【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第18回 被害者のサイン

梶山天

ISF独立言論フォーラム副編集長の梶山天の取材に対して本田元教授ら複数の法医学者がこの裁判官たちの鑑定結果の判断に対して仁平技官の汚染(コンタミネーション)の可能性は認めても、圓城寺技官のDNA型鑑定では半分以上で型が検出されておらず、汚染とは言えないと指摘した。さらに勝又服役囚のDNA型は検出されていない。

むしろこの圓城寺技官の汚染を検察が執拗にアピールしたのは無罪証拠である勝又被告のDNA型が検出されていないという結果をドローにするためのトリックでは、と指摘する。というのも、この事件捜査で犯人を特定する決定的な証拠などは何一つ出てない中で、唯一犯人にたどり着く極めて重要な物だったのだ。

DNA型を鑑定する科捜研の技官2人が汚染した。どうやって汚染させたのか、記者会見でも開いてその過程を説明し、明らかにしてもらいたいものだ。この汚染は、栃木県警のDNA鑑定能力の低さを露呈しただけでなく、「あそこには任せられない」との全国の警察から批判されるべきことなのだ。

本来ならこれまで明るみになった科捜研のDNA型鑑定の汚染をみると、この汚染自体を隠していることになるのだ。だが、この今市事件では一審の法廷で検察が汚染したことを積極的に表にし、犯人追及が困難と自らPRしている。本田元教授は、胸騒ぎがしてならなかった。もしそうだとしたら裁判官たちや裁判員たちも見事にだまされた形だ。

ISF独立言論フォーラム副編集長の梶山天と筑波大の本田克也元教授はことあるごとに今市事件の被害者の吉田有希ちゃんが眠る墓を訪れる。「犯人は違うよ」。墓石の有希ちゃんの写真がそう叫んでいるように聞こえるのは私たちだけなんだろうか。

 

刑事裁判に慣れていない弁護団。残念なことに、これらの証拠試料からのDNAに関する問題点は、公判前整理手続き段階でも取り上げられず、証拠としては完全にスルーされてしまっていた。これを論点として弁護団が争おうとしたのは、本田元教授にアドバイスを受けた後の地裁での審理が始まってからであって、すでに「時遅し」でしかなかった。

いったいなぜ、こうなったのであろうか。本田元教授が聞いたところでは、裁判官は異動を考慮して、すでに判決の日時を翌年の3月末と決められており、それに間に合うように論点が整理されて押し切られてしまっていたからである。

梶山が調べてみると、この裁判を担当した3人の裁判官のうち、松原里美裁判長はさいたま地家裁へ、水上周裁判官は東京地裁へいずれも4月1日付で異動する辞令が出ていた。3月31日に予定されていた判決が延期となったため東京高裁は2人に職務代行命令を出し、4月8日の判決までこの裁判を担当した。

今市事件のような人の生命がかかっている重大事件において、十分な審議を尽くすことは当然であり、裁判官の異動時期に判決を出すことはいかがなものか。裁判官の都合が優先されることはあってはならない。これが日本の茶番な裁判である。

寂しいことにDNA鑑定については、本田教授は証人尋問で示唆するのみに終わった。弁護団は改めてDNA証拠について本田元教授を証人申請したが、裁判所はこれを認めず、元教授の見解は地裁では単なる参考意見にされてしまったのである。

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ