非米か親米か、決断の時 〝自民党崩壊〞の先に米国の策略

小西隆裕(こにしたかひろ)

文◉小西隆裕

引き出された「3正面作戦」

2023年は、天下の形勢が傾いた年だった。

米覇権の崩壊が誰の目にも見えてきた。覇権の崩壊は、様々な事象を通し、その弱さが露呈することにより見えてくる。

それは何よりも、ウクライナ戦争に示された。まず、2021年2月にロシアのプーチン大統領が始めたこの戦いが、米国とロシアの戦争であることが明らかになった。プーチンは、米国をロシアと中国の両方を相手とする「2正面作戦」に引き出したのだ。

米国が安全保障会議で、中ロ両国を名指しで現状を力で変更する修正主義国家だと規定したのは2017年のこと。それから2年後、大統領だったトランプが、中国との「新冷戦」を世界に宣布する一方、ロシアに対しては、ゼレンスキーをウクライナの大統領に押し立てNATO加盟を促進しながら、大量の米国製兵器の供与、米英軍事顧問団の派遣など、ウクライナの対ロシア軍事大国化を進め、東部ロシア系住民に対してはファッショ的弾圧を敢行させた。

プーチンによる「特別軍事作戦」が、この米国がとった中ロに対する公然/非公然の攻撃に対する返答だったのは、容易に推察される。これにより米国は、それまで避けてきた中ロに対する「2正面作戦」に引きずり出された。

昨年は、プーチンの戦略の効能が存分に現れた1年になったのではないか。中ロの結束が強まるとともに、非米世界との連携は一段と広まった。ロシアを世界の決済機構から閉め出した「制裁」は、逆に米欧側の経済危機を生み出し、ロシアには復興をもたらした。

軍事でも、「スターリンク」など、米欧側の華々しい攻勢は、急速にその効力を失い、ゼレンスキーが吹きに吹いた「反転攻勢」も、ロシア軍の塹壕戦の前に不発に終わった。戦線は膠着状態に陥り、「西側」には明らかに支援疲れ、厭戦気運が濃厚になった。この戦争支援に最も積極的だったポーランドなどからさえも、支援停止の声が出ている。

一方、ウクライナ内部から生まれる、「代理戦争」ならではの汚職や腐敗、兵役逃れの国外脱出、政権内部の紛争、等々が深刻の度を増している。

もう1つの「正面」である「米中新冷戦」にあっても、米側の劣勢は顕著だ。当初、「米ソ冷戦」の再現を狙った「新冷戦」は完全に破綻した。世界の「東西分断」ならぬ、「民主主義と専制主義両陣営への分断」。そして前者が企図した後者に対する包囲圧殺は、逆に、中ロと非米勢力の側の連携の拡大と同時に、「G7」「民主主義陣営」の側の孤立となって現れてきている。

それが、G7によるブラジル・ベトナムなど「グローバルサウス」のウクライナ戦争への誘い込み失敗であり、BRICSのサウジ・エジプトなどへの勢力拡大であり、G20など各種国際会議でのインド等「グローバルサウス」の発言力強化であり、10月の「中国一帯一路・国際フォーラム」への世界130カ国の参加である。

さらには、ニジェールやガボンなど西アフリカで立て続けに起きた軍事クーデターがすべて反米欧・親中ロであったこと等々、米覇権の衰退と非米世界の興隆を示す事象には枚挙の暇がない。

「ウクライナ」と「新冷戦」、この「2正面」だけでも大いに揺らいでいた米覇権の「天下」は、パレスチナのハマスによるイスラエル攻撃によって「3正面」に引き出され、決定的に傾いたのではないだろうか。ミサイル数千発と地上部隊によるイスラエル侵攻、このかつてない攻撃をハマスはなぜ選択したのか。それは、米覇権の崩壊を抜きに考えられない。そこに勝算を見出したということだ。

「3正面作戦」に引き出された米国は、イスラエルへの支援を従前のようにはできない。逆にハマスは、イランなど非米・アラブ世界の支援を受けられる。そしてなによりハマスには、長期に渡り準備したパレスチナ人民との血の結束があり、強力な戦闘部隊、地下戦闘網をはじめ、主体的な力がある。

戦闘は長期化するかもしれない。しかし今回は、パレスチナ国家の樹立と米覇権の決定的崩壊を実現できるのではないかとすら、私は見ている。ハマスによる戦闘開始と時を同じくして、米国が中国との「協議」、いわば「クリンチ」に逃げ込まざるを得なかったのは、この「勝算」の正しさを示しているのではないかと思う。

 

非米vs親米 決戦の行方

 

新年、2024年に当たりながら、今、世界は、「民主主義vs専制主義」ならぬ、「非米vs親米」の攻防の時を迎えているように見える。この攻防に思うのは、これが覇権抗争ではないということだ。

かつて「米ソ冷戦」は、明らかに覇権抗争だった。「資本主義陣営」の盟主・アメリカ合衆国を中心とする「西側」と「社会主義陣営」の盟主・ソビエト連邦を中心とする「東側」の覇権をめぐる攻防だった。

ところが、今日、中ロという超大国、またイランやサウジ・ブラジル・インド・ベトナムなどといった地域大国と周辺非米諸国との間に、かつてのソ連と東欧社会主義諸国との間にあったような主従関係があるといえるだろうか。それはないと断言できる。

なぜそうなのか。その原因を考えた時、今の非米諸国が皆、民族解放闘争や自国第一の闘いを通して生まれてきた国であるという現実がある。

今、国際政治で問題になっているのは、資本主義か社会主義かではない。国の自立・独立が問題になり、それをめぐっての闘いが展開されている。ハマスが求めているのは、ほかでもない、パレスチナの独立だ。ロシアも米覇権と競争して自らの覇権を求めるというより、米覇権に抗して、自国の安全と平和を確保するという志向が強いのではないか。ロシア系住民の多いウクライナ東部と南部に深い塹壕を掘り、長期戦によるゼレンスキー政権の崩壊を狙っているように見えるのも、それを示すのではないかと思う。

では、中国はどうか。米国との覇権抗争ではないのか。そういう側面があるのは否定できないかもしれない。しかし、たとえ中国が新たな覇権を狙っても、実現は不可能だろう。なぜなら、それに従う非米諸国がないからだ。

非米vs親米の世界史的攻防、決戦の時を迎えるこの攻防の帰趨はいまだ不明だ。しかし、すでに見えてきているともいえるのではないか。

 

日本でも問われる「非米か親米か」

 

世界的な非米vs親米の闘いは、日本ではどうなっているか。それがよく見えてこない。やはり、日米基軸が一丁目一番地の日本で非米などあり得ないのか。実際、「ゼレンスキー万歳」など日本の国会は、さながら親米翼賛政治の観を呈してきた。

だが、はたしていつまでもそうしていられるのか。米覇権の崩壊が誰の目にも明らかになってきている今日、日本の政界・経済界・言論界等の中にも、これまでの日本のあり方でよいのか、動揺する動きが出てきているのも事実ではないだろうか。

そうした中、米国はすでに数年前から手を打ってきている。それが「米中新冷戦」の最前線に日本を押し立て、弱体化した覇権国家・米国を支えさせる戦略だ。そのために「日米統合」が掲げられ、オバマ政権で首席補佐官を務め、剛腕で鳴るラーム・エマニュエルを駐日大使としてその任に当ててきているのだ。

軍事・経済・地方地域・教育・社会保障などあらゆる領域にわたって急速に推し進められている「日米統合」で、最も立ち後れているのが政治の統合ではないか。自民党政権内部が「米中新冷戦」に積極的な親米改革派で固められておらず、保守的・国家主義的・親中的で「新冷戦」に懸念を抱く、どっちつかずな勢力を内に抱えたままでいる。これでは、対中対決戦を強力に推し進めていくことなどとてもできない。

そこで米国が狙っているのが日本政界の再編成、日本政界内親米改革派の統合、それに基づく日米政治の統合ではないか。昨年1年間、岸田文雄政権が「自民党惨敗」の予想が出される中にあっても、「解散総選挙」をちらつかせ、麻生太郎・前原誠司両氏や小沢一郎氏などから政界再編を示唆する動きがあったことなども、そうした米国の意向と無縁ではないのではないか。

事実、この間、岸田政権の支持率が危険水域である30%を割る史上最低を記録し続ける中、法務・財務など副大臣の連続的な辞任、そして自民党のパーティ券事件など、解散総選挙につながる不祥事が続いた。政権が追い込まれての解散総選挙が何を生み出すか。それは言うまでもない。執権党・自民党の大敗北、それに基づく自民党内親米改革派と非米保守派の分裂、そして野党を巻き込んでの政界大再編成へとつながるのは、自然な流れだといえないか。

今、日本の政治は、正念場に立たされていると思う。このまま米国の手の平の上で日米政治の統合、親米改革派による執権という流れに身を任せるのか。それともこれを奇貨として、非米自主の政権樹立を目指すのか。

ここで問われているのは、非米か親米かの世界史的大局観と日本国民主体の地に足の着いた覚悟だと思う。問題は、米国に付くのか中国に付くのかの覇権の選択ではない。非米か親米か、覇権時代そのものからの脱却を目指し、日本国民と一丸となって闘う、これまでとはまったく異なる新しい政治こそが今、切実に求められているのではないだろうか。

(月刊「紙の爆弾」2024年2月号より)

 

小西隆裕(こにしたかひろ)

東大医学部共闘会議議長・共産同赤軍派。1970年、朝鮮へ。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。

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