【連載】横田一の直撃取材レポート

長崎・石川県知事選、保守分裂選挙で見えた「維新のやり口」

横田一

元大阪府知事の橋下徹氏について、「気に入らないマスコミをしばき、気に入らない記者は袋叩きにする」「飴と鞭でマスコミをDV(ドメスティック・バイオレンス)して服従させていた」(日刊ゲンダイ2021年12月17日号)と語ったれいわ新選組の大石晃子衆院議員が、名誉を毀損したとして橋下氏に300万円を請求された訴訟が3月11日、大阪地裁で始まった。

元大阪府職員の大石議員が「元上司が元部下を口封じするために訴えた裁判」と看破し、言論弾圧に対する反転攻勢を宣言したこの裁判。法廷では今後、飴と鞭による“DV的メデイア対応(差別的報道対応)”の真偽が争われることになるが、同時期に私は2つの県知事選で、大石議員の発言と重なり合う差別的報道対応を実体験することになった。

保守分裂選挙で日本維新の会が推薦した候補がともに勝利した長崎(2月20日投開票)と石川(3月13日投開票)の両知事選のことである。

その両方で、私は選挙取材のハイライトである当確後の万歳撮影と初会見への参加を阻まれ、さらに長崎では支援議員(長崎三区の谷川弥一衆院議員)の囲み取材中に現場から引きはがされる暴力的取材妨害も受けたのだ。

・暴力的取材妨害を受けた長崎県知事選

現職と新人2人の3つ巴の戦いとなった長崎県知事選。4選を目指した中村法道知事と新人の大石賢吾候補(現知事)に加えて、川棚町に建設予定の石木ダム反対を掲げる食品会社社長・宮沢由彦候補が出馬したこの選挙について、私は「石木ダムが県知事選で初めて争点の一つになった」(反対派の炭谷猛・川棚町議)点に注目していた。

脱ダム派の前滋賀県知事・嘉田由紀子参院議員も宮沢氏を支援。税金の無駄・環境破壊・人権問題の観点から反対を主張し、「利水上も治水上も必要性が乏しい無駄な公共事業」「約538億円も投じて美しい棚田を破壊するのか」などと訴えた。

佐世保市周辺の水不足解消を目的として、60年も前に具体化した石木ダム計画だが、水不足はすでに解消、治水効果も限定的で「堤防強化や浚しゅん渫せつなどの河川整備の方が有効」(水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之(てるゆき)共同代表)という声が専門家からも出ていた。古き自民党土建政治を象徴するようなダム計画だったのだ。

それでも長崎県は石木ダム推進の姿勢を変えず、水没地区の反対派住民(13世帯)の家屋を強制的に撤去できる「行政代執行」が2019年11月に可能になってもいた。ただし中村前知事は、3期目終了までの2年3カ月、それに踏み切ることはなかった。

長崎県の県政ウォッチャーはこの慎重姿勢が保守分裂選挙を招いたと、こう解説している。

「長崎県知事を3期12年(1998年〜2010年)務めた金子原二郎・現参院議員と、地元ゼネコンの谷川建設創業者・谷川弥一衆院議員(長崎3区、ともに自民党)は、県内政界に大きな影響力を持つ“KTコンビ”として知られています。そして過去3回の県知事選でこの2人は中村知事を支援してきましたが、今回は袂を分かち、新人擁立に動いた。

早期の石木ダムの行政代執行を求めたのに、中村知事が慎重な姿勢を崩さなかったことが発端と聞いています。県庁出身の中村知事は真面目で頑固な性格。今回の選挙は『石木ダム強行派の大石候補(KTコンビのダミー候補)vs慎重派の中村知事』という様相も帯びていたようなのです」。

実際、自民党長崎県連は大石氏の推薦を決めて金子氏と谷川氏は賛同したが、同じ県内選出の北村誠吾衆院議員(長崎4区)と加藤竜祥衆院議員(長崎2区)は中村氏支援に回った。自民党県議も真っ二つに割れ、支持団体も県医師連盟が大石氏、県農政連が中村氏と対応に食い違いが出たのだ。

この保守分裂選挙で、推薦を求めてきた大石氏の支援に回ったのが日本維新の会だった。1月28日には馬場伸幸共同代表が長崎入りして推薦表明するほどの力の入れようで、「副代表の吉村洋文大阪府知事の要請で鈴木宗男副代表(参院議員)が応援演説に入ることにもなった」(大石陣営関係者)という。維新幹部は2月2日付「現代ビジネス」で次のように豪語していた。

「自民党は県連推薦なのに対して維新は党の推薦だからうちの方が格上だ。もしも大石が勝つようなことがあれば『維新の知事が長崎に誕生した』となる」。

7月の参院選で憲法改正国民投票の同時実施を提唱するなど、岸田自民党よりも改憲に熱心な維新は今や“第2自民党安倍派”のような存在だが、安倍晋三元首相とタカ派的政策で二人三脚を組むことは少なくない。安倍元首相が「台湾有事は日本の有事」と言い出すと、馬場共同代表ら維新幹部はすぐに賛同。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて「日本でも核共有の議論をするべき」と主張することでも両者は足並みをそろえた。

そして今回の長崎県知事選でも維新は、石木ダム強行派と疑われていた大石候補を自民党長崎県連と一緒に支援していたのだ。

・古き自民党土建政治を担う〝ダミー候補〞

「39歳医師」「世代交代」とアピールしていた大石候補だが、古き自民党土建政治を担う“ダミー候補説”も浮上、「(金子・谷川両氏)2人の傀儡県政になる」(先の現代ビジネス)という声も出ていた。この表の顔と裏の顔のどちらが実態に近いのかを明らかにすることも、県知事選取材の大きなポイントの一つだった。

そこで私は維新幹部3人(鈴木宗男副代表・藤田文武幹事長・足立康史政調会長)が応援に駆け付けた選挙戦最終日の3月19日に大石氏を3回直撃、石木ダムに関する質問に加え “ダミー候補説”をぶつけた。

まず長崎市中心街での街宣を終えたところで「石木ダムについて一言。知事になったらどうするのか」と質問すると、「今まで訴えた通りに、しっかりと対話を軸に頑張って参ります」と回答。これを受けて「強制執行をするのか」と聞くと、「強制執行ありきの話ではないので」と答えたので、さらに「応援している金子・谷川さんは『強制執行すべき』と言っていないのか」とも再質問をしたが、大石氏は「移動します」と言って質疑応答を打ち切った。

そこで、マイク収めを終えた大石氏に再び「『(反対派住民と)対話をする』と言ったが、住民が納得、合意しないと強制執行はしないという立場か」と聞いたが、「まずはしっかりと対話する。その先は言えない」としか答えない。形だけの対話で強制執行に踏み切ることも考えられるので、「対話を打ち切って代執行をする可能性があるのか」と再質問をしたが、「仮定の話はできない」と繰り返すだけ。

不明瞭な回答しか返って来なかったので、単刀直入に「中村知事が強制代執行をしないので、金子・谷川コンビが大石さんを担ぎ出したと(いう説もある)」と聞いてみたが、大石氏は「私は承知をしていない」「全く知らない」と答えるだけだった。

この時、質疑応答を打ち切る役をしたのが、大石陣営の選挙プランナーの大濱崎卓真氏だった。さらに、敵対的記者と見なされたためか、投開票日の取材不可も告げてきた。「開票を見守る県医師会館で厳しいコロナ対策が求められるため、事前登録をした記者のみ取材可能」というのが理由だった。

選挙取材に欠かせない当確後の万歳撮影さえ出来ないのは異例のことだ。そこで人数制限の科学的根拠の提示を求めたが、大濱崎氏は拒否。医療関係者である施設管理責任者との直談判も申し出たが、これも拒まれた。

科学的根拠というよりも、政治的思惑の匂いを強く感じた。「気に食わない記者」に対する報復的措置(差別的報道対応)としか思えなかったのだ。

そこで大石氏の当確が出たあと、中村陣営の投開票見守り会場である県農協会館(記者の人数制限なし)から県医師会館に移動したが、ここでも大濱崎氏の姿勢に変わりはなかった。会館2階の講堂(大部屋)が万歳会場になっていたが、入口にはスタッフが門番のように立ちはだかり、すぐに大濱崎氏が呼ばれて取材不可を再告知してきた。

仕方がないので “出待ち取材”に切り替え、人が自由に出入りする1階の自動ドア横のソファで大石氏が出てくるのを待機することにした。しばらくすると、2階から「大石さん!」という女性の声が聞こえたので、再び階段を駆け上がると、講堂前の共用スペース(ロビー)で“KTコンビ”の一人である谷川衆院議員が囲み取材を受けていた。

私もすぐに加わり、質疑応答が一区切りついたところで「石木ダム強制代執行を大石氏に迫るのか」と質問をしようとしていた瞬間、大濱崎氏に力づくで現場から強制排除された。

そして、すぐに指示が飛んだスタッフに取り囲まれて階段踊り場で拘束され、警察に「不退去罪」で通報されて、長崎署で翌21日2時まで取り調べられることにもなった。維新支援の大石陣営の選挙プランナーによって、“DV的報道対応”を体験することになったのだ。

「維新(推薦)の知事」となった大石氏がこの暴力的取材妨害にどう関わっていたのか。直撃を繰り返す記者への差別的報道対応を指示したのか。それとも大濱崎氏の独断だったのか。3月2日に初登庁して初会見にも臨んだ大石知事に、「石木ダム強行をするのか」という質問と合わせて聞こうとしたが、県の反対で県政記者クラブ所属記者以外の参加は認められなかった。

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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