国民民主党、露骨な与党すり寄りの背景
政治・都民ファ連携と“希望の党ショック”
国民民主の参院選対策といえば、ほかにもある。昨年末から「都民ファーストの会」の荒木千陽代表との連携だ。参院選に向けての勉強会を開き、2月28日に共通政策を発表。それによると、「新型コロナウイルス対策」「給料が上がる経済」「女性政策」「子育て・教育政策の所得制限撤廃」「社会保障制度改革」「地方分権」の6項目。
都民ファといえば、小池百合子・東京都知事が特別顧問を務める地域政党。かつて、2017年に小池知事が国政政党「希望の党」を設立した。多くの民進党(当時)の議員が合流し、小池知事を「顔」として自民と対峙する。
政権交代の引き金にもなりかねない事態に当時の安倍晋三首相は慌てた。しかし、民主党から党名変更した民進党議員の合流には、安全保障政策や憲法観など政策のすり合わせが必要だとし、「排除発言」が飛び出すと事態は一変。急速に希望の党への期待感は萎み、小池知事は代表辞任となった。
その小池知事の影がちらつく都民ファとの連携は、“希望の党ショック”の悪夢が蘇るパンドラの箱ではないのか。政治ジャーナリストは語る。
「東京23区での小池知事の支持は今なお高い。すでに現都議の荒木代表が参院選に『ファーストの会』から出馬を表明。国民民主が荒木氏を推薦し、国民民主の比例区をファーストの会が推薦するという連携ができれば、国民民主の比例票獲得は大きく伸びることが期待できます」。
前述のように選挙区では8人を擁立。現職の足立信也(大分)、舟山康江(山形)、伊藤孝恵(愛知)に加え、礒部裕和(千葉)、大谷由里子(大阪)、大田京子(福岡)、黒木章光(宮崎)、深作ヘスス(神奈川)、丹野みどり(岐阜)、三谷祥子(香川)の新人七人が確定しているが、東京選挙区は3月28日時点では“空白”のままだ。
さらに、上田清司(埼玉)、山崎真之輔(静岡)の現職の無所属議員など5人の推薦を決めている。しかし、大票田の東京選挙区(定数6)で候補者を擁立しなければ、比例票の獲得は難しい。その点、荒木代表との連携が比例票上積みのカギとなるというのだろうか。
いずれにしても、特異な独自路線を歩み出した感がある国民民主党。その顔となっているのが、玉木雄一郎代表だ。元国民民主で、現在は立憲に所属するベテラン衆院議員の政策秘書はこう吐き捨てるように語る。
「玉木代表は、どこかの国と似たような独裁体制を敷いている。あんなスタンドプレーを繰り返していては、いずれ党崩壊につながるのではないか」。
玉木代表は、ユーチューブで「たまきチャンネル」を開設。外部に対しての広報は玉木氏が率先してやっているフシがある。また、政策提言にしても独断専行で、政党としての体をなしていないとの指摘だ。
「衆院11人、参院12人の小所帯ながら選挙に強い議員が集まっている。しかも、政策立案能力が高い集団でもあるが、発信力のある議員が少ない」(前出の政治ジャーナリスト)。
一方、国民民主関係者はこう反論する。
「2月11日の党大会で決定した活動方針は『政策本位で協力できる政党とは与野党を問わず連携』だ。この方針に基づいており、独断専行ではない」。
・囁かれる「自公国」
しかし、立憲秘書の言葉を裏付けるかのように、身内からもハレーションが起きている。予算案の採決をする衆院本会議では、前原誠司代表代行が「体調不良」を理由に欠席。参院本会議では足立信也参院幹事長が欠席した。足立氏はその後、役職辞任。果たして、内部崩壊となるのか。
「それぞれの議員の立場、政治信条、地元での立ち位置などで温度差があるのは否定しない。しかし、法案の賛否については党内手続きを踏んだうえで進めたもの。代表個人の独断で押し付けたものではない。前原・足立両議員とも反対票を投じたわけではなく、欠席という行動に止めたわけで、ぎりぎりの着地点だったと理解しています」(前出・国民民主関係者)。
ちなみに、予算案賛成に向けては、古川元久国対委員長と玉木代表が主導したと伝えられている。国民民主には、財務省OBの玉木・古川両氏と岸本周平幹事長代行がいる。加えて、政調会長の大塚氏は日銀OBだ。経済通と呼ばれる重鎮が、国民民主の政策の生命線だといえよう。
それでも、国民民主の予算案賛成については、与党側からも疑心暗鬼の目が向けられている。
「最近の国民民主の連中は浮かれ気味だ。参院選後には連立与党に加わってくるのではないか」(自民党中堅衆院議員)。
この見立ての背景には、連立与党内の亀裂がある。
1月13日、公明の石井啓一幹事長は、自民との相互推薦の見送り方針を表明。これまで、選挙区ごとにすみ分けをし、互いに推薦し合うことで安定した政権基盤を築いてきた両党だが、冷え切った関係にさえ感じられた。
もっとも、各選挙区で事情は異なる。この調整を担っていた両党のベテランが、一線から退いたり、引退したりしていることが大きく響いているように見えた。そうしたなかで、3月13日の自民党大会前に相互推薦で合意に漕ぎ着けた。これは、国民民主が自民にすり寄ったことの“効果”だと見る向きもある。
「以前は『自公維』の連立が囃し立てられていたが、今は『自公国』が囁かれるようになった。そうなれば、公明は存在感を失う恐れがある。自公の連立を強化するためにも、改めて相互推薦を決めたのだろう」(前出・政治ジャーナリスト)。
各党の思惑がひしめく。
たしかに政策実現を第一に考えれば、与党入りが一番の近道ではある。参院選後の内閣改造では玉木代表などが入閣するのではないか、との憶測も流れる。
これらの疑問に対し、玉木代表は完全否定。「わが党は“野党”であり、あくまでも政権交代を目指す」というのが、玉木代表の一貫した姿勢だ。
昨年の衆院選では惨敗し、解党するとの見方もあった国民民主だが、結果は公示前の8議席から3議席増の11議席に伸ばした。今国会では善かれ悪しかれ“存在感”を発揮している。
今国会での予算案賛成が“奇策”として功を奏するのか否か。その答えは、七月の参院選で有権者の審判を待つほかない。
(月刊「紙の爆弾」2022年5月号より)
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黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。