【連載】横田一の直撃取材レポート

長崎・石川県知事選、保守分裂選挙で見えた「維新のやり口」

横田一

・石川県知事選でも維新推薦陣営が取材妨害

保守分裂で三つ巴の激戦となった石川県知事選では、安倍元首相ら清話会(安倍派)と自民党石川県連、日本維新の会が支援した自民党前衆院議員の馳浩候補が当選したが、ここでも当確後の万歳撮影と初会見参加を阻まれる取材妨害を受けた。会場に入ることはできたものの、馳陣営のスタッフに取り囲まれて前方に移動することができなかったのだ。

私が馳氏を直撃し、後述する「女性蔑視発言」について質問した報復的措置としか考えられなかった。

選挙の構図も、長崎県知事選とよく似ていた。3月4日の馳氏の決起集会で維新の柴田巧参院議員(比例代表)は、「全国各地の保守分裂選挙では、維新が応援した方が必ず勝利を収めています」と切り出して、2019年の福井、2020年の富山の両県知事選でも維新支援候補が勝利したことを紹介。「長崎県知事選でも維新推薦の大石賢吾さんが541票差で勝ちました。今度は石川で、われわれが推薦した馳浩を勝たせていきたい」と続けていた。結果は、馳氏が約7千票差で勝利。維新がさらに勢いづくと同時に、自民党最大派閥「安倍派会長」の安倍元首相が安堵することにもなった。

この石川県知事選でも、維新は安倍元首相とのパイプの太さを見せつけた。「安倍氏は日本維新の会の松井一郎代表に自ら協力を要請し、維新から馳氏推薦を取り付けた」(3月4日付の産経新聞)と報じられ、維新幹部を挙げての支援もしている。鈴木副代表が2月26日に石川入りし、馳候補の人柄や実績を紹介して支持を呼びかけると、吉村副代表も馳文科大臣時代を振り返る応援動画を3月6日に公開した。

全国展開が課題の維新にとって、保守分裂選挙に関わるメリットは大きい。維新の目玉政策「身を切る改革」をアピールする機会にもなったし、長崎県知事選と同様、「石川でも維新の知事が誕生した」と自慢することもできる。石川県知事選でも自民党は県連推薦に止まり、党本部推薦の維新の方が“格上”であったためだ。

しかし地元では、馳氏に対する否定的な見方が少なくなかった。

「安倍元首相や萩生田光一経産大臣、高市早苗政調会長ら大物議員が続々と馳氏の応援に駆け付けても、横一線の混戦状態から抜け出せなかった。信義違反のフライング的出馬表明と地元での評判の悪さが重なったため」と県政ウォッチャーは見ていた。

「自民党石川県連会長だった馳氏は去年7月、『衆院選が終わってから県知事選の候補者選定をする』という決定を無視して、フライング的に県知事選への出馬表明と衆院選不出馬表明をした。その反発もあって、4年前の県知事選でも名前が出た元農水官僚の山田修路参院議員に対する待望論が地元で強まり、同じ安倍派ながら12月24日に議員辞職、県知事選に名乗りをあげたのです」(同前)。

これに対して森喜朗元首相や安倍元首相も山田氏に「出ないでほしい」と不出馬を迫ったが、山田氏は「東京で石川県知事を決めていいのか」と反論、出馬を決意したのである。

「『東京で県知事を決めていいのか』との声は地元でも広がり、山田氏の背中を押した。『中央vs地方』の構図が鮮明となると同時に、地方自治や民主主義を問う県知事選にもなったのです」(同前)。

森元首相を長年支持してきた女性グループからも「馳知事誕生は阻止したい」という声が漏れ聞こえてきた。その理由として、2016年12月18日に金沢市内で開かれた女性の会合(約50名が参加)で、ゲストの馳氏が女性蔑視発言を口にしたというのだ。

この会合の主催側である亀井頼子さんは、3月12日、山田候補の街宣車に乗って、こう暴露した。

「馳さんは、私たちの会合で『女房(作家・高見順の娘で元タレントの高見恭子氏)の母親は妾だ。妾が入る墓がないから自分がたくさんのお金を出して、何百万も出して墓を建てた』と失言しました。『なんということをおっしゃるのですか』と言ったら『本当のことを言って何が悪いのだ』と言われました」。

この女性蔑視発言について、私も3月6・11・12日にわたり馳氏を直撃、今でも不適切と認めないのかと何度も聞いてみたが、「急に言われてもわからない」「改めてまた」などと答えるだけで具体的な回答は聞かれなかった。

FLASH3月22日号に「馳浩 知事選応援は娘だけ、高見恭子と失愛『冷戦10年』」と題する記事が出た。山田・山野両氏は妻と選挙活動していたのに、馳氏だけ妻が来なかったと対比する内容だったが、先の女性蔑視発言が「この謎解きの答えになるのではないか」と思ったのは言うまでもない。

そして投開票日の3月13日。私は長崎県知事選に続いて、石川県知事選でも馳陣営のスタッフから取材妨害を受けた。

万歳後に馳氏は囲み取材に応じていたが、私は陣営関係者に移動の自由を奪われ、接近できない状態が続いていた。会場の片隅から馳氏に向かって大声を張り上げたのはこのためだ。

「馳さん、“嫁の母は妾”発言について一言。記事を書いたら囲みに参加させないのか。撤回しないのか。森元総理の『女性の会議は長い』発言に匹敵するのではないか。石川の恥ではないか」。

しかし馳氏が私の方に歩み寄ることも、行動制限を解くようにスタッフに指示することもなかった。

冒頭で触れた “DV的報道対応”は、橋下府政時代から現在の吉村府政に至るまで引き継がれ、各地の維新支援候補の選挙でも活用されているのではないか。その効果は、世間受けをする表の顔をアピール、不都合な真実にまみれた裏の顔が露わになるのを回避するということだ。「維新の手法」についての徹底研究が必要なようだ。

(月刊「紙の爆弾」2022年5月号より)

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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