【特集】終わらない占領との決別

〝対米自立〟はなぜ世論の大勢にならないのか(前)

松竹伸幸

本書を手に取るような人なら、「対米従属」のような強めの言葉を使うかどうかは別にして、日米関係が対等平等なものでないことへの批判的な見地をお持ちだろう。同時に、その不平等をどうやったら少しでも解消できるのかを模索しつつも、なかなか事態が動かないことに切歯扼腕しておられることでもあろう。

「対等な日米関係」を掲げた民主党政権の発足(2009年)は、そのための最大の好機のように思えたが、それさえも成果を上げずに終わった。ましてや、自民党主導の政権が続いている限り、そんな日が訪れる可能性は見えてこない。

Tokyo: Sound trucks (gaisensha) of Democratic Party of Japan parked in Tokyo. Public address systems vehicles with loudspeakers are used by political parties in Japan.

 

私自身、この分野に関心を抱くようになったのはかなり以前だが、初期の頃は、対米自立は簡単ではないにせよ、これほどの難物だとは思っていなかった。大半のNATO諸国と異なり、米軍駐留が敗戦に伴う占領として開始されたという特殊性があるにせよ、せめて敗戦から半世紀も経てば、何らかの変化はあると考えていたのだ。ところが、60年、70年が経過したけれど、対米従属は年を追って深まるばかりというのが実感である。

とはいえ、ようやくここ数年、「対米自立が世論の大勢にならない原因はこれだ」と思えるものをつかめたような気がしている。私が8年近く前、柳澤協二氏(元防衛官僚・内閣官房副長官補)を代表とする「自衛隊を活かす会」(正式名称「自衛隊を生かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)の立ち上げに参加し、現在まで事務局長を務めているのは、ただ原因を突き止めるにとどまらず、現状から抜け出す道を少しでも前に進めたいからである。

「自衛隊を活かす会」は、憲法9条のもとでの防衛政策を打ち立てることを基本的な目標としている。なぜそれが対米自立につながると考えているのか。本稿では、それに関連する問題をいくつか書いておきたい。

1.地位協定改定過程から見えてきたもの

・「行政協定改訂問題点」を分析して

昨年、『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』(集英社新書)を上梓した。タイトルが示すとおり、地位協定の全条項を取り上げて分析したものだが、その際、1959年に日本政府が作成した「行政協定改訂問題点」を、日米関係の現状を分析するための重要な指針の一つとした。その作業を通じて、本稿のテーマにつながる問題を感じ取ったので、まずその問題にふれておこう。

この政府文書は、60年の新安保条約に伴い、旧安保条約下の行政協定を地位協定に改定することが求められたので、外務省が調整役となり行政機構が総出でまとめたものである。行政協定のどこをどう変えるべきかを検討し、その結果をふまえて対米交渉に臨んだのだが、これを注意深く読むと、現在に続く日米関係の構造が見えてくるようだった。

結論から言うと、日本政府には、「行政協定のここは主権国家として放置できない」「だから改定しないといけない」と考えていた分野がある。その点で当時の政府は、現在のそれのように、どんなものであれ協定の改定には踏み込まないというような、主権国家として信じられない態度はとっていなかった。

しかし同時に、特定の分野においては、政府は主権よりも米軍の特権を擁護することを優先させていた。特定の分野とは、日米安保を運用して米軍が軍隊としての機能を発揮するための分野であり──したがって特定といっても部分的ではなく本質的な分野である──、日本を守るために必要ならば、主権を放棄しても構わないという対応をしていたのである。

・日本の主権は日米安保を妨げない範囲で

具体的な事例をあげよう。例えば地位協定(行政協定)の第3条である。これは、政府が基地管理権と呼んでいる条項で、日本政府が提供した基地を米軍がどのように使えるのか、日本側は何をするのかを規定したものである。

行政協定の時代、この条項をみると、米軍は基地内で「必要な……権利、権力及び権能を有する」とされていた。まさに占領の延長にふさわしい規定であり、治外法権そのものであった。

さすがに日本政府もこれではまずいと考えたのだろう。「行政協定改訂問題点」では、管理権を「両政府の合意により定める条件で使用する権利」に改めることを求めた。基地に隣接する区域の権利については、「米側の権利とせず」とまで述べている。

日米交渉の結果、第3条からは、「権利、権力及び権能」という言葉はなくなった。権利という言葉はどこにも見られなくなったのである。基地といっても、あくまで日本の領土として日本の主権が及ぶ地域であり、日本の国内法が適用されるべき地域であるから、これは当然のことだ。

ところが政府は、この条項をいまだに「基地管理権」と呼んでおり、米軍の「権利」を定めたものだと言い張っている。「排他的権利」という人もいる。

では、文面はどうなっているかというと、米軍は基地内で「必要なすべての措置を執ることができる」とされ、日本側は米軍の要請があれば「関係法令の範囲内で必要な措置を執る」というものである。つまり、先ほど述べたように権利という用語を使ってはいないのだが、読みようによっては、米軍は「すべて」のことができて日本はそのための法令の整備をする義務があるように捉えられるのだ。そして、実際の運用はその通りになっているというわけだ。

第3条は、基地周辺住民の生命や権利に深くかかわった条項である。この条項を根拠にして、例えば米軍機の飛行訓練が行われて騒音被害を生み出したり、保管されている軍需品から発がん性物質が垂れ流されたりするからだ。条約でそれらを米軍の当然の「権利」規定することには、主権国家ならばちゅうちょしたはずである。

だからこそ、行政協定の「権利、権力及び権能」が削除されたのだが、日本政府は、米軍の訓練や戦時を想定して保管する物資に制限をかけたくなかったようだ。そんなことをすれば、日本を守ってくれる米軍の運用に支障を来すと考えたのだろう。そこで、権利という言葉は使わないが、実質的に権利を保障する文面に改定したということなのではなかろうか。

・国民の安全よりも安全保障が優先する

他の条項を見ると、行政協定から地位協定への改定にあたって、そのような見地が貫かれているように思える。在日米軍が日米安保条約に基づいて活動するのをいかに保障するかという見地が優先されているのだ。

象徴的なのが第6条である。これは「航空交通等の協力」と呼ばれる条項で、米軍が横田や岩国の基地周辺を飛行する日本の航空機の進入管制を行う根拠とされてきたものであり、日本の主権が問われる条項である。

行政協定では、この条項が運用される基準について、「集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合する」とされていた。航空管制などは、何よりも飛行の安全が基準とされねばならないのに、そういう規定は存在せず、あくまで「安全保障」の見地からアプローチされたのである。

さすがに政府もそれを維持するだけでは適切ではないと考えた。そこで、「行政協定改訂問題点」では、「航空交通の安全及び安全保障の利益のため調整される」へと変更することをアメリカ側に求めた。安全保障だけでなく「交通の安全」も基準に加えようとしたのだ。しかし、アメリカ側はその変更を受け入れることを拒否し、日本側も引き下がることになる。

この経過から分かることは、安全保障最優先という原則は、アメリカだけのものではなく、日本もまた最初から共有していたいうことだ。そして、日本政府には、主権国家として国民の安全をどう確保するかということへの考慮は存在したのだが、国民の安全と安全保障を天秤にかければ、安全保障が優先されると判断したということなのである。

対米従属の「従属」という用語は、いやいや強制されているという語感を持っている。日米関係が敗戦に伴う米軍による占領から開始されたという点では、当初、そのような側面があったことは否定できない。

しかし、日本の安全のためには米軍が不可欠であり、その米軍の運用を守ることが日本の使命だという見地に立ってしまえば、そこからは「強制」という要素は姿を消してしまうのである。アメリカの軍事戦略に日本の運命を委ねているという点では、日本がアメリカに従属しているという現実に変わりはないのだけれど、日本が自分の意思でそれを選んでいるということなのである。

これが問題の原点である。戦後70年以上が経過しても、対米自立が世論の大勢にならない原点はここにあるのだ。

2.冷戦が終わっても従属が深まる理由

・尖閣への日米安保第5条の適用を求める理由

それにしても戦後77年である。アメリカの軍事戦略に身を委ねるにしても、多少の変化が生まれてもいいではないか。中国の動向に不透明さがあり、不安を感じる国民が多いにしても、日本が「不沈空母」として米ソ冷戦の最前線に立っていた時代とは違うはずだ。

Chinese Flag With Beijing Imperial Palace

 

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松竹伸幸 松竹伸幸

「自衛隊を活かす会(代表=柳澤協二)」事務局長、編集者・ジャーナリスト、日本平和学会会員。近著に『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』(集英社新書)、『対米従属の謎─どうしたら自立できるか』(平凡社新書)など。

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