【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

「復帰」50年、今も頻発する米兵性犯罪事件 

宮城恵美子

復帰後(1972~2020年)の凶悪事件は582件に上る。うち132件が強制性交等罪(旧強姦罪)だった。

【那覇市で発生した米海兵隊上等兵による事件】

沖縄本島内で昨年10月、面識のない女性に性的暴行をしようとしてけがを負わせたとして、強制性交等致傷罪に問われた在沖米海兵隊上等兵のジョーダン・ビゲイ被告(22)の裁判員裁判論告求刑公判が5月24日、那覇地裁で開かれた。検察側は懲役6年を求刑した。判決は5月26日に言い渡される。

被害女性は、事件後、心に深い傷を負い「普通にできたことができなくなった。今までの私を返してほしい」と訴えている。彼女は現在、心療内科に通院し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され服薬が続いている(琉球新報2022年5月25日付)。米兵との共存社会では絶えず意識を向けていないと、いつ凶悪犯罪に巻き込まれてもおかしくない。この事件は死に至る事件では無かったが、人通りの多い那覇で起こった。

open hand of young girl trying to protect herself from violence with dark dramatic photographic effect

 

【うるま市で発生した米軍属による事件】

この事件を知った時に即座に頭に浮かんだのが6年前のうるま市の20歳の女性が夜8時ころにウォーキングに出て殺害された事件である。うるま市強姦殺人事件と呼ばれている。女性は2016年4月28日から消息不明になり、5月19日に遺体となって発見された。犯人は元海兵隊で与那原町在住のアメリカ国籍のケネフ・シンザト(旧姓ガドソン)被告で、遺体をスーツケースに隠し、米軍基地のキャンプ・ハンセンに遺棄していた。

Long lens, crime scene. Detectives and officer in background.

 

シンザト被告は日本人女性と結婚していた。事件当時も基地内で働く軍属で、基地の土地勘と排他的管理権を利用して証拠隠滅を図ったと思われ、捜査は難航していた。捜索隊員約30人等を動員して凶器や女性の所持品の捜索にあたっていた。シンザト被告は米軍が契約した民間企業の契約社員で、日米地位協定の定める「軍属」としての地位に相当し、日米地位協定で保障されている枠内にあった。

しかし、日本政府は「殺人及び強制性交等致死罪で逮捕された容疑者のような人物が、軍属という形で地位協定によって守られているのはおかしい」(安倍晋三首相=当時)と述べ、被疑者が日本人女性と結婚していることで永久ビザを持ち、しかもこの事件当時は勤務時間外に発生しているため、日本の国内法に基づいて裁判が行われた。

シンザト被告は「反基地感情が高まった沖縄県内では、公平な裁判が期待できない」と主張して、東京地方裁判所で裁判を開くよう請求していたが、最高裁判所はこの請求を棄却し、那覇地方裁判所に差し戻した。その後、福岡高裁那覇支部は、無期懲役判決を言い渡し、上告しなかったので2018年10月5日に無期懲役が確定した。2年以上も裁判が続いたのは、シンザト被告がスーツケースを遺棄した場所がキャンプ・ハンセンと言う供述で、そこは4つの市町村にまたがる(恩納村・金武町・宜野座村・名護市)およそ5000haの広大な米軍基地であることだった。

新垣勉弁護士は「基地内には日本の警察や市民は自由に入れませんので、米兵にとっては逃げやすい場所、自分の安全を確保しやすい場所だと映っている」と分析している。その通りだと思う。またシンザト被告が黙秘権を行使し続けたことで、被害者の死亡場所の特定が困難を極めた。更に被告の弁護士は殺人ではなく、不慮の出来事だった可能性があるとの主張もしていたとう。

結果的には解決したが、シンザト被告は「星条旗新聞(米軍機関紙)」に寄せた手記で、「日本の法制度では女性暴行は親告罪で、被害者による通報率は低いので、逮捕されることについては全く心配していなかった」と述べているという。逮捕の心配が無い、殺害をしても大丈夫と、順法精神も人権意識も無いことに驚かされる。逮捕の確率が低いとなめてかかり、遺留品を全て基地内に隠す、自己の安全と欲望で生きている人達がここで共存している社会は当たり前の社会ではない。全く異常である。

更にシンザト被告は「あの時居合わせた彼女(被害女性)が悪かった」とも述べているという。夜、ウォーキングを女性がしていたから非があるというのであろう。自己正当化も甚だしい。軍隊で訓練されてきた人の人間性が浮き彫りになっていると考える。

【沖縄に平安の時が訪れるのはいつか】

日本の国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の70%超が集中している。さて、前段で述べた事件は昨年10月に発生したが、公然化したのは今年4月であった。今年は「復帰」50年、戦後77年である。いつまでも米軍がらみの事件が起こり続けていいはずがない。

沖縄で人権はいつになれば守られるのか。安心して生きたい。平和的生存権の保障が欲しい。子や孫の世代に不安な社会を引き継ぎたくないと強く思う。もうたくさんと叫びたい。本気でこの体制を変えたい。日米安保体制を変えて「人間の安全保障」システムにし直すこと、軍事で同盟を築く社会を終わらせる為の議論を始めていいのではなかろうか。

性犯罪は被害者の人権を蹂躙する卑劣な行為で、被害者の心身の痛みを思うとやりきれない。77年も続くのは異常だ。どこの国でそのような状況を容認しているのか。小さい沖縄に日本政府が強制している。

更に辺野古に新基地を作り、琉球弧の島々にはミサイル配備を伴う自衛隊基地も着々と作られている。怒りがこみ上げる。識者らも述べているが「教育と綱紀粛正」では実際の戦場では戦うことができないので、効果的な殺人教育も非公式になされていると。女性差別する非人間的な訓練や女性蔑視の「掛け声」を伴って鍛える訓練があるという。シンザト被告に見られる欲望むき出し、加害者の痛みに無頓着な精神構造の人がここで訓練し、生活もしている。「綱紀粛正」と唱え続けても全く意味がない。歴史が証明している。

【日米地位協定、日米合同委員会にメスを入れ、真の独立を目指せ】

このような事件が起こるたびに地位協定の議論がおこる。日米地位協定第17条の公務外要件を巡る考察が見られる。1995年の少女暴行事件以降「運用改善」により「凶悪な犯罪」に限り、米側が「好意的な考慮を払う」ことになった。沖縄タイムスは「『米側の裁量』のハードルは高いが、身柄引き渡しを求め続けるべきである」(2022年4月20日付社説)。琉球新報は「起訴前の身柄引き渡しを義務づけるように地位協定の見直しを求めるべき」(同年4月21日付)と述べている。

私から根本問題を提起したい。日米地位協定は日米合同委員会が仕切っている。日米合同委員会は外務省北米局長を中心とした官僚トップ6人と米軍副参謀長クラス6人と米外交官1人で構成されていて「軍の指示を仰ぐ場である」。

合議内容は基本非公開で国会論議もなく、閣議決定では形式的に止まっているので、事実上、米軍の意志が通る。日本を米軍が支配している。国家主権も国民主権も無きがごときである。沖縄を踏み台にしながらその構造が「平和ボケ」日本人から反発も無いまま続いている。

「日米合同委員会が裁判所も動かしている。日銀も動かしている。全ての省庁を操っている…私、自衛隊におりました。敵味方色別装置があります。あれはアメリカが作ってそれのコードを変える、コードまでアメリカの指示です。つまり、自衛隊は日本軍でなくて米軍のポチという状態で、日本政府もそうなんですよ。日本という国は無いのです」(元自衛官)。

『日米合同委員会の研究』(吉田敏浩氏)も米軍の日本支配を実証している。私は「東アジア共同体・沖縄(琉球)研究第5号」(21年11月)で『沖縄から見る日米地位協定と日米合同委員会』の中でも論じたが、国会で日米合同委員会を追求できる仕組みにしなければいけない。

更に深めて、米軍6人ではなく米外交官6人にして日米の外交官同士による日米調整機関に変えるべきではなかろうか。外交とは本来外交官が行うものである。ここから変えないと日米地位協定は変わらないし、日米が一歩でも対等関係に近づくことはないだろう。

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宮城恵美子 宮城恵美子

独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。

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