その正体は軟弱地盤の「カジノ博」

横田一

大阪・関西万博 吉村洋文知事の嘘連発
取材・文◉横田一

知事の虚言が止まらない

「2025年日本国際博覧会協会」(大阪・関西万博)副会長(理事)で日本維新の会共同代表でもある吉村洋文大阪府知事が虚偽発言(ウソ)を連発、万博批判の声をさらに増大させる事態を招いている。
昨年12月14日の時事通信の世論調査では、維新の政党支持率は前月比1.4ポイント減の3.2%。1.7ポイント増で4.4%の立憲民主党に逆転された。

京都府八幡市長選で敗北したのに続いて、12月10日投開票の東京都江東区長選でも推薦候補が最下位に沈んだ。
これまで通りの万博開催にこだわり、国民負担を回避する縮小万博を否定する姿勢が「身を切る改革は看板倒れ」という不信感を抱かせ、支持者離れを招いているのは間違いない。

「世界最大級の無駄ではないか」と疑問視される大屋根リング(350億円)への対応も、稚拙だった。

11月9日の会見で私は、当初の2倍に膨らんだ会場建設費のコスト削減策として「商店街アーケード方式」を提案した。
完成済の木造部分は約35%なので未完成部分(約65%)に安価な素材を置き換えることを勧めたのだが、吉村知事から帰ってきたのは次のような反論。

「(大屋根リングは京都の)清水寺の舞台にも採用されている『貫(ぬき)工法』で地震に強い。釘を使わずに安全で強い建築構造物を建てる。日本の伝統建築技術の魅力を世界に発信していく」
しかし前号で紹介したとおり、森山浩行衆院議員(立民)が11月24日の予算委員会で「大屋根にクギやボルト等が使用されている」との答弁を経産省から引き出し、吉村知事のウソがばれてしまったのだ。

大阪の成長率は全国平均以下なのに「成長を止めるな!」と大阪都構想の住民投票でアピールするなど、維新の虚言癖は現在に至るまで治っていないようだ。

自見英子・万博担当大臣も、万博協会副会長の吉村知事と一線を画していた。
12月5日の会見で「虚偽発言、誇大広告のような問題発言ではないか」と聞くと、「政府・博覧会協会としては『釘などを一切使用していない』とは言っていない。『不正確』という指摘は当たらない」と突き放した。
勝手に不正確な発言をする吉村知事を、“暴走状態”とみなしたといえる。

文春砲の直撃も重なった。
「『350億円リングを強行』内部資料入手吉村知事『親密企業』が維新万博を続々受注している!」(12月14日号)と銘打った記事の中で、木造ではなく鉄骨材使用ならコスト低減が可能だったと内部資料を元に指摘した。
木造が「329億円(20年度の試算)」であるのに比べ、鉄骨材なら「197億円(同21年度)~236億円(同20年度)」と約100億円も安いと解説。

すでに3分の1は完成済みでも、残り3分の2を安価な素材に置き換えれば、数10億円程度のコスト削減が期待できる。
もちろん違約金などの費用が発生する可能性はあるが、ともに万博協会副会長である吉村知事も横山英幸大阪市長もこうした設計変更の検討さえしようとしなかった。

先の会見で自見大臣は、吉村知事のもう1つのウソを暴く情報提供もしてくれた。
大屋根リングに金属使用をしたのは、地震時の安全性(耐震性)の確保のためと答えたのだ。
素朴な疑問が浮かぶ。

地震に強い「貫工法」の大屋根リングになぜ耐震補強が必要なのか。
たとえば、江戸時代に再建された清水の舞台は釘なしで約400年間、その姿を保っている。
対して万博の大屋根は、開催期間の半年間しか使わないのに、なぜ金属補強が必要なのか。
並べ合わせてみると、地震に脆弱な夢洲という特殊事情を考慮したとしか考えられない。

夢洲は「ゴミの島」とも呼ばれる大阪湾の人工島で、廃棄物で埋め立てられたため、軟弱地盤で現在も地盤沈下中だ。
地震で大揺れするので内陸部よりもさらに高レベルの耐震補強が必要で、それで大屋根リングに金属を使用したように見えるのだ。
しかし吉村知事は8月2日の会見で、事実とは真逆の主張をした。
南海トラフ地震が万博開催時に襲ってきた場合の被害想定について聞くと、吉村知事は「夢洲が地震に弱いというものではないし、南海トラフ巨大地震が起きたときにむしろ注意しなければならないのは、内陸の人が住んでいる方のエリアです」と答えたのだ。
これも虚偽発言といえるものではないか。

私は自見大臣にも、12月8日の会見で「大屋根リングは南海トラフ並みの大規模地震でも耐えるのか」と同主旨の質問を投げかけた。すると、以下のような回答が返ってきた。
「震度5強程度の中規模な地震に対しては(倒壊が)ほとんど生じず、震度6強から7程度の極めて稀にしか発生しない大規模な地震に対しては、人命に被害を及ぼすような倒壊の被害を生じないという目標を満たすこととしている」
「当該基準が南海トラフという特定の災害に対応しているのかについてはコメントを控えたいと思っている」
吉村知事よりも控え目な回答だが、「目標」を語るのみで、自見大臣は最悪時の被害想定(来場者の死傷者数など)を具体的に示そうとはしなかった。
災害リスクを過小評価しようとする魂胆も透けてみえる。

気象庁は南海トラフ地震の発生確率は30年以内に70%から80%と発表している。
単純に年数で割ると、1年間あたり2.5%で万博開催期間の半年なら1.25%となり、無視できる数字とは思えない。これを「極めて稀」と表現していいのか。
大規模イベントに際しては、必ず巨大地震襲来など最悪の自体を想定しなくてはならないものだが、きちんと考えているかは極めて怪しい。

前売り券販売が500日前の昨年101月30日から始まった。
少なくとも夢洲のような軟弱地盤で巨大地震が起きた場合のシミュレーション結果や実証実験結果を公表、どれくらいの倒壊リスクがあるのかを告知すべきだ。修学旅行での万博見学を呼びかけても、大惨事となれば、「危険を知らせずに国家的プロジェクトへの動員を誘導した現代版学徒動員だった」と批判されるのは確実だろう。

大阪・関西万博は「カジノ博」

大阪・関西万博には、カジノ(IR)業者への利益供与という側面もある。
万博開催地とカジノ予定地が隣接しているためで、万博までに整備される地下鉄や道路、下水道や送電設備などの公共インフラを、30年開業予定のカジノ業者も使えるからだ。「カジノ博」と呼ぶのがぴったりなのはこのためだ。

ちなみに2005年日本国際博覧会「愛・地球博」(愛知万博)は、「トヨタ博」と揶揄された。万博協会会長は豊田章一郎・トヨタ自動車名誉会長(当時)で、開催地はトヨタ本社や工場が集中する愛知県東部だった。
その結果、愛知県と岐阜県と3重県を円形状に結ぶ「東海環状自動車道」(事業費は約6700億円)などのインフラ整備が進み、トヨタの利便性向上をもたらした。

そんな「トヨタ博」と同じように2025年の大阪・関西万博では、夢洲関連のインフラ整備を万博関連予算でまかなってもらえることで、カジノ業者に多大な恩恵をもたらす。
「トヨタ博」と「カジノ博」は酷似しているのだ。

両万博の旗振り役も重なり合う。
トヨタは徹底したコスト削減を部品メーカーに要求することで有名だが、税金が元手の愛知万博関連事業は費用対効果が乏しいインフラ整備でも見直すことなく恩恵にあずかっていた。
同様に大阪・関西万博を主導する維新も会場建設費の上振れによる国民負担増を容認、「国民の身を切らせるバラマキ政党(第2自民党)」である実態が露わになった。
税金を食い物にするタックスイーター(税金泥棒)であることがばれてしまったのだ。

〝お友だち資本主義〞でライドシェア強行

橋下徹・元大阪市長とテレビで激論を闘わせたことで知られる日本城タクシーの坂本篤紀社長は「万博では関係者が恩恵を受ける“お友だち資本主義”が横行している」と指摘する。
名指ししたのは、安倍晋三・菅義偉両政権で首相補佐官を務めた国交省OBの和泉洋人氏。
大阪府特別顧問(万博担当)に就任した一方で、経営する「住宅・都市政策推進機構」が大和ハウスとアドバイザリー契約を結んでいる。

パビリオン建設の遅れが明らかになると、吉村知事ら万博協会関係者は、プレハブ方式で建物を建てて引き渡す「タイプX」への移行を進めた。すると、「プレハブは大和ハウスが中心に請け負い、そこから和泉氏がアドバイザリー契約料を得る。
まさに“お友だち資本主義”が大手を振って歩いているようだ」と坂本社長。

吉村知事が万博を契機に導入しようとする「白タク」解禁のライドシェアに対しても、坂本社長はこんな警告を発していた。
「11月16日の大阪府市のライドシェア第1回有識者会議は、一種のショーやね。始まる前には、すでに吉村さんは『河野(太郎担当)大臣に明日(17日)、ライドシェアに関する要望を出す』とプレス発表をしている。

それから『はい、会議開催』という。吉村知事はライドシェア導入ありきで、関係者と話し合う気はないのではないか。“お友だち資本主義”で息のかかった会社に仕事を投げるという危険な図式も見てとれる」
実際、第1回有識者会議では大手のMKタクシーと米国のウーバーがかなり分厚い資料を用意。
業界関係者はこんな不信感を抱いていた。

「我々は3~4日前に会議開催を知らされ、詳細な資料を作成する時間的余裕はなかった。両社には我々よりも早く開催情報を流したのではないか。『大阪でのライドシェア導入はMKタクシーとウーバーに任せる』という結論ありきの出来レースではないか」

このことを11月24日の囲み取材で吉村知事にぶつけると、「ライドシェア導入検討のプロジェクトチームで参加者について判断して決めている」と答え、疑惑を否定した。
自家用車で乗客を有償で運ぶ「ライドシェア」をめぐる議論は、昨年8月19日、菅前首相の講演を契機に活発化。菅氏と面談した岸田首相が10月23日の所信表明演説で解禁検討を表明、注目度が急上昇した。
これに吉村知事が便乗し、万博開催前後の1年限定での導入を検討し始めたのだ。
第1回有識者会議では、「労働問題が核心」との重要な指摘も出ていた。
町野革・ワンコインタクシー協会代表理事が「ライドシェアには光と影がある」と切り出し、こう続けたのだ。
「アプリを使って家の前までタクシーを呼ぶ。これは素晴らしい仕組みで、ITイノベーションです。影の部分は労働問題です。結局、『グラブ』(シンガポールのライドシェア会社)の会長が日経新聞で『もしライドシェアの乗務員を直接雇用する、すなわち社会保険料を払うと会社は潰れる』と断言していた」
「影の部分は労働力、言い方を悪くすると、ウーバーなど巨大プラットホーム企業にピンハネされるワーキングプア増加の恐れがどうしても否めない」

全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長も12月4日、ライドシェア推進派の小泉進次郎・元環境大臣らが発足させた超党派勉強会で町野氏と同じような訴えをしていた。
「ライドシェアについては13年以降、アメリカで毎年定年観測をしていた。最初はライドシェアの方々もハッピーだったが、2年目は不動産会社から転職した社員が『骨折が治るまで無手当になった』と深刻な顔で語り、3年目はインド人運転手が『ウーバーが取り分の切り下げをして生活できないので、12時間運転から16時間運転にしている』と話すので『危ない』と思った」
「『アプリで呼んでいつでも来る』というのは、『厳しい労働環境に置かれているワーキングプアの人が有象無象ずっといる』ということと表裏なのです」

タクシー業界が“ワーキングプア増加を防ぐ防波堤”と位置づけるのが、タクシー会社と運転手が結ぶ雇用契約だ。
ウーバーなどが個人事業主に業務委託するのと違って、タクシー会社は事故などの最終責任を負い、健康管理やアルコールチェックなども行なうことで、安全安心が担保できるという。

しかしライドシェア導入ありきの吉村知事や小泉氏は、こうした訴えに耳を傾けようとしない。
両者は昨年12月1日に都内で面談。吉村知事から要望書を受け取った小泉氏は、「万博では空飛ぶクルマも自動運転もやるのにライドシェアがないのは滑稽」と互いに意気投合し、吉村知事が着ていた万博ジャケットを小泉氏に着てもらう場面も自ら演出した。
しかし、ここでも吉村知事の虚偽発言が飛び出した。

面談後の会見で「『万博にライドシェアがないとおかしい』というが、OECD38カ国でライドシェア解禁は8カ国にすぎない。
国際的に逆行することを、大阪万博を機に導入するのか」と聞くと、吉村知事は「世界的に見てもアメリカを見ても東南アジアを見ても、ライドシェアが行なわれている。修正を加えながらやっていく国が多い。それを参考にしながら日本に適したルールを作っていく」と答えた。

聞く耳を持たないのは小泉氏も同じだった。
ライドシェア超党派勉強会の国会議員は同月13日、河野太郎デジタル行財政改革担当大臣に提言を手渡した。
提言書には「雇用契約だけではなく業務委託など多様な働き方を認めること」と明記され、面談後の会見でも小泉氏は「『雇用契約に限らず業務委託も選択肢に』と申し上げたところ、河野大臣からも『両方とも進める』という話があった」と説明した。
勉強会での川鍋会長の訴えと真逆の内容を提言に盛り込んだのだ。

「川鍋会長と真逆の主張をするのはなぜか」と私が聞くと、小泉氏は「切り取りの理解だ。タクシー業界の意見を一番最初に書いてある。一番最後にも『エッセンシャルワーカーであるドライバーの処遇について十分に配慮』と位置づけている」と答えた。
しかし最初と最後に何を書こうが、タクシー業界が求める「雇用契約限定=業務委託禁止」の核心部分と真逆のことを主張していたら、単にガス抜きで意見を聞いたにすぎなくなる。
それを問い質すと小泉氏はこう反論した。

「全然違う。今すでに訪問の介護、訪問の保育を業務委託して、大切な子どもの命、高齢者の命を預かっているわけです。『タクシーやライドシェアで業務委託だと安全性が担保できない』というのは、私は違うと思う」
しかしライドシェア超党派勉強会では、訪問介護・保育の業務委託と同列に扱うべきかという小泉氏の主張が議論されることはなかった。

川鍋会長らタクシー業界の反論を経ないまま、事後的に盛り込んで業務委託容認の根拠としたのだ。
反対派の出席は単なるガス抜きで、ライドシェア導入ありきの結論を導くお飾りにすぎなかった。ペテン論法とはこのことだ。
大阪・関西万博は国民負担増だけでなく、ライドシェア導入の契機となってワーキングプア増大という弊害をもたらすおそれもある。
虚偽発言を繰り返す吉村・小泉氏ら新自由主義者(規制緩和論者)が大手を振って歩き始めた今、徹底的に言動をチェックしていくことが不可欠なのである。
(月刊「紙の爆弾」2024年2月号より)

横田一(よこたはじめ)1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋3』(7つ森書館)他。最新刊『仮面虚飾の女帝・小池100合子』(扶桑社)。

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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