【連載】モハンティ三智江の第3の眼

第10回 1年8ヶ月ぶりインドへ、発展の陰に大気汚染も、息子のライブに感激

モハンティ三智江

昨年の11月21日にインドに入ってから、はや50日以上が過ぎた。振り返るに、コロナ下のインドから2年3ヶ月ぶりに帰国できたのが2022年3月、いまだ成田空港では3日の隔離が必要な時期だった。
同22年3月14日に、日本のベースである金沢市のマンションに帰宅、以来1年8ヶ月日本にとどまり続けた。
コロナ前の2019年現地人夫が急死、コロナ中には母が逝去と、公私共に激動の4年間だった。

特養ホームに入所中だった母が危篤に陥ったのは2021年5月、折しもインドは世界ワーストの感染国となり、医療酸素不足と相まって死者が激増、帰国など到底望めない状況だった。2ヶ月後に金沢在住の弟(医家)が自医院に母を引き取ったが、手厚い看護にもかかわらず、半年とたたぬうちに永眠(2021年10月9日)、しかし、長女である私は葬儀に参列することすらかなわなかった。
悶々と現地の隔離生活に甘んじ、やっと帰れたのが、母の死後半年もたった頃だった。日本大使・領事館がインド全土の在留邦人向けに無料の陰性証明書を発給するサービスを期間限定で提供してくれたおかげで、取得至難だった日本フォーマットの証明書をゲットできたのである(この間の詳しい経緯については、以下の記事をチェック頂きたい)。
https://ginzanews.net/?page_id=58718

2023年5月に新型コロナウイルスが5類に移行し、渡航制限が解除されたことで出入国に問題はなくなったが、折悪しくインドはミッドサマー、酷暑期とこの時期発生しやすいサイクロンを避けて、日本にとどまり続けた。

インドのコロナ事情は、私が去った2022年3月時点でほぼ終息、以後ぶり戻しもなく、正常な社会生活が営まれていた。とはいえ、待ちかねた渡航者が殺到して航空運賃が高騰していたし、今しばらく事態を静観した方がよさそうだった。やがて、乾季から雨季(7~9月)に入り、現地在住の息子に帰印を促されたが、今ひとつ気が乗らず、どうせなら絶好シーズンの冬季(11~2月)が望ましいとぐずぐずしていた。

帰印日程がなかなか定まらない中、ふっと夫の4回忌(命日は2019年11月22日)を北インドの有名な山間聖地・リシケシでやりたいとの思いが芽生え、同時にインドに生前1度も来たことがなかった母の散骨も、聖なる母河ガンジスの源流の注ぐ美しい聖地でやれたらとの希望が重なった。
現地の息子に意向を伝え、命日の前日のフライトを取ってもらった。関西国際空港発のベトナム航空便(ホーチミン経由)で、2023年11月21日22時過ぎに首都デリーに到着、迎えに来てくれた息子の手配で翌朝、特急バスで単身リシケシへと向かったわけだ(現地供養の詳細は以下の記事をご覧頂きたい)。
https://ginzanews.net/?page_id=65628

過去35年暮らした東インド・オディシャ州のベンガル湾沿いの聖地プリーに帰着したのは、リシケシでの法要を済ませた昨年11月27日のことだった。
以来ひと月半、プロのラッパーとして活躍する息子(芸名Rapper Big Deal)も、州内ライブツアーのため帰省し、久々に現地の家族や親族と交流を温め、クリスマスや新年も和気あいあいと楽しく過ごせた。

折を見ての州内探検も試み、昨12月の誕生日には、車で7時間かけて穴場スポット、ダリングバディ(Daringbadi 、冬季雪が降ることで有名な高地)に遠出、山中の滝で、落下する激流に完璧な弧を描く小さな虹を目撃して、大感激した。
年が明けてからは、息子のライブツアーに同行、261キロ離れた小さな町ボウド(Boudh)で、州政府後援の選挙キャンペーン絡みの大掛かりなショーを満喫した。初めて我が子のパフォーマンスを目の当たりにした私は、その素晴らしさに感激、元旦を直撃した能登地震で沈んでいた気持ちが癒される思いだった。

1年8ヶ月ぶりに現地に戻って思うことは、インドの目覚しい発展ぶり。その反面、大気汚染がひどくて、首都デリーはこの時季特有のスモッグで覆われていたが、煙霧はリシケシに行っても変わらず、当地に戻っても大気は霞んだまま、AQI(Air Quality Index、空気質指数)が250前後と嘆かわしい。

さて、オディシャ各地への州内探検ツアーで意外だったのは、道路が整備されて、ドライブが割と快適なこと。かなり田舎の方まで舗装されていて、若かりし頃おんぼろバスで、悪路をガタピシ揺られていったのが嘘のようである。高速に乗ればスイスイ、物価が安めのインドでは(日本の3~4分の1)料金も日本のように高くない。
それと、昔は、車やバスによる長距離移動は、トイレに困ったが、今はガソリンスタンド(インドではペトロールポンプが通称、国営のIndian Oil Co.ltd)が随所にあってトイレ完備なので、助かる。周辺にチャイ(北インド民の愛飲する甘ったるいミルクティー)やコーヒーを飲ませる小店や、ビスケット・ミネラルウオーターにジュース類の売店もあるので便利、いわば日本の道の駅のような役割を果たしているわけだ。と言っても、モダンで小綺麗なビル構造とは程遠い、簡易休憩所に毛が生えた程度だが、最低限の用は足せる。

州内車旅で、改めてオディシャ州が森に囲まれた緑豊かな自然美に恵まれた地帯であることを再認識、車窓に広がる鬱蒼とした樹木や田園地帯を愛でる楽しみ、日本に比べ、地平線がはるか彼方の広大さ、うさぎ小屋で縮んでいた意識まで拡大するかのようである。
街中は相変わらずゴミも多いし、クラクション鳴りっぱなしの喧騒と埃っぽさ、大気汚染が深刻だが、田舎州を周遊すると、神の恩寵とも言える荘厳なる大自然に圧倒される。

特に、インドの大木は素晴らしい。樹齢何百年クラスの古木がその辺の叢(くさむら)ににょきにょき生えている。バンヤンの巨木の幾重もの蛇が絡みついたような幹や気根がびっしり垂れ下がった枝、天空いっぱいに枝葉を広げる威力には圧倒される。酷暑期は木陰が避暑の役目を果たしてくれ、涼むに格好の憩いの場も提供してくれるありがたい巨木の恵みだ。
1988年創業の我が老舗ホテル(Hotel Love Life, C.T.Road, Puri, Odisha)にも、椰子の大木がたくさん植わっているが、レセプションオフィスの背後のココナッツツリーはサイクロンで枝葉をもがれ瀕死の危機に直面しながらも、後年見事に復活、長い葉を放射状に伸ばし、その再生パワーには驚かされる。カラスのねぐらでもあるこの椰子樹を、私は神と崇め拝む毎日だ。
最後に、最近インドで目についたニュースをいくつか挙げておこう。
まず、インド株の高騰について。ボンベイ証券取引所における株価指数(S&P Bombay Stock Exchange Sensitive Index、略称センセックス)は7万ポイント超と爆上かり。私が当地を去った時点では、5万ポイント台だったと記憶しているから、高騰ぶりには驚かされた。投機に興味のある方は、インド株ブームの昨今、長期視野での投資をおススメする次第だ。
ちなみに、ボンベイ証券取引所は東京株式市場の10分の1の規模だが、1975年開設とアジア最古で、30ほどの株式が公開されている(買い筋はIT企業銘柄)。

他に目立ったトピックとしては、冬季以降のコロナのリバイバル。南のケララやゴアを中心に、当州でも若干、JN1の変異株が急増中なのである。まだパニックに陥るほどでないが、中央政府は警戒を強めている
最後にもうひとつ、4月から5月にかけてインドは総選挙を控えていることもあって、政界の動きが活発化している。与野党とも各地で競うようにキャンペーンを繰り広げる昨今だ(オディシャ州選挙も同時開催予定)。
2014年来中央政権を掌握している与党のインド人民党(BJP=Bharatiya Janata Party、ヒンドゥー至上主義が党是)は3期続投を狙うが、モディ首相の人気が絶大なので、昨年12月の3州選挙(マドゥヤプラデシュ・ラジャスタン・チャディスガール)での勝利といい、連勝はほぼ間違いない。


東インド・オディシャ州ボウドで、満員の観客に現地語ラップを披露し、大喝采を浴びるRapper Big Deal(著者の息子でインドで人気のラップスター)


オディシャ州政府後援の選挙キャンペーン絡みのショーで、1万を超す観衆に、オリジナルの現地語ラップを披露するRapper Big Deal(ボウドにて、2024年1月4日)


オディシャ州から248キロ離れた高地ダリングバディの山中にあるレインボー・ウォーターフォール。落下する水中に完璧なアーチを描く小さな虹を目撃して感激、読者にも幸運を呼ぶミラクルレインボーを分かちあっていただきたい。


ダリングバディへの誕生日ツアーて、落下する滝の中に奇跡の虹を発見し、指し示す著者


早朝ダリングバディを散歩中に見つけたインドの大木

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モハンティ三智江 モハンティ三智江

作家・エッセイスト、俳人。1987年インド移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」、「インド人にはご用心!」、「涅槃ホテル」等。

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