【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第139号:沖縄、フィリピンの日米軍備強化に反対する ウォルデン・ベロー氏講演会

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

元フィリピン下院議員で反戦平和活動家のウォルデン・ベロー氏が沖縄を訪れ、6月10日に「沖縄とフィリピン:アメリカ新冷戦の最前線」と題し講演した。基地視察や意見交換会を含めベロー氏の重要な指摘と提起を報告する。

アメリカ新冷戦の最前線

「アメリカ新冷戦の最前線」の講演タイトルに全てが集約されている。米ソ対決の「冷戦」は終結したが、米国は中国を敵視する「新冷戦」を仕掛け、「中国軍事包囲戦略」の攻撃拠点の最前線基地として「沖縄とフィリピンの軍備強化を進めている」という指摘である。また韓国も中国軍事包囲戦略の最前線基地と指摘した。

「米国は軍事力を背景にした米国の世界覇権、経済的利益を脅かす中国を敵視し、米国に従う準主権国家であるフィリピン、沖縄・日本、韓国に米軍基地を置き、フィリピン、日本の軍隊(韓国軍も)を米軍の指揮下に従わせ、中国軍事包囲を進めている」

「米国の中国に対する軍事的威圧、挑発は過激さを増し、偶発的な衝突が戦争となる危険性が高まっている。米軍の戦力が中国軍を上回る優位さを保っている間に、米国が中国への先制攻撃を仕掛ける可能性すらある」

講演会や県内基地視察、意見交換会でベロー氏は大意、以上の点を指摘した。日本では日米政府が「中国脅威論」を宣伝し、マスコミもそれに乗り、あたかも中国が日本、沖縄に攻め込んでくるかのように「抑止力・軍事強化」を進め、世論も過半が支持している。ベロー氏はそれが誤りであり、「米国の利益のために、周辺国を巻き込む中国軍事包囲が戦争の危機を高めている。それは各国の利益にならない」ことを指摘するのだ。

米国の利益のための軍事基地

ベロー氏は講演の冒頭で太平洋戦時下の沖縄、フィリピンの多大な犠牲に触れた。去る大戦で県民は10数万人、フィリピン人は110万人が犠牲となった。本土防衛のため日本軍が駐屯した沖縄は米軍の攻撃により、米軍基地のあるフィリピンは日本軍の攻撃により住民が惨禍を被った。「軍事基地は攻撃目標になる」。「米国の利益のために軍事基地を置けば戦争に巻き込まれる」、「沖縄、フィリピン(韓国も)は米軍基地撤退を目標とすべきだ」というベロー氏の提起は、講演会で発表した「連帯声明」に盛り込まれた。

米国は台湾有事に向けフィリピン国内の基地使用強化を進めている。これに対しフィリピン国民は猛反発している。フィリピン北端のカガヤン州知事は「太平洋戦時のように再び戦火に巻き込まれる」と反対している。ピープルズ・プラン研究所は「フィリピンの学生、労働者、漁民が反対しデモや集会を開いている。政治家や知事らが反対している」と報告している。米軍の基地使用を受け入れたマルコス大統領も「中国に対する攻撃拠点とすることは認めない」と表明している。それらの資料を講演会で配布した。

沖縄と同じように米軍駐留で米兵の殺人など凶悪事件、性被害事件に苦しみ、朝鮮戦争、ベトナム、湾岸戦争で米軍の出撃基地となったフィリピンは1980年代の民主化闘争で憲法に「外国軍の駐留禁止」「核兵器の持ち込み禁止」を盛り込み、92年にフィリピン国会は「米軍駐留協定」を否決し、米空軍クラーク、海軍スービック基地が撤去された。しかしその後、フィリピンは米軍訪問協定を受け入れ、アキノ政権下で5つの基地、今年に入りマルコス政権が4基地の米軍使用を認め、計9基地が米軍の駐留に供されることになった。

強化される「日米比軍事協力」

ベロー氏は、国内で米軍基地使用に反対する運動が高揚しているものの「マルコス大統領は海外に多くの資産を持つ。米国に逆らって外国の資産が凍結されることを恐れている。マルコス政権は米国に従わざるを得ないだろう」と悲観的な見通しを語った。

日本国内も「中国脅威論」に惑わされる国民、岸田政権だけでなく野党を含む政党も対中国の「抑止・軍事力強化」に前のめりでメディアの論調も肯定的だ。沖縄県民、多くの国民が抱く新たな戦争の不安は、大きな反対運動を作り出せていない。

米国が扇動し日本、フィリピンを巻き込む「中国軍事包囲」に反対するどころか、中国に対抗する軍事強化が加速している。「日米比 安保で新枠組」「対中抑止 16日初会合」。6月9日産経新聞は1面トップに大きく報じた。3国の安全保障担当者が東京で初会合を開き、「東・南シナ海で海洋進出を強める中国への抑止力強化に向け、3カ国の連携を深化させる狙い」「共同訓練の強化やフィリピン軍の能力構築など防衛協力の強化策について意見を交わす」という。日本が初参加する「日米比合同訓練」の報道もあった。

「米国の軍事、経済覇権を守る」のために、台湾有事に備え「日米比」が合同訓練を重ね、中国との戦争準備を加速しようというのだ。

本土は大丈夫は「幻想」

「戦争になれば沖縄だけが犠牲になるのか」。講演会で筆者はベロー氏に質問をぶつけた。

京都大学研究員として滞在中のベロー氏によると「大学の教授、学生を含め本土の問題意識は驚くほど低い」という。「基地問題は沖縄問題と本土の方々は考えている。沖縄が戦場になっても本土は大丈夫と考えているが、それはイリュージョン(幻想)だ」。

「米軍第7艦隊の母港である横須賀、岩国、横田、三沢など日本中に米軍基地がある。
戦争になれば日本中の米軍基地が攻撃されるだろう」。

「特に嘉手納、普天間など米軍の重要拠点である沖縄はまっ先に攻撃されるだろう。中国の軍事担当者がそう考えないとしたら、彼はクレージーだ。フィリピンも同じだ」。

ベロー氏は米空軍嘉手納、海兵隊普天間、海軍ホワイトビーチを視察した。3基地は「朝鮮国連軍基地」であり休戦中の朝鮮戦争が再燃すれば出撃基地となる。ホワイトビーチは米揚陸艦、原潜の寄港が増え、台湾海峡を通過する米艦船が寄港する。沖縄は台湾有事、朝鮮有事に直結する米軍事拠点に位置づけられている。有事が起きれば災禍は沖縄に、「そして確実に本土も戦火に巻き込まれる」と見ている。

ベロー氏は「フィリピンの米軍クラーク、スービック基地は撤去後に民間開発され数多くの企業、産業が基地時代と比較にならない収益をもたらしている。基地従業員のスキルが企業に生かされ、性サービス従事者には職業訓練を行ない雇用を満たしている」「沖縄もそうすべきだ」と指摘した。普天間、嘉手納両基地がPFASなどの汚染源となっていることについて「驚かない。フィリピンの米軍基地も汚染されていたが米軍は原状回復せずに立ち去り、政府が苦労してきれいにした」と語った。

憲法の空洞化

ベロー氏はフィリピン憲法が外国軍の駐留を禁じ、いったんは米軍基地を撤去させながら「駐留ではなく訪問」の名目で米軍が戻ってきたことについて「憲法の空洞化」を指摘した。日本も「憲法の空洞化」により敵基地攻撃能力の保有、米軍の指揮下で自衛隊が米軍の戦闘に自動参戦する日米軍事一体化が進んでいるとの認識で一致した。

ベロー氏は米国を批判するだけでなく、責任の一端が中国にあることも指摘した。米国の「中国軍事包囲」に対抗する中国が南シナ海の海洋進出を強めたことがフィリピン他周辺国の反発を招き、「防衛協力」の名目で米国の軍事拠点化を後押しする形になっている、という。中国と南シナ海周辺国の対話の重要性を指摘した。

講演会は「沖縄とフィリピンにおける日米の軍備増強に反対し戦争の回避を連帯声明」を発表した。日本、米国、フィリピン政府への具体的な要求項目として①中国への脅威を目的とする軍備増強の中止②中国との国際的な協議に参加し、軍縮による緊張緩和と戦争回避を図る③日本、フィリピンの軍隊を米軍の指揮下に置き、下部組織とすることをやめる④米軍基地の撤退を主要な政策目標とするーことを提起した。

連帯声明に対しノーモア沖縄戦の会の具志堅隆松共同代表は「米軍基地だけでなく戦争準備を進める自衛隊の撤退も訴えたい」と提起し、満場の拍手で賛同を得た。

米国がフィリピン、沖縄・日本、韓国に置く米軍基地は、米国の「新冷戦」中国軍事包囲の最前線基地となっている。そのことを沖縄、フィリピンが確認し反対の声を上げる意義は大きい。沖縄、フィリピン、米国、韓国、ASEANほかアジアの国々に「連帯の輪」を広げることが私たちの課題だ。

新垣邦雄(当会発起人)

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