【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質 :Ⅶ 忍び寄る戦術核兵器の脅威(その1)

成澤宗男

迫りくる破局的危機

米国の外交専門家で、これまで最も厳しくNATO の東方拡大を批判してきた一人であるケイトー研究所(CATO Institute)のシニア・フェローのテッド・カーペンターは、「現代の外交政策の大失策の一つに、欧米の指導者たちが、ロシアはウクライナがNATOの軍事的資産になるのを決して許容しないというプーチンの警告を、繰り返し無視してきた点が挙げられる」と指摘して、以下のように述べる。

「米国やNATO諸国は今回の戦争前もそうであったように、ロシアの警告をまたも無視している。米国とNATOはロシアに挑戦的な態度をとりつつ、ウクライナへの軍事援助を加速化させ、ロシアとの本物の代理戦争を引き起こしている。ロシアの警告は、よりかん高くなってきている。プーチン自身、NATO諸国に対し、ウクライナへの支援をエスカレートし続けることでロシアの忍耐力を試すような真似をするなと警告した。RT(ロシア・トゥデイ)とスプートニクの両編集長でプーチンに近いマルガリータ・シモニアンは、『もしウクライナ戦争での米国やNATOの方針が変わらないのであれば、ロシアは核兵器を行使しうる以外の選択がなくなりかねない』と述べている」。

「西側の高官や欧米の外交当局者は、公然とウクライナが戦争に勝利し、ロシアの面目を潰す敗北を味わわせるため支援すると公言している。そうした人々が理解していなさそうなのは、ロシアにとってウクライナは死活的利益に関わっており、そこでの敗北を防ぐためなら、おそらく戦術核兵器の使用すらも含め必要であれば何でもやるだろうということなのだ」(注13)。

実際、報道によると4月26日にロシアの国営テレビに出演したのセルゲイ・ラブロフ外相は、米国やNATOにとって軽くはないはずのメッセージを発している。

「外相は、継続する物資や武器の供給は、NATOが『実質的にロシアとの戦争に入った』と自身を位置付けており、それは『火にガソリンを注いでいる』としてNATOを批判した。さらに外相は、NATOが第三次世界大戦を誘発しないよう警告し、核戦争の脅威を『過小評価するべきではない』と語った」(注14)。

米国とNATOはこれまで東方拡大を進め、ロシア側から何度となく発せられた「レッドライン」を無視した結果、ウクライナでの戦争を誘発した。のみならず今になって停戦には目もくれず、ウクライナを「代理人」とした戦争を「勝利」に導くため直接介入を除くあらゆる支援を惜しまず、ロシア側の「核戦争」までエスカレートする危険性を犯すなとの警告も、再び無視する構えのように思える。

この代理戦争の目的は、米国防長官のロイド・オースチンによると「ウクライナに攻め込むような真似がもうできなくなるまでにロシアを弱体化させる」ことにあるようだ。しかし、これほど曖昧な目的で軍事支援を続けた先に生じかねない破局的リスクを、どこまで考慮しているのか。ロシアの「弱体化」とは、60年前のキューバ危機のような悪夢を再現しようとも優先されるべき課題なのか。

 

(注1)「U.S. Makes Contingency Plans in Case Russia Uses Its Most Powerful Weapons」(URL: https://www.nytimes.com/2022/03/23/us/politics/biden-russia-nuclear-weapons.html
(注2)27 Feb, 2022「Putin puts Russia’s nuclear deterrent forces on alert」(URL:
https://www.aljazeera.com/news/2022/2/27/putin-puts-russias-nuclear-deterrent-forces-on-alert
(注3)(注1)と同。
(注4)26 April, 2022「Ukraine war: Could Russia use tactical nuclear weapons?」(URL: https://www.bbc.com/news/world-60664169
(注5)February 23, 2022 「Nuclear Notebook: How many nuclear weapons does Russia have in 2022?」(URL: https://thebulletin.org/premium/2022-02/nuclear-notebook-how-many-nuclear-weapons-does-russia-have-in-2022/
(注6)「NUCLEAR POSTURE REVIEW FEBRUARY 2018」(URL:
https://media.defense.gov/2018/Feb/02/2001872886/-1/-1/1/2018-NUCLEAR-POSTURE-REVIEW-FINAL-REPORT.PDF
(注7)November 10, 2021「 Putin’s Killers: Why Does Russia Have so Many Tactical Nuclear Weapons?」(URL: https://nationalinterest.org/blog/reboot/putins-killers-why-does-russia-have-so-many-tactical-nuclear-weapons-196003
(注8)「Comparison of the military capabilities of NATO and Russia as of 2022
(URL: https://www.statista.com/statistics/1293174/nato-russia-military-comparison/
(注9)「Fact vs. Fiction: Russian Disinformation on Ukraine」(URL: https://www.state.gov/fact-vs-fiction-russian-disinformation-on-ukraine/
(注10)「Response to the US Department of State’s fact sheet: Facts vs. Fiction: Russian Disinformation on Ukraine」(URL:  https://thesaker.is/response-to-the-us-department-of-states-fact-sheet-facts-vs-fiction-russian-disinformation-on-ukraine/
(注11)(注10と同)
(注12)「Record of Conversation between Mikhail Gorbachev and James Baker February 9, 1990」(URL: https://nsarchive.gwu.edu/document/16117-document-06-record-conversation-between
(注13)May 03, 2022「This Time, NATO Better Take Putin’s Ukraine Warnings Seriously」(URL: https://original.antiwar.com/Ted_Galen_Carpenter/2022/05/02/this-time-nato-better-take-putins-ukraine-warnings-seriously/

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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