【連載】紙の爆弾

東京五輪は東日本復興を遅らせた 能登半島地震でも維新「万博固執」の大愚

横田一

取材・文◉横田一

昨年末の江東区長選で応援演説をした音喜多駿政調会長

 

大阪・関西万博が復興リソースを奪う

元日に発生した能登半島地震への対応でも、岸田文雄首相の体たらくぶりが際立っている。
れいわ新選組の山本太郎代表が2回も現地入り(1月5日・6日と11日・12日)、視察や聞き取りなどをした上で具体的提言をネットで発信。
17日には東京に戻って会見に臨み、「能登半島地震の復興にかかるれいわビジョン」を発表した。
それに対して岸田首相は震災から2週間後の1月14日に初めて被災地入り。

午前10時半に輪島市にヘリで到着すると、同市と珠洲市の避難所で被災者の声に耳を傾け、空自輪島分屯基地などで激励もしたが、現地での視察時間は一時間半足らず。

午後には金沢市内の県庁で馳浩知事らと意見交換、1月中にも1000億円超の予備費の使用を決定する意向を表明したが、具体的な提言が示されることはなかった。
そして16時半には石川県を後にするという半日程度の視察にすぎなかったのだ。

首相視察の3日前までに合計4日間の被災地視察をしていた山本代表は前述の会見で「首相の視察が駆け足だった」と指摘されたことを問われると、切り返すようにこう言い放った。

「私自身が『駆け足』の視察。2度の1泊2日でしか行っておらず、その間に会える人や聞ける声は限られる。総理は『のぞき』をしに行ったということです」
視察後の発信内容も雲泥の差があった。

岸田首相は県庁での会見で「被災者のためにできることは全てやるとの決意のもとで、現下の震災対応、被災者の生活と生業の再建支援に全力で、取り組んでいく」と述べて抽象的文言の羅列にとどまったのに対し、「れいわビジョン」は国に求める具体的支援策を9項目にわたってリストアップ。
「地域に残る人等のために仮設住宅を爆速で作る」「ノウハウのある国・自治体の職員の長期派遣、支援組織への公費投入も行う」「不要不急な事業(大阪万博、辺野古埋立工事)は中止し、被災地に社会的リソースを回す」などの提案が並んでいた。

能登半島地震からの復興を理由に万博中止論にまで踏み込んだ国会議員は、おそらく山本代表が初めてだろう。
「れいわビジョン」発表の10日前、1回目の被災地入りを終えた翌7日の時点で山本代表は、「最悪の事態を想定しているか」と銘打った国と石川県への緊急提言の中で、こう発信していた。
「能登半島を含む石川県全域が豪雪地帯である。
(中略)

降雪、積雪の中、道路の修復や復旧作業は困難。加えて、通常時、除雪作業は地元建設業者なども請け負うという。
除雪作業と復旧作業の両輪を廻せると考えるのは現実を見ているとは言えない。(もちろん全国の建設業者を大々的に雇って行うならば可能だろう。その場合、当然万博は中止、徹底した積極財政で被災地も支える覚悟が必要だ。)」(1月7日の山本代表のX=旧ツイッター)

 

吉村知事が固執する「万博と復興は両立可能」

山本代表の“万博中止論”とは正反対の立場をとったのが、日本維新の会共同代表の吉村洋文大阪府知事だ。1月4日の囲み取材で能登半島地震が起きて万博中止を求める声が出ていることについて問われると、「万博と復興支援が2者択1の関係ではない」と反論した。

この「大阪万博と復興は両立可能」との見解について私が山本代表に先の会見で尋ねると、次のような言葉が返ってきた。
「盗人猛々しいと思う。いま多くの方がさらに奪われようとしている中で、自分たちのその金儲け、一部の人たちだけで金を分け合う行為を続けようとするのは、あまりにもひどい。それによって、この国のリソースは奪われるわけだから、いま何よりもこの能登半島の部分の復興復旧に関して『国の総力をあげて全てを注いでも復活させるのだ』ということが必要です。

『(能登の)人々の暮らしや生業を取り戻すために必要な人員や物資とか様々なものを、自分達の利益のために取り上げようとするのは止めろ』ということだ。それ以上でも以下でもない」

山本代表の隣に座っていた共同代表の櫛淵万里衆院議員も、こう補足した。
「今こそ安倍元総理が『アンダーコントロール』と言って東京五輪を誘致したことを思い出すべきだ。あの時に福島を含めた復興に関わる人材、リソースが五輪に取られてしまった」

まさに正論だ。東日本大震災の復興と五輪建設ラッシュが重なって工事費(人件費や資材費)は高騰し、被災者を苦しめていたのは紛れもない事実だった。
当時、「震災五輪」という旗印(美辞麗句)を掲げた小池百合子東京都知事の被災地訪問を追っかけ取材した際、話を聞いた宮城県庁の復興担当者が差し示した「公共工事設計労務単価変動グラフ(震災後)」には、建設業界の人件費が1.5倍から2倍程度に上昇したデータが記されていた。
五輪関連事業など被災地以外での公共事業ラッシュが原因であることを物語っていた。
公共事業費高騰は民間の建築事業にも悪影響を及ぼしており、「仮設住宅を出て新しい住宅を建てようとしたら、当初の見積もりの5割増になって新居建築を断念した人もいます」と、岩手県大槌町の被災者が話していた。

仮設食堂を経営していた同町のIさんも、新店舗の坪単価が2倍になって開業を断念。
「建設業者はほかにも工事がたくさんあるので値引きに応じない。小池知事に3陸地方の現状を直訴したい気持ちにもなった」と訴えていた。

「れいわビジョン」の万博中止論は、こうした悪夢の近未来図を繰り返さないための提言だった。
来年4月からの万博開催に固執すれば、東日本大震災の復興が五輪建設ラッシュと重なった時と同様、能登半島地震の被災者が工事費高騰で苦境に陥るのは確実だ。
これから会場建設ラッシュを迎えようとする大阪万博と、能登半島での震災復興事業の間で建設業界のリソースの奪い合いとなるのは目に見えている。
だからこそ、大阪万博や沖縄の辺野古埋立工事など不要不急の工事中止がれいわビジョンに盛り込まれ、能登半島の震災復興に集中していくことを求めたということなのだ。

 

維新幹部のスリカエ論法

東日本大震災復興の失敗を活かそうとしていないのが岸田政権と維新だ。
自見英子・万博担当大臣は1月12日の会見で万博中止や延期に関する質問に対し、「今般の地震の影響が万博の準備にどのような影響を与えるのかについて予断を持ってお話をできる段階にないと考えている。現時点では、我が国としては中止や延期については考えていない」と否定した。

一方、山本代表がいち早く打ち出した“万博中止論”を無視、被災地入りにケチをつけたのが日本維新の会の音喜多駿政務調査会長だ。
1月8日、「被災地に決して小さくない悪影響と負担を与えた彼から発信された情報や提案が、ことごとく政府や県知事・関係者が把握している域を出なかったことに、心から愕然としています」とXで批判したのだが、詐欺師紛いのスリカエ論法とはこのことだ。

そもそも「除雪作業と復旧作業両立のために万博を中止、建設業界総動員体制をとる」という山本代表の緊急提案は国や県が検討表明すらしていない独自のものだ。
仮に「把握」していたとしても「発表(発信)」しなければ政策実現することはない。
「発信」と「把握」をすり替えて山本代表の提言が無意味と印象づけ、被災地に悪影響を与えたと決めつけたのだ。詐欺師顔負けの手口(世論誘導術)である。

さらに音喜多氏が、維新が深く関係する万博中止論をスルーするのは姑息としか言いようがない。維新推薦候補が最下位に沈んだ昨年12月の江東区長選で応援演説後の音喜多氏を直撃、「万博問題は逆風にならないか」と声をかけたが、「今日は江東区長選で来ているので。頑張ります」としか答えなかった。
「身を切る改革」を掲げているのに維新は会場費上振れを容認、「国民の身を切らせるバラマキ政党」と化していることに対して具体的な釈明をしようとしなかったのだ。

本当に山本代表の被災地入りが「被災地に決して小さくない悪影響と負担を与えた」のかについても、山本代表に先の会見で聞いてみた。
幹線道路が大渋滞であるから被災地入りは控えるべきというのが音喜多氏の主張だ。
交通状況について山本代表は「(被災地入り1回目の)1月5日は渋滞はあり、七尾から穴水あたりが一番ひどい渋滞だった」と振り返る一方、「全ての道路がいつでも渋滞をしているわけではない」として、時間帯やルートを選ぶことで大渋滞回避は可能とも指摘。こう続けた。

「1回目は能登町と珠洲市を視察させていただいたが、2回目は輪島を目指した。その時は能登半島の左側、志賀原発沿いの通りを北上したが、そこが渋滞したことは全くなかった。ただ門前町から輪島市内までは通常ならば30分だが、寸断されているために迂回をしないといけないので、一時間半くらいで到着した。『すごい渋滞』はなかった」

山本代表の被災地入りは「ルートや時間帯を選ぶことで地元への大きな悪影響と負担を回避できる」ことを実証したといえる。さらに山本代表は、「『山本太郎的なやつらが国会議員に大勢いたら被災地が混むじゃないか』みたいなわけのわからないことを言う人がいるが、そんな状況が生まれるのだったら、これまでの被災地、国会議員であふれているはずだ」と疑問を呈示、こう続けた。

「『みんな行きたいのを我慢してる』なんて。行きたいのだったらさっさと行けよ」
「私は自分がやるべきことをやっただけ」
また山本代表は「カレーを食べるな」といった批判についても、次のように反論した。
「カレーは夜9時くらい、全体の配食が終わってNPOの方々も食べ終わられたあとの残りの物だった。『おいしい物作ったから食べてってよ』ということに断る理由はない。情報を手に入れる上でも、非常に重要な部分を占めると思う」

1月7日の会見では、震災復興策をまとめた「れいわビジョン」がメインテーマになるはずだったが、山本代表の被災地入り批判に関する質問が相次ぎ、枝葉末節な問題への反論などが大半を占めた。
“万博中止論”をスルーした音喜多氏の詐欺師紛いのスリカエ論法は、維新に都合が悪いこと(建設業界のリソースの奪い合いによる工事費高騰のおそれなど)から目をそらす働きをしたともいえるのだ。

 

あらためて露見した自民と維新の人命軽視

実は、軟弱地盤の「夢洲」(大阪湾の人工島)で開催される万博に警告を発する震災関連記事が出ていた。「阪神大震災級の強い揺れ軟弱な地盤、被害拡大か能登半島地震」と題する1月4日付の毎日新聞だ。
「3日に珠洲市などを現地調査した金沢大の村田晶助教(地震防災工学)は、『被害を受けていない家屋を見つけるのが難しく、2023年5月の地震(最大震度6強)の被害をはるかに超えている。

1階部分がつぶれて屋根しか見えない家もある。崩れた家が道を塞ぎ、車が走行するのも難しい』と緊迫した様子で語った。
村田助教によると、被害が大きい珠洲市正院町は河川による堆積平野にあり、地盤が軟弱で地震の際に揺れやすい」

ともに地盤が軟弱な珠洲市正院町と夢洲が二重写しになる。万博開催時に巨大地震が襲来したら、能登半島地震と同様、軟弱地盤上の建造物(パビリオンや大屋根リング)が倒壊して大惨事となるおそれが十分にある。

能登半島での被害実態は、本誌で何度も指摘してきた“夢洲リスク”とも合致する。
「世界最大級の無駄」と疑問視された大屋根リングについて吉村知事は「清水寺の舞台にも採用されている『貫工法』で地震に強い。釘を使わずに安全で強い木造建造物を建てる日本の伝統建築技術」
(昨年11月9日の会見)と強調するも、その後の国会審議や自見大臣会見で耐震補強のために釘やボルトなどの金属使用をしていることが明らかになった。

「夢洲は軟弱地盤で、地震で大揺れをするので内陸部よりもさらに高いレベルの耐震補強が必要。だから大屋根リングに金属使用をした」と考えられる。
能登地震で大きな被害を受けた珠洲市正院町と同様、夢洲も高リスク震災被害地域と位置づけられていたに違いないのだ。
しかし万博協会の見方は正反対だった。
昨年12月26日に万博協会が公表した防災基本計画では、軟弱地盤の夢洲が液状化しない想定になっており、しかも夢洲の中で西側と東側で液状化の程度が違うという不可思議な結果となっていた。

そこで1月9日の会見で自見大臣に「防災基本計画の信憑性についてどう考えるのか」と聞くと、次のような答えが返ってきた。
「南海トラフ地震も含めて津波を伴う大地震等の様々な自然災害を視野に入れ、検討した上で策定したものと承知をしている。この防災基本計画では、夢洲では主に港湾や河川を採掘した際に生じた粘土状の浚渫土壌で埋め立てられていて、少なくとも夢洲の西側の万博会場の大部分では液状化が起こらないとの判断になったというふうに承知をしている」

9日の自見大臣発言と4日の毎日新聞記事を並べると、素朴な疑問が浮かんでくる。
河川の堆積平野にある珠洲市正院町の軟弱地盤も、港湾や河川の浚渫土壌を埋め立てた夢洲の軟弱地盤も、ともに地震で大揺れして建造物倒壊の大きな被害が出るのではないか。

両方とも軟弱地盤なのだから、珠洲市正院町と夢洲とで大きな違いがあるとは考えられないのだ。
そこで1月12日の自見大臣会見では、「能登地震の被害実態を受けて、同じく軟弱地盤で開かれる万博の建造物の再チェック、現地調査とか専門家の意見を聞く考えはないか」と問うた。
しかし自見大臣からは、楽観論に基づく否定的回答しか返ってこなかった。
「能登半島地震の被害分析だが、今後、専門家によってなされるものと考えている。そのため現時点で万博会場内の個々の建物の耐震性を再調査する考えは持っていない」

岸田政権と維新の人命軽視の強行姿勢が浮彫りになっていく。
軟弱地盤で大きな被害が出た能登半島地震が起きても、同じ軟弱地盤の夢洲での万博開催リスクを再検証することはしない。
能登震災復興と万博会場の建設が重なって工事費高騰を招いても、とにかく万博は予定通り開催すると宣言したに等しいのだ。
一方、“万博中止論”を訴える山本代表は真逆の立場だった。
17日の会見で締め括るようにこう断言したのだ。

「どれを取っても『(万博)中止』の一択しかないだろうと思います。いま一番苦しんでいる人達に対して最大限のリソースを割く。そこに対して(万博開催を)並行させようとするようなセコイことを考えるなということです」
能登半島地震を受けて万博中止とするのか、それとも予定通りの開催をするのか。世論を2分しそうな論戦の行方が注目される。

(月刊「紙の爆弾」2024年3月号より)

横田一(よこたはじめ)
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『仮面虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)。

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2024.03.01
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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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