これが「敵基地攻撃能力」の現実だ 米国が迫る「核共有」と自衛隊〝核〞武装

若林盛亮

 

年を越す「厳しい宿題」

2022年12月、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有明記の「安保3文書」改訂が閣議決定された夜、フジテレビ系の討論番組に出演した森本敏・元防衛相は、結論をこう締めくくった。
「来年以降、大変厳しい宿題が待っています」
この時、森本氏が内容を明らかにしなかった「大変厳しい宿題」。それが「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、すなわち自衛隊の“核”武装化であり、日本の対中「代理“核”戦争国化」であることは、たびたび本誌で述べてきたとおりだ。

しかし2023年が終わろうとしても、この「宿題」は、まだ具体的な形で提起されてはいない。「非核」を国是とする日本に、その放棄を迫るほどの「大変厳しい宿題」である。
それゆえ米国は、ことを慎重に運んでいる。だから「宿題」は、年を越えたとしても、必ず表舞台に登場する。

こんなことを確信的に述べたのには、もちろん根拠がある。
森本氏は冒頭の番組で「数日前に米大使館で米インド太平洋軍の陸軍司令官に会ってきた」と明かしており、この米インド太平洋軍こそが、対中対決のための「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」計画策定の張本人なのだ。
また森本氏が小野寺五典・自民党安全保障調査会会長(元防衛相)とともに政府の防衛政策策定に影響力を行使できる人物だからだ。

2020年9月発売の『新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛』(並木書房)。これは森本氏と高橋杉雄・防衛研究所防衛政策研究室長の共編・著という、安保問題専門家の手による著書だ。
副題に「INF条約後の世界」を謳った本の扉には、次のようなことが書かれている。
「1987年に米ソで合意されたINF条約(中距離核戦力全廃条約)により、地上発射型中距離ミサイルは欧州では廃棄されたが、アジア、中東ではむしろ拡散した。
なかでも軍縮の枠組みに縛られない中国は核弾頭を含む中距離ミサイルを多数保有し、米中のミサイルバランスは大きく崩れた。

INF条約失効後、米国は新たな中距離ミサイルの開発に着手し、日本への配備もあり得る」
いままさにこの本の予言「日本への配備もあり得る」が現実化する段階に来たといえる。
米ソ(後に「米ロ」)間で合意のINF条約、すなわち地上発射型中距離ミサイルを全廃する取り決めによって米国はそれを廃棄したが、逆に中国は中距離ミサイル、それも極超音速や変速軌道を描く最新式のものを大量に開発し保有するようになり、この地域のミサイルバランスは米国に圧倒的不利になった。

ミサイルは核運用に必須の運搬手段だけに、ミサイルバランスの不利は核バランス不利に直結する問題となる。対中対決において、米国は核抑止力の劣勢という深刻な問題ととらえた。
このINF条約が2019年に失効後、米国は新たな中距離ミサイル開発に着手、「日本への配備もあり得る」段階に来たが、米軍は在日米軍基地へのミサイル配備を見送った。
「安保3文書」改訂で自衛隊の敵基地攻撃能力保有が可能になり、日本の中距離ミサイル部隊=「スタッドオフミサイル(敵の射程圏外から発射可能なミサイル)部隊」が陸上自衛隊に新設されたからだ。

つまり、自衛隊新設のミサイル部隊が中距離ミサイルの対中バランス上の米軍不利を補う責務を負わされることになったのである。
最後に残った「厳しい宿題」は、自衛隊の中距離ミサイルに「核搭載」を可能にし、対中「核抑止力優位」を確立することだ。これが米国の「ポストINF時代の安全保障」であり、その要となる課題なのだ。だから米国は、必ず自衛隊の“核”武装化を日本に迫ってくると断言できるのである。

自衛隊〝核〞武装化の要「核共有」

「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」は、2021年7月に米インド太平洋軍が、九州・沖縄から台湾・フィリピンを結ぶ第1列島線における「対中ミサイル網計画」を発表したことに始まる。
中でも「日本は地上発射型中距離ミサイル配備先の最有力候補」とされている。
先に述べたように、在日米軍への中距離ミサイル配備計画は、2023年1月末に見送られた。そんなことをせずとも、陸自に「スタンドオフミサイル部隊」という地上発射型中距離ミサイル部隊を新設することで、肩代わり可能になったからだ。
これが当初から日米間で織り込み済みであったことは、容易に想像できる。

もはや、対中包囲のミサイル網を自衛隊が担う体制は整った。
残った「宿題」は有事の「核武装」を可能にし、自衛隊を対中核抑止力とすることだ。
その要は「核共有」であるとする、河野克俊・元自衛隊統合幕僚長の発言がある。2022年5月、米国バイデン大統領訪日時の日米首脳会談で、日本への核による「拡大抑止」提供を保証した。
この時、河野克俊・元統合幕僚長は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」だが、「それはただですみませんよ」と日本の見返り措置の必要性と、その内容を次のように語った。

「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れることです」と言った河野氏は「核持ち込み容認」を説き、さらには「核共有」に踏み込むべきだとし、核使用に関する日米間の協議体の必要を説いたのだ。
繰り返しになるが、対中対決の中距離ミサイルを自衛隊が担当することになれば、日米間の「核共有」によってそのミサイルを核搭載可能にすることが必須課題になる。

そのための「核使用に関する協議体」設置に向けて米国は動き出した。
尹錫悦大統領の“勇断”(元徴用工問題で妥協)によって日韓首脳会談のメドが立った2023年3月8日、読売新聞は米国が日韓政府に次のような打診をしてきたことを伝えた。
「“核の傘”日米韓で協議体の創設を」
河野氏の説いた「核使用に関する協議体」創設を、米国側から呼びかけできたのだ。
これを受け、尹大統領は4月末の「国賓」訪米時の「ワシントン宣言」に米韓“核”協議グループ(NCG)創設を謳った。

これが日米韓“核”協議体創設の布石であることは明白だ。
これに続き、8月末に日米韓首脳会談が米国キャンプデービッドで持たれたが、米韓首脳の個別会談ではこのNCG稼働をバイデン大統領が高く評価するとともに、「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」ということを、米政府高官に言わせた。
現時点で自衛隊“核”武装化の鍵は、「核共有」のための日米韓“核”協議体の設置にある。
この実現が、年を越えることになった「大変厳しい宿題」なのだ。

米国覇権の終わりに日本はどう処すべきか

米国はいま、主戦場の対中対決に加え、ロシアの先制的軍事行動によるウクライナ戦争で「対ロ」の加わった2正面作戦を強いられ青息吐息である。
このうえ「対中東」が加わる3正面作戦などとうてい耐えられなくなっている。それは米国自身が認めているところだ。
米国中心の国際秩序への挑戦は何も中ロ「修正主義勢力」だけがやっているわけではない。
グローバルサウスと呼ばれる発展途上国も、BRICSやG20などでG7「先進国」中心の秩序からの離反の動きを強め、独自の新秩序形成に動いている。

2023年を通して戦後世界を支配した「国際秩序の破綻」、すなわち「パックスアメリカーナの終わり」は、よほどの能天気でないかぎり、世界の誰もが目にすることになった。
米国によって対中対決の最前線を担う決断を迫られているわが国では、この「時代の潮目の変化」を誰よりも注視し、正しく対処すべきだと思う。

対中対決で代理“核”戦争国化を担うのは、国土防衛のためでは全くない、「普遍的価値観」「法の支配」という米国中心の国際秩序防衛という「同盟義務」のためのものにすぎない。
兼原信克・同志社大学特別客員教授(元内閣官房副長官補、元国家安全保障局次長)は「被爆国として非核の国是を守ることが大事なのか、それとも国民の生命を守ることが大事なのか、国民が真剣に議論すべき時に来た」との二者択一論で国民に覚悟を迫った。

これは論理のすり替えだ。いま問われている二者択一は「非核の国是を守るのが大事か、同盟義務を守るのが大事か」である。国是に反するような同盟義務など守る必要があるのか。
こう問題を見るべきではないのか?

「パックスアメリカーナの終わり」の見える現在こそ、新年に持ち越された「日本の代理“核”戦争国化」を阻むための、積極的闘いを挑む好機にすべきだと思う。
主導的に非核の国是擁護を掲げ、「核持ち込み」「核共有」を許さない闘いを展開せねばならない。「虎の尾を踏む」恐ろしさを米国に痛感させられるかどうか、日本人の性根が問われている。

(月刊「紙の爆弾」2024年1月号より。最新号の情報はこちら→https://kaminobakudan.com/

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若林盛亮 若林盛亮

1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。

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