「司法の偏向」で形骸化する「3権分立」 辺野古代執行訴訟が孕む3つの大問題

足立昌勝

取材・文◉足立昌勝

昨年12月に、国家権力が関わる事件の判決が相次いで出された。

・12月20日辺野古代執行訴訟判決(福岡高裁那覇支部)
・12月22日渋谷暴動事件・大坂正明裁判判決(東京地裁)
・12月27日大川原化工機事件国賠訴訟判決(東京地裁)

これらの判決に共通する特徴は、賠償請求で直接相手にするか否かを問わず、国の権力作用に関わることだ。
辺野古代執行訴訟は、国が進める事業の許認可権を持つ地方自治体に対する国の代執行を求める裁判である。
渋谷暴動事件裁判は、警官1名が殺害されたことから、容疑者の有罪が警察にとってなによりの命題だった。
これら3つの事件で裁判所は、国の権力行使の濫用を公正に監視・牽制できたのか。答えは、大川原化工機事件の判決以外は「ノン」である。

 

「民意無視」を正当化する「代執行訴訟」判決

沖縄・普天間基地の辺野古への“移転”をめぐり、河野太郎防衛大臣(当時)は2020年4月、新たに見つかった海底の軟弱地盤を改良するため、水深70メートルの海底に7万本以上の杭を打ち込むなどの追加工事が必要と判断し、沖縄県に設計の変更を申請した。県は2021年11月、「地盤の安定性の検討が不十分」などとして不承認とした。
この不承認に対し、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき、斉藤鉄夫国土交通大臣に審査請求を行なった。

斉藤大臣は2022年4月、行政不服審査法に基づき不承認を取り消す「裁決」をすると同時に地方自治法に基づき、従わない県に承認を求める是正指示を出した。
県は2つの訴訟で取り消しを求めたが、福岡高裁那覇支部はいずれも認めず、最高裁第三小法廷も裁決については昨年8月24日付の決定で県の上告を退けた。
そして昨年12月20日、福岡高裁那覇支部は、普天間基地の辺野古移設をめぐる「代執行訴訟」で、国の主張を認める判決を行なった。
これにより、沖縄防衛施設局は軟弱地盤への土砂搬入の具体的工事に着手した。

この代執行訴訟には大きな問題が内在している。1つは工事を進めている国の機関が他の機関に救いを求め、審査請求することの是非だ。
2つ目は法定受託事務に対する国の関与、3つ目は代執行を容認した福岡高裁那覇支部の判決についてである。
国の事業を行なっている国の機関(沖縄防衛局)がその事業の認可権を持つ自治体の判断を「不服」とし、国の他の行政機関(国土交通大臣)に審査請求し、請求された機関が採決するという構造は素人的判断でもおかしい。
国の行政機関内の話である。

最高機関としての内閣があり、その部局同士(防衛省と国交省)の請求と採決だ。
その裏にはなれ合いと忖度が横行している社会がある。
このことについて、行政法の専門家である白藤博行専修大学教授は、「国交大臣の『裁決的関与』と『勧告』・『是正の指示』との関係に関する意見書」で次のように述べている。
〈このような審査請求制度=「裁決的関与」制度がいったん法制化されてしまった場合、どのように解釈・運用すべきであろうか。
(中略)本件のように国の機関である沖縄防衛局長が審査請求人となって、沖縄県知事の法定受託事務の処理に不服があるとして審査請求することが容易に許されることとなれば、当該法令所管大臣の裁決があたかも国・地方公共団体間の紛争処理に関する最終的裁断のごとく一人歩きしてしまう可能性が高いからである。〉

地方のことは当該地方で決すべきである。
これが地方自治の原則である。
沖縄県のことは沖縄県民が決定すべきである。
県民の総意は知事発言に代表されるであろう。
その県民の総意に基づく政策を実現することが、その地で事業を行なう者の義務ではないのか。

 

地方自治の理念に反する「代執行」

地方自治法では、地方自治体の事務として、一般的に行なわれている地方事務と、本来は国が行なう事務とされていた国政選挙やパスポートの交付などの法定受託事務がある。
かつては国が上位で地方自治体が下位という上下関係でとらえられていたが、現在では両者は対等である。
言葉として「受託」が使用されているが、法定受託事務も地方自治体の固有の事務である。
この事務には国の関与が認められている。
その関与の類型としては、①助言・勧告(245条の4)②資料の提出の要求(245条の4)③是正の指示(245条の7)④代執行等(245条の8)の4類型である。

そのうちの代執行を一連の流れとしてみれば、次の通りだ。
まず、知事や市町村長に大臣が是正を「勧告」する。
次いで大臣が是正を「指示」する。
知事や市町村長が期限内に従わなければ、大臣が高裁に「提訴」する。
そこで、国が敗訴した場合は現状維持、国が勝訴した場合で、知事や市町村長が判決に従えば、それが確定。
知事や市町村長が判決に従わない場合には、大臣が代わりに事務を実施(代執行)する。
この代執行は今まで一度も使われたことはない。
健全な地方自治が存在していたからだ。
代執行をも展望する国のあり方は、憲法が保障し、民主主義の基盤とされてきた地方自治の理念に反する異例の措置なのである。

かつて沖縄には飛行場は存在しなかった。
南方への前進基地として開発されたのが始まりである。
それが米軍の標的とされ、多くの県民が殺害された。
その基地を、沖縄を占領・統治した米軍は軍用地として活用し、現在に至っている。
普天間基地の移転先として辺野古を選んだのは国である。
米軍の意思を忖度した日本政府の決断であり、そこに民主主義はない。
国の事業を承認しない知事に対し、国の機関に不服申し立てを行ない国の機関同士で馴れ合い的に結論を出してくる。
県民の意思は全く無視されているのが現状である。

 

「代執行」を容認した司法の偏向

昨年12月20日の福岡高裁那覇支部判決では、
①埋め立て工事に必要な設計変更を沖縄県知事が承認しないことは法令に違反している
②「承認しない」という知事の意思は、明確かつ強固であり、代執行以外の措置で沖縄県の事務の適正な執行を図ることは困難である
③設計変更を知事が承認しないことは、地方自治法の定める諸制度を踏みにじり、憲法が基本原理とする法の支配の理念や法治主義の理念を著しく損なうものであり、社会公共の利益を甚だしく害するものと言わざるをえない、とされた。
これでは、司法は国の事務を容認するだけの存在となる。
地方自治が重視する県民の意思からは遠く離れたものだ。
単なる法律論に終始することなく、実体的判断がなされるべきだったのではないか。

判決の中には、次の記述もある。
〈知事は、住民自治、団体自治の観点から地方公共団体や住民にかかる公益が考慮されるべきであるとして、埋め立て事業に反対する沖縄県民の民意の背景にある沖縄戦以降78年にわたる歴史的経緯などを踏まえれば、県民の基本的人権の保障に大きく関わる本件で、県民の真摯な同意を得ない状況で代執行をすることは認められるべきではないなどと主張する。
沖縄で地上戦が行われ、多くの県民が犠牲になったことや、戦後も「銃剣とブルドーザー」により米軍基地が建設されていった歴史的経緯などを踏まえれば、県民の心情は十分に理解できる。〉
その通りである。
これを原点として考えれば、結論は異なったものになったはずだ。
国の意思を忖度することなく、県民の立場に立った目的論的解釈こそが求められているのだ。

米軍基地の辺野古移転をめぐる玉城デニー知事の闘いは、県民意思を背景とした闘いであり、住民自治の現れである。
しかし裁判所は、その意思をすべて無視し、国側の主張を全面的に支持してしまった。これでは何のための司法なのか。
裁判所は、国の代弁者であってはならない。
法に基づき判断すべきである。
この辺野古裁判では、県の意思が最優先されるべきであり、国やそのバックにある米国の意向に注意を向ける必要は全くない。

 

大川原化工機を摘発した警視庁の違法捜査

東京地裁は昨年12月27日、不正輸出の疑いで逮捕され、1年間近く勾留されたあと、無実が明らかになった会社の社長などが国と東京都を訴えた裁判で、検察と警視庁の捜査の違法性を認め、国と東京都にあわせて1億6200万円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。
この判決は画期的なもので、捜査を担当した警視庁公安部やその違法を見抜けなかった検察の違法性を認定している。
公安警察の捜査の違法性をここまで深く認定した判決は、初めてのものである。
横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長ら幹部3人は2020年、軍事転用が可能な機械を中国などに不正に輸出した疑いで逮捕・起訴されたが、その後、起訴は取消された。

幹部3人のうち元顧問だった相馬静夫さんは、勾留中に見つかった胃がんで亡くなった。
報道によれば、警視庁内部ですら複数の捜査員が疑問を抱いていたという。
警視庁の捜査が適正かをチェックし、起訴するかを決めるのは検察の役割である。
起訴した東京地検の検察官の、経産省の省令解釈についての捜査が不十分である可能性があったという。
この事件を摘発したのは、警視庁公安部外事課である。
公安警察は、右翼、左翼、外交・スパイを監視・取り締まることを仕事とする集団だ。
その内部は秘密とされ、公にされることはない。

たとえばオウム真理教事件での捜査において、刑事警察と公安警察が別個に捜査を行ない、情報共有がなされず捜査が大幅に遅れ、地下鉄サリン事件を発生させる遠因にもなったといわれている。
近年、経済安保の重要性が指摘され、2022年には経済安全保障推進法も成立した。
そこでは、経済進出に伴う秘密の保護が課題とされ、外事警察の対象領域が増大することになる。
敗訴した東京都と国は、1月10日、東京高裁に控訴した。
この控訴は元被告人であった人たちや勾留中に死亡した相馬さんの遺族の方々の気持ちを踏みにじるものであり、違法捜査の事実を認め、素直に反省し、2度とこのような違法な捜査は行なわないことを誓い・宣言することこそが必要なのではないか。

 

渋谷暴動事件大坂裁判供述調書の信ぴょう性

1971年に発生した、いわゆる渋谷暴動事件で起訴された大坂正明被告人に対する裁判で争われたのは、当時の供述調書の信ぴょう性であった。刑事裁判では、裁判外での供述は「伝聞証拠」とされ、原則として証拠とすることができない。証拠に使えるのは、検察側・弁護側双方が同意した場合のほか、供述者が死亡するなどして法廷で証言ができない時や、改めて法廷で証言した内容が調書と反したときなどの例外的なケースに限られる。

4名の供述調書を検察官が証拠申請したのに対し、弁護人が反対した。
そこで、証人尋問が行なわれた。「被告人が警察官を殴っているのを見た」との供述調書がある4名のうち、2名は証言を翻し、「見ていなかった」と公判廷で証言した。
残りのうち1名は証言を維持したが、後の1名は、出廷を拒否し証言しなかった。
裁判所は当時の供述調書に基づき、被告人に懲役210年の有罪判決を下した。

判決は、デモ参加者の目撃証言を元に大坂被告人が警察官の殺害など起訴された各犯罪に関与したと認定。
その上で「残虐かつ非道。45年以上中核派の支援を受けて逃走し、厳しい非難を免れない」などと批判。量刑は共犯者らが過去に受けた判決での量刑や、被告が社会と隔絶されたまま高齢になったことも踏まえ判断したという。
この裁判で重要なことは、あえて内容を翻した2名の証言である。
なぜ彼らは権力に逆らってまで証言を変えたのであろうか。
そこには彼らなりに抱えていた50年間の苦しみがあったのであろう。
法廷での証言は、うそをつけば偽証となる。
その危険性をも顧みなかった重みを一番理解しなければならないのは裁判官である。

裁判官には「自由心証主義」があり、証拠の評価は自由であるとしても、全てを超越して存在するものではない。客観的事実に基づかなければならない。
もう1つの論点は、弁護側が時効成立による「免訴」(裁判打ち切り)を申し立てていることだ。事件は、殺人罪の時効(当時は15年)の撤廃前に起きた。
だが、大坂被告人は「共犯が起訴された時は時効が停止する」という規定で時効が停止していたとして逮捕・起訴された。
しかし、共犯者として1972年に起訴された男性の公判(控訴審)は2017年に死亡するまで心神喪失を理由に止まっていた。

弁護側は「公判は生前、遅くとも男性の弁護人が打ち切りを申し立てた1994年に打ち切られているべきで、15年後の2009年には大坂被告人も時効を迎えているはずだった」と主張した。
対して検察側は「免訴の余地はない。男性の公判が停止された経緯などを今回の公判で審査すべきではない」とした。
精神障害により心神喪失者となった場合、公判を維持することはできない。
最高裁は「被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後、訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合、裁判所は、刑訴法338条4号に準じて判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である(平成29年12月19日決定)」と判断した。
病気に回復の見込みがなければ、公判を停止していても不安定な立場がずっと継続することになり、被告人や関係者、社会にとってもよくないことから、裁判を終了させることができるとしたのだ。

もちろん、回復の見込みがないかは慎重に判断されなければならず、医師による鑑定が再度行なわれることが通常だとされている。
共犯とされた男性は、完全な心神喪失で回復の見込みのない者であった。
彼の名誉を考えれば、直ちに控訴は棄却されるべきものだった。にもかかわらず、検察官がその手続きをとらなかったのは、ひとえに最後の指名手配犯を逮捕・起訴するために、公訴時効を停止させる必要があったのであろう。
ここには権力者の手練手管がはっきりと見て取ることができる。

裁判は公正中立的なものでなければならない。
客観的証拠に基づかなければならない。
それは権力が加害者の場合でも同様である。
しかし現実の裁判では、司法が権力側につく傾向がしばしばみられる。
それが相次いだのが、昨年12月の3つの判決だった。
こうした「司法の偏向」を許さない戦いを、今後とも強めていかなければならない。

(月刊「紙の爆弾」2024年3月号より)

足立昌勝(あだちまさかつ)「ブッ飛ばせ!共謀罪」100人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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2024.03.01
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「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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