【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(22) :近づく人類の滅亡(下)

塩原俊彦

 

 

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火星探査と人類

2023年8月、ジョージ・メイソン大学のエドガー・アルゲーロとその仲間は、火星を植民地化するための人口を、人数、役割、性格の両面からモデル化した論文をプレプリント・ウェブサイトに掲載した。「エージェント・ベース・モデリングによる火星植民地化の探究」という論文である。研究者たちは、長期的に生存可能なコロニー規模を維持するために最低限必要なのは、初期集団の22人であることを発見した。

これは、初期人口を10から170まで10ずつ変化させながら、地球28年分のモデルを5回実行するもので、災害への対応に加え、継続的に必要とされる四つの重要なタスク(空気、水、食料生産、廃棄物除去)があり、各タスクに二つのスキルが必要であることを考慮し、「安定した」コロニーサイズに必要な最小限の人口サイズとして10を選んでいる。

人口が10を下回っても、1.5年以内、つまり地球からの補給シャトルまでの期間内に立ち直る限りは許される。28年間ずっと10以上の安定したコロニーサイズを維持できる、あるいはすぐに10に戻ることができる最小初期人口を決定するために、50以下の初期人口のみを検討すると、初期個体数が22の場合、28年間の個体数は10以上を維持しており、安定したコロニーの定義を満たしていることがわかったのだ。

人類の滅亡が予感されている

知ってほしいのは、すでに人類の滅亡がはっきりと予感されていることである。日本時間で2023年9月25日午前、アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機のカプセルが地球に帰還した。2016年9月8日に打ち上げられたOSIRIS-REx探査機は、2020年10月20日に小惑星ベンヌの表面から岩石と塵(推定8.8オンス、250グラム)を採取し、地球に持ち帰ったのである。なぜNASAがベンヌに関心があるかといえば、ずばり、地球に衝突する可能性があるからだ。

2021年に公表された論文には、「我々の解析の結果、2300年までの累積衝突確率は(1750分の1)となり、最も重要な個々の衝突解は2182年9月のもので、衝突確率は(2700分の1)であった」と書かれている。

NASAの2023年9月20日公表の情報には、「ベンヌが地球に衝突する可能性は2100年代半ばまでない。その後、少なくとも2300年までは、その可能性は1750分の1、つまり10分の1以下と非常にわずかである」と書かれている。

500メートルほどのベンヌがもし地球に衝突した場合、1200メガトンのエネルギーを放出することになり、これは人類がつくったもっとも強力な核兵器の24倍のエネルギーとなるというもある。これは、人類が開発した最も強力な核兵器の24倍のエネルギーだ。ただし、これは恐竜を破滅させた9.7キロの小惑星よりはるかに小さい。

もしベンヌがコース上にあった場合、米国と中国はロケット衝突を使って地球からそらす提案に取り組んでおり、NASAは昨年、探査機を衝突させて小惑星を方向転換させることに成功しているという。

太陽嵐の脅威

潰滅的とはいえないが、地球にとって別の大きな脅威がある。それは、「太陽嵐」である。
説明しよう。宇宙からの宇宙線、すなわち高エネルギー粒子は地球の大気に衝突し、核反応を引き起こす可能性がある。

2023年12月14日午後12時2分(米東部時間)、太陽からXクラスの巨大な太陽フレア(最強の種類)が発生した。これは太陽の現在の11年周期のなかでもっとも強烈なもので、2017年9月10日以来、最強力なものであった。太陽フレアは、黒点から発生する強烈な放射線の爆発である。Xクラスのフレアが最も強烈で、Mクラス、Cクラス、Bクラス、Aクラスのフレアがそれに続く。太陽は15日にも、14日の大噴火に続いてMクラスのフレアを放った。14日のフレアの後、わずか8分後に高エネルギー粒子が地球に衝突し、電波障害や信号品質の低下が報告された。これは、地磁気の嵐を引き起こす可能性がある。

たとえば、高エネルギー放射線は大気上層部の窒素原子を放射性炭素として知られる放射性炭素14(C14)に変えることができる。太陽フレアによって高エネルギーの放射線が大気圏上空に達すると、窒素原子がC14に変化し、植物、動物、人間、海、そして樹木の年輪を含むものにも取り込まれる。

このC14に着目したのが放射性炭素法による年代測定だ。過去5万5000年間の化石サンプルの年代測定に広く用いられている。放射性炭素法は、宇宙線粒子との相互作用によって大気圏上層部で生成されるC14の放射性崩壊に基づいている。巨大な太陽フレアによって引き起こされる大規模な太陽嵐は、この放射性炭素の急増をもたらす。

つまり、樹木の年輪に含まれるC14の量を調べれば、いつ巨大な太陽嵐が発生していたかを特定できる。こうして、2012年に名古谷大学の三宅芙沙らの研究チームは、『ネイチャー』において、AD750からAD820(残りの期間)までのスギの年輪における14Cの測定を報告し、「AD774年から775年にかけて14C含量が約12‰の急激な増加を示し、これは通常の太陽変調に起因する変化の約20倍であった」と発表した。これが、最初に同定された太陽高エネルギー粒子(SEP)のスパイクだった。

その後、太陽嵐によるとみられるスパイクが数多く発見されてきた。そのなかで、2023年10月、過去10年間に木の年輪から発見された、過去1万5000年間に起こった九つの極端な太陽嵐のうちの最大の太陽嵐が1万4300年前に発生したとの研究結果が発表された。

もしこのような大規模な太陽嵐現象が起きると、エネルギー・ネットワークやインターネット・ネットワークが破壊されるのは確実だ。そのとき、人間はどうなってしまうのか。

地球全体を考える視点の重要性

いずれにしても、人類がかつてボトルネックに直面したのであれば、将来、必ずボトルネックに遭遇するだろう。地球上のさまざまな空間をめぐる支配など些細な問題にすぎないことがすでに実感されてもいいほどに、事態は切迫しているのかもしれない。どうか、この程度のことは頭の片隅に常に置いておいてほしい。

こうした未来を射程に入れたうえで、刹那主義に陥ることなく、地球全体を改善するには何をなすべきか。こんな疑問符を忘れずに、誠実に生きることこそ必要なのではないかと考えている。Integrityこそ、実に重要なのだが、日本には、integrityを感じさせない者が多すぎる。そして、圧倒的な無関心と無知によって、そのintegrityの欠如が覆い隠されてしまっている。そのもっとも明確な例が日本の「ゴキブリ政治家」たちであると書いておこう。裏金づくりに関与した政治家は全員、「ゴキブリ政治家」であり、integrityのかけらもない。叩き潰されなければならない。

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2023年9~10月に社会評論社から『知られざる地政学』(上下巻)を刊行する) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。

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