことは、漁業を営む人にとって大変なマイナスだ」と訴えた。濱田氏は「馬毛島で最も重要な葉山港の1帯は、現在、塰三浦の住民約60人の共有入会地だ。防衛省は島全体を買い、国有地にしたと主張しているが、それは違う。元自衛官の漁協組合長は共同漁業権を無視し、漁業権を放棄すると一方的に決定した」と指摘する。

馬毛島の歴史に詳しい牧洋一郎・沖縄大学地域研究所特別研究員は「裁判で入会権は確定している。防衛省や建設業者は入会地の権利を侵害している」と述べた。漁民の意見も聞かずに基地建設が強行されているとして、弁護士と法的対応を協議している。

「監査請求を行う市民の会」の目迫(めさこ)ヱミ子会長(元小学校教員)は「教員時代に子どもたちを連れて馬毛島に行ったことがある。その馬毛島に東電原発の使用済み核燃料の中間貯蔵施設を受け入れるという話があり、とんでもないと思っていて、反対運動をした。その計画が消えたと思った矢先、今度は米軍が訓練に使う巨大な自衛隊基地ができることになった。工事を1日も早く止めさせたい」と語った。目迫氏は「基地建設が決まった後、教え子を訪ねて反対署名を求めた時、断った元生徒の多くが、工事の開始後の街の変貌を見て、署名したいと言ってきている。30年後、50年後に、あの時、間違ったことをしたと次世代から言われないように、今、反対の声を上げ続ける」と決意を述べた。

自衛隊基地のない種子島で、2018年から自衛隊の大規模訓練が繰り返されている。「させない会」の和田伸氏は「米軍のFCLPだけではなく、自衛隊基地として馬毛島が狙われた。大軍拡の政策だということを見なければならない」と強調する。

西之表市は、第2次安倍晋三政権以降、自公政権の黒幕である森山裕自民党総務会長(衆院鹿児島4区)の地元。森山氏は馬毛島基地建設でも暗躍してきた。福岡5区選出の原田義明衆院議員(元環境相、麻生派)は馬毛島の国有地化が決まった2019年12月、フェイスブックに、〈もう1年半にもなるか、その地権者が知人とともに訪ねてきた。「T氏」は、窮状を懸命に訴えた。25年以上にもわたって馬毛島の開発に努め、その後に国との調整が始まり、難航し、混乱の極みにいることを切々と訴えた。密室に籠もり、議論し、検討し、解決策を見つけようとした。政府側との調整を密かに続けた〉と書いている。

「T氏」は前述の立石氏。原田氏は2021年の衆院選で落選したが、統一協会と関係が深い。

三宅氏が発信する「馬毛島情報局メールニュース」(10月20・25日付)によると、基地工事で、馬毛島の最高地点・岳之腰の戦争遺跡「トーチカ」(防御陣地)の解体作業が18日に始まり、24日に完了した。地元の鹿児島テレビと南日本新聞が種子島から望遠レンズで撮った映像を報じた。同紙で八坂市長は「そこにあるべきものがなくなるのは悲しい」とコメントしている。これに三宅氏は、「馬毛島を売り渡した張本人が誰であるかを、私は決して忘れない」と書いている。

監査請求で八坂市長の市有地売却に異議
「監査請求を行う市民の会」は10月13日、市の監査委員に対して意見陳述を行なった。その場に八坂市長は同席しなかったため、19日に市民の会は、「3年前、あなたを信じ、あなたを応援した市民の、現在の悲痛な叫びを聞いてください」と手紙で訴えた。

八坂氏は2021年1月の市長選で約5100票を獲得して再選。賛成派候補との差はわずか約140票だった。私は10月5日、八坂市長にインタビューを申し入れたが、広報担当者が「不在」を理由に断った。23日、八坂氏から「行き違いがあった」との電話があり、翌日に回答を得た。以下は、私の質問(筆者要約)と回答。

――基地建設を止めるよう国に求めるつもりはあるか。

「市長という立場は、基地に反対する市民、賛成する市民、いずれにとっても『市長』であると考えます。情報と対策を引き出す努力はしているものの、いずれも現状では基地整備に対する市民の不安解消および期待の充足について、十分ではないと考えています。現実の国の動きにしっかりと対応し、課題の解決に向けて取り組んでいるところです。基地建設が止められるとすれば、首長の判断を市民が支持し、県民、国民など世論が理解、同調したときであろうと考えます」

――防衛省の地元への説明は十分か。

「十分だとは思っておりません。もっと詳しい情報が得たい旨を累次要望しています」

――馬毛島へ議員や記者が立ち入れないことについて、どう思うか。

「本市としても8月25日に馬毛島葉山港の現地確認及び周辺海域からの視察を行ないましたが、安全確保が困難であるとの理由で馬毛島内の視察はできていません。学校跡地や戦争遺構等がなお存在しており、立ち入りの要望は続けます」

――市長が2020年10月の所信で表明した「基地経済に依存しない町づくりを推進する」との考え方は、今も同じか。

「考えは変わっていません。市民の幸福と安心安全の追求という市長の職責を果たすために同意・不同意という二者択一を迫られる中で、急速な建設への動きや市民の動揺など、現実の動きに対応して、最善の道を1歩ずつ前進したいと考えます。また、基地整備への現実の動きを慎重に見定めながら、市民の皆様と市政発展への道を前進してまいる決意であり、現時点で賛否を示せる情況にないと思っています」

――10月4日の木原稔防衛相とオースティン米国防長官会談で辺野古、馬毛島基地建設推進の方針を確認した。日米政府の動きをどう受け止めるか。

「基地整備には、第1に地元の理解が必要です。馬毛島について、ご指摘のような日米政府間でのやりとりが交わされておりますが、地元の理解が何よりも重要ということは変わっていないと思います。両政府には地元の真の理解を得るために、より丁寧な説明や情報提供を求めたいと思います」

――「市民の会」が19日に市長に送った手紙を読んでどう思ったか。

「監査請求において指摘されている行政手続き等については、違法性や不当性はないと認識しております。また、聴取の場の同席については、監査委員から必要と認められれば出席するものと考えます」

八坂氏の回答は、なぜ基地に対し賛否を言わないのかという疑問に答えていない。市長が態度表明しないで、有権者に判断を委ね、人民が反対と言えば中止できるというのなら、政治家はいらない。

「馬毛島情報局」の三宅氏は八坂氏の回答を読んで、「意味不明で、言葉がひどい。さらに責任転嫁。これが通る現実も許せない。次回選挙で引きずり下ろすしかない」と語った。「させない会」の和田香穂里氏は「戦争を前提に事が進められているのは異常だ。どうしたら近隣諸国と平和な関係を築けるのかの議論も、在日外国人も含めた民間の草の根外交の成果もそっちのけで、攻められる、抑止力だ、継戦能力だと、戦う方向性しか示されない。加害性が封印されている。戦争をしない、させない、平和を築く、そのための手段であり道程を、多くの仲間と共有したい」と話している。

種子島で自衛隊基地に抗う人たちの目は澄んで輝いていた。美しい自然に囲まれた共同体で人間らしく生きているから、優しいのだと思う。八坂市長は「県民、国民など世論が理解・同調したとき基地建設を止められる」と言う。しかし、市長を当てにしてはならない。

(月刊「紙の爆弾」2023年12月号より)

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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