連載:コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄(寺島隆吉)

【書評】寺島隆吉『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻の調査力と批判精神に学ぶ(下)

嶋崎史崇

本書1はこちらから
本書2から4は、上記サイトリンクからご確認ください。

【書評】寺島隆吉『コロナとウクライナをむすぶ黒い太縄』全4巻の調査力と批判精神に学ぶ(上)

 

第3巻「闘うイベルメクチンの飲み方・使い方 コロナもワクチンも、国防総省が開発した生物兵器」

第2巻末尾でコロナとワクチン論に立ち返った寺島氏は、第3巻ではいよいよその核心に迫ります。ウクライナ問題とコロナとワクチンの問題の共通点は、ロシア・プーチン氏の悪魔化とコロナの悪魔化だという指摘は、両者を結ぶ「黒い太縄」の本質を明らかにするものです。ロシアの悪魔化は、欧米メディアに氾濫した「言われなき(挑発されざる)戦争(unprovoked war)」といった、革命と内戦の経緯を無視した決まり文句に表れているといえるでしょう。他方でコロナの悪魔化とは、寺島氏によると、「感染力はあっても致死率が極めて低いウイルスを、猛毒のウイルスであるかのように描いて、人々を遺伝子組み換えワクチンに追い込ん」(24頁以下)だことだとされます。私見ですが、こうした悪魔化の反動で、NATOの存在と拡大が正当化され、コロナワクチンの開発者がノーベル賞まで与えられて救世主のように持ち上げられた、という倒錯した事態が実現しているともいえます。

現状のような一方的な情報流通が実現しているのは、欧米日本における情報統制が背景にあります。寺島氏が引用する櫻井春彦氏は、「モッキンバード」作戦に言及して解説しています。米国の組織メディアは昔から権力のプロパガンダ機関になっているところがあり、CIAは『ニューヨーク・タイムズ』をはじめとする主要メディアから架空の肩書を工作員用に借りたことすらある等、非常に密接な協力関係にあるとされてきました。
櫻井ジャーナル「米国政府は言論統制を強化しながらネオ・ナチを使って露国との戦争を進める」、2022年5月4日。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202205030000/

モッキンバードとは、物まね鳥のことであり、国家権力によって都合の良い情報を流すメディアをつくる狙いが込められています。ただし、全体として米国の主要メディアの堕落が隠せないにしても、危険を顧みずこうした醜い実態を告発する記者が昔も今も少数ながら存在することが、米国に残された希望かもしれません。そのモッキンバード作戦の公文書はこちらです。自国の恐ろしい恥部も律儀に保存しようとする優れた情報公開制度も、米国の強みでしょう。https://www.fordlibrarymuseum.gov/library/document/0180/75573204.pdf

いよいよ本題に入りますが、サーシャ・ラティポワ氏の衝撃的な告発が第2章で解説されます。彼女がドイツのコロナ調査委員会という組織に招かれて行ったインタビューの記録に基づいています。
Corona Investigative Committee: Alexandra (Sasha) Latypova | Session 140: Resolution 53/144.
https://www.bitchute.com/video/45ZoQcVpkJsi/

また、ラティポワ氏の自己紹介記事は、こちらです。
Substack: Be Not Afraid. Introduction, My Background and Motivation. 2022年12月5日。
https://sashalatypova.substack.com/p/be-not-afraid

ラティポワ氏は旧ソ連生まれで、ファイザーやアストラゼネカをはじめとする大手製薬会社の臨床試験を請け負ってきた専門家です。彼女がウクライナのザポリージャ出身という事実は偶然ながら象徴的であり、コロナとウクライナの間の「太縄」の宿命性に思いをはせざるを得ません。

情報公開法(Freedom of Information Act)に基づいてラティポワ氏が入手したコロナワクチンに関する資料は、確かに強い衝撃を与えるものです。「軍事的対抗措置」(Military Countermeasures)と称されるものは、三つの段階に分けられています。
第1段階が、一般にも名称を知られている「緊急使用許可」(Emergency Use Authorization=EUA)です。その源流は1997年のクリントン政権にまで遡るとされ、「他に治療法がないこと」を条件として、迅速に医薬品の使用を許可できるようになりました。「迅速に」というと、聞こえが良いのですが、裏を返せば、本来特にワクチンに求められる高い安全性審査を回避して急いで市場投入できるようになった、ということを意味します。
FDA:Emergency Use Authorization.
https://www.fda.gov/emergency-preparedness-and-response/mcm-legal-regulatory-and-policy-framework/emergency-use-authorization

第2段階が、「その他の取引権限」(Other Transaction Aurhority=OTA)です。これは2015年のオバマ政権下に導入され、国防総省が製薬会社に、非公開の「軍事目的の試薬」を注文できるようになった、とされます。次の米議会資料によると、OTAによって、国防総省は様々な法規制を回避しつつ、迅速に物品を取得できるという利点があるとのことです。欠点としては、透明性(transparency)に関して懸念があることが挙げられています。

Congressional Research Service: Department of Defense Use of Other Transaction Authority: Background, Analysis, and Issues for Congress. 2019/2/22.
https://crsreports.congress.gov/product/pdf/R/R45521

ラティポワ氏は、国防総省がOTAによってFDAの規制を逃れた正体不明の「試供品」を流通させた、と指摘します(54頁)。彼女は、コロナワクチンはFDAの管轄外の軍事領域にあり、医薬品ではなく生物兵器である、とまで踏み込んでいます(58頁)。国家安全保障会議(NSC)がコロナ対策を決定しており、その出席者は副大統領、国務長官、財務長官、国防長官、国防問題大統領補佐官、統合参謀本部議長、国家情報会議長官らばかりで、公衆衛生関係者はいないとのことですから(60頁)、尚更疑問が湧きます。

かくして寺島氏は、コロナ対策は一種の「戦争行為」として準備された、と結論付けます(61頁)。こういった見方は大変大胆であり、なかなか信じがたいと感じる人もいることでしょう。けれども私が知っている限りでも、2013年にモデルナの前身企業であるモデルナ・セラピューティクスに、国防高等研究計画局(DARPA)が2500万ドルもの助成金を拠出して「工作された(engineered)生物学的脅威」への防御手段としてmRNA技術を開発させた、という重大な事実があります。そのため、こうした見方を根拠のないものとして一蹴することは、決してできないと思います。

Moderna: DARPA Awards Moderna Therapeutics a Grant for up to $25 Million to Develop Messenger RNA Therapeutics™, 2013/10/2.
https://investors.modernatx.com/news/news-details/2013/DARPA-Awards-Moderna-Therapeutics-a-Grant-for-up-to-25-Million-to-Develop-Messenger-RNA-Therapeutics/default.aspx

第3段階のPREP(Public Readiness and Emergency Preparedness)ActとPublic health emergencyについては、本書で具体的な説明がないようですので、私が簡単に補っておきます。前者は、米保健福祉省(HHS)によると、同省の権限を強化するとともに、同省の疾病対策措置から生じる損害賠償を免責する、という内容が中心となっています。後者は保健福祉長官が発令する健康緊急事態宣言のことであり、感染症や生物テロ攻撃等の場合に、90日をめどに発令されるものです。

HHS:PREP Act Q&As
https://www.phe.gov/Preparedness/legal/prepact/Pages/prepqa.aspx
HHS:A Public Health Emergency Declaration
https://aspr.hhs.gov/legal/PHE/Pages/Public-Health-Emergency-Declaration.aspx

ラティポワ氏が、証拠文書付きで、米国防総省の「デュアルユーズ」mRNAワクチン開発への関与を実証している記事は、以下で読むことができます。

The role of the US DoD (and their co-investors) in “covid countermeasures” enterprise.
Intelligence is never artificial. 2022/12/29.
https://sashalatypova.substack.com/p/the-role-of-the-us-dod-and-their

続く第3章「ディリアナ・ガイタンジエバ女史の衝撃的研究」は、前著『ウクライナ問題の正体1』第12章に登場していたブルガリア人ジャーナリストの発見を深めたものです。ウクライナには、国防総省が資金を提供する「生物学研究所」が46カ所もあり、彼女によると2016年や20年に、その周辺地域でウイルス性の病気で死者が出たり、奇形児が生まれたりした、と疑われています。同様の研究はジョージア等、別のロシアの隣国でも行われ、やはり被害が報告されています。こうした生物兵器を巡る疑惑も、やはり一般読者にはにわかには信じがたいものがあるでしょう。けれどもロシア側は、ウクライナでの戦争勃発後に押収した資料に基づくとされる極めて詳細かつ具体的な報告書を作成、公開しています。次の相関図もその一つです。最初から「そんなことはありえない」と独断的に否定してかかるのではなく、これらを解読した上で、慎重に態度を決定する必要があると私は思います。

DEFENCE MINISTRY OF THE RUSSIAN FEDERATION:
https://www.globalsecurity.org/wmd/library/news/russia/2023/10/russia-231009-russia-mod02_nbc.pdf
https://archive.org/details/slide-5_202205

なお寺島氏は、新型コロナもウクライナの生物兵器研究所から流出した可能性が否定できないと、慎重な表現ながら、大胆な予測をしています(152頁参照)。今のところ、その物証は出てきていないようですが、もしそうした証拠が出てくれば、まさにこうした「研究所」が寺島氏の言う「黒い太縄」に当たることになります。そのため、予断を排して今後の出来事の推移を注視していきましょう。

第3巻の表題にあるイベルメクチンについては、第4、5章で、米国の医療団体FLCCCの研究に基づく予防と治療向けの具体的な服用法が紹介されています。元WHOコンサルタントのテス・ローリー博士が、WHOにおいても当初は効果が認められつつあったイベルメクチンが、どれほど異常な仕方で排除されていったのかを語る動画についても分析されています。

Former W.H.O. Consultant Exposes Takedown Of Ivermectin「元WHOコンサルタント(テス・ローリー博士)がイベルメクチン排除の謎を暴露」
https://www.niCOVIDeo.jp/watch/sm40907967

「このイベルメクチンをめぐる事態が、今回の『コロナ騒ぎ』の本質を語っている」(131頁)とローリー氏が総括するように、必見の動画です。

なお私が補足しておくと、このローリー氏はWHOとは別の医療の可能性を模索するWorld Council for Healthを設立しました。栄養療法の世界的権威である柳澤厚生博士を代表とする日本支部も発足し、有力な抵抗の拠点となっていることを、知っておきたいです。
https://wch-japan.org/

 

第4巻 「殺ったのは誰? なぜ? 安倍暗殺からプリゴジンの死まで」

第4巻で著者はウクライナ問題に立ち返りますが、暗殺という共通項を介して、日本の抱える問題にも深く立ち入っています。第4章と第8章で論じられているように、ロシアのジャーナリストのダリア・ドゥーギナ氏暗殺、作家のザハール・プレリーピン氏暗殺未遂、RT編集長のマルガリータ・シモニャン氏暗殺未遂等の事件が相次いでいます。寺島氏は、これらの事件は、正規の戦争で勝てないウクライナ側の起こしたものである、とみています。その根拠の一つとして、ウクライナの国防省情報総局長官のキリル・ブダノフ将軍が、「世界中でロシア人の殺害を続ける」と宣言した次の「ヤフーニュース」記事を挙げています。
‘We will keep killing Russians,’ Ukraine’s military intelligence chief vows. 2023/5/6.
https://news.yahoo.com/we-will-keep-killing-russians-ukraines-military-intelligence-chief-vows-232156674.html

こうした暗殺事件の中で最も有名なのは、傭兵会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏に対するものでしょう。それに先立つ彼の反乱事件を、ワグネル部隊をベラルーシに移すための謀略作戦だった、という評論家ペペ・エスコバル氏の見方に寺島氏は与しています。

「心理作戦のマトリョーシカ(入子人形):『ハルマゲドン将軍』は生きている!」、『翻訳NEWS』、2023年6月30日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1749.html

また、寺島氏は、プリゴジン氏は政権転覆を試みたのではなく、ロシア軍の官僚主義に対して異議を申し立てたのだ、という元米財務次官ポール・クレイグ・ロバーツ氏の見方も紹介しています。
「存在しなかった『ロシア・クーデター』」、『翻訳NEWS』、2023年7月4日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1737.html

肝心の暗殺事件については、プリゴジン氏が要衝バフムート占領の立役者であり、アフリカでも現地人とロシア人の利益にかなう活動に従事し、プーチン政権に対する「反乱」はなかったという上記の見方から、CIAまたはウクライナ側の仕業であろう、という見解を示しています。この事件は、ウクライナの反転攻勢失敗と、BRICS会議の成功を隠蔽する機能も果たした、とも付け加えられます(239頁以下)。

さて2023年7月の参院選直前に発生し、世界中に衝撃を与えた安倍晋三元首相暗殺事件についてです(第1章「安倍暗殺を再考する」)。この事件については、安倍氏を射殺したのは山上徹也容疑者ではない、という異論を孫崎享氏がISFで唱えたこともあります。
「ウクライナ・ロシア問題と安倍元首相暗殺事件をつなぐもの(孫崎亨・元外務省国際情報局長、木村朗ISF(独立言論フォーラム)編集長)」、2023年5月20日。
https://isfweb.org/post-20969/

寺島氏も、犯行に使われたとされる銃があまりに粗末だったことから、当初から真犯人は別人ではないか、と疑っていました(24頁)。寺島氏が特に重視するのは、韓国在住で米国出身の日本研究者であるエマヌエル・パストリッチ氏の次の論考です。

「グローバリストたちはルビコン川を渡ってしまった:安倍晋三暗殺の真実」、『翻訳NEWS』、2023年4月6日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1412.html

パストリッチ氏は、東京財団政策研究所研究主幹の北川高嗣氏の所説に基づき、元首相はビルの上から撃たれた、という見方に与します。こうした見解は、いかにも「陰謀論的」で、ありえないとみなされるかもしれません。けれども、ライターの森海人氏が、既存の様々な報道を照合する形で、治療に当たった奈良県立医科大学病院の医師の発表と、奈良県警の発表が決定的に食い違っていることを示しています。

note:「安倍元総理が被弾した2つの銃弾(1.肩の射入口・盲管銃創・紛失致命弾。2.首の射入口・盲管銃創・残存弾)」、2023年3月25日。
https://note.com/morikaito/n/n1708032778fe

警察の説明の辻褄が合わないことについては、『週刊文春』も指摘しました。
「《徹底検証》安倍元首相暗殺『疑惑の銃弾』」、2023年2月8日~、全4回。
https://bunshun.jp/denshiban/articles/b5139

こうした様々な疑惑が渦巻く中、パストリッチ氏が考える安倍氏が殺害されなければならなかった理由は、次のようなものです。即ち、安倍氏が一方では、WHOや世界経済フォーラム(WEF)が主導したコロナとワクチン政策等に従いながら、また米国製の武器を大量購入しながら、実はロシアと中国との関係を維持し続けたからだ、ということです。ロシアとの関係については、安倍氏がプーチン大統領と27回も会談を重ね、ウクライナでの戦争開始後も、ロシアは「領土的野心」ではなく、NATO拡大に対する自衛として侵攻したのだ、と番組で主流とは異なる見方を提示していました。

東洋経済:「安倍元首相『プーチンには米国への不信感がある』核共有『現実の議論をタブー視してはならない』」、2022年2月28日。
https://toyokeizai.net/articles/-/534929

中国に対しても彼は厳しい態度をとりつつも、22年に発効した地域的包括的経済連携協定(RCEP)の実現に道筋をつけました。また、コロナ禍の影響で実現しなかったとはいえ、国賓待遇で習近平国家主席を招くことを決断し、対話を模索したことも、忘れてはならないでしょう。

パストリッチ氏は、安倍氏がロシアから入国禁止処分を受けなかったことにも注目し、死の直前にもあらゆる人脈を駆使して、裏で緊張緩和を図っていたのではないか、と推測しています。この点に関しては当時の具体的な動向が見えてこないのが残念ですが、今後明らかになる時がくるのかもしれません。寺島氏は、20年7月に不審死を遂げたソウル市長の朴元淳氏が政府のコロナ政策に反発していた、というパストリッチ氏の指摘に着目し、次のように結論します。「やはり『コロナ騒ぎ』と『ウクライナ問題』は根っこのところでは繋がっていたのです。プーチンに味方することもコロナ政策に反対することも、裏の支配者にとっては許されないことなのですから」(45頁)

私にとっては、安倍氏が推進した特定秘密保護法、原発再稼働、集団的自衛権の行使容認、核共有論、「台湾有事は日本有事」発言等、賛同しかねる政策が多い。森友問題、加計学園問題のようなスキャンダルも忘れてはならないでしょう。けれども、碩学のお二人が具体的に指摘したように、重要な隣国であるロシアや中国と決定的に対立しないよう、多元的な外交を追求していた強かな政治家としての側面は、功績として正当に評価しなければならないと思います。旧統一教会との密接な関係も彼の負の側面ですが、それの追及に熱心になるあまり、肝心の暗殺事件の真相究明を疎かにしてはならないでしょう。

最後に、第4巻で気になる衝撃的な論点として、第7章で言及されるウクライナの臓器売買疑惑を挙げておきます。

デボラ・L・アームストロング
「ウクライナにおける人身売買:違法な臓器狩り(第1部)」、『翻訳NEWS』、2023年4月2日。http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1380.html

「人体が『レゴ・ブロック』のように分解される―ウクライナでの臓器販売調査報告(第2部)」、2023年6月30日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1723.html

「『それを見れば、だれも許さないだろう』:ウクライナにおける人身売買についての調査報告(第3部)」、2023年3月29日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1366.html

この疑惑は一般には、単なるロシアの「プロパガンダ」として片づけられています。けれども、実はウクライナは今回の戦争開始前から臓器売買の中心地だったと欧米メディアも報道していたという事実に鑑みると、かなり現実的な話として受け止めざるを得ません。この連載の第3部で引用されている記事では、読売新聞記者が、日本のNPOもウクライナからの臓器調達に関わっている、と報道しています。私達にとっても、人ごととは言えない人権問題です。

Asia News Network: Organ trafficking targets Ukrainians in financial plight in cases involving Tokyo NPO. 2022/10/3.
https://asianews.network/organ-trafficking-targets-ukrainians-in-financial-plight-in-cases-involving-tokyo-npo/

 

おわりに:若い世代は寺島氏の志と批判精神の継承を

以上が本書の概要です。非常に広範囲にわたる著作ですので、多くの重要な論点の紹介を省略せざるを得ませんでした。そのため自ら本書を手に取って、確かめていただきたいと思います。大著ではありますが、4冊に分かれていますので、1冊ずつ購入して熟読することができます。文体も、ですます調で親しみやすいものです。

寺島氏の見方は概して大胆であり、一般メディアで流通している情報とは往々にして正反対で、衝撃的な話が多い、と感じられるかもしれません。けれども、本書の最大の利点の一つは、出典情報をリンク付きで明確に示しており、その出典も調べた上で、一つひとつの情報の妥当性について、読者が検討することができることでしょう。このようにして、メディア・リテラシーを鍛えてほしいということが、岐阜大学教授として長年英語教育に取り組んだ寺島氏の狙いの一つであるのかもしれません。

第2巻75頁には、寺島氏の体重は40キロを割り、朝5時から朝食・昼食抜きで書き続けたこともあった、と書かれています。高齢の著者にそれほど無理をさせて執筆へと追い込んだほどの危機が出来していたのに、特にコロナワクチンを巡る危機の方は、その発生すらなかなか認識されないことに、改めて驚かされます。

昨年末の『百々峰だより』の記事によると、大著である本書を上梓したばかりにもかかわらず、著者は既に次の著書『反中国心理作戦を脱却せよ』を執筆中とのことです。
「イスラエルの『ガザ殲滅作戦』を考える3――『神に許された国』と『神に許された民』に未来はあるか、番外編(下)」、2023年12月27日。
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-641.html

本書第4巻第1章「安倍暗殺を再考する」の副題は「日本を『第2のウクライナ』にしないために」です。ウクライナが古くから西側勢力によるロシア抑え込みの重要拠点だったように、日本は台湾と共に、米国の対中国戦略の要とみられています。米国に従属せざるを得ない状況に追い込まれ、近隣の大国との関係があまり良くないことも、ウクライナと日本の共通点であるように思われます。浅薄で事実に基づかない「ロシア悪玉論」が、ウクライナでの戦争をもたらした一つの原因であるとしたら、同様の「中国悪玉論」が、我々日本人を代理戦争の渦に巻き込むことになるかもしれません。

「信用スコア」制度による個人の点数化に表れたデジタルな全体主義に対する懸念等、中国に対する正当な批判が必要であるのは確かです。けれども、ロシアとウクライナに対する西側メディアの偏向を見ていますと、我々は中国についてどれほど本当のことを知っているのか、と問い直すことが必要と感じます。こうした意味でも、一般とは一味違う寺島氏の中国論を、一読者として楽しみにしています。『翻訳NEWS』には、例えば、既にオーストラリア出身のマルクス主義研究者による興味深い論考が掲載されています。

ローランド・ボーア「わたしたちは中国の社会主義的民主主義をもっと語る必要がある」、
2023年11月11日。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2049.html

今年で傘寿を迎えられる寺島氏が、これだけの旺盛な研究・執筆活動を展開しておられるのは、数十年単位の積み重ねの賜物でもあるのでしょう。それに対してISFですら、1984年生まれで、もはや若いとはいえない私が、普段から寄稿している筆者の中では最年少というのは、残念なことです。論壇を見ていると、個別の専門分野では、私よりも下の世代で有能な方は少なくないようです。そうであるが故になおさら、寺島氏の「アメリカとの情報戦に打ち克つ」(前著『ウクライナ問題の正体1』の副題)といった壮大な志や、精緻な考証に基づく批判精神を引き継いでくださる方がもっと出てくることを、願ってやみません。

今年は新年から、寺島氏の故郷である能登半島での大地震と、羽田空港での航空機事故が発生し、衝撃が広がっています。その陰で薬害は密かに進行し、改憲の足音も迫っているとされます。寺島氏が、ご自宅の庭や周辺の豊かな自然についてブログでつづっている「花だより」をもっと頻繁に書けるように、世界が平穏を取り戻す時がくることを祈念しつつ、本稿を閉じさせていただきます。

寺島氏の研究所の裏に実ったビワ。『百々峰だより』「花だより」の2023年8月2日付から、許可を得て転載。
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-625.html

 

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嶋崎史崇 嶋崎史崇

しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。ISF独立言論フォーラム会員。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文は、以下を参照。https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 mla-fshimazaki@alumni.u-tokyo.ac.jp

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