米オスプレイ墜落で再び見えた「日本の屈辱」
社会・経済国際政治文◉木村三浩
墜落事故を米HPで知った防衛相の情けなさ
昨年11月29日午後3時前、鹿児島県の屋久島沖で米軍の輸送機オスプレイ(CV‐22)が墜落すると、米軍は1週間後に世界で運用する全機飛行停止を決めた。
事故機の乗員8人が全員死亡。さらに、遺体を捜索する過程で2人が一時不明となる騒動まで起きた。米軍は事故の原因について「機材の不具合」との可能性を示したものの、本稿執筆時点で具体的なことは明らかにされていない。
米軍が世界で運用するオスプレイは、空軍51・海軍27・海兵隊約400機だという。
ヘリコプターのように垂直方向に離着陸し、空中でプロペラの向きを変えて飛行機のように長距離を高速で移動するのが同機の特長だ。
日本は陸上自衛隊が2025年7月までに佐賀空港に配備予定で、現在は千葉県木更津駐屯地に暫定配備されている。
防衛省はオスプレイ(V‐22)について、搭乗人数も従来機の2倍、「日米同盟の抑止力・対処力を向上させる」「大規模災害が発生した場合にも、迅速かつ広範囲にわたって、人道支援・災害援助活動を行なうことができる」とメリットを強調する。
しかし2013年、南スーダンの内戦で自国民の救助に向かった米空軍のオスプレイ(CV‐22)が、小銃で撃たれただけで乗員が負傷してしまい退散したことを、ニューヨーク・タイムズが報道している。特殊な機能のために軽量化の必要があり装甲が薄く、防弾性能を上げることが難しいという。
そもそも最も活用すべきと思われる米陸軍が、オスプレイを採用していない。
その時点で、本当に有事において役に立つものなのか疑問だ。
一方、重大事故が続発してきたのは、よく知られてきたところである。
開発段階の1991~2000年に4件の墜落事故で計30人が死亡。
「未亡人製造機」と呼ばれ始めたのはこの頃だ。
近年でも、2010年にアフガニスタンで作戦中に墜落し4人が死亡、12年には訓練中に2度の墜落、16年には在日米軍普天間飛行場所属機が、沖縄県名護市の沖合に墜落し大破。
日本の捜査権が及ばない問題が取り沙汰された。
その後も2017年、オーストラリアでの訓練中に墜落。
22年にはノルウェーと米カリフォルニア州で墜落し、海兵隊員計9名が死亡。23年8月にもオーストラリアでの訓練中に墜落し、3人が命を落としたばかりだった。
今回の事故では、緊急着陸のため屋久島空港に向かったものの、超低空飛行となって航空自衛隊のレーダーから消失したという。
墜落後に機体の主要部分が見つかったのは、空港とは逆方向の地点だった。
オスプレイの相次ぐ事故は、起きるべくして起きている。
今回の事故後には、素材に必要な基準を満たさない不正があったとの内部告発を受け、製造するボーイング社を司法省が訴えていたことが報じられた。
裁判は同社が810万ドル(約11億5000万円)を支払う内容で9月に和解していた。
米軍は瑕疵を放置していたことになる。
日本側も当然、この裁判結果を把握していただろう。とはいえ、木原稔防衛大臣は、我が国で起きた今回の事故を米軍のホームページで把握したと述べている。米国からの見下されぶりは半端ではなく、呆れるほかない。
米国の言うまま日本国内に配備現在、日本国内に配備されているオスプレイは、米空軍(東京・横田基地)が6機、海兵隊(普天間飛行場)が24機、陸上自衛隊(木更津駐屯地)が14機の計44機である。
日本国内にオスプレイが初めて陸揚げされたのは2012年7月下旬、山口県の米軍岩国基地だった。
その際、当時の野田佳彦内閣が、日米安全保障条約で事前協議の対象になる「重要な装備変更」についての政府答弁書を閣議決定し、「核弾頭や中長距離ミサイルの持ち込み、それらの基地建設を意味し、オスプレイ配備は事前協議の主題とならない」とした。
こうして米軍の言うまま日本国内への配備は続いている。
それ以前から、オスプレイが墜落するたびに、日本政府は明確な事故原因の報告を米国側に求めてきた。
しかし、回答は木で鼻をくくったものでしかなく、それを承諾するしかなかった。
同年6月にフロリダで起きた墜落事故で原因の調査報告を要求した際には、「人為的な操縦ミス」との報告があったものの、日本政府の当然の要求に対して米国側からクレームをつけられている。
いわく、「配備に協力するのは日米安保条約上の日本の義務」「米軍岩国基地への一時駐機で日本の方針が二転三転した」。
すなわち、日本ごときが我々のすることに口出しするな、ということだ。
ちなみにこの事故において、操縦士は2500時間以上の飛行経験を持っていたベテランであり、簡単にヒューマンエラーとはいえないことが米国内でも明らかになっている。
オスプレイに重大な構造上の問題があることは、露骨に隠されてきたのだ。
今回の米軍の全機停止の判断も、決して我が国への配慮ではないし、その解除においても同様である。
日本国民の生命・財産・安全を守るべき政府が、米国に真意を告げられない状態だ。
オスプレイの我が国への配備に関わる事象は、戦後日本の置かれている植民地的状況、無主権国家という根本的問題を示しているのだ。
FMSと日米地位協定が阻害する日本の自主防衛
いくら「アジアの安定に資する」といったところで、日本国民の頭上を飛ぶオスプレイが墜落する可能性は高いと言わざるをえない。にもかかわらず、2022年には米軍による飛行訓練の最低高度を従来の150メートルから90メートルに下げることが、国会での審議を経ることなく、日米合同委員会の密室会議で決まった。
そして、目下強調される「中国の脅威」なるものは、元を正せば米中対立の一端を我が国が担わされていることによる。
すなわち、真に「アジアの安定」を目指すならば、日本の自立こそが、まずなすべきことなのだ。
しかし日本政府は、防衛装備における米国への依存度をますます高めている。
その象徴的存在も、やはりオスプレイといえる。
日本政府は米国からすでに17機のオスプレイを購入している。
しかし、現在木更津にある機体について、配備時期(納期)は事前にあいまいな日程しか示されなかった。FMS(対外有償軍事援助)が、その原因だ。
FMSとは、兵器の購入において、価格や納期を含めたあらゆる点で、米国側の事情が優先されるものだ。
一例を挙げれば、海上自衛隊の輸送機MH‐53E(米シコルスキー社、エンジンは米GE社製)は、1989年11月から94年までに11機が日本側に引き渡された。
だが、ライセンス生産ではなく完成品輸入だったため、予備パーツを日本国内で生産することができず、そのつど米国に注文。
ところが、部品の納期は遅れ、稼働率は40%を割り込むまでに低下した。
このように、防衛装備を米国の意を受けて調達したところで、稼働率は低下、高値を吹っ掛けられて買わされているのだ。
「日米安保条約があるから仕方ない」では済まされない。
また、2019年に起きた航空自衛隊戦闘機F‐35Aの墜落事故は、米国メディアで同機の欠陥が多数指摘されながら、前年末に日本政府が追加で105機の“爆買い”を決めたものだった。
そのため、事故から4カ月を待たずに訓練再開されたのは、米国への配慮だと指摘されている。
オスプレイについても、米国の強制力によって配備されたところで、これほど事故の多い状態では、肝心のオペレーション時に使用できない可能性が高い。
それでも、国内的に多くの反対意見を受けつつ、日本政府は配備に踏み切った。
2015年度の購入分である1機あたり103億円は「相場の2倍」との指摘もある。
米国から防衛装備を購入するにしても、もっと戦略的見地から日米安保体制を引き合いに出すなどして、我が国にとって有利となる状況を引き出すべきだ。
そのためには「日米地位協定」の見直しが必須である。
2004年8月には在日米軍普天間基地所属の大型輸送ヘリCH‐53Dが沖縄国際大学1号館(宜野湾市)に墜落・炎上する事件が発生した。
沖縄県警は公訴時効を迎えるまでの3年間捜査を行なうも、結局は日米地位協定の壁に阻まれる形で、事故の全容解明は果たせなかった。
そして07年8月、県警は事故機の乗員であった米海兵隊軍曹ら4名を氏名不詳のまま書類送検。
ところが、那覇地検は彼ら全員を不起訴処分とした。
この事故で改めてわかったのは、現在の日米地位協定では米軍によって重大な事故が引き起こされても、我が国は手を出すことができないという事実だ。
まさに「治外法権」である。我々はかつて先人たちが血を吐くような思いで不平等条約を撤廃したのと同じように、対米自立の観点から、屈辱的な日米地位協定改定を求めていかなければならないのである。
そもそも、自分の国は自分で守るという気概なくして安保に頼っても無意味である。
経済大国だと虚勢を張ってきたものの、失われた30年の中で、その実態が、米国に貢物を差し出す去勢国家であったことが、あらためて明らかとなった。
現在のオスプレイ反対は、主に事故が起きる危険性が理由に挙げられる。
しかし、まさに戦後日本の構造を一局面で示すものとして、愛国的立場から戦略的に、現在の我が国の防衛を取り巻く状況について、問題提起をしていかなければならないだろう。
木村三浩(きむらみつひろ)
一水会代表。対米自立を唱える愛国社会活動家。『対米自立』(花伝社)『お手軽愛国主義を斬る』(彩流社)など著書多数。
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民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。