2024-04-18 【354回】岸田首相の国賓訪米の意義・成果を検証する

浜地道雄

 

はじめに:

4月8日~14日の岸田首相の米国外遊。バイデン米大統領の国賓招待による一大イベントだ。

折しも、日米友好の証(あかし)、ポトマック河畔での「桜祭り3月20日~4月14日)」の最中。

4月11日、岸田首相は米議会演説でも言及し、来年米国建国250週年に先立ち、桜250本の贈呈を披露し、拍手(スタンディングオベーション)を受けた。晴れがましい岸田首相の様子。
“As a gesture of friendship, Japan will provide 250 cherry trees that will be planted there, in anticipation of the 250th anniversary of your independence.”

米議会での立派な演説 (官邸発表)
それは良し。

だが、肝心の議会演説のGlobal Partnerとは即ち、日米(軍事)同盟の強化である。 憲法九条(不戦)をうたう日本国の代表の決意として妥当なものとは思えない。

岸田演説は「日本の堅固な同盟と不朽の友好を誓う」と絞められている。
“Pledge Japan’s firm alliance and enduring friendship.”

この「日米友好」vs「日米(軍事)同盟深化」という問題を米議会での演説を中心に検証を試みよう。

1)日米友好の歴史、桜→ハナミズキ:

1912(明治45)年、時の尾崎行雄東京市長らを中心に日本の国花桜が贈呈され、それが、現在のポトマック河畔の桜祭りをはじめ全米各地に広がった原点である。

1915(大正4)年、タフト米大統領(当時)はこれへの返礼としてハナミズキ40本を日本に送った。(因みにハナミズキの花言葉は「返礼」)

現在その原木は枯れ死などで存在せず、唯一、東京都立園芸高校(深沢)に一本、120歳の超老木が文字通り「体を張って」春の訪れを待っている。

2015年、その100歳の記念日には駐日ケネディー米大使(当時)が労(いた)わり、新たな苗を植樹している。

【第352回】Lone Survivorが語る日米友好史 – 浜地道雄の「異目異耳」

都立園芸高校HPより (許可済み)
さて、今回の岸田・バイデン会談にはその「友好」姿勢が、「対中国敵視」を中心に何とGlobal Partnership=「日米(軍事)同盟の強化」として謳われている。

2)「原爆の父」オッペンハイマー:

今回の岸田訪米に合わせるかのようなタイミングで話題の映画「オッペンハイマー」が3月29日日本公開され、筆者は早速鑑賞した。

本作は(反戦映画ではなく)オッペンハイマーの「自伝」であり、あまりにも複雑な筋立てで予備知識のない筆者は理解不足。

事後的に当時の様子(核開発、実験、対ソ連=共産主義、マッカーシーの赤狩り、登場人物)を学ぶことにより、やはり「核兵器廃絶」への想い、主張は確たるものとなった。

原爆の悲惨な状況が写されていないことから、日本での上映に物議(反対)があったとのことだが、主人公は広島・長崎への投下を直接当事者としてではなく、放送を通じて知る。

そして、その驚きの表情や事後の苦悩、水爆開発への反対がことの凄まじさを物語り「核兵器廃絶」を強く訴えている。

さて今回、岸田首相は米議会での演説において確かに「核拡散防止条約(NPT)体制の再活性化」と謳ってはいる。
”For years, I have worked to revitalize the Non-Proliferation Treaty regime so that we can gain momentum in pursuit of the aspiration. ”

また、「東アジア、北朝鮮、ロシアの核の(可能性)脅威」にも言及している。
”Furthermore, Russia continues to threaten the use of nuclear weapons”

が、核兵器廃絶への確たる主張表明はなかった。

3)「核兵器」をめぐるバイデン・トランプの論争:

現下、バイデン大統領は11月5日(火)の選挙決戦に向けて必至だが、「核兵器」という視点で極めて重要な記録がある。

即ち、前々回、2016年の大統領選挙前哨戦でのトランプ・バイデンの論争だ。

2016年3月29日、ウイスコンシン州ミルウォーキー市でのCNNの共和党市民集会でのトランプ発言。
“Japan (and Korea) might need to consider obtaining nuclear weapons in the future.” (両国は将来、核兵器導入を検討するだろう)。

これを受けて民主党大会。8月15日、ペンシルバニア州スクラントン市におけるヒラリー・クリントン候補への応援演説でのバイデン副大統領(当時)のセリフは特記すべきだ。
“Does he not understand we wrote Japan’s Constitution to say that they could not be a nuclear power?”

ここでの「he」はトランプ候補を指し、強い批判だ。「核武装を禁止した日本国憲法を我々米国が書いたことを、彼は理解してないのか」。「トランプ氏は学校で習わなかったのか。彼は判断力が欠如しており、信用できない。核兵器を使用するための暗号を知る資格はない」。

日本国憲法は核兵器のことには触れてないが、「戦争放棄の第九条」については、幣原喜十郎(当時)首相の提案をGHQマッカーサが受け入れた、というのが史実である。

4)広島・長崎(原爆)についての両者の見解:

「核実験(トリニティー)」を礼賛し推進意向のトランプ氏。マンハッタン計画の具現、世界で最初の核実験 (1945年「トリニティ核実験」の75周年に向けての公式声明のなかで、”remarkable feat of engineering and scientific ingenuity”(科学技術上の偉業だ) と称賛した(2020年7月16日)。

他方、バイデン氏は2020年8月6日、広島への原爆投下から75年の節目にあわせて出した声明の中で、 「広島と長崎の恐怖を決して繰り返さないために、核兵器のない世界に近づくよう取り組む」と表明。オバマ前大統領が掲げた「核なき世界」の理想を引き継ぐ考えを明確にした。
”I will work to bring us closer to a world without nuclear weapons, so that the horrors of Hiroshima and Nagasaki are never repeated.”

広島・長崎75周年にあたってのバイデン声明 (TBS)
以上を要するに、核兵器推進のトランプ論を受け入れるわけにはいかない。

それを諫めるバイデン氏と共に、唯一の被爆国日本の代表として岸田首相は旗幟を鮮明すべきであった。

来年一月の「もしトラ」に気遣うのではなく、実際このPolitical Correctness(政治的正当性)に欠けるトランプ氏が「核のボタン」を握るという事態はあってはならない。

おわりに:

米議会での岸田演説は幼少期の米国NY・クイーンズでの経験から始まり、終始立派なものであった。同様の経験(子供達)をした筆者には印象的だ。
“I spent my first three years of elementary school at PS 20 and PS 13 in Queens, New York. So, I speak to you today as a long and close friend of the United States.”

【第106回】Trump 米大統領は trump できるのか? – 浜地道雄の「異目異耳」

が、問いたい。「岸田さん、どうして宏池会(軽武装、経済重視)を棄却されたのですか?」とーー。

「九条護憲と核兵器廃絶」はこの混乱のGlobal社会におけるリーダーとしての日本の国是なのだ。

 

本原稿は(浜地道雄の「異目異耳」【354回】岸田首相の国賓訪米の意義・成果を検証する)からの転載になります。

浜地道雄 浜地道雄

国際ビジネスコンサルタント。1965年、慶応義塾大学経済学部卒業。同年、ニチメン(現・双日)入社。石油部員としてテヘラン、リヤド駐在。1988年、帝国データバンクに転職。同社米国社長としてNYCに赴任、2002年ビジネスコンサルタントとして独立。現在、(一財)グローバル人材開発顧問。「月刊グルーバル経営」誌にGlobal Business English Fileを長期連載中。

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