【書評】寺島隆吉『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻の調査力と批判精神に学ぶ(上)
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本書2から4は、上記サイトリンクからご確認ください。
ISFでも『寺島メソッド翻訳NEWS』および『百々峰だより』によりおなじみで、英語教育研究者としても著名な寺島隆吉氏。その新著『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻(以下本書と表記)が、2023年11月末にあすなろ社から刊行されました。ISFでも全体が転載された『コロナ騒ぎ謎解き物語』全3巻(2021~22年、あすなろ社)、『ウクライナ問題の正体』全3巻(22年、同)の続編に当たる内容です。ウクライナ問題とコロナとワクチンの問題を両方高い水準で論じられる有識者は少数であり、拙著『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年)の一つの手本にもなりました。寺島氏のこれまでの連載はこちらです。
https://isfweb.org/columnist/%e5%af%ba%e5%b3%b6%e9%9a%86%e5%90%89/
上の写真の通り、寺島氏が在住する岐阜の芸術家による、大変しゃれた、色鮮やかな表紙デザインも印象的です。本書は全体で約860頁という大著ですので、私が見つけた補足資料と照らし合わせながら、要点にのみ絞って紹介させていただきます。第1、3巻がコロナとワクチン論、第2、4巻はウクライナ・米国・ロシア論を扱う、という同時代の二大問題に挑む壮大な構成になっています。
第1巻「まだどれだけ殺すつもりか イベルメクチンの圧殺とファシズム化するアメリカ」
寺島氏の功績の一つとして、前著『コロナ騒ぎ謎解き物語』で、コロナ禍の比較的早い時期に、インド、インドネシア、南米、アフリカの一部で、コロナ治療薬として大きな効果を上げたと報告されるイベルメクチンについて探究していたことが挙げられます。ところが日本では、主要メディアの偏りもあって、イベルメクチンについて広く知られることはなかったように思われます。寺島氏が指摘するように、立憲民主党の中島克仁議員、原口一博議員らが2021年6月に、既存薬であるイベルメクチンも緊急使用許可(EUA)の対象として、「新型インフルエンザ等治療用特定医薬品の指定及び使用に関する特別措置法案」(通称:日本版EUA整備法案)を提出していたことも、ほとんど報道されなかったように見えます(14頁)。
https://cdp-japan.jp/news/20210608_1495
第1巻の表題ともなっているアメリカのファシズム化ですが、第3章「女医メリル・ナス博士への迫害と壮絶なる闘い」で詳しく語られます。実績豊かな70歳の医師であるナス博士が、イベルメクチンとヒドロキシクロロキンをコロナ患者に投与し、新型コロナに関する誤情報を広めたとして、メーン州により医師免許停止と精神鑑定が命じられた、という驚愕の事件について報告されています。ナス博士が、これは憲法違反だ、と抗議せざるを得ないほどの事態が、自由民主主義の盟主を自任する国で起きていたわけです。副作用が少ない薬として知られるイベルメクチンと合わせ鏡となる存在であり、莫大な種類と数の有害事象が報告される実験的なmRNAワクチンを推進してきたのは主として民主党州であり、共和党州は慎重、という現象が生じている、とも指摘されます。日本でも、参政党のような一部の右派勢力の方が、mRNAワクチンについて詳しく調査した上で反対を唱える傾向がありました。それに対して、左派・リベラル勢力は、この話題に関してはWHOに従う傾向が強かったように思われます。
第4章「殺人ワクチン、その危険度はそれぞれ違う」で紹介されているように、製造番号ごとに著しく有害事象発生率が異なるワクチンについて、「私のワクチンはどれほど悪いか」を調べるサイトがあります。世界最高級の人口当たり接種数を誇るに至った我々日本人にとっては、とりわけ貴重な情報であるように思われます。
Global Research: The “How Bad Is My Batch” Website Provides Access to Data on Vaccine Deaths and Disabilities associated with Each Batch / Lot Number. 2022/1/20.
https://www.globalresearch.ca/how-bad-is-my-batch/5766629
主題のイベルメクチンに戻りますと、なぜ開発者・大村智博士の祖国である日本で、わざわざインドから輸入せざるを得ないのか、という寺島氏の疑問はもっともです(113頁)。共和党議員の一部がイベルメクチンの使用を求めた、というのも興味深い事実です(116頁以下)。イベルメクチンについては、対コロナ効果のエビデンスがないから使うべきでない、という反論がよく聞かれます。これに対して、イスラエルのエリ・シュワルツ博士が、二重盲検・無作為化比較対象試験という最も厳密な方法で確認した、と反論していることは注目に値します(131頁)。日本でイベルメクチンの効果を否定する人々が、こうした研究に言及することが殆どないのは、おかしなことであり、こうした傾向が世論と政策の歪みをもたらしているのではないでしょうか。
Asaf Biber, Eli Schwartz et al., The effect of ivermectin on the viral load and culture viability in early treatment of nonhospitalized patients with mild COVID-19 – a double-blind, randomized placebo-controlled trial, in: International Journal of Infectious Diseases, 122 (2022) 733–740. https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(22)00399-X/pdf
さてワクチン禍に匹敵する問題が、新型コロナウイルスが人工であるという疑惑ですが、第8章「コロナ出現にアメリカ政府が関与の疑い―高名なる医学誌『ランセット』コロナ調査委員会委員長の暴露」で論じられています。米国のコロナ対策を主導したアンソニー・ファウチ博士が米議会で、武漢で行われたウイルスの感染力等を高める「機能獲得研究」に資金提供をしていたことを追及されています。
『翻訳NEWS』:「『辞任するファウチを逃がすな!』共和党上院議員が証拠品の保管を要求」、2022年9月5日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1008.html
ウクライナにある米国の「生物学研究所」を調査したロシア軍が、「米国政府はCovidの出現に加担しているかもしれない」と主張していることには、ウクライナとコロナを結ぶ太縄とはこの研究所のことか、といった疑惑を深めます(『翻訳NEWS』、2022年9月21日。http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1048.html)。
ロシアが主張していることだから即「偽情報」と断定していいわけではなく、慎重な吟味が必要であることは、「マイダン革命は米国が支援したクーデター」、というロシア側の見方に相当な根拠があったことから得られた教訓の一つでもあるでしょう。
ウクライナの「生物学研究所」でつくられたかどうかはともかくとして、新型コロナが人工である可能性については、既に多くの研究が積み重ねられています。寺島氏が注目するのは、コロンビア大学教授で、著名医学誌『ランセット』のコロナ調査委員長でもあるジェフリー・サックス博士の見方です。
「『新型コロナの起源』の隠蔽について。ランセット誌Covid-19対策委員会委員長ジェフリー・サックス教授の主張」、『翻訳NEWS』、2022年9月19日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1038.html
サックス氏はこの記事で、特に「新型コロナに似た改変コロナウイルスの生産を目的とした大規模な生物工学的取り組み」と「新型コロナの明らかに人工的な特徴を隠すための政府周辺の科学者による集中的な取り組み」に注目しています。その上で、米国防総省が出資するNGO、エコヘルス・アライアンスと武漢ウイルス研究所との関係にも言及しつつ、新型コロナの出処は米国の生物研究所である可能性まで示唆しています(182頁以下)。
ちなみにサックス氏の専門は経済学であり、ウクライナ問題についても「ウクライナはネオコンがつくりだした最新の大災害だ」という、米国側の責任を追及する寺島氏の見方に近い論考をものしています。
『翻訳NEWS』、2022年10月10日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1083.html
寺島氏のように、コロナおよびワクチンの問題とウクライナ問題の両方に詳しい有識者を探すとしたら、国内には例えばブログ「櫻井ジャーナル」主催者の櫻井春彦氏が存在しますが、外国ではサックス氏のような大物を引き合いに出すことになる、ということです。
なお新型コロナの起源問題については、当初から人工説を唱えてきた国内の極めて希少な研究者である掛谷英紀・筑波大学准教授が、扶桑社から新著『学者の正義』を2023年12月に刊行しました。そもそも「科学」とは何かという問い、予算獲得のためにウイルスの感染力等を高める「機能獲得研究」に手を染める科学者らに対する批判、「医療産業複合体」批判といった視点から、詳しく解説していますので、ご参照ください。
第2巻「『プーチンの大罪』? そして未来はEUの崩壊か ゼレンスキーの降伏か」
第2巻ではウクライナ問題が論じられます。日本の一般的な報道と比べると、極めて逆説的に聞こえるでしょうが、プーチン大統領の“罪”は、ウクライナに「8年前に進攻しなかった」こと(第5章)だった、と指摘されます。実際にプーチン氏は、ロシア軍兵士の母親らに対して、その不作為で犠牲を増やしたことについて、謝罪しています(『翻訳NEWS』2022年12月6日。http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1164.html)。
プーチン氏はミンスク合意による和平をひとえに信じていたから、介入を控えていたとのことです。しかしミンスク合意がウクライナ軍を強化するための欧米による欺瞞だった、とドイツのメルケル元首相が告白したことは、ISF読者の皆様なら既にご存じでしょう。
「前独首相メルケル、ミンスク和平協定での欺瞞を認める。その意図は何か」、『翻訳NEWS』、2022年12月22日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1175.html
寺島氏はアフガニスタンにソ連軍をおびき出し、イスラム原理主義勢力と戦わせてソ連を崩壊させた米国のかつての戦略へと注意を促します。その上で、米国は、今度はロシア軍をウクライナにおびき出して、ウクライナ軍や外国人傭兵に代理戦争を行わせ、ロシアを解体に追い込もうとしているのではないか、という見方を提示します(136頁以下)。こうした見方が決して“陰謀論”ではなくむしろ現実的であることは、米政府に近いと目されるシンクタンクであるランド研究所の2019年の報告書を見ても、認めざるを得ないでしょう。
“Overextending and Unbalancing Russia. Assessing the Impact of Cost-Imposing Options”
https://www.rand.org/pubs/research_briefs/RB10014.html
この報告書には、ウクライナに殺傷兵器を援助すること(lethal aid)は、ロシアを不安定化させることにつながる、と明記されているからです。
当時英国の首相だったボリス・ジョンソン氏がキエフを訪問し、ウクライナのロシアとの和平交渉を妨害したことにも寺島氏は触れていますが、これについてはウクライナの大手新聞が報道している通りです。
Ukrainska Pravda: Possibility of talks between Zelenskyy and Putin came to a halt after Johnson’s visit – UP sources.2022/5/5.
https://www.pravda.com.ua/eng/news/2022/05/5/7344206/
①ロシア・ウクライナ戦争の遠因は、米国が強く後押しして起きた2014年のマイダン革命
②内戦を終結させるためのミンスク合意は、西側による「時間稼ぎ」だった
③戦争勃発後の停戦交渉を英国首相が妨害して挫折させた
以上の一連の出来事の流れに鑑みると、一般に流布したロシア悪玉論では、複雑怪奇な現実を到底読み解けないことが、如実に分かることでしょう。
ちょうど停戦を妨害するかのようなタイミングで起こったブチャ事件についても、寺島氏は前著『ウクライナ問題の正体1』第13章において一早く異論を唱えていました、ブチャ市長の不自然な振る舞いや、犠牲者が身に着けていたロシア支持を意味する白い腕章に注目し、ロシア軍が犯人では恐らくないだろう、という見方でした。
第2巻の特徴の一つは、特に第2章「EUの崩壊かゼレンスキーの降伏か」で、NATOが全面的に支援するウクライナとロシアの局地的戦争という側面のみならず、広く世界秩序の大転換を見据えていることが挙げられます。一方では、対ロシア制裁をきっかけとした欧州のエネルギー危機による自滅、どれだけウクライナを支援しても勝たせられない米国の威信の失墜が見られます。他方でそれと対をなすような、中国とロシアを中核とするBRICS諸国と、上海協力機構(SCO)の著しい台頭があります。BRICSがイラン、サウジアラビアといった有力な国々を新しい加盟国として迎え入れ、急速に勢力を拡大しているのは、よく知られている通りです。大産油国であるサウジアラビアが決済の脱ドル化を進めており、米ドル覇権体制にも陰りが見えてきています。
寺島氏が依拠するのは、マシュー・エレット氏の次の記事です。「マニフェスト・デスティニー(天命)の成就―中国とロシアは成功する、米国が失敗したところで」、『翻訳NEWS』、2022年5月22日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-924.html
この記事では、ロシアの東部(シベリア)開発と、中国の一帯一路構想が融合し、これがかつての米国の西部開拓という「天命」を遥かに凌駕する新しい「天命」であるとみなしています。米国がパキスタン、イラン、イラク、シリア等に介入や攻撃を仕掛けた理由は、一帯一路を妨害するため、と寺島氏は推測しています(62頁)。現在は日本の南西諸島でミサイル部隊の配備が進んでいますが、これは中国包囲網の一環である、とも見ています(65頁)。ウクライナの次には、日本、台湾、韓国が、中国に対する「大砲の餌食」として使われかねない、という寺島氏の警鐘に、真剣に耳を傾けるべきでしょう(66頁)。
産業革命以来、世界を支配してきた西洋文明ですが、購買力平価のGDPでは、東西逆転・南北逆転が起こっている、という指摘も踏まえておきましょう。
進藤榮一「大転換する世界と日本の生きる道―『アジア力の世紀』へ―(前)」、『ISF独立言論フォーラム』、2022年4月30日。
https://isfweb.org/post-2071/
本書はウクライナ問題とコロナおよびワクチン問題を同時並行的に論じているのが特徴ですが、前者が主題の第2巻にも、後者についての重要な議論が入っています。とりわけ重要なのは、第6章「イベルメクチン、ブラジルで8万人を対象に治験が成功」と第7章「誰も知らない今の日本―ワクチンもコロナ死も『世界一』です。とりわけ後者は、ビッグデータであるため厳密な因果関係を確定するのは困難でしょうが、喧伝されたワクチンのコロナに対する絶大な効果を強く疑問視するには、十分な動機付けでしょう。同じく第7章で紹介されている通り、ファイザー社の幹部ジョードン・T・ウォーカー氏が、独立系メディア・プロジェクト・ヴェリタスのおとり取材に乗せられ、「指向された進化」(directed evolution)と称して、コロナ変異株を製造していたことを告白した事件も、必須の知識です。ウォーカー氏によると、コロナはファイザー社にとってcash cow(ドル箱)なのだそうです。こうした重大な事実や深刻な疑惑について大多数の人々が知らないまま、様々な政策が決定されていくのは、情報鎖国と称される日本ならではの悲劇、といっていいでしょう。
ISFと同じく、真実(veritas)探求を趣旨とするプロジェクト・ヴェリタスの記事は、mRNA技術の開発者の一人であるロバート・マローン博士のサイトにて、辛辣なコメント付きで読むことができます(cash cowもここからの引用です)。
Robert W. Malone: Project Veritas has broken Pfizer’s Gain-of-Function Research Program Wide Open. Pfizer’s research is dangerous, immoral and must be shut down now. 2023/1/6.
https://rwmalonemd.substack.com/p/project-veritas-has-broken-pfizers?utm_source=substack&utm_medium=email#play
【書評】寺島隆吉『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻の調査力と批判精神に学ぶ(下)
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しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文に「思想としてのコロナワクチン危機―医産複合体論、ハイデガーの技術論、アーレントの全体主義論を手掛かりに」(名古屋哲学研究会編『哲学と現代』第39号、2024年)。論文は以下で読めます。 https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 elpis_eleutheria@yahoo.co.jp