【連載】情報操作を読み解く(浜田和幸)

ガザはなぜ狙われるのか イスラエル暴虐の隠された〝真相〞

浜田和幸

 

ザに眠る利権

パレスチナのハマスとイスラエルの“戦争”は、2023年10月7日に突然、勃発したかに報道されていますが、その背景に、長年にわたるガザ沖合30キロの「ガザ・マリーン」(地中海東岸)に眠る膨大な天然ガスの開発利権を巡る争いの歴史が隠されていることは、表に出てきません。
アメリカ政府の調査では、ガザ本土にもヨルダン川西岸地区にも、天然ガスと石油の存在が確認されています。特に2000年以降、パレスチナの支配地域では油田が相次いで発見されてきました。

今回の紛争においては、人種問題や宗教対立といった側面ばかりが強調されています。しかし、イスラエルの強硬姿勢の真の狙いのひとつは、パレスチナが支配する地域に存在する天然ガスと石油資源の確保に違いありません。
もし、これらのエネルギー資源がパレスチナのものとなれば、イスラエルをしのぐ富がもたらされ、中東の勢力図が一変するはず。そのため、ハマスもイスラエルも、資源開発や利権確保に必死に取り組んできました。

また、英国や中国も地中海東部で海底資源開発に協力しようと活発に動いています。
英国のガス会社はパレスチナと合弁企業も設立しました。
一方、中国は南シナ海で誇示してきた岩礁の埋め立て技術をテコに、ガザ沖の油田開発用リグ(掘削装置)建造に協力する動きを活発化。
中国はハマスを支援するイランから石油輸入を拡大中で、ハマス支援を通じてさらなる資源を確保する狙いも秘めていると見られます。
なぜなら、かつて原油輸出国だった中国は、今や国内需要の72%を輸入に依存するようになっているからです。中国とすれば、国内経済を維持するためにも、エネルギー資源の調達先を多角化させたい思惑があります。

パレスチナ領内の油田開発は、イスラエルによる妨害のため実現できていません。
一時期、パレスチナとイスラエルは利権分割で合意しましたが、あまりにイスラエルの取り分が多いため、その後、政権を奪取したハマスは合意を破棄。
その結果として2008年、イスラエルによるガザ攻撃が開始された経緯があります。
要は、イスラエルとハマスとの戦いは今に始まったことではなく、長期にわたるエネルギー資源の利権を巡る争奪戦でもあるのです。

2012年、パレスチナ政府がイスラエルとの交渉を再開しても、イスラエルの妨害は止まりませんでした。そこでロシアが介入することになります。
2014年、ロシアとパレスチナが油田開発に合意。
当然ですが、イスラエルは猛反発しました。
中東全体を支配下に置きたいイスラエルは、ロシアの介入を排除する動きを加速させます。国連貿易開発会議(UNCTAD)が2020年にまとめた報告書は、「パレスチナに存在が確認されている石油と天然ガスは誰が開発しても数千億ドルの富を生む。
イスラエルがパレスチナによる開発を妨害しているため、パレスチナは貧困から脱却できない」と、イスラエルを厳しく批判していました。

欧州企業も絡むネタニヤフの野望

イスラエル政府はそうした批判をよそに、アメリカやエジプトを巻き込み、ガザ地区やヨルダン川西岸からパレスチナ人を全員、エジプトに追いやり、新たなユダヤ人国家を建設し、その資金を天然ガスと石油の上がりで賄おうとしているようです。
そうした思惑があるためか、「2024年の冒頭にはガザ油田での掘削を始める」との計画をエジプトとの間で温めているとのこと。もちろん、エジプトも利権を確保しています。

実際、ネタニヤフ首相はガザ地区への攻撃を開始すると同時に、手回し良く、パレスチナの支配地域に存在する天然ガスと石油の開発認可を英BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)など6企業に交付しました。
しかも、イスラエルはスエズ運河に代わる新たな運河をガザ地区経由で建設する計画も過去数十年越しで進めています。これによって、物流と軍事的な優位性を確保しようとしているわけです。
とはいえ、イスラエル国内で多くのスキャンダルを抱え、国民からの支持を失ってきたネタニヤフ首相とすれば、そうした野望を実現するのは容易なことではありません。

戦時体制を組むことで、国内の支持基盤をなんとか立て直したいと目論んでいるのかもしれません。
2023年10月7日のハマスによる攻撃に関しても、イスラエルの諜報機関は事前に情報を掴んでいたにもかかわらず、あえて無視することで、「ハマス殱滅の正当性を得ようしたのではないか」との指摘も後を絶ちません。
そうした告発もあり、国民の間ですら最新の世論調査では、「ハマスによるイスラエル攻撃はネタニヤフに責任がある。
1刻も早く首相を辞めるべきだ」という厳しい見方が76%に達しています。

ネタニヤフ首相の自宅前にはデモ隊が集結し「牢屋に入れ!」と怒声を浴びせる始末です。トルコのエルドアン大統領に至っては「ネタニヤフ首相はもはや対話できる相手ではない。
我々は彼を見限った」とまで発言。
いずれにせよ、過去の戦争はほとんど全てが資源を巡る争いであったと言っても過言ではなく、ハマス絶滅にこだわるイスラエルの真の狙いも膨大な天然ガスと石油資源の利権にほかなりません。
資源という宝の山を前にすれば、破壊や殺戮は全て正当化されてしまうのが歴史の真実なのです。

問題は、こうした資源の争奪戦が中東全域に拡大し、ひいては世界大戦の引き金になりかねないこと。世界各国は「人道的観点からの一時停戦」を呼びかけていますが、ネタニヤフ首相は聞く耳を持っていないようです。
なにしろイスラエルの諜報機関が事前に準備したレポートに、「パレスチナ住民を残らずエジプトに移住させること」が最終ゴールとして明記されているのです。
その過程では、いくらパレスチナ人が犠牲になっても構わないというわけです。
これでは怨念の連鎖は終わらないでしょう。

「イスラエルは10年以内に消滅する」

イスラエルは長期戦覚悟で開始した戦争ですが、財源はもつのでしょうか? JPモルガンの分析(10月末)によれば、「イスラエルのGDPは11%の低下を記録し、本年度の経済成長率は当初の見通しの3.2%から2.5%に減少する」とのこと。
なにしろ、イスラエルは35万人の緊急徴兵を義務化しました。全労働人口の5%以上が戦争に動員されているわけです。経済活動に支障が出ることは避けられそうにありません。

そうした情勢を踏まえてか、2023年11月29日に生涯を閉じたアメリカのキッシンジャー元国務長官は衝撃的な予言を明らかにしていました。同年5月に100歳を迎えたときのことです。
「イスラエルはあと10年以内に消滅する」
小生はかつてキッシンジャー氏と同じワシントンの研究所で勤務した経験があります。
彼の口癖は「食糧を支配する者が人々を支配し、エネルギーを支配する者が国家を支配する。
そして、マネーを支配する者が世界を支配する」。
その観点で見れば、イスラエルがガザ地区をはじめ、パレスチナに対して食糧やエネルギーの寸断を狙っていることは間違いないでしょう。

しかし、戦争の遂行と継続に必要なマネーの確保には困難が生じつつあります。
現在のバイデン政権は「イスラエルとは一心同体だ」と明言し、軍事支援を約束しています。
10月18日、イスラエルを訪問したバイデン大統領は、従来の38億ドルに加えて143億ドルのイスラエル追加支援を伝えるという手回しの良さを見せました。
自国の経済が青息吐息にもかかわらずです。

2024年11月の大統領選挙を控え、バイデン氏の支持率は低下の一途をたどっています。
これではイスラエルへの財政支援も「絵に描いた餅」に終わりかねません。
イスラエルがパレスチナの資源を独占することで帳尻が合うと踏んでいるのでしょうか。
そう都合よくいくとは限りません。それゆえ、キッシンジャー氏の「イスラエル消滅論」が出てきたと思われます。

いずれにせよ、イスラエルとハマスの戦争は泥沼化の様相を呈しており、国連のグテレス事務総長は双方に停戦と和解を求める声明を出し、さすがのバイデン政権も、人道的な観点から双方に自制を促し始めました。ところが、イスラエルはそうした和解提案に猛反発し、「全ての責任はハマスにある。彼らを殱滅するまで戦争を続ける。グテレス事務総長の解任を求める」と逆切れ状態です。
これでは事態は沈静化するどころか、ますます過熱する一方と思われます。

世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター」の創業者レイ・ダリオ氏に至っては「このままでは戦火は各地に飛び火し、世界大戦に繋がる可能性もある」と警鐘を乱打。すでに双方には多数の死者が発生、ガザでは多くの子どもたちが殺されています。
それでもネタニヤフ首相は強気で、40歳以下のイスラエル人を全て軍隊に編入することを義務付けました。
36万人以上がその呼びかけに応じて、兵役に服し始めています。そんな中、イスラエル軍に新たに加わった志願兵の間では、「ネタニヤフ首相の息子はどうしているのだ? アメリカに行ったきりで帰ってこないじゃないか! 俺たちはいつ死ぬか分からないが、祖国のために命を捧げるつもりだ。首相の息子なら最前線で戦うべきだろう」といった不満の声が沸き上がっています。

確かに、ネタニヤフ首相の息子ヤイール氏は現在32歳なので、志願兵としてイスラエル軍に加わることが求められていることは間違いありません。
しかし、彼は年初からアメリカ・フロリダ州のマイアミ・ビーチで慈善活動に従事している模様で、帰国する意思はなさそうです。兵役義務はこなしていますが、なんと「イスラエル軍の広報官」という役職に就いていただけで、デスクワークしか経験がないとのこと。

そんなこんなで、現場に配属されている志願兵からは「不公平すぎる」といった不信と怒りの声が聞かれます。ネタニヤフ首相の“身内びいき”としか思えません。
これでは現場の士気にも影響するのではないでしょうか。
いずれにせよ、戦争がエスカレートすれば、ダリオ氏が懸念するような第3次世界大戦に発展するおそれもあります。

日本がとるべき道

そんな予断を許さない国際情勢の下、岸田首相は11月3日から5日の日程でフィリピンとマレーシアを訪問。
特に、フィリピンでは日本の首相としては初めて同国議会で演説を行ない、南シナ海の実効支配を進める中国の動向を念頭に日米比3カ国の連携強化を訴えています。
と同時に、2022年末の閣議決定で改定された防衛3文書で武器輸出への道が開かれたことを受け、フィリピンへは巡視船・レーダー・ドローンを、マレーシアへは軍用車両等の武器輸出を打ち出しました。加えて岸田首相は「東アジアの安全保障は日米韓が軸となるが、南シナ海は日米比の関係が重要となる」とも指摘。バイデン政権は「ウクライナ、イスラエルの次はフィリピン周辺が国際的な対立、戦争の舞台となる。

アメリカとフィリピンは相互防衛条約(MDT)を結んでおり、もしフィリピンが他国から攻められた場合には、必ずアメリカは参戦する」と明言。
その枠組みの中に日本も組み込もうとしているのがアメリカです。
このところ、フィリピンの存在感と可能性が世界の注目を集めているのです。マルコス2世大統領の下、政治的な安定感と経済的な急成長が呼び水となり、日本企業も相次いで進出と投資を加速させています。マルコス大統領は8項目の社会経済発展計画を推進中で、社会の治安維持と人材育成が目玉となっており、日本政府や日本企業への期待が高まっているわけです。

また、フィリピンもマレーシアも「同志国」同士の軍事協力を加速する狙いで日本政府が創設した「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の初年度の対象国です。
マルコス大統領は対中接近を強めたドゥテルテ前政権と違い、日米との関係強化を指向しています。その背景には、フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海のスカボロー礁に中国が9月に障害物を設置し、両国の海上警備隊がしばしば衝突するなど、周辺海域で緊張が高まっていることが影響していることは間違いありません。

2023年10月2日、フィリピンとアメリカはフィリピン周辺の海域で合同軍事訓練を実施しました。これには日本の海上自衛隊も参加し、英国やカナダも合流しています。
こうした軍同士の関係強化の流れを受け、フィリピン国防省では岸田首相のマニラ訪問中に、日本との間で「軍事相互訪問協定(VFA)」や「円滑化協定(RAA)」の合意を期待し、実際、その流れで交渉が始まりました。

日本はRAAをオーストラリア・英国と交わしており、フィリピンが3カ国目となります。
この協定が結ばれるのはASEAN(東アジア諸国連合)加盟国では初のことで、両国の軍人の相互訪問や訓練がスムーズに実施されることになるはすです。
フィリピン沿岸警備隊は昨年、円借款で2隻の巡視船(全長97メートル)を建造しました。さらに、新たに大型巡視船5隻の追加供与の話が進行中です。フィリピン沿岸警備隊は多数の大型艦船を展開する中国海警局に圧倒されているため、日本からの支援を受け、形勢の強化を図ろうとしています。

このところフィリピンの漁民は西フィリピン海域で中国の海警局による妨害行為を受けているため、フィリピンは独自の対策を講じていますが、それ以外にも国際的な対応が必要になってきたというわけです。
この面でも、日本とフィリピンは「中国」という共通の課題に直面しているため、相互理解と対応策での協調が喫緊の課題となってきたといえます。改めて、日本政府の調整力と企業サイドからの支援策が必要とされる所以です。

フィリピンは前政権時代に中国との間で3本の高速鉄道建設計画を進めていましたが、マルコス大統領は、これらの計画を中止し、ドイツと日本からの技術協力を得る意向を固めています。
加えて、南シナ海に眠る石油や天然ガス油田の開発にも日本の技術と資金を得たいとの希望があるようです。

2023年12月16日から18日には東京で「日本ASEAN特別首脳会議」が開催されました。とはいえ、ASEANの中でも、イスラエル支持のフィリピンとパレスチナ支持のマレーシアでは立場の違いが際立っています。イスラエルとハマスの戦争が拡大すれば、「世界経済に2兆ドルの損害をもたらす」との試算もあり、日本経済も深刻な影響を受けるはず。
日本はエネルギーの大半を中東に依存しているわけで、その供給源を多角化することが急務です。

イスラエルがアメリカや英国を巻き込み、ハマスやパレスチナとの戦争も辞さず、資源開発にまい進している事例を知れば知るほど、フィリピン沖など南シナ海に眠る資源をASEAN諸国と共同で開発することは、日本の未来戦略に欠かせない選択肢と思われます。

(月刊「紙の爆弾」2024年1月号より。最新号の情報はこちら→https://kaminobakudan.com/

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浜田和幸 浜田和幸

国際未来科学研究所代表、元参議院議員

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