【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第182号:沖縄を「悲しい宿命の島」にするのは誰か?(2)

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

 

2.復帰した沖縄
2-1.基地在るが故の問題
復帰すれば「基地無き平和な島」となるとの思いは叶わず、現在、日本の面積の0.6%しかない沖縄に日本にある米軍施設の70%が集中する。過剰な基地負担を不公平だとする論に「もともと沖縄にあったのだから沖縄が引き受けるべき」との本土からの意見が散見される。しかし、1953年時点での米兵の数は日本が89%で沖縄が11%だ。(12)1959年時点での米軍施設の割合は、日本61.8%で沖縄が38.2%だが、その前の1957年に日本各地に駐留する米軍が各地の反基地運動で沖縄に移転され続けたことを踏まえると、1957年以前の沖縄の米軍施設の割合は1割台から2割台であった可能性が高い。米軍施設は1959年後も増え続け、復帰の1972年時点では日本46%、沖縄54%、復帰で「基地無き平和な島」になることを夢見た沖縄だったが、復帰後さらに増え続け、現在の日本30%、沖縄70%という状態が維持されている。この割合を密度(基地÷領土)で計算すると、沖縄には日本全国の386倍の密度で米軍基地が集中していることになる。(13)
そのような状態で、基地があるが故の事件、事故は復帰後も続いている。

1982年8月:本島北部で海兵隊員が女性を暴行・殺害
1995年9月:本島北部で米兵3人が小学生女子に暴行
2004年8月:沖縄国際大に米軍ヘリが墜落。
2016年3月:うるま市で元海兵隊の軍属が女性(20歳)を暴行、殺害
2016年12月:名護市で米海兵隊輸送機オスプレイが不時着水を試み墜落
2017年10月:東村高江に米軍ヘリCH53Eが墜落炎上
2017年12月: 米軍のCH53E大型輸送ヘリが普天間第二小学校に金属製の窓枠(重さ約7・7キロ)を落下させる。
2017年12月:米軍ヘリの部品が沖縄県宜野湾市野嵩の緑ヶ丘保育園の屋根に落下
2021年8月:米軍普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの部品落下

琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)(1972年~2021年)

米兵による自動車事故も多発しており、先日の9月16日も米兵運転の車両のひき逃げで男女3人が負傷した事故があったが、問題は米兵の場合は殆どが保険に加入しておらず賠償されなかったり、賠償請求も実現しなかったりが殆どであることだ。2017年読谷村で飲酒運転の米兵車両に追突され負傷した本土出身の女性は保険会社から連絡が無いため損害賠償訴訟を起こしたが米兵の所在は不明となっていた。米軍関係者は日米地位協定9条で入管手続きを経ずに入出国できると定められ出国の有無も確認できないという。2014~18年度に起きた米軍人や軍属による公務外の事件や事故1130件のうち、加害者から賠償を受けられなかった被害者が、日米地位協定に基づいて米国に損害賠償を請求したのは73件にとどまる。(14)泣き寝入りのケースの多さは、歴史的にも米軍占領の実態を知る沖縄の人々には最初から諦め感があることを示していると考える。
基地在るが故の日々の暮らしを脅かす事件や事故もさることながら、嘉手納や宜野湾だけでなく今や全島に広がりつつある昼夜を問わない米軍機の爆音や最近わかってきた北谷、宜野湾、金武町のPFASによる飲料水の汚染も沖縄の人達の精神的、身体的な健康を脅かし続けている。嘉手納基地周辺8市町村住民による第4次爆音訴訟原告の中学教諭は、生活や学習環境で生徒に将来、進路にとっても大変不利であると訴える。(15)爆音訴訟で住民が願うのは安心して生活し眠ることができる環境であるが、その願いは何度訴えても実現しない。PFASでは、2020年の調査で金武町水道水の6か所ある取水井戸から最大410ng/lのPFASが検出され、町民に供給された水道水から指針値を超える70ng/lが検出されている。キャンプ・ハンセン内に供給されている水道水は沖縄県企業局からの浄水が直接供給されているのに対し、金武町民にはPFASに汚染された地下水と企業局の浄水がブレンドされた水道水が供給されているという理不尽な事実も明らかになった。(16)米軍基地の米人と住民とでの差別的対応も問題である。嘉手納基地周辺のPFAS汚染も深刻だが、日米地位協定の下、嘉手納基地へのアクセスが許されない。米軍は、米国の情報公開法を利用してPFAS汚染を調査する沖縄県庁や米軍に情報を求めた沖縄防衛局を批判し、協議内容も非公開で米軍の意向が強く反映される日米合同委員会での協議を望んでいる。(17)日本の国会より上位にあると言われる日米合同委員会がここにも姿を現す。

2-2.沖縄に固定化される日本問題
沖縄の過剰な基地負担を正当化する人達が多用するのは「沖縄の地政学的な位置が軍事的に有利」との理由づけである。大田(2010)は、北朝鮮が脅威なら地政学的に言えば、沖縄より北九州の方が有利だとする米国の軍事専門家が少なくないことを指摘し「沖縄に過重な基地が存在するのは、地政学上のいわば宿命論に基づくのではなくて、むしろ政府の人為的差別政策によるというよりほかない」と述べている。(18)玉城デニー知事は9月19日スイス、ジュネーブでの国連人権理事会で「県民投票で反対の民意が示されたにも関わらず日本政府が米軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事を強行している」と訴えたが、国は「沖縄の米軍駐留は地政学的な理由と日本の安全保障上の必要性に基づくもので、差別的な意図に基づくものではない」とし、「県民投票の結果を重く受け止め、沖縄の負担軽減を最重要課題の1つとして取り組む」とした。しかしながら、地政学的理由は2014年の中谷元防衛相の「基地分散はやろうと思えばできるが、県外の抵抗が大きい」やペリー元米国防長官の「日本のどこでも良いが、日本側は県外移設に大変消極的」との発言ですでに覆されている。「県民投票の結果を重く受け止め」の発言も投票結果を無視して新基地建設を強行し続ける行為と矛盾し、「沖縄の負担軽減を最重要課題の1つとして取り組む」も復帰後にさらに増加した米軍基地負担や最近の自衛隊の配備急増や基地増設の事実と矛盾する。新基地建設が「普天間基地の一刻も早い完全返還を可能にする」との発言も、返還条件に民間空港の軍事利用を含む8条件を加え、返還するはずの普天間基地でインフラ整備を始める行為と裏腹だ。言動不一致の日本政府は、日本の安全保障問題を沖縄に固定化するため、日本問題を沖縄だけの問題にするためフェイク発言を続けていると言える。辺野古新基地問題において重要な問題は、行政庁の処分や公権力の駆使にあたる行為に関する国民の不服申し立てのため行政不服審査法を、逆に行政を担当し公権力を駆使する日本政府が使っていることである。さらに問題は、そのような行政の法の不正な濫用を司法が許すという三権分立が成立しない日本の政治の有り様である。
沖縄が戦場にされる「台湾有事」問題でも最初に挙げられる重要な疑問は法的なものだ。安倍総理の発言に見る「台湾有事は日本有事」という考えだが、国際的に日米共に1つの中国を認めており、台湾が中国領土であると認めている以上、台湾有事は日本有事とはなり得ない。内政干渉での戦争突入を日本の防衛戦争とすることはできないが、何らの根拠も示さず、中国が日本に侵攻するとの中国脅威で日本防衛を言いたて、台湾有事は日本有事との理由にする人が多い。次の疑問は、敵基地攻撃能力の保有を承認した日本政府は、専守防衛から先制攻撃可能へと方向転換したが、これは憲法違反だが、それが何故許されているのか?である。さらに問題は、存立危機事態となれば、国会を通さずに総理決断で攻撃可能となり得ることだ。いわゆるナチスの全権委任法の日本版と言える。立派な憲法と評されたワイマール憲法の第48条の緊急事態命令権をヒットラーが使い、言論・集会・結社の自由など基本権を停止し、3月には国会で全権委任法を可決した。これで独裁体制が法的に出来上がった訳で、「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わってナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。」2013年の麻生副総理の発言は今の日本に生かされており現在進行中であることがわかる。ただ、ナチス政権と異なるのは、その存立危機事態も決定するのは日本ではなく米国だと思われる隷属国家状態である。
1957年の日米安全保障条約改訂において、与野党ともに沖縄を日米安保の対象地域に含めることに反対し、日本の安全と平和を保ち、戦争に巻き込まれないために沖縄を切り離した。与党は「事前協議制」を沖縄に適応すれば沖縄への核持ち込みが制限されるための反対で、野党は米国の戦争に巻き込まれる恐れがあるからだった。この沖縄切り離しは復帰時にも行われた。返還交渉最終段階で、返還条件として沖縄の米軍が日本を含む極東の平和と安全に利するとして日本政府は「基地の大幅整理・縮小」に反対したのだ。(19)そして、今、沖縄はかつての沖縄戦同様、再び、日本本土を守るように戦争の前線とされようとする。国家安全保障上重要な土地等に関する法律で、戦争準備法と言われる重要土地等調査法(土地規制法)は、特に沖縄を対象にしており、施行されれば沖縄の人々の財産権の停止、人権侵害、思想・信条・集会・結社の自由を阻害する可能性は高い。小西誠氏は、この法律は海峡防衛¬¬¬=「島嶼戦争」を最大の目的とするとし、ミサイル要塞、ミサイル列島と化している沖縄・奄美の島々の「要塞地帯」化が、その最大目的であると指摘する。戦前の要塞地帯法同様、対象地域の住民を排除、避難させ、無人地帯と化し「侵入」する市民らを監視・処罰する法だと述べる。(20)与那国では住民に対し4回目の島外避難の説明会がなされた。「島から出たくない」頭を抱えてうつむく住民の姿には涙しかない。(21)国民保護法という聞こえの良い名称で、土地や生活や文化を取り上げて難民とし、住民を盾にする勢いで米国の戦争の準備に余念なき日本政府と沖縄の危機を報じない日本の大手メディアと他人事の大半の日本人。沖縄では市民の戦争回避のためのあらゆる努力がなされる中、日米共同作戦計画に基づく日米合同訓練「レゾリュート・ドラゴン23」が始まった。長期化したウクライナ戦争や当分起こらない可能性が高い「台湾有事」を利用した日中戦争は、大国としての生き残りを急ぐ米国のロシア、中国潰しである。
言うまでもなく、苦難の沖縄の歴史や戦場化にされる今の沖縄の苦難は「宿命」などではない。弱者を利用する利己的強者、日米政府が作り上げる構造である。


(1) Lodi News-Sentinel 1947 CA(95240) Saturday, September 1947, Google News Archive, Historical Newspaper Online, Penn Libraries,
http://guides.library.upenn.edu/historicalnewspapersonline.
(2)沖縄県教育委員会(1986年)沖縄県史料 沖縄諮詢会記録119頁
(3)Frank, Gibney. “Okinawa: Forgotten Island,” Time, November 28, 1949, 24–27.
(4)池宮城秀意(1970)「沖縄に生きて」サイマル出版305頁
(5)福地曠昭(1995)「沖縄における米軍の犯罪」同志社65頁
(6)The Report submitted to Commanding General Ryukyus Command, APO331 by Colonel R.M.Levy, AGD Adjutant General on Sep. 10, 1948. (沖縄県立公文書館)
(7)NARA, NND959297,OPA.059-01586-00049-001.
(8)NARA, NND755001, RG319, OPA, 0000003837, RG319.
(9)沖縄県教育委員会 (1977)『沖縄の戦後教育史』 中央出版
(10)琉球新報 (2003)『うるま新報』1952年5月18日 不二出版183頁
(11)2018年3月3日与那覇によるインタビュー。及び、沖縄タイムス2014年9月11日木曜日
(12)佐藤学・屋良朝博(編)2017年「沖縄の基地の間違ったうわさ」岩波ブックレッ  ト
(13)八重洋一郎2020年 コールサック社「血債の言葉は何度でも甦る」
与那覇恵子(当会発起人)

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